転生先が紅魔館の妖精メイドとか聞いてません!   作:mayflower

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短めです。


第2話「業務開始!」

厨房は、思ったよりも騒がしかった。

 

「おたま持ってー! あ、それフライパンじゃない! ジュリア、鍋に火が……って火ぃ吹くなああああ!!」

 

「あっつ!? 指焦げたー!!」

 

「ねえ、どうしてこんなにパンケーキ作ってるの?」

 

「だってなんか焼いてると幸せになる気がして……」

 

妖精メイドたちが5、6人、自由すぎる働き方をしていた。誰一人まともに“メイド”していない。

 

(……これが、あの紅魔館の……!?)

 

どこかで「妖精メイドはポンコツ」だと聞いたことがあるが、ここまでとは。小さな手で大鍋をかき混ぜる者、床に寝そべりながら野菜を刻む者、なぜか天井に張り付いて“味見してる”者までいる。

 

それでも彼女たちは、楽しそうだった。混沌として、賑やかで、どこか人懐っこい空気がある。

 

「新入りさんだー?」

 

くるくる巻き毛の妖精がこちらに駆け寄ってきた。顔中粉まみれで、笑顔だけは満点だ。

 

「名前は? 羽はある? お昼ごはん食べた?」

 

「えっと、リデルです。羽、あります。お昼は……まだです」

 

「よっし! じゃあ仕事してから一緒に食べよ! パンケーキ山盛りつくったから!」

 

そうしてリデルは、粉まみれ妖精──名前はメルフィらしい──に手を引かれ、厨房の仕事を教わることになった。

 

「まずは盛りつけ係ね! この皿にこのパンケーキを、きれいにのせてくの!」

 

「え、これ、50枚くらいありますけど……?」

 

「うん! 大丈夫! 気合いでのせて!」

 

──気合いで?

 

だが意外にも、妖精の身体は軽く、動きも悪くなかった。というより、リデルの動きは他の妖精たちよりずっとスムーズだった。バランス感覚も、手先の器用さも、妙に良い。

 

(もしかして……私、妖精の中ではわりと……“動ける”タイプなのかも?)

 

パンケーキを積み上げるうち、ほんの少し誇らしい気分になってきた。

 

「いいじゃーんリデル! めちゃうまい! はい次! お皿いっぱい!」

 

──この仕事、案外悪くないかも。

 

そう思い始めたときだった。厨房の扉が静かに開き、あの銀色のメイド長が姿を現した。

 

「ふむ。パンケーキ……また大量に?」

 

咲夜だ。

 

妖精たちは一斉に背筋を伸ばした──が、慣れていないせいか、誰も彼も“目をぐるぐるさせてる”状態で止まっている。

 

(これ、止まってるっていうかフリーズしてる……!)

 

リデルも慌てて真似て立つ。咲夜の視線が、自分をなぞるように滑った。

 

「あなたがリデル? ふぅん……新人にしては、手際がいいわね」

 

「光栄です!」

 

「その調子で。少しずつ仕事を覚えてもらうわ」

 

咲夜はそれだけ言って、静かに踵を返した。

 

残された妖精たちは、まるで時が再開したかのように息を吐き出し、パンケーキの山に戻っていった。

 

「……すごい、咲夜様が褒めた……!」

 

「生き残った……」

 

「新人、やるじゃん……!」

 

──え、そんなに命がけの職場なの!?

 

リデルは軽く引きつりながらも、咲夜の評価が少し嬉しかった。

 

紅魔館。危険で、理不尽で、でもどこか面白いこの館で、私は今、“妖精メイド”として生き始めたばかりだ。

 

まだ名前も、羽の力も、小さな自信も──すべてが未完成。

 

けれど。

 

(……この世界で、何かを掴んでやる)

 

そう決意したその時、メルフィがニコニコしながら耳打ちしてきた。

 

「ちなみにね。明日は……お嬢様の“おやつ当番”だよ」

 

「え、えっ?」

 

「一番ヤバいのが来るから、覚悟してねー!」

 

笑顔のままメルフィはケーキを持って消えていった。

リデルは、遠くで静かに嗤う“スカーレットの影”をまだ知らない──。

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