転生先が紅魔館の妖精メイドとか聞いてません! 作:mayflower
n番煎じの擦られまくった設定。基本のんびりした内容になるかも。
目を覚ました瞬間、世界はすでに静寂だった。どこか瀟洒な感じの窓、紅い壁、丁寧に整えられた芝生……その上にあるどこか古めかしいテーブルをパラソルが覆う。どこかの邸宅の庭なのだろうか。
なぜか体は軽く、けれど草の香りが妙にリアルで──ああ、これは夢ではないのだとなぜか直観的に理解した。
「……ここ、どこ?」
呟いた自分の声は、予想よりもずっと高かった。妙に透き通っていて、少しだけ鼻にかかる。おかしい。寝起きで声が変わるにも限度がある。そう思って首を傾げたとき、目に入った池に映る自分の姿を見て、すべてが凍りついた。
──小さい。なんか、ちっっさくない!?
──メイド服!? しかもこれ、見覚えある……
──金髪……ツインテール!? なんで!??
全身の血が逆流するかのような衝撃の中、ようやく気づいた。
目の前にそびえる深紅の洋館。気がついたらふよふよと浮いている私。
(もしかして私……東方Projectの……紅魔館の……妖精メイドになってる!?)
この世にあるはずのない「設定」をすべて受け入れたその瞬間、理性が一度飛んだ。
「うわああああああああああああ!?!?」
けたたましい悲鳴が紅魔館に響き渡る。すると間もなく、今まで何もなかった空間に”何か”が一瞬にして現れた。あまりの驚きに身を固くしてしまう。
「騒がしいわね。どうしたの?」
銀髪のメイド姿。完璧な立ち姿。そして瞳の奥に宿る冷たい光。
──見間違えるわけがない。十六夜咲夜だ。
「……あっ……あの……す、すみません……」
なぜか自然と敬語が出た。相手は時間を操るメイド。機嫌を損ねれば首が飛ぶかもしれない。──いや、本当に飛ばすタイプだろうあの人は。
咲夜は眉一つ動かさず、こちらを見下ろして言った。
「新人ね。見ない顔だわ。名前は?」
「え、な……名前……?」
ない。妖精メイドは“モブ”だから、公式に名前なんて付いてない。
「……あー……えっと、リデルです……たぶん……」
「たぶん?」
「いえっ、リデルです! よろしくお願いします!」
咲夜は一瞬だけ目を細めたが、何も言わずに手を振った。
「分からないことがあったら泣いたり叫ばずに、メイドの先輩や私の元に来なさい。声は控えめに。規則は後で教えるから、まずは厨房で自己紹介を」
命拾いした……。
そんな思いを胸にしながら、わたし──いや、リデルは小さな身体を動かして廊下を歩き出した。
紅魔館はゲームで見たままの姿だった。深紅の絨毯、冷たい石壁、ステンドグラスの窓。非現実的なのに、なぜか懐かしささえ覚える。
(でも、なんで私が転生したの?)
理由はわからない。ただ一つ確かなのは──この体には「羽」があるということ。
自分の背中をそっと触る。羽ばたきはしないが、間違いなく“妖精”だ。
無力で、モブで、すぐ倒される。でも……。
(せっかくなら、この世界で生き抜いてやる!)
そして心の奥に、まだ知らない“魔法の気配”が、わずかに灯りはじめていた──。