〜ケイエスミラクルside〜
ある日から・・・友人、ヴィルシーナが変わった。また友人の1人ーー向こうに友人と思われているかは怪しいが、おれは友人だと思っているーーに何かと世話を焼き始めたのだ。トイレに行く時、さりげなく見渡し誰も着いてこない様に見張っている。着替える時、更衣室代わりの物置の前で見張っている。接触を試みようとするクラスメイトをやんわり止めたりもしている。ヴィルシーナは・・・何か、気づいたのだ。おれは気づいてない何かに。
「・・・な、なんでもないわ!本当よ!」
「・・・本当に?」
「ええ・・・何も無いわ。」
「じゃあ・・・どうして。」
「そう、ね・・・ちょっと助けてあげたくなったのよ。それだけ。」
「そう・・・」
ヴィルシーナは・・・何か、友人のティガに、近づいた。それを・・・俺は、好ましく思ってない。こんな気持ち初めてだ。大事な物を取られた様な・・・そもそもティガと何かあったわけではないが、ただのクラスメイトの1人だが、何か・・・モヤモヤする。
「・・・。」
「ミラクルさん?」
「あ、いや・・・ごめん。」
「ふふ、良いのよ。」
ヴィルシーナからは何か余裕を感じる。ティガに誰よりも近いのは私だと言う様な・・・それに対抗心、なのか、少し心にじわっと熱が増した、気がする。
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またある日。ティガが、トレーナールームに入り浸っているという噂を聞いた。担当してもらえたのかな?と思ったが、違うらしい。ティガが入り浸っているのは、3年前まで担当のメイクデビュー突破率100パーセントを誇った名トレーナー、中村さんの所だった。今は少々休みの期間との事でスカウトはしてないそう。ティガは、何故中村トレーナーのトレーナールームに入り浸っているのか。気になった。すごく気になった。だから・・・少し、話を聞いてみようとおれが中村トレーナーのトレーナールームに足を運ぶのは自然な事だと思う。
「・・・!!」
「・・・!!!」
トレーナールームの前で深呼吸して、ノックをしようと思ったのだが話し声がする。思わず、悪い事だから辞めろ、とか、ティガの知らない部分を知れるよ、とか自分の心が分離するのを感じながら聞き耳を立てた。
「だからぁ!!!中村トレーナーぁ!!!もう俺ダメだよぉ!!!」
「わかった・・・わかったから・・・」
「みんな!みんなが擦り寄ってくるんですよぉ!!!もう編入生を珍しがる期間は終わってる筈なのに!!!みんなさりげなくボディタッチしてくるんだよ!!!今日なんか3人にふともも触られたんだから!!!」
「はいはい・・・」
そうか・・・ティガは、ボディタッチを嫌がっていたのか。確かにみんな何故かティガに触れたがる。手を繋ごうとしたり、肩に手を置いたり、トモを触ろうとしたり、匂いを嗅ごうとしたり・・・それとなくヴィルシーナが手を払っているがみんながみんな止めるのは1人では難しい。それにこんなにトレーナーに愚痴を溢すほど嫌なのか・・・これはおれもティガに触れようとするみんなから守った方が良さそうだ・・・
「それに!!!いつ太ももから股間に手が伸びるか不安ですよぉ!!!」
「大丈夫だ。流石にそれはせんだろ。女同士でも滅多にせんぞ。」
「でも・・・実は匂いでバレてるんじゃないの?みんなわかってるんじゃないの?わかってて俺は弄ばれてるんじゃないの?」
「いや流石にわからんだろ。匂いだけじゃ。」
「でも中村トレーナーからは男〜って匂いするよ?」
「え?臭い?」
「臭くはないけど・・・」
「そうか・・・」
「ちょっと俺の嗅いでよ。」
「どれどれ・・・」
ちょ、ちょっと男のトレーナーに自分の匂い嗅がせてるの?教室ではあれだけガードの硬いティガがトレーナーの前ではこんなだなんて・・・クラスメイトが聞いたら発狂しちゃうよ。それよりも・・・何か、会話に違和感がある。なんだ・・・これ・・・
「普通に良い匂いだぞ。」
「ええ〜〜?男臭くない?」
「そんな事無い。フローラルな匂いする。」
「うーん・・・」
ちょっと待った。男臭い?ティガが?なんで?まるでそれは自分が男な様に・・・ティガは間違いなくウマ娘だ。尻尾も、耳も本物。間違い無い。それが・・・どういうこと?
「やっぱり・・・バレてるんじゃないかなぁ・・・」
「いやいや。それならもっと大騒ぎになる。バレてないんだよ。」
「でも・・・普通にやばいよ女子校に女装して通学は。」
!!!!!女装して通学!?!?バレる、バレないという事は・・・ティガは・・・男の人!?なんで!?ウマ娘なのに!?そして思わず後退りしてしまった。
「誰だ!!」
「しまっ・・・」
おれは走り出した。自分でもかなりの速度が出たと思う。それくらい必死だった。ティガは、男の人。衝撃の事実が脳内を駆け巡る。どうしよう・・・どうしようどうしようどうしよう!!!こんな、こんな事!!!誰にも相談出来ないよ!!!
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あれから数日経った。おれが、盗み聞きしていた事は、バレてない。そして、おれはティガをもっと観察する事にした。
「・・・。」
ティガは・・・あの話を聞く限り、邪な意志を持ってトレセンにいるんじゃない。何か・・・仕方ない事情があってトレセンにいるんだと言うことがわかる。男の人が・・・その正体を隠して、トレセンに通う意味は、まだわからないけれど。少なくともティガは女の子に何かしたいとか、自分の欲望を満たす為にいるんじゃない。なら・・・おれは、助けたい。クラスメイトでこの秘密を知ってるのはおれだけだと思うから。・・・もしかしてヴィルシーナも?いや、わからない・・・聞くのは怖い・・・それはこの秘密を広げる事になる。ダメだ。
「ティガ。」
「ッ!?な、なに・・・ミラクル。」
「ご飯、行かない?」
「い、いいよ。」
「じゃ、行こう。」
「うん・・・」
まだおっかなびっくりなティガが、なんとかみんなに慣れてほしい。例えティガが男の人でも、友達にはなれる筈だから。
〜ヴィルシーナside〜
多分、おそらく、めいびー。ミラクルさんが気づいた。でも、確認は出来ない。それは秘密の漏洩を意味する。
「ティガさん?」
「な、なに?ヴィルシーナ。」
ふふふ。秘密を知ったからか、彼について近寄れたからか、彼に私を呼び捨てにさせる事に成功した。彼に名前を呼ばれると、胸の奥がキュンとする。普通に男の人呼ばれたくらいじゃこうはならないのに。不思議。でも、心地良い。少し、少しだけ、この心地良さを楽しんでも良いわよね?ごめんね?ティガさん。
「あのね。今週の土曜日、空いてる?」
「今週の土曜日・・・?何もないよ。」
「あのね、良かったらなんだけど・・・」
そう言って私は舞台のチケットを取り出した。2枚。ふふ。
「良かったら、一緒に見に行かない?」
「え・・・でも・・・」
「私、ティガさんともっと仲良くなりたいの。」
「妹さん・・・達は・・・?」
「これ2枚しかないの。妹と行くには足りないから。」
「あ、そっか・・・」
「どうかしら?」
「・・・。」
ちょっと悩ませてしまったかしら。彼はこういうのあんまり見に行かないかしら・・・ドキドキと胸が鳴る。お、男の子をデートに誘うのって初めてだから・・・!
「うん・・・いいよ。」
「そう!ありがとう!嬉しいわ!」
「俺も嬉しい・・・ありがとうヴィルシーナ。」
「!!!」
彼に嬉しいと、ありがとうと言われた瞬間、心が高鳴った。すごい。この高揚感・・・天にも昇るとはこの事なのか。
「ふふふ・・・!」
「それじゃ土曜日だね。何時から?」
「午後3時開演だから、一緒にランチでもどうかしら。」
「うん、いいよ。」
「ありがとう!」
楽しみだ。本当に楽しみ。こんな・・・こんなデート初めて・・・あれ?着ていく服、ある?
「・・・!?」
「どうしたの?」
「な、なんでもない・・・なんでもないわ。」
瞬時に寮に置いてある服を思い出す。妹達とのデートに着ていく服はある。でも、男の子とのデートに着ていく服は?そんなもの無い。どうする!?・・・そうかこれが男の子とのデートか、女の勝負はもう火蓋を切って落とされたのだ。絶対に1着を獲る。
「・・・。」
「ヒエ・・・」
私は気合いを入れ直した。金曜日、時間は僅かしかないが、服を見に行こう。勝負はまずそこからだ。
⏰
土曜日・・・なんだが・・・
「・・・。」
寮の自室の窓から外を見る。そこは大雨。バケツをひっくり返したどころではない。まるで50メートルプールをひっくり返した様な大雨。何故だ、昨日まで、こんな予報は無かった。何故・・・
「・・・。」
ピロン、とウマホが鳴る。そこには彼からのLANE。
「大雨だけど・・・どうする・・・か・・・」
今日は辞めましょう、出歩くのは危険だわ・・・と返信する。これでは昨日揃えた一張羅も傘を差してもびしょびしょになる。結構な値段もしたのでそれは嫌だ。彼に見せられないのはもっと嫌だが・・・この雨では手も足も出ない。
「ぐす・・・」
思わず涙も出てきた。本当に、本当に楽しみにしてた。初めての男の子とのデート。すごく楽しみだった。でも・・・これじゃ・・・
「ヴィルシーナちゃん大丈夫?」
「タルマエさん・・・ええ、大丈夫。」
「今日お出かけだったんでしょ。随分気合い入ったファッションしてたから。」
「ええ・・・」
「流石にこの雨じゃ無理だよね・・・」
「そうね・・・」
同室のタルマエさんも・・・ジャージで走りに行ってたようだが急な雨でずぶ濡れになって帰ってきた。はぁ・・・
「ふぅ・・・」
着替えよ・・・またの機会にしよう。そう、まだチャンスはある。彼とのデートはまだ出来るのだ。ふとピロンとまたウマホが鳴った。
「あら・・・ふふ。」
彼から今日は猫とゆっくりするーと写真が送られてきた。猫か、彼は猫を飼っているのか。というか前に聞いたが彼は寮ではなく外部に家がある。マンションだと言っていたが猫を飼っているとは知らなかった。また彼を知る事が出来た。雨で残念な気分が少し和らいだ。
「・・・それにしても、この猫、どこかで・・・」
どこだったか。まぁそれは良いか。猫かわいい。
「ふふふ・・・」
タルマエさんが不思議な顔で見ているが、まぁ良いでしょう。この日は彼と次のデートの予定を立てるのであった。彼はデートよ、と言ったらかなり慌てていた。2人きりでお出かけだからデートじゃない。変なティガさん。ふふ。