Strike witches of Legends 作:宇賀神
早くSeason5のジャングルで遊びたい
「う……ん……スゥ……」
「おい、目を覚ませ」
「ん……あれもっちゃん……? もっちゃんナンデ……」
黒髪パッツンで後ろ髪をポニテに下ろした眼帯娘、もっちゃんの愛称で親しんでいる坂本 美緒が、ベッドで横になっている俺こと伏瀬 宗哉を揺すりながら覗き込んでいた。ちらりと目線をズラして船室の窓から外を覗くと、基地の点滅灯と海を照らす光波標識が輝いていた事から、まだ深夜である事が伺える。
一応、念のため言っておくが、もっちゃんと俺の船室は別々。俺ともっちゃんはマブダチみたいな関係なので、俺の部屋への自由な出入りはお互い合意してるから、彼女が俺の部屋にいても何の問題も無い。
……無いのだが、彼女が何の用事で俺を起こしたのかが分からん。そもそも何故俺は船に乗っているのだ。
「さぁ着いたぞ宗哉」
「着いたって……」
俺は眠気を振り払いながらベッドに腰掛け、どうして小さな波の揺れを感じさせる輸送船に乗っているのか、ぼんやりと虚空を見つめて考え出す。
「眠い……ふああぁ……」
欠伸しか出てこない。
「おいおい、ここで二度寝は勘弁してくれ。私達は補給とスカウトをしに来たんだろう?」
「あぁ……そうだった」
奥歯を噛み締めて欠伸を抑えながら記憶の糸を辿る。俺達は……何故輸送船に……輸送船? ……あぁそうだ、確か俺達は各国選りすぐりの精鋭を集めた部隊を結成するために、世界各地を視察して回っている最中だったなと思い出した。最も、今回はリバウ撤退における補給のついでといった形になってしまっているが。
本来なら、コミュ力が高くリーダーシップも備わった坂本美緒……もとい、もっちゃんだけで済む仕事なのだが、世界的に希有な『ウィザード』の俺ならプレミア感も付与されて人材集めも捗るだろうと上層部が思惑し、白羽の矢が頭とお腹と手足にぶっ刺さった跳満状態で強制的に世界各地を連れ回されている。男・魔法使いという理由なだけでモルモットにされるよか幾分マシだがな。
で、だ。今回はもっちゃんの推薦もあって、ガリアを追われた優秀なウィッチを引き抜こうと…………なんちゃら基地にやってきたはずだ。如何せん、そのガリアウィッチに関する書類を渡されたのは輸送船に乗り込んで数時間経ってからもっちゃんに、「すまんすまん、忘れてた」とあっけらかんと言い放って渡されたばかりなのだ。どんな名前の基地に着船したのか覚えていない。何故か頭に浮かんでくるのは俺の好物のオムライスやたこ焼きなのだからお手上げだ。
「ここ何て基地だっけ……」
「まだ寝惚けているみたいだな、私が頭を叩いてやれば起きるか?」
「……そーの言葉の濁しかた、もっちゃんも忘れてるべ」
「……はっはっは! 細かいことは気にするな!」
押し寄せる眠気の波と戦いつつ、片眉をつり上げてもっちゃんを睨むと、自分の不手際を忘れたいのか腰に手を当てて豪傑笑いを始めた。深夜だと言うのに、だ。
をれを咎みもせず、彼女の明朗快活さに釣られて苦笑いに表情を変えてしまう自分もどうかと思う。
「失礼します」
それが合図のように、軍服を着込んだこの基地の部隊員らしき人物がノックをしてからドアを開けて部屋に入ってきた。
細かい事は気にするなと笑われたばかりなので、「入れ」と承諾してから入らなかった事は水に流すが、代わりに「入っていいぞー」とわざとらしく伸びをしながら、着替えや日用品の入ったダッフルバッグを手にし、もっちゃんと共に部屋を出る。
俺の自由が最低限保証されるように、扶桑皇国海軍から中佐の階級を与えられており、それなりに高い地位だったはずだと記憶している。まぁ叩き上げじゃなくって成り上がりな俺はともかく、階級意識の高い軍人さん方には、一つの作法でも命取りになりかねないだろう。だから彼女には二度と同じ間違いをしてほしくないから、含みを持たせて『入った後に入れと言う事後承諾する嫌み』で教育しておく。これも階級が高い人間の努めなのだから悲しいものだ……。
「あっ……し、失礼しました!」
「あーいや、君も眠いから待ちきれなかったんだろう? 次から寝惚けて来なければ良いだけの事だ」
とりあえずネチる。俺の寝起きは機嫌が悪いことは身内で有名なのだから気をつけてほしい。彼女はそれを知らないがな。それでも彼女は不満な顔一つせず、もう一度「すいませんでした」と謝罪のワンクッションを入れてから基地の客室に案内してくれた。先ほどの教育……もとい嫌みを真摯に受け止めたらしい。これじゃ俺が悪人みたいじゃないか……。
それはさておき、ここはデッドリング基地と呼ばれている基地らしい。そーいやイカリングやオニオンリングみたいな名前で美味しそうだと思っていたんだ。だから好物ばかり思い浮かんだのか。
基地の客室へと着いた俺は隊員に案内の礼をし、ダッフルバッグを床に放り投げると、ベッドに潜り込んで頭から布団を被り、グッスリと眠り込むのだった。
そして空がしらけてきた頃に、昨夜と同様もっちゃんに叩き起こされた。早朝訓練の時間だとさ。
「ハァッ! ダアァッ!!」
もっちゃんは海に近い基地の一角で、年相応の乙女らしさとはほど遠い雄叫びを上げながら扶桑刀で素振りしている。俺は地べたに胡座かいて早朝訓練の一つである真剣素振りを見ているが、一回一回の振りに鬼気迫る勢いを感じる。予科練の頃から見慣れた光景だが、一心不乱に訓練に打ち込む姿にただただ感心するばかりだ。
「うーん……駄目だ……」
「むっ……どこか不審な点があったか?」
「あーいや違う違う。もっちゃんの剣技相変わらず凄くってさ、見る度に口閉じて黙って魅入っちゃって、こんなんじゃ差が開く一方だから俺は駄目なんだって意味ね」
「模擬戦で! 勝ち越してる! 勝者の! 余裕か!」
「勝ち越しって、俺の貯金たったの3しかねーじゃん、すぐ追いつかれちゃうよ。 つーか超近距離戦じゃ勝ち星0なんだけどね」
そう、今の今までの模擬戦では、もっちゃんが振るう剣の射程範囲内に入ると全て負けてしまう。俺は剣技に関して人並みより1歩前に脚を踏み出した二流者だと自負しているが、それでも超近距離戦にて一つも勝ち星が無いのだ。彼女と自分との間に、どうしても越えられない壁を感じてしまう。少なくとも、もっちゃんや竹井や西沢らと共に訓練に励み、ほんの少しの間だけはリバウ戦線で肩を並べていられてた期間はあったのだが、一週間も経たない内から彼女達の背中が霞んで見える所で射撃に励んでいるだけになっている。俺自身が扶桑刀だけで戦う人間じゃないから、マルチの戦い方を身に付ける必要があったので仕方が無いと言ってしまえばそれまでだったが、それでも一つの分野で負けるのは悔しい。
というか、このままだと器用貧乏を体現したような人間になってしまう。それを避けるべく、一つでも突出した戦闘技術を身に付けようと彼女の素振りから動きを盗み見ているのだが、見惚れて盗人から観客になってしまう自分が居るのもまた事実。気づく度に嫌になってしまう。
「剣だけでも! 負けたく! ないからな! デヤアッ!!」
それからしばらくは、彼女が飽きるまで剣を振るう姿を見学していたが、もっちゃんが何かに気づいたのか、俺の頭上の向こう側を見越し、剣を振るう手を止めた。
「……そんな所で黙って見ていないで出てきたらどうだ」
ネウロイとの戦いすぎで遂に頭がおかしくなって見えない誰かと会話してるのかと思いきや違った。もっちゃんの目線を追って上半身を捻って振り向くと、金髪で若干ウェーブのかかった眼鏡っ子が基地施設の物陰からひょっこりと現れたのだ。
第三者の登場に驚きはしたが、ここは余所の基地なのである。むしろもっちゃんの発声に気づかない人たちの多さよ。
「あの……扶桑の軍人がこんな所で何をされているのですか?」
金髪眼鏡っ子が遠慮がちにもっちゃんに話しかけてきた。というかこの子の見た目って、俺達が引き抜こうと画作している子と特徴が一致してるんだが……。
「あぁ、すまない。私は扶桑海軍遣欧艦隊所属、坂本 美緒中尉だ」
質問に答えるより先に、凛とした態度然として自己紹介から入る辺り流石軍人である。が、彼女は一つ間違いを犯した。
「連合軍になったんだから大尉でしょ」
「今は大尉だ」
間髪入れず、羞恥心の欠片も見せず、俺の指摘で自身の間違いを訂正する様は軍人の鑑……いや自分の階級昇進を忘れた時点で鑑もクソも無いんだが。
つーか大尉という肩書きを忘れたという事は、『連合軍』という大事なキーワードすら忘れていたのかコイツは。
俺達が何の目的でこの基地にやってきたのか、昨夜の船で寝起きの俺に説教かまそうとした癖に、今度はこの脳筋が朝練に次ぐ朝練ですっぽり抜け落ちたらしい。見ろ、金髪眼鏡っ子の複雑そうな顔を。大事なファーストコンタクトなのに締まらないぞ。
「し、失礼しました大尉殿! 私はここ、デッドリング基地所属、自由ガリア空軍アルザス飛行中隊、ペリーヌ・クロステルマン少尉です」
ところが、中尉だろうと大尉だろうと彼女の階級は少尉だったので、階級が上だと理解するや否や、姿勢を正して名乗り始めた。こっちもこっちで如何にもな軍人らしい。もっちゃんが将来を有望しているウィッチだと聞いていたので、脳筋の血筋を引いているのかと思いきや正反対の人間じゃないか。俺の心配を返して欲しい。
しかし彼女は、「貴男は何処の何方さんかしら」と困惑した表情で訴えながら、地面に胡座を掻いて座っている俺に視線を注いでくる。今回に限っては、お忍びでのネウロイ退治やパイプ作りではなく、ブリタニア視察という堂々とした名目でやってきているので、名乗ってもモーマンタイなはずだ。元々、上のお偉いさん方も『ウィザード』という奇々怪々な存在にプレミア感を見出して送ってきたのだから。
俺は立ち上がって、ズボンに付着していた砂をパッパと手で払い、金髪眼鏡っ子……もといクロステルマン同様姿勢を正して階級と身分を名乗る。
「自分も一応、坂本美緒大尉と同じ連合軍所属、伏瀬 宗哉中佐だ。 ウィザードって言えば分かり易いかな?」
「ウ、ウィザード!?」
素っ頓狂な声を上げて目をカッと見開き、驚愕の表情でこちらを凝視してくる。面白い。これだよこれ、正体を明かすだけで簡単に変顔を作ってくれる。表舞台に立てない上にモルモット予備軍の俺がウィザードになって良かったって思える瞬間第二位。いきなり高順位を叩き出すとは、流石もっちゃんが一目置くだけのウィッチだ。
困惑した表情から一転、過去に例を見ない男の魔法使いを前にした彼女は、興奮のあまり、軍人で、しかも上官相手だというのも忘れて俺に詰め寄ってきた。
「そ、空は?」
「飛べるよ」
「魔法は?」
「使えるよ」
「使い魔は!?」
「いるよ」
「ネウロイは!!」
「た、倒したよ……」
「何機!!!」
「さ、三桁……そこから先は覚えてない……」
しまったと内心舌打ちし、ジリジリと間合いを詰めてくる彼女から後ずさりつつ、不敬とも取られかねない矢継ぎ早に飛び出てくる質問に応答していく。悪気は無いのだろうが、まるで『天然記念物』になった気分だ。これは俺がウィザードになって嫌な瞬間第四位に相当する。後先考えないで発言する癖は直さねばいかん。
「落ち着きたまえ少尉、中佐が困っているぞ」
見かねたもっちゃんがクロステルマン少尉の背後からストップをかける。
「あ……た、大変失礼しました、中佐殿!」
コホンと咳払いを一つ挟み、未だ興奮冷めやらない彼女は俺から五歩くらい下がって距離を取り始めた。
しかしここで怒ったり叱ってはいけない。慇懃無礼な態度ではあるが、俺から仕掛けたのだし、彼女の生い立ちや生き様を知っていると責めてはならない。むしろ優しく接してあげたくなる。愛でなくっちゃ(使命感)
まぁ……だからと言って贔屓のし過ぎも軍人としてはタブーなのだが。飴と鞭の使い分けが難しくなりそうだ。
「んー、うん、気にしないでいいよ。……ぶっちゃけもう慣れた」
嘘である。何時まで経っても嫌なことは慣れないのである。ちょっと口を濁してしまった。
「しかし……」
彼女はさっきと打って変わって、言葉を慎重に選びながら話そうと四苦八苦している。
どうやら中佐という肩書きは、自由になるには軽すぎて、不自由になるのには重すぎたらしい。ここまで距離を取られてしまうと、いっそのこと予科練生と偽った方がマシだったと鼻で笑う。
「いやぁ、あれくらい元気な方が俺も接しやすいからいいって」
「彼の言う通りだ、クロステルマン少尉。 先までとは言わないが、そんなに固くならなくていい。もう少し楽にしてくれ」
「お、お二人がそう仰るのなら……分かりましたわ」
どこか釈然としない様子で頷く。やはり素直で良い子じゃないか。
「しかし……何故扶桑の軍人がここに……?」
「私達は今、ブリタニア各地を視察中なんだ」
「視察……ですか。 こんな何も無い基地に視察に来るなんて……扶桑海軍はよっぽど人材に余裕があるんですね」
楽にしろと言った途端これである。
これが彼女の自然体なのか、詰りながら皮肉ってきた。そういえば、船の揺れに耐えながら書類に目を通していたから知ってるが、彼女の部隊はストライカー不足で実戦が出来ない状況にあるんだったな。俺が所謂「お偉いさん」な階級を持っているから、通りで敵意を30%くらい剥き出してくる訳だよ。素直なのは欠点でもあった。
「はっはっは、余裕はまったくないな!」
しかしもっちゃん、笑いながら皮肉を一蹴。更に皮肉で返そうか迷っていた俺と違って器の大きな…………いや、彼女の場合は皮肉に気づいてないだけだ。彼女が脳筋だと思われたら引き抜きに支障を来すかも……一応カバーしとこう。
「リバウで一悶着あってね。 失った機材の補給で天手古舞いだからさ、もっちゃんの言うとおり余裕無いのよ」
「リバウ……ですか?」
どうやら、まだここにリバウ撤退戦の情報が伝わっていないらしい。……マジかよ。
「……まだここには届いてなかったのか」
「みたいだな。 ……しかし、クロステルマン少尉は朝から自首訓練とは感心だな」
「別にそんな――――」
パッパー! と、朝食を告げるラッパの音がけたたましく基地に響き、クロステルマン少尉の照れ隠しの弁明を遮った。これには流石の俺も苦笑い。
一緒に飯でも食べよっか? と、俺ともっちゃんで誘うが、はね除けられてしまったので仕方なく二人で食堂に向かうのだった。
名字の由来はLoLチャンピオンの能力を「COPY」するから転じて「伏瀬」
名前はハサキィ!でお馴染み似非日本人チャンプこと「ヤスオ(YASUO)」のアナグラムで、「宗哉(SOUYA)」
扶桑人っぽい名前になって満足。
しかし宇賀神氏、これを書き終えるのに一ヶ月かかった模様。まーだ(次話の)時間かかりそうですね(嘲笑)