進め! 我らは力の同盟!   作:クラウス道化

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(19)祭りを楽しもう! 力の同盟!

 様々な種類の屋台が立ち並び、大人や子供、魔族も分け隔てなく楽しそうに過ごしている。

俺とミクリはその様子を見ながら、ブラブラと散策を続ける。

 

「ヤマタイ村の祭りはいつもこんな感じなのか?」

 

「ううん……。いつもより出店が多い気がする……。あっ、多分、外国の人が増えたからかな……? 見たことのない出店もある……」

 

「へえ、そうなのか。確かに、あそこのビールの屋台なんかはこの村っぽくないな」

 

 年季の入った屋台の合間に、まだ真新しい屋台が数軒混じっていた。

その多くはヤマタイ村では見慣れぬ品を並べており、地元に暮らす村人や魔物たちが、物珍しげに列を作っている。

 

「お酒はグランドールで呑んだから、今日は別の飲み物がいいな」

 

「なら、ミクリのおすすめがあるよ……」

 

 そう言うと、ミクリは俺の袖を軽く引っ張った。

彼女に連れられて辿り着いた先には、木桶に並べられた薄青色のガラス瓶がズラリと並んでいた。透明感のある瓶は、照明の光を受けてキラキラと輝いている。

 

「店主さん、ラムネを二本下さい……」

 

「あいよっ! キンキンに冷えたのをどうぞ!」

 

 店主は氷水が張られた桶の中から瓶を二本取り出した。

そして布巾で瓶についた水滴を拭き取ると俺たちに手渡してきた。

 

「ラムネ? 初めて聞く飲み物だな……」

 

「開け方が少し特殊でね……。こうやって、蓋の突起を使って……」

 

 ミクリは俺に手本を見せてくれた。

飲み口に蓋の突起を押し当て、ぐっと押す。すると、中のビー玉がカランと音を立てて容器の中に落ちた。それと同時に、シュワーッという爽やかな炭酸の音が響く。

 

「このビー玉が中で蓋になるのか。面白いなあ」

 

「うん……。ヴェークもやってみて……」

 

 俺もお手本通りにやってみると、見事に成功した。

二人で瓶を軽くぶつけると、カランと涼しげな音が鳴る。クイッと傾けて一口飲むと、口の中で炭酸が弾けたあとに甘い風味が広がり喉を通っていく。スッキリとした味わいでとても美味しい。

 

「これ、美味しいな。コーラに方向性は似てるけど、優しくて飲みやすい」

 

「ミクリはこっちのほうが好き……。外だとあんまり売ってなくて悲しい……」

 

 ゴクゴクとラムネを一気に飲み干すと、ミクリは小さく息をついた。

俺としても、これは外でも売って欲しいぐらいに美味しい飲み物だと思う。気がつくと、俺の瓶も空っぽになってしまっていた。

 

「全部飲んじゃったよ。もう一本買ってから、なんか食べに行かないか?」

 

「そうだね……。お昼はバタバタしてて、少ししか食べてない……」

 

 喉を潤すものを買ったので、次は腹を膨らませることにした。

 

 ・・・・・ 

 

 食べ物を売っている店が多い広場に向かうと、そこは多くの種類の料理で溢れかえっていた。

焼き鳥や唐揚げといった肉系の定番から、川魚の塩焼きなどの海鮮系もあり品揃えが豊富だ。何を食べようか迷ってしまうが、とりあえずお祭りっぽい食べ物を選ぶことにした。

 

「とりあえず、たこ焼きと焼きそばと焼き鳥に……他は何にしようか」

 

「ミクリはわたあめとチョコバナナ……りんご飴にカステラ……」

 

「甘いもんばっかだな。……まあ、今日はお祭りだし良いか」

 

 いつもなら、栄養が偏ると注意するのだが今日は特別だ。

せっかくの祭りなので、多少羽目を外しても俺も責めはしない。

 

 俺たちはそれぞれ食べたいものを購入していき、持ち運べるように紙袋に入れてもらった。

両手いっぱいの食べ物を持って、座る場所が用意されている広場に向かう。俺はベンチに腰掛けて、早速買ってきたものを頬張った。

 

「なんでか分からないけど、いつもより美味しく感じる気がするな」

 

「わかる……。カステラはお祭りの日以外でも売ってるけど、何倍も美味しい気がするよね……」

 

「お祭りって不思議だなあ。……目の前にもっと不思議な光景が広がってるけど」

 

「何やってるんだろ……」

 

 買ってきた食べ物をつまみながら眺めている先には、人だかりが出来ていた。

皆が輪を作って見守る中央の舞台の上には、四名の魔物がそれぞれテーブル前に座っている。そのうちの二名については、俺も良く知る人物だった。

 

「うおー!! 俺はあの小柄な嬢ちゃんに賭けるぞー!」

 

「正気か? 三本くらいでギブアップ間違いなしだろ」

 

「……ヒミコよ。我の目がおかしくなったか? あそこに座っているお方は……」

 

「母様、我が目にもしっかりと映っています……」

 

 舞台横には、『ヤマタイ村・大食い大会』と書かれた看板が掲げられている。

どうやら、おだんごをいかに多く食べられるかを競う大会を行っているらしい。こんなイベントを、うちのぺこが見逃すはずもなく、ワクワクした様子で端っこに座っていた。

 

「今回の対決は~! なんと! 出場者四名のうち、二名が村の外からやって来た挑戦者との戦いです! まず最初にご紹介するのは……イリアスベルクから参戦、ぺこさん!」

 

「ふん……」

 

 歓声が沸き起こり、ぺこはそれに応えるように手を振り返した。

しかし、その表情はどこか上の空だ。俺には分かる──今の彼女の頭の中は、食べ物のことでいっぱいなのだ。

 

「く、くふふ……まだ笑ってはならぬ……。じゃが、ウチの口角は上がっていく一方じゃ……!」

 

「たまも様、ずいぶんご機嫌ですね。どうしました?」

 

「おお、ヴェークにミクリ。見て分かる通り、大食い大会をやっておるのじゃが……誰が勝つか賭けをやっていてのう。ウチが誰に賭けたかは──言わずとも分かるじゃろう?」

 

「むっ、賭け事なら、ミクリもやりたい……」

 

「もう締め切っておるし、お主は賭け事禁止じゃ。それにしても、小遣いが確実に舞い込むと分かっておるのは、愉快でたまらんのう♪」

 

 ミクリがぷくうと頬を膨らませるのを横目に、たまも様はニコニコと微笑んでいる。

俺も賭けの存在を知っていたら、全財産をぺこに注ぎ込んでいただろう。ぺこが負けることは、まずあり得ないのだから。俺たちのやりとりの間にも進行役の村人は話を続ける。

 

「なんと! プランセクト村から参戦して下さったのは! 植物族のリーダー! アルラ・プリエステスさんです!」

 

「なぜ私は戦うことに? オフ会はどうなったのです? エリクサー大好き。はどこに行ったのですか? 大食いならミミちゃんが出ればよいではないですか? なぜ? なぜ? なぜ?」

 

「うわあ……プリエステスだ。こんなとこで会うとは……」

 

「ヴェークの知り合い……? ずっと何かを呟いてる……こわ……」

 

「植物族のリーダーは相変わらず、どこか壊れておるのう……」

 

 ペコの隣に植物族の暮らす村を率いる長、プリエステスが座っていた。

プリエステスはブツブツと何事かを言いながら虚空を見つめている。

 

 俺が初めて会ったときは仮面をつけ、狂乱状態で両手に松明を握りしめて振り回していた。

だから、今の状態はまだマシな方なのかもしれない。

 

 隣でずっとボソボソ言われると、さすがに気になるのか、ぺこが視線を向けた。

プリエステスをじっと観察したかと思うと、どこか感慨深げな表情を浮かべる。俺としては、腹を立てて触手でビンタをしないか不安だったが、意外な反応だった。

 

「外国の方に挑みますのは! この二名! 二口娘のさくらちゃんに! 妖鬼のくれはさんです!」

 

「負けませんよー! くれはさんにも! 外国の方にも! ヤマタイ村の大食い王の座は渡しませんっ!」

 

「あたしも負けねぇぞ! 今朝から酒を我慢して調整してきたんだからなぁ~!」

 

 着物姿の少女と、酒好きらしい鬼が、それぞれ意気込みを語っている。

この四名が今回の勝負を争うことになるようだ。

 

「まあ、結果は見なくても分かるな……」

 

「じゃのう」

 

「そうだね……」

 

 俺たちは大会を肴に、屋台で買い込んだ食事を食べ始めた。

 

 ・・・・・ 

 

 予想通り、ぺこが他の三名を寄せ付けずにぶっちぎりで優勝を果たした。

ぺこは大会の新記録を叩き出し、最後まで勢いが衰えないどころか、まだ物足りなさそうな様子ですらあった。他の三名はギブアップしていなければ、もっと食べただろう。

 

「お疲れ様、ぺこ。優勝おめでとう」

 

「おめでとう……」

 

「ふん、優勝は当然だ。……それよりも、優勝賞金で何かを食べにいくか」

 

 ぺこは得意げな表情を浮かべ、屋台に目を向けた。

どうやらまだ食べ足りないらしい。俺とミクリを含め、周りの人と魔物が見ているだけでお腹一杯になる光景を送り届けたあとだというのに。

 

「ここはウチが奢ってやろうぞ。お主のお陰で懐が潤ったからのう」

 

「焼き鳥を9万本で良い」

 

「この地方の鶏が絶滅するわっ! もっと謙虚さを学ぶべきじゃ!」

 

「相変わらず小うるさいぞ、玉藻。なら、代わりにお前のオススメを紹介しろ」

 

 ぺこはギャーギャー言うたまも様を引きずりながら、屋台の密集地に消えていった。

俺とミクリは、空になった紙袋をまとめてゴミ箱に放り込む。そして、次はどこに行こうか相談していると──。

 

「おやおやおや。可愛い彼女をお連れしているのは、我が友、ヴェークではありませんか。私がおだんごで窒息死しかけている姿を見学していたとは、趣味の良いことですね」

 

「あ~……今日は元気そうで良かったよ」

 

「今日は? 私はいつも元気いっぱいですが。わぁい!」

 

 後ろから声をかけられ振り返ると、先程まで大食い対決をしていたプリエステスがいた。

遠くから見ても分かるほど目が淀んでいたので、俺としては近づきたくなかったが……。

 

「それにしても、珍しいな。村を離れて遠出してくるなんて」

 

「村には火を放って脱走してきました。あなたは連絡がつかない状態だったので招待はしませんでしたが、今日はあす☆みこ主催のSNSオフ会の日なのですよ。ほら……」

 

 プリエステスが指さした先には、武器を持ったエルフにぐるりと取り囲まれた一棟の建物があった。

周囲には鋭い視線を巡らせるエルフたちが等間隔に立ち並び、その場の空気はぴんと張り詰めている。まるで王や高位の貴族が会談を行っているかのように、厳重な警備体制が敷かれていた。

 

「あそこでやってるのか……? なんか、場違い感が凄いな」

 

「あす☆みこも私も一応、立場がある身ですからね。身辺警護の必要性があります。そんな私がなぜ、大食い大会に──うっぷ……。すいません、思い出したら気分が悪くなってきました」

 

「胃薬、あげる……」

 

「ありがとうございます。それでは、私はこの辺りで。今日はいつも部下たちに禁止されているお酒を飲めると思うと、楽しみでなりませんね。ハハハ」

 

 プリエステスは胃薬を受け取ると、ふらふらと覚束ない足取りで立ち去った。

俺とミクリは悲哀が漂うその背中を黙って見送ることしかできなかった。

 

 ・・・・・ 

 

 ミクリと二人でしばらくの間ブラブラしていると、今度は大声で叫ぶアイシスを見つけた。

 

「おらぁ~!! 酒を持ってこーい! あと可愛いメイドも連れてこーい!」

 

「アイシス。妾と同じように……首を増やしたのか? それとも、忍術か?」

 

「う、うぃ~ぐびっ、ぐびぐびぐび……。ひゃあ~!! 酒! 飲まずにはいられないッ!」

 

「もっと呑むのら~!! ウェヒヒ……」

 

 咲き乱れた桜の木の下、ござの上に何人もの魔物が転がり泥酔している。

地面に積み上げられた大量の一升瓶が、彼女らの酒量を雄弁に物語っている。空気は酒の匂いでむせ返るほどで、まるで徳利の中で泳いでいるような気分だ。

 

「……ミクリ」

 

「うん……」

 

 俺とミクリは顔を合わせずとも、お互いの考えがわかった。

絡まれる前に逃げよう。回れ右をして退避しようとした瞬間──。

 

「ぐびぐびぐび……うぃ~、んんっ、あれって、噂の白天狐と婿殿じゃあないですかぁ~?」

 

「おっ、いいところに来たな。おーい! ヴェークにミクリ! こっちに来て一緒に楽しもうぜ~!」

 

「うげげ、イヌガミ……。余計なことを……!」

 

「あー、こうなったら行くしなさそうだなぁ……嫌だなぁ……」

 

 非常に、非常に行きたくなかったが、俺とミクリは酒の海に飛び込むことになった。

俺はどこかで見覚えのある羊娘とミクリの間に挟まれる形で座ることになった。アイシスの隣じゃなくて良かった。尻を揉まれる心配をしなくて済む。

 

「見たことある顔なのら……。あ~、イリアスベルクの森で会った人なのら! 久しぶりなのらぁ!」

 

「本当に久しぶりだな、メリー。……相変わらずのご様子で。ここには、ハーピーの羽で来たのか?」

 

「んやぁ、商人さんの羽で送ってもらったのらぁ~! 羊の皮をかぶった狼ならぬ、商人の皮をかぶった親切天使だったのら! ウェヒー!」

 

 羊娘のメリーはケタケタ笑うと、酒を豪快に呑んだ。

前回は彼女の横に座っていただけで、頭がクラクラしてしまっていたが……。今日はまだ耐えることが出来そうだ。

 

「力の同盟はなぁ! 自由恋愛可能だけどよぉ! まずは文通から始めんのが決まりなんだぞぉ!」

 

「そうだったんだ……」

 

「うふふっ、文通とは奥ゆかしくて良いですねぇ。逃避の酒の肴に最適ですぅ……。ひっくぅ……」

 

「えっと、ヴェークに紹介しておくね……。こいつはあほたぬきの隠神刑部(いぬがみぎょうぶ)……。黒狸の部下で……いっつもお酒を呑んでる酔っぱらい……。あっちの大っきいのが、ヤマタノオロチ……」

 

「うぃぃぃ!! よろしくぅぅぅ!!」

 

「なかなか良い顔つきをしておる……。それに、八つ子か……妾の婿に丁度よいではないか……」

 

「なんだと……? 妾の目には十つ子に見えておるが……」

 

「こういうとき、胃が別々にできておることに感謝したくなるな……。妾はヤマタノオロチ。婚姻の件は残念だったが、これからもミクリと仲良くしてやってくれ」

 

「ヴェークです。えっと……二人? とも、よろしくお願いします」

 

 俺は隠神刑部とヤマタノオロチに、軽く会釈を返した。

ヤマタノオロチは八つの首を持ち、その一つひとつが別々の意志を宿しているらしい。今、挨拶を返してくれたのは、そのうちの一首だった。

 

「あら、ここにいましたのね、二人とも!」

 

「エクレア? ステージはどうしたんだ?」

 

「もう終了していますわ! 今からはワタクシもお祭りを堪能する時間ですわよ~!」

 

 ライブを終えたエクレアが、酒の席に加わったことで更に場が盛り上がる。

俺はこの混沌とした空間から抜け出すタイミングを失ってしまっていた。

 

「おい、我も交ぜろ。腹はそこそこ満たされたが、酒は別腹よ」

 

「今日の小遣いが……すべて消えてしもうた……」

 

 トドメの一撃に、ぺことたまも様も合流。

各自が酒と屋台で買った料理を持ち込んで、宴が開始されてしまった。俺は一人、この人外たちの宴に巻き込まれてしまう。

 

 命の危険を感じ始めたころ、不意に空が明るくなる。

 

「おっ、花火か……。しかも、なんか文字が描かれて──」

 

 漆黒の夜空を彩るようにして打ちあがる無数の花火。

火薬の華が煌々と光を放ち、暗闇を照らしていく。その花火と共に空中に現れたのは──。

 

「──『ご結婚おめでとう』……!?」

 

「妾の勘違いだったのか? やっぱり結婚するのか?」

 

「祝い酒でございますねぇ~!! ひっくぅ……」

 

「六条家の青尻娘どもめぇ~! ウチが説教したというのに、まだ諦めておらんかったのか~!!」

 

 祝福の花火が上がったあと、俺とミクリの下に大量の魔物と人が押し寄せてきた。

俺たちは誤解を解こうと、やってきた連中に説明をし続ける羽目に。

 

 結局、お酒を呑まされることはなかったが、もっと疲弊する事態に発展したのだった。

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