進め! 我らは力の同盟!   作:クラウス道化

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(2)尊敬はどこだ! 力の同盟!

 最近、近所での俺への評価が、ちょっと洒落にならない方向に転び始めている。

 

 まあ、仕方ないと言えば仕方ない。

俺の収入の大半は本の印税だ。冒険の途中で見つけたお宝を換金した金も少しあるが、街の人間や魔物たちに“働く姿”を見せたことは、一度もない。

 

 はたから見れば、複数の魔物を侍らせ、街外れの豪邸に住まう遊び人だ。

それか、違法なものを取り扱う悪どい闇商人。色々とデカいアイシスはともかく、ほか三名は花冠が似合う愛らしい少女の姿をしている。

 

 そのせいで俺は、とんでもない変態性癖の持ち主だという噂まで立っているらしい。

──この家で一番年下なのは、俺なのに。

 

「どうすればさ、街の人々が俺を尊敬……とまでは言わないけど、せめて普通の目で見てくれると思う?」

 

「まどろっこしい。さっさと身分を明かせばいいだろう。――それより、中央のソーセージをよこせ」

 

「どうぞですわ~! ……うーん、その案には反対ですわ。そんなことをしたら、ワタクシの家に下々の民が押しかけてくる未来しか見えませんもの」

 

「いつから俺ん家はエクレアの家になったんだ」

 

 力の同盟の面々と一緒に、自宅でサウナを楽しんでいた。

サウナストーンの上には鉄網が乗せられ、その上でさまざまな食べ物がじゅうじゅうと音を立てながら焼き上がっていく。そのせいで、サウナ室の中はもはや焼肉屋と見紛うばかりの匂いで満たされている。

 

 魔物の間では、こうやってサウナで飯を食べるのが“オツ”な嗜みらしい。

エクレアはこんがりと焼けたソーセージが刺さった鉄串をぺこに差し出した。

 

「むう、それは面倒だな。我の住居が有象無象どもにたかられることになる。よし、このまま黙っておけ」

 

「だから俺ん家はいつから──おい串まで食べるんじゃない」

 

「そういやぁ街で走り込みしてたら、ヴェークのことよく聞かれるな。一緒に暮らしてて大丈夫なの? 何もされてない? とかなんとか!」

 

「ミクリもお散歩中、衛兵さんに辛いことがないか聞かれる……」

 

 アイシスとミクリの言葉を聞き、俺は思わず頭を抱える。

正直なところ、自分に対する他人の評価にはあまり興味がない。興味はない……が、さすがに変態の遊び人に思われるのはちょっと……いや、かなり嫌だ。なんとかしなくてはならない。だが、その方法が何も思いつかない。どうしたものか……。

 

「前にやった屋台は上手くいかなかったですわね」

 

「へへへ……いやぁ……今になって思い出しても、あれは……」

 

「うふふふふっ……! お腹がまた痛くなっちゃいます……。あのとき一番お腹が痛くなったのは、ヴェークだったけど……」

 

「……その話は、頼むからやめてくれ」

 

「はっはっは……いやしかし、アイスは美味かったな。サウナから出たら残りを食うか」

 

 俺は一度、この状態をなんとかしようと行動に出たことがある。

その際にやったのが、移動屋台を使ったアイスクリームの販売だ。街の人々や魔物たちとほのぼの触れ合うことで、少しでも印象を変えられたらと思ったのだ。残念ながら結果は散々だったが。

 

 アイスは、この街じゃ違法な物品の隠語だったらしい。

そんなことは露知らず、真面目に頑張った俺の努力の結果──“昼間からヤバいモノを売って回る男かもしれない”という噂だけが街に広まった。俺は泣いた。

 

 そんな事情を知った四人は大爆笑し、閑古鳥が鳴く屋台の周りでしばらく転げ回っていた。

一番笑っていたのはミクリだ。普段は清楚な狐娘を装っているが、中身はかなり腹黒い。俺は仕返しに、全員の晩飯をアイスクリームだけにしてやった。その結果、俺だけ腹を下した。俺はまた泣いた。

 

「あ~、どうすりゃいいんだろうな。やっぱり、慈善活動みたいなのが無難かな?」

 

「ノブレス・オブリージュですわね! 青い血が流れるワタクシのような気高き存在が、当然持つべき思想ですわ!」

 

「お前、全身まっ黄色じゃねぇか。青要素ひとつもねぇぞ」

 

「比喩表現ですわよ、比喩。揚げ足取りは野暮というものですわ。しかし……慈善活動、ですか。うーん、やったことがありませんので、いまいち具体的な想像が湧きませんわね」

 

「やったことがないのか。我はてっきり、その口ぶりからして、既に何度も経験しているものだとばかり……」

 

 全員がうーんと唸りながら考える。

だが、やはりアイディアが出てこない。今まで誰一人として慈善活動に興味を持ってこなかったのが、ありありと伝わってくる。俺は小さくため息をついた。そのとき、ふとアイシスが何かを思い出したようにぽつりと口を開いた。

 

「そういや今朝、サザーランドのおかみさんがすげー困ってたな。あまあまだんごの材料が足りねぇって」

 

「えぇ……!? 行っても買えないの……?」

 

「それは困るな。我は週に二十回は食べている」

 

「食いすぎだろ。絶対お前のせいで供給が追いついてないんだよ。それにしても、あまあまだんごか……」

 

 サザーランドは街で一番……いや、世界で一番と言っても過言ではない高級宿だ。

その宿泊料金は、なんと一泊十万ゴールド。ひのきのぼうが二千本は買える金額である。もはや小さな家が建つ値段と言っていい。そんな宿なのだから、そこに泊まる客層も当然一流。各国の富豪や王侯貴族、果ては魔物たちの大ボスまで名を連ねる。

 

 あまあまだんごは、この宿自慢の名物だ。

ひと口頬張れば、ハピネス村特産の“ハピネス蜜”の上品な甘さがふわりと広がり、思わず頬がゆるむ。そのとろけるような美味しさに、虜になる客も少なくない。

 

 うちのぺこもすっかり気に入っている。

……たぶん、一番ゆるんでいるのは俺の財布だ。つらい。

 

「おかみさんは顔が広いし、これを機に交流を深めておくのも悪くないかな……。よし、今日はサザーランドに行って、問題を解決してあげよう」

 

「今日のヴェーク、勇者ハインリヒみてぇだ! あいつのコスプレお供にぶん殴られたときの傷、また疼いてきやがったぜ……」

 

「たまには忍者じゃなくて、勇者になるのも悪くないかも……。うふふっ、勇者ミクリ……」

 

「お姫様が塔で助けを待つ時代は終わりましたの! 今のお姫様はドレスではなく鎧を着て、魔王様のツラに鉄拳叩き込むんですのよ~!!」

 

「慈善の話はどうでもいい。あまあまだんご……いつ出発する? 我の胃袋は準備が整っている」

 

 俺たちはサウナ室を出て、全員でサザーランドへ向かうことにした。

 

 ・・・・・ 

 

 サザーランドの内部は想像通り、高級そうな調度品がずらりと並んでいた。

大理石の床に、ふわふわの赤い高級絨毯。入口をくぐると、立派な戦士の銅像が俺たちをお出迎えしてくれた。

 

 十万ゴールドはたしかに大金だが、出せない額というわけではない。

それなのに、なぜ今までこの店に来なかったのか。理由は二つある。一つ目は、俺が前世から筋金入りの庶民気質で、こういう高級そうな店には気後れしてしまうこと。

 

 もう一つは、店が近所にあったことだ。

“いつでも行ける”と思って後回しにしているうちに、気がつけば、ずいぶんと時間が経ってしまっていた。

 

「よぉ~! おかみさん!」

 

「あら、アイシスじゃない! 今日は家のみんなを連れてどうしたんだい?」

 

 受付にいた優しげなおばさまが、笑顔で出迎える。

サザーランドのおかみさんは宿屋ギルドのまとめ役も努めている女傑で、街での発言力はトップクラスだ。

 

「おかみさんがだんごの材料がなくて困ってるって聞きまして。うちのぺこがあまあまだんごを食べ過ぎて、ご迷惑をおかけしてるんじゃないかと……」

 

「ぺこちゃんが? ん~……まあ、正直に言えば、要因のひとつではあるけどね。でも、それほど大きな問題じゃないよ」

 

「やはり、原因は我ではなかったか。では、一番の問題は何なのだ?」

 

「実は──」

 

 俺たちはおかみさんの話に耳を傾けた。

どうやら問題は材料の輸送に絡んでいるらしい。あまあまだんごの主原料である米が、産地の『イリアスヴィル』からなかなか届かないのだという。本来なら今日の早朝に入荷する予定だったが、昼近くになっても未だその気配はないそうだ。

 

「ハーピーの従業員を一人、様子を見にいかせようかと思ってたんだけどねぇ。今日に限ってお客さんが多くてね」

 

「うふふふ、勇者ミクリにお任せください……! 米を奪い取る邪悪な盗賊団を捕らえて、あまあまだんごの安寧を取り戻しましょう……!」

 

「ワタクシもやりますわ~! 勇者姫エクレアですわ~!」

 

「本当かい? じゃあ、力の同盟? のみんなにお任せしていいかい?」

 

「ええ、もちろん。お任せください」

 

「助かるよ。じゃあ、輸送ルートを書いておくからね」

 

 俺たちの申し出におかみさんは喜んで頷き、米を運ぶ馬車がいつも使っているルートをメモに書いて渡してくれた。

目指すはイリアスベルクから、近所の村であるイリアスヴィルへと続く街道。そこで何かが起きているはずだ。俺たちはサザーランドを後にし、街の外へ出た。

 

 ・・・・・ 

 

「わっれっら~♪ ちっからのどうめぇ~い~♪ こぶしはやさしきおのれのため~♪」

 

「きんにくは~すばらしき~おのれのためぇ~♪ すべてのてきを~ふっきとっばっせ~♪」

 

 エクレアとミクリが、不可思議な歌を口ずさみながら先頭を歩く。

二人の姿を楽しげに見つめるアイシスがそのすぐ後ろを、さらに彼女たちを見守るように、ぺこが静かに歩いていた。そして最後尾には俺。ひとまとまりの隊列となって、街道を進んでいく。

 

「ふんふっふふん~♪ ふっふ~ん♪ ふんっふ~ふ──馬車が止まっておりますわ!」

 

 歌詞を思いつかなくなっていたエクレアが、突然声を上げる。

彼女の指差す先には一台の馬車が。御者台には誰もおらず、街路の外れにポツンと置かれている。

 

 エクレアとミクリが勢いよく駆け出し、馬車を調べ始めた。

アイシスが調査する二人を守るために側に立ち、ぺこと俺は馬車の周囲を警戒しながら調べていく。馬は繋がれたままで、馬車に破損箇所はない。車輪も綺麗だ。

 

「う~ん。荷物も情報通りの量がそのまま乗っておりますわね。盗まれたような形跡は特にないですわ」

 

「くんくん……血の匂いもしない……。でも、なんだろ……この甘い匂い……」

 

「争ったって感じじゃねぇーな。どっかで小便でもしてて、崖から落ちたか?」

 

「いや、この近くに怪我するような場所はない。それに、運んでた人はこの辺りの出身らしいから、土地勘があるだろう」

 

「ほお、じゃあなぜおらんのだ? 魔物にさらわれたか?」

 

 俺はしゃがみ込み、じっと地面を見つめた。

落ち葉を踏みしめるように残された、小さな二人分の足跡が、森の奥へと続いている。

 

「うーん、誰かと森の方へ行ったみたいだ。ぺこの言う通り、さらわれたのかもしれない」

 

「じゃあ話は早ええな! さらったヤツをぶん殴って解決だ!」

 

 俺たちは互いに頷き合い、足跡を辿って森の中へと足を踏み入れた。

 

 鬱蒼と茂る木々が陽光を遮り、地面はしっとりと湿っている。

湿気を含んだ空気が重く、肌にまとわりつく。俺は慎重に足を進めながら、周囲の音に耳を澄ませた。小鳥のさえずりに混じって、かすかに会話するような声が聞こえてくる。

 

「──やってらんねぇ! 下界の奴らはイかれてる! このステキなお米を全部お菓子にするなんて~! ぜってー酒にすべきだね! ヤマタイ酒! ヤマタイ酒~!!」

 

「ウェヒヒヒッ!! その通りっ! その通りなのらー! ぐびぐびぐび……ぷへぇ……もっと飲むのら~!」

 

「……居ましたわね」

 

「えぇ……」

 

「なにやってんだ……?」

 

 そこには、酔っ払いが二人いた。

一人は馬車の持ち主と思しき男性。もう一人は、ふわふわした毛並みの羊娘。二人は大岩に座って酒瓶を回し呑みしながら、肩を組んで上機嫌に喋り合っている。

 

「マトンの酒漬けとパイ包みか……なかなか良いではないか」

 

「あー、ならアタシが下ごしらえしてやるよ。叩いて柔らかくするぜ?」

 

「ヒックっ! な、なんか急に寒気がするのら……。でも、呑む手が止まらないのら~!! 天使のお迎えが来る前に、もっと呑んでおくのら! ぐびぐびぐび……」

 

「横にいるだろぉ~♪ ぐびぐびぐび……」

 

「ちょっ、暴力は少しだけダメですわ! おふたりとも、その拳を早くお引っ込めくださいまし!」

 

 青筋を浮かべる、ぺことアイシスを三人で止めつつ、俺は酔っ払いコンビに声をかけた。

 

 ・・・・・ 

 

 無事、馬車を発見した俺たちはイリアスベルクに戻ってきていた。

馬車の持ち主である男性は帰還する道中で、酔いが少しだけマシになり、事情を聞くことができた。聞いたところ、ヒッチハイクしていた羊娘を善意で馬車に乗せてから、記憶がほとんどないらしい。

 

 おそらく、酒漬けの羊娘が横に乗ったことで、あの男性も酔っ払ってしまったのだろう。

帰り道、俺は熟睡した彼女の隣に座った。今は街に着いて、彼女と別れてからしばらく経っている。なのに、まだ頭が少しクラクラしている。

 

「ふわふわですわ! これはお姫様にふさわしい寝床と言うのもですね!」

 

「ふわふわ……ふわふわ……♪」

 

「クッソ腹立つけど、あの羊は酒のセンスが良いな……。貰って良かったわ。ヴェーク、呑まねえのか?」

 

「俺は、いい……」

 

「もぐもぐもぐもぐもぐもぐ……」

 

 おかみさんのご厚意で、今日はサザーランドに無料で泊まらせてもらえることになった。

高級宿の名は伊達ではなく、これまで数多くの宿を巡ってきた俺の中でも、間違いなくトップクラスの快適さだ。

 

 ちなみにワーストは──サキュバスの村の宿。

ある意味“最高の体験”はできるが……休息を求めるには、まるで向いていない。泊まるなら、結界を張る魔道具が必需品だ。

 

 山盛りのあまあまだんごを食べ続けるぺこを横目に、俺は窓の外を見ながら呟いた。

 

「これで、多少は俺の悪評が改善されるかな?」

 

「そういえばそんな話でしたわね! まあ、多少マシになるのではなくて?」

 

「そんなことより、どうしよう……。ミクリが忍者じゃなくて、勇者として有名になっちゃったら……」

 

「兼業すればいいだろ? 今日から勇者忍者って名乗ろうぜ~!」

 

「……ふう。そこそこ満足したぞ。腹0.08分目と言ったところか。そういえば、ヴェーク。我は思ったのだが……最初からこの宿に泊まるだけで良かったのではないか?」

 

 ぺこの言葉に、俺は首を傾げた。

どうしてサザーランドに泊まることが、俺の悪評を和らげることになるのか?

 

「ここは、宿泊客の品位も重んじる宿であろう? すなわち、ここに宿泊できたという事実は、我らが少なくとも悪人ではなく、裕福で善良な人物であると世間に示すことになる」

 

「……たしかに」

 

「それに、宿泊の際にお前が本の作者だと名乗っても問題はないだろう? ここにはお忍びで来る連中もいる。おかみは客の正体を軽々しく口にしない。お前のことも例外ではないだろうな」

 

「……たしかに」

 

「だが……街で会ったときには、態度に多少現れて丁寧に接してくるはずだ。それが街の連中に伝われば、お前の評判が悪くなることはないだろう。もぐもぐもぐもぐ……」

 

「──ぐびぐびぐびぐび!!」

 

「ヴェェェェク!!! おいおいおいおーい!! イイ酒を一気飲みすんじゃねぇ!」

 

 俺の努力は、時に消えゆく儚き雲。

そんな夜には、静かに酒を口にして、心の淀みを洗い流すに限るのだ。

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