東方二次創作劇場 「巫女と巫女」 - 東方風神録より - 作:俄かさん。
- これは数多ある幻想郷のうちのとある幻想郷における物語 -
天 高 く 馬 肥 ゆ る 秋 。
黄金色の稲穂垂れる山一面の棚田を背景に立ち、ふんぞり返る一人の少女。
緑色の長髪風に靡かせ、ちょいワル顔の蛙の髪留めがそのアクセントを添える。
着慣れない紺と白の巫女装束は、昨日仕立ててもらったばかりの一張羅。
そんな出で立ちの少女は新品の幣を手に、たわわな胸を揺らしながら「ふんすっ」と鼻息荒くさせる。
「ついに、ついにこのときが来ました。この郷に守矢の名を知らしめるときが。そう、この天下に今こそ轟かせるのです、守矢の名を。そのゆるぎなき信仰とともに!あーはっはっはっはっ!!!!」
廚二病全開のその少女、どこぞの悪役っぽく天下の往来のど真ん中で盛大な高笑いをする。
と、そこへ。
「(どんっ)おっとごめんよ!?」
「きゃいんっ!???」
ど ぼ ん っ 。
褌一丁のガチムチな飛脚に弾かれ、そこらへんの田んぼの肥溜めへとダイブする少女。
その少女の名は。
東方二次創作劇場 「巫女と巫女」 - 東方風神録 より -
「……それで、あのひよこは布教活動早々に飛脚に弾かれ御不浄の沼に嵌まった挙句、香ばしい匂いと茶褐色の穢れを纏って逃げ帰ってきたと?」
「ずら。それでいま、雛と一緒にお風呂に入ってるずら。おかげでスペアを作るのが大変ずら」
妖怪の山、そのいただき。
新築ほやほやの杉の木の香りの漂う神社の本殿にて語らう二人の神さま。
一人は文庫本を読みがてら、せっせと服を新調するもう一人の神さまのぼやきにふっと小さく笑う。
「ここに越して来てまだひと月。その前は普通の女子高生だったひよこだ。初っ端からつまずくのも無理もない」
「ずらずら。ところで神奈子さ、さっきから何を読んでるずら?」
「ハムレットだよ。昨日はロミオとジュリエットを読んだかな」
「……神奈子さ、神さまの自覚あるずら?」
「神さまでも趣味のひとつぐらい持っててもいいじゃないか。それにまだこの郷に来て間もない。この山の連中とも折り合いがついたばかり。信仰を集めるのも、そんなに焦る必要ないさ」
「ずら。これからずら」
二人の親鳥は、愛するひよこを引き合いに出しつつ、なんともユルい会話を交わす。
そんな和やか(?)な空気をぶち壊すかのように突然とスキマを介して現れる道士服姿の女。
その女の出現に、二人は気色ばむ。
「……またおまえか」
「ずら、今度はなんずら?」
「あらあら、相変わらずずいぶんのんびりしてるものね。でもそれじゃ、つまらないわ。ひとつ提案があるのだけどどうかしら?」
「提案?おまえと会うのはこれで二度目だが、そこはかとなく胡散臭い匂いがするのは気のせいか?」
「ずら、どちゃくそ怪しいずら」
「あら、わたし、そんなふうに見える?」
守矢の二神にジト目で睨まれながらも、道士服の女は涼しげにぱたぱたと扇子を仰ぐ。
そこへ奥の風呂場から出てくる「すっぽんぽん」の娘二人。
一人は厄を流す娘、鍵山雛。
そしてもう一人は言うまでもなく。
「ら~ら~ら~、穢れはぜんぶ汚れと一緒に洗い流したわ~♪(くるくる)」
「おいこら、雛。素っ裸でくるくる踊るんじゃない」
「諏訪子さま、諏訪子さま、着替えはどこですか?(あせあせ)」
「早苗さ、着替えなら風呂入る前に渡したずら?厄と穢れと一緒に記憶まで洗い流したずら?」
「え、え?!そうでした??(はわわ)」
「あら、可愛い子ね。うん、この子。この子よ。……面白そうね」
「ふぁ、あ、あなたは?」
「うふふ、久しぶりね、早苗。もうわたしのことは忘れちゃったのかしら?」
そのまっぱで狼狽える天然娘を見るなり、道士服の女は目元細め、にんまりと意味深な笑みを浮かべるのだった。
郷外れにある博麗神社。
その境内にて野草積みに勤しむ二人。
「これはオオバコ、そっちはハコベラ。ついでにそれはナズナね」
「うーん、見分けが全然つかないわね。さすが花守、詳しいのね」
「そりゃね、毎日毎日お花のお世話をしていれば、いやでも詳しくなるわよ。それにしても?」
顕界の花守、風見幽香の説明に博麗の巫女、博麗霊夢は感嘆の息をつく。
今日摘んだ野草は漏れなく「七草粥」として調理される。
霊夢の感嘆をさらりと流しつつ、しげりと幽香はこの神社一帯のありさまを見ては苦笑いする。
「日増しに寂れてってない、ここ?そう感じるのはわたしの気のせい?」
「気のせいじゃないかも。最近、不景気なのよね。……いつものことか」
「あら、あなたの名はこの郷に知れ渡ってるはずなのに不思議ね。方々から援助があってもいいんじゃない?」
「それがさ、どいつもこいつも顔出しに来るは来るけど、お賽銭ちっとも寄越さないのよね」
「それはきっと宣伝不足。もっと自分を売り込まなくちゃだめよ」
「ええ、めんどくさっ。いつぞやのときみたいにうっかり辻斬りに絡まれるのはまっぴらごめんよ?」
「へっちょ(くしゃみ)」
「あら妖夢ちゃん、どうかした?」
「いえ、幽々子さま」
どこかで誰かがくしゃみをする、そんな愉快な博麗神社の早朝のひととき。
なんとものどかなその雰囲気をぶち壊すかのように突然突風が吹き荒れる。
「あらやだ、日傘が飛んじゃうじゃない?」
「わー、せっかく摘んだ今晩のおかずまで飛んでった、誰のしわざよ!?」
その風に翻弄される二人の前に、現れ出でるのは。
「へえ、ここが博麗神社。ずいぶんと貧乏くさい社ですのね。そしてあなたが博麗の巫女ですか?」
「わたしはただの花守よ。博麗の巫女はこっちよこっち」
危うく飛ばされそうになった日傘を折り畳みつつ、幽香は未練がましく宙を舞う今晩のおかずへと手を伸ばす霊夢の背を押す。
そのひとつも回収しきれないまま、背を押された霊夢は恨めしげにその初見の娘へと胡乱な眼差しを投げかける。
「誰よあんた?」
「わたしは守矢の風祝。名は東風谷早苗。博麗に成り代わりこの郷に守矢の名を知らしめるための使者」
「ふーん?また厄介なのが来たわね」
突然の不穏な悪役の登場にも霊夢は動じず、至極面倒くさそうな顔をしてのける。
そんな嫌そうな顔もそっちのけで、早苗はふふんっと霊夢に詰め寄り、見下ろす。
「あなたが博麗の巫女?……ずいぶんと小さいのですね」
「小さい?どこがよ?背丈のはなし?」
「いえ、その、胸、とか」
たゆん、ぷるっ。
つるっ、ぺたっ。
「……夢想封印っ」
「きゃいんっ!?」
ちゅっどぉおおんんっ!!!!
「さすが、博麗の巫女。容赦ないわね。秒で屠るなんて?」
「こんな失礼なやつ、言語道断よっ」
初顔合わせで即地雷を踏んで秒で負ける早苗。
それを「うわ、えぐっ」と顔をひきつらせる幽香に吠える霊夢。
かくて悪は滅び、幻想郷の平和は今日も守られるのであった。
守矢神社、その本殿。
「やっぱりいきなり大物狙いは無理ありすぎるだろ、あの女も無茶な提案をするもんだ。それでまたあのひよこは、あの博麗の巫女にワンパンKOもらって逃げ帰って来た訳か」
「ずら、そうずら。いま、自分の部屋に閉じ籠ってるずら」
「そうか。……少し心配だな。諏訪子、ちょっと様子見に来てくれないか?」
「わかったずら」
文庫本片手に催促する神奈子の依頼に応じて、とてとてと早苗のいる部屋に向かう諏訪子。
コンコンとノックして「作戦立案中!」のプレートのかけられたドアを開ける。
「あ、諏訪子さま」
「早苗、何してるずら?」
「いえ、あのにっくき博麗の巫女の弱点をネットで探ろうとしてるところです。せっかくの文明の利器は駆使しないと!」
外の世界で愛用してたノートパソコンを立ち上げ、得意げに語る早苗。
それを見るなり、諏訪子は呆れたような顔をしてのける。
「早苗さ、ここ(幻想郷)は圏外ずら」
「きゃいんっ!」
「博麗大結界」という見えざる障壁に阻まれ、ずっこける早苗なのであった。
「めげるな、早苗。明日には明日の風が吹くものさ」
「そうずら、神奈子の言う通りずら。文明の利器に頼らずとも、頑張ればいつか報われるずら」
「はい、神奈子さま、諏訪子さま、わたし、わたし、頑張りますっ!守矢の風祝として!!」
守矢の二神の励ましに奮起し、早苗の執念ともとれる無謀な挑戦は尚も続く。
かくて連日のように博麗神社の境内にて繰り広げられる巫女と巫女の仁義なき対決。
その噂をどこからともなく聞きつけ、郷中の暇人どもがこぞって見物に訪れるようになった。
「今日こそは負けませんっ。あなたを倒し、守矢の名をこの天下に轟かせるのですっ!」
「もう、毎日毎日しつこいわね、あなた?」
「勝つまで諦めませんっ!いざ尋常に!」
「夢想封印」
「きゃいんっ!!」
今日も今日とて慈悲なき繰り出される夢想封印に呆気なく敗北を喫する早苗。
そのもはや定番となりつつあったお決まりのパターンを前に、見物客たちは口々に落胆と称賛の声を方々から上げる。
「いや、どうでもいいけど、見世物じゃないわよ見世物じゃ?そのうち見物料せしめるわよ?」
そんな暇人どもを前にここぞとばかりにお賽銭をせしめようとする霊夢。
どんな局面でも、ブレることなくとことん実利主義一辺倒な博麗の巫女なのであった。
実りの秋。稲刈りが方々で行われ、この郷に恵みをもたらす。
今年はいつになく豊作で、郷の住民どもはいつしか口々にこう噂するようになる。
これは守矢の神さまのおかげ。
めんこい初々しい巫女さんがもたらしてくれた奇跡、と。
その一方で。
「……今日も不景気ね」
相変わらず空っぽの賽銭箱を前に、がっくりと肩を落として項垂れる古参の巫女。
そこに吹き抜ける一陣の風。
それとともに性懲りもなくまた現れ出でた娘を前に、霊夢は「もう勘弁してよ」とぼやく。
「というか、もういい加減にしてほしいんだけど。いま、すごくきぶんが悪いのよ、わたし?これで最後にしてくれないかしら?」
「ええ、これで最後にしましょうか。わたしもあのときよりも強くなりましたから」
「そう?ならいいわ。こっちも遠慮なくいかせてもらうわよ?」
ざっと身構える霊夢。
そしていつものように夢想封印をかましにいくのである、が。
「……あっ(くらっ、ばたんっ)」
「え?」
いきなりぶっ倒れる霊夢。ぽかんとする早苗。
それはあっけない幕切れ。開始早々につくその決着。
「あ、あの、わたし、何もしてないんですけど?……これって勝ったってこと?」
奇跡を起こす程度の能力持ちのこの巫女でさえ、この奇跡を前に狼狽える。
どうしよう?素直に喜んでいいのかな、これ?とただただ困惑する早苗なのであるが。
「あ、あの、だ、大丈夫ですか?」
「…………」
早苗の呼びかけに霊夢はぶっ倒れたまま何も答えない。
あまりの無反応ぶりに早苗はさーっと顔を青褪めさせる。
「わあっ、たいへんっ、誰か、誰か、お医者さんを呼んでーーーーーっ!!!!!」
ぞろぞろといつものように野次馬どもが決戦の場である博麗神社の境内に集まる中、早苗の絶叫が秋晴れの空に甲高く響き渡るのであった。