「——あれれ?もしかしてお隣さんの人かな?かな?」
貴方は体力が尽きたので、風に当たって休憩しているとセーラー服を着た少女に声を掛けられました。
セーラー服なのは学校帰りだからでしょう。
橙色の髪色にサイドの髪が前に長くカットされている可愛らしい女の子。
予期していなかった出会いに貴方は驚きますが、お得意のポーカーフェイスで誤魔化しました。
彼女の先の言葉を冷静に思い出します。
女の子はきょとんと首を傾げていますが、注意深く観察すれば警戒している様子です。
巧妙に隠されていますが前に住んでいたお屋敷で、双子の姉妹の使用人さんの感情を読み取るため観察眼を鍛えた甲斐がありましたね。
貴方は目の前にいる女の子の警戒心を解くために、先ほど引っ越してきたと自己紹介をしました。
「そうなんだ〜!レナは竜宮レナって言うんだよ〜!これからご近所さん同士仲良くしようね〜!」
にこやかに微笑む女の子——竜宮レナちゃんに釣られて貴方も小さく微笑みます。
ほわほわとした女の人は貴方にとって新鮮です。お母さん筆頭に癖が強い人に囲まれていましたから。
お転婆のお母さんに、カレー大好きのシスター、重度のツンデレ当主など挙げたらきりがありません。
みなさん貴方を溺愛してくれて本当にいい人達です。ですが、お父さんが絡むとどうしてか争います。
全国の男性にとって女性にモテるは羨ましいかもしれませんが、貴方はそんなことは全く思いません。
庭が吹き飛んだり、自宅が半壊したり、一部の土地が更地になるのを何度も目撃してきましたから。
お父さんを取り合って争う光景を、つい思い出してしまい貴方は眩暈に襲われてしまいます。
「わわっ!?大丈夫かな!?かな!?」
ふらふらと倒れそうな貴方の身体をレナちゃんは支えてくれます。初対面の女の子に身体を支えられる美味しいシチュエーションなのですが、トラウマを思い出した貴方は全く気づいていません。
ボクダイジョウブデス、っと壊れたロボットのように同じ言葉を繰り返します。
「えっと!こんな時は斜め45℃の角度でー!えい!えい!」
頭にポスポスと軽い衝撃を2回ほど受けると、貴方は正気に返りました。
「……大丈夫かな?かな?」
心配そうに顔を覗いてくるレナちゃんに小さく頷いて、そこで今の状況に貴方は気付きました。
歳上の女性からハグはよくされますが、年齢の近い女の子と身体を密着することは初めての経験です。
レナちゃんは自分たちがくっついているのに気がついて、みるみると顔が赤くなっていきます。
貴方はお得意のポーカーフェイスをしますが、その顔は少しだけ赤くなっています。
「そろそろ家の中に——あれれ?」
外で休んでいた貴方の様子を見にきたのかお母さんの声が聞こえました。
貴方は身体中からダラダラと汗が流れてきます。悪い夢であってほしいと、音を立てながら首を向けるとニヤニヤと笑っているお母さんの姿が。
「ははーん?お父さんの女たらしがとうとう発揮したわね?うんうん。血は争えないかー」
「え、えっと!これは〜!そのぉ〜!は、はぅ……」
茶化すお母さんにこれは事故なのだと、必死に弁明しますが生暖かい視線が返ってきます。
貴方とレナちゃんは慌てて距離を取ります。女たらしだけは断固として要らないと、視線で訴えればお腹を抑えて可笑しそうに笑われます。
「お腹痛くなるまで笑っちゃった……っ!えっと、私の息子が倒れそうな時に貴女が助けてくれたのよね?」
「は、はい」
「ありがとう。この子ちょっと身体が弱くて。目を離したら倒れたりとかあったりするから」
お母さんの話を聞いて、レナちゃんが身体を案じてくれますがへっちゃらだと貴方は笑います。
貴方は遠い目をしながら眩暈を感じたのは違う理由だと伝えたら、お母さんはその一言で察して下手くそな口笛を吹いて知らないフリをして誤魔化しました。
「こほん。そろそろお母さんに女の子を紹介してくれると嬉しいなー?」
話題を逸らしたのは見え見えで頭痛を覚えますが、隣の家の竜宮さん家の娘さんだと伝えます。
「お隣さんの竜宮家の娘さんだったのね〜!」
「は、はい!レナは竜宮レナって言います!」
「そう畏まらなくていいからいいから。レナちゃん、よろしくね」
2人が仲良くなるのに時間はかかりませんでした。
お母さんはレナちゃんのことを気に入ったようで可愛がるように抱きしめます。
「レナちゃん可愛い〜!!うんうん!レナちゃんがお隣さんでお母さん嬉しいわー!」
「は、はぅ〜……」
初対面の人にここまで友交的なお母さんを目撃して貴方は驚きました。
お転婆で能天気ですが、フレンドリーな対応は顔見知りな人やお父さんの知人と貴方ぐらいです。基本的に人に興味はなく、好きなものは好き、つまらないものには一切興味を向けない人です。
貴方の命の恩人(?)だからか、それとも惹かれるものがあったのか、はたまた両方か。
なんにしろお母さんはレナちゃんを大層気に入ったのは間違いないようです。
「家の中はちょっと散らかってるけどお茶しましょ?息子を助けてくれたお礼もしたいもの」
「いいんですか?」
気遣っているレナちゃんに、貴方もレナちゃんとお話をしたいと真摯に伝えました。
誠実なお願いが彼女に通じたようで、軽く微笑みながら頷いてくれます。
「私は先に行ってお父さんに伝えてくるから。レナちゃんのエスコート、しっかりやるのよ?」
最後の最後にお母さんは貴方を揶揄い逃げるように先に自宅へと向かいます。
相変わらず自由気ままなお母さんの言動に頭を抱えてしまいます。
「き、気にしてないよぉ!」
母のフリーダムっぷりに申し訳ないとレナちゃんに頭を下げると気を使われてしまいました。
初対面だというのに、ずっと優しいレナちゃんに貴方の心は洗われます。使用人(妹)さん以外は普通からちょっとズレた感性と価値観の人が多いですから。
「は、はぅ。お、お願いします」
立ち話は疲れるから行こうと貴方は微笑むと、レナちゃんは緊張した様子で頷きます。
こればかりは仕方がありません。今日初めて出会ったのでこれを機に親しくなろうと考えます。
この雛見沢で友達が1人でも出来るといいなぁと、貴方は密かに思いながら彼女をエスコートしました。