力の同盟は次々と戦いを制し、着実に勝ち星を積み重ねていった。
時には冷や汗をかくような危機もあったが、誰一人として役割を疎かにせず、それぞれが全力を尽くすことで、最終的には必ず勝利をもぎ取っていた。
「なんだったのだ、あのタツノコ娘どもは……。どう見ても二十は超えていたぞ」
「本当になんだったんだろうな……」
「五人で一人扱いだったみてえだな。……いや、ズルだろ?」
選手控室では、軽食をつまみながらこれまでの激戦を語り合っていた。
ここに至るまで、俺たちが相対してきたのは一癖も二癖もある相手ばかりだった。今はその戦いを一つひとつ振り返り、次なる試合に備えて反省を重ねている。
最初の対戦を終えた後、力の同盟は“チーム・たつのこ海軍”との試合に臨むことになった。
この相手、何と六名しか出場できないはずの大会に、三十名もの大所帯でエントリーしてきたのだ。彼女たち曰く『五人で一人だからルール上は問題ない』との強弁。どう考えても無理筋な理屈だったが、なぜか運営はそれを認めてしまい、そのまま対戦が成立してしまったのである。
あまりの人数差に一瞬あっけを取られ、最初は少し気圧されてしまった。
しかし、いざ戦ってみれば実力は大したことはなく、むしろ拍子抜けするほど。結局、力の同盟は危なげなく勝利をもぎ取った。
「ラーメン三人衆は強敵だった……! アイシスが離脱してしまった時はどうなるかと……!」
「息を吹きかけられただけで、アタシが動けなくなるなんてなぁ。……ニンニクの臭い、もう取れてるよな?」
「……」
「エクレア? な、なんか言ってくれよ?」
ラーメン三人衆は、実際のところ俺たちを危うい状況にまで追い込んだ。
彼女らはミクリの故郷であるヤマタイ村で名を馳せる忍者妖狐集団らしく、その連携は息を呑むほど見事。さらに、高度な忍術と陰陽術を駆使してくるため、対処には骨が折れた。まさに、一筋縄ではいかない強敵だった。
開戦の号令と同時に、アイシスがニンニクの臭い息に浴び、あっという間に行動不能に。
慌てて俺が弓でニンニクを仕留め、その後は残る三人をどうにかこうにか撃破したのだが──。
「まさか、伏兵が居るなんてな。飛び出てきたとき、本気で驚いたぞ」
「噂でしか聞かなかった、隠し刃のマシマシが本当に居たなんて……! ラーメン三人衆……凄かった……!」
「五人衆ではないか。まあ、先入観を植え付けるという作戦だったのかもしれんな。我は普通に騙されたぞ」
最後に現れた隠し玉──マシマシが俺に襲いかかってきたときは、本気で肝を冷やした。
彼女は仲間の影を自在に渡り歩き、俺が弓を引き絞るその瞬間を狙って姿を現し、鋭い一撃を繰り出してきたのだ。
「それにしても、ヴェーク。あれ、やりすぎだったんじゃねえか?」
「そうかな? 師匠から直伝された技の……アレンジなんだけど」
「コロシアムが静まり返っていたぞ。我もドン引きしたわ。あの技を見ると頭痛がしてくるから、必要なとき以外は使うな」
ぺこが額に手を当て、深いため息をつきながら言った。
俺が繰り出したのは、ルシフィナさん直伝のカウンター技──相手を鷲掴みにし、そのまま魔法を零距離で叩き込むという、とても強力な一撃だ。
もっとも、俺はルシフィナさんの技をそのまま真似しているわけじゃない。
頭を鷲掴みにしたあと、時魔法のグラビティで重力を操り、相手を押し潰すように地面へと叩きつける──そんなオリジナルの一撃に仕上げている。
「せっかくルシフィナさんが“宵の明星”っていう、格好良い技名を考えてくれたんだけど……。披露できないのは少し残念だな」
「……やはり、師匠と言うのはあいつか? ともかく、あれは相手にトラウマを植え付けるような技だからな。自重しろ。いいな?」
「そこまで言われたら聞くしかないな……分かった」
「なら、今度……ミクリに教えて……」
「もちろんいいぞ! 使える人が増えたら師匠も喜ぶだろうし」
ぺこが珍しく真剣な表情で、俺に注意を促してきた。
本当なら、師匠と考えた技を披露していろんな人に見てもらう絶好のチャンスだと思っていたのに……残念だ。仕方ない、次の機会に期待することにしよう。
・・・・・
予選から三日後、ついにその時が来た。
力の同盟は激闘の末、準決勝で“牛肉魔王軍団”を下し、ついに決勝への切符を手に入れた。
準々決勝以降は、対戦相手の情報が一切見えない。
だから、決勝でどんな強者が待ち受けているのか、今の俺たちには分からない。だが、どちらにせよ、全力でぶつかる覚悟に変わりはない。
「あのさ。……話があるんだけど」
「もぐもぐ……どうした、アイシス。神妙な顔をして」
「どうしましたの?」
決勝戦開始まで、あとわずか──選手控室にて。
アイシスが深刻な面持ちで口を開いた。
普段は明るく活発な彼女が、今はまるで別人のように真剣な表情を浮かべている。その異変を察した俺は、即座に意識を切り替え、彼女へと向き直った。
「どうしたんだ? アイシス」
「次の対戦相手と──タイマンでやりてえ! 頼む! やらせてほしいんだ!」
「なに? 何故そんなことを言い出したのだ?」
「アイシス? 急にどうしたんですの?」
「タイマン……? なんで……?」
アイシス以外の全員が、顔を見合わせて戸惑いを隠せない。
俺もまた、突然の提案に思わず言葉を失った。しかも、その言い方はまるで決勝の相手が誰なのか知っているかのようだ。胸の奥で小さな疑念が芽生える中、アイシスは一度深く息を吸い、そして覚悟を宿した瞳で再び口を開いた。
「決勝の相手は確実に……アルマエルマだ。あいつとアタシは、ちょっとした因縁があってさ」
「アルマエルマって、グランドールに居たサキュバスの? それに、因縁って?」
アイシスは、いつもの明るさを隠し、真剣な顔で小さく頷いた。
その仕草だけで、場の空気が一気に重くなる。
「まあ、秘密にすることじゃないけどさ。アタシって、長いこと封印されてたんだよ。大体、五百年かそこら」
「ええっ! そうだったのですか!?」
「最近の流行に疎いとは思ってたけど、そうだったんだ……。アイシスのオババ……」
「ミクリ!! アタシを年寄り扱いすんじゃねえ! 封印中は歳とってねえからな! まだまだピッチピチだ!」
「その言い方、古臭いですわね。オババ」
「おう、テメーも同じ扱いか!!」
細い尻尾を勢いよくブンブンと振り回し、アイシスが獣のように吠えた。
そのまま彼女はミクリとエクレアの首をがっちり腕でロックし、ギリギリと締め上げていく。俺は、その光景を横目で見ながら──アイシスがおよそ五百年もの間、封印されていたという言葉にただ驚愕していた。
……五百年。
とてつもない年月だ。俺には、その長さを想像することすらできない。
「ゴホン。えーと……どこまで話したっけか。そうそう、それで──」
アイシスは、自らの過去を語り始めた。
およそ五百年前、彼女は宿命のライバルである勇者と死闘を繰り広げ、その果てに力尽き、弱ったところを封印されてしまったのだという。やがて長い年月の中で封印は劣化し、ついに解けたその瞬間──偶然その場に居合わせたのが、アルマエルマだったらしい。
アルマエルマを敵だと勘違いしたアイシスは、彼女と交戦して──惨敗。
理由は単純だ。飢えと疲弊、そして何より、長い封印による力の喪失。全盛の頃と比べれば、一割にも満たない力しか残っていなかったのだ。今でさえ、ようやく半分程度に戻ったばかりだという。
「思い出したら腹が立ってきた……! 人が弱ってるときにボコりやがって! グランドールでハグもしてくれなかったし! 今度は絶対に負けねえ! タイマンで倒してやる!! うおおおぉぉぉ!!!」
「うるさっ。もっとこう、長年のライバルだった~とか、昔からの因縁の相手だ~とか……そういう感じだと思ってたんだけどなあ」
「勘違いで襲いかかったうえ、返り討ちにあったことを恨んでいるのか? 完全な逆恨みではないか。我が思っていたより、みみっちい理由であったな」
「は、離してくださいませっ! 苦しいですわ~!」
「ぐ、ぐるぐる回らないで……!」
エクレアとミクリを小脇に抱えたまま、アイシスはその場で必死にジタバタする。
ようやく彼女が落ち着いたところで話し合いを重ね、その結果。俺たちは、一応アイシスの意思を尊重することに決めた。
・・・・・
コロシアムへと続く廊下を抜け、差し込む光の中へと、一歩ずつ足を進める。
力の同盟の仲間たちが、肩を並べて歩いていた。互いに視線を交わし、ただ一度、深く頷く。
もう言葉はいらない。
ここまで戦い抜いた俺たちなら――互いの想いは、すでに通じている。
「いきなり目配せをして……。どうしたんですの?」
「カッコつけか? 似合わんぞ」
「……」
……通じ合っていると信じたい。
それぞれの想いを胸に、俺たちは歓声の渦巻くコロシアムへと足を踏み入れた。
『コロシアムは歴史的な瞬間を迎えました!! 今日の満席率はなんと──三百パーセントを超えています!』
「とんでもないことになってるな……。やばい、胃が……」
「いい加減にしてくれよ、ウォーク~!」
「冗談だ、冗談。流石に慣れたよ。それにしても、本当にすごい人数だな」
審判の声がコロシアムに響き渡り、歓声が波のように押し寄せてくる。
熱気は最高潮に達し、観客席からは大勢の人々と魔物たちが押し寄せ、この戦いを一目見ようと集まっていた。通路すらも埋め尽くされ、観客同士がひしめき合っている。
俺たちは歓声を背にしながら、ゆっくりとコロシアム中央へと進む。
『もはや、この名が忘れられることはないでしょう! 南の勇者ウォーク率いる力の同盟! グランドノアの歴史に新たな一ページを刻むものたちです!』
観客席から轟く大歓声が耳をつんざく。
俺は足を止め、次の瞬間に訪れる戦いを心の中で迎え入れる。だが、相手の姿はまだ見えない。
『決勝戦に残ったのはやはりあの人!! 圧倒的なスピードを武器にここまで勝ち進んだキュバ選手です! 彼女は今までの大会、すべて単独で勝ち進んできたのですが──』
次の瞬間、コロシアム全体が突風に包まれた。
砂埃が舞い上がり、視界を遮る中で、俺は少し身構える。
『今回の決勝戦はなんと! 一人ではありません!!』
「久しぶりね、ウォークと愉快な仲間さん? 今日は特別に友だちを呼んできたわ♪」
向かいの通路から、アルマエルマが姿を現した。
予想通りのその姿に、一瞬だけ胸を撫で下ろす。
だが、すぐに気づく。
彼女の背後に、別の気配があることに。アルマエルマは、一人ではなかった。
「おいおい、マジか……」
「な、なんであなたがここに居ますの!?」
「げげっ……」
「ははは! お前が出るとはな!! ウォーク! 我らも楽しめそうだぞ!」
アルマエルマの背後には、三人の魔物娘が控えていた。
その中の一人は、つい最近世話になったばかりの相手で――間違いなく、並の強者ではない。
「放蕩娘が珍しく頼み事をしてきたのでのう。年長者として、後進の手伝いをすることにしたのじゃ♪」
「アルマエルマから珍しく戦いに誘われたと思えば、かの高名な冒険家ウォークと対峙する機会がやってくるとは! 我が名はグランベリア! あなたとこうして戦う日を待ち望んでいたぞ、ウォーク!!」
「エルベティエよ……。エクレア、天下無敵のお姫様になるって言い出して……急に故郷を飛び出したかと思えば。とにかく……元気そうで良かったわ」
どう見ても、これまでの戦いとは段違いにレベルが高い相手だ。
グランベリア──俺はその名を知っていた。高名な魔剣士であり、世界一の剣士であるとも謳われる存在。そして、魔王軍の四天王としても有名な魔物だ。
「むう~、グランベリアちゃん。テンションが高くない? 妬いちゃうわね……」
「剣士同士ではない以上、真っ向から打ち合うことはできないが……それでも、名うての戦士であることに疑いはない。そのような相手と向き合っている以上、気分が高揚しているのは間違いないだろう」
「あくまで今回は試合じゃぞ。魔王様に黙って全員で来ておるから、派手な怪我をすれば怒られてしまうからのう。やり過ぎんようにな?」
「我に言っているのか? それはお前次第だぞ、たまも!」
俺は、同じく四天王であるたまも様を見て、とある考えがよぎる。
たまも、グランベリア──どう見ても高位のスライムであるエルベティエ。そして、アルマエルマ。四人のうち、二人が四天王である。ならば──残りの二人は?
「なあ、エクレア。嘘だと言ってほしいんだけどさ。お前の知り合いっぽいエルベティエさん。……魔王軍の四天王だったりしない?」
「そうですわ! ワタクシの友人──エルベティエも四天王ですわよ!」
「……じゃあさ、アイシス。アルマエルマさんは?」
「当代のクイーンサキュバスだぜ! あと、四天王の一人な! だけど、そんなもんは関係ねぇ! アタシが勝ったらケツ揉ませろよ~!」
「……ねえ、たまもちゃん? あの下品なサキュバスが本当にアイシスなの? 封印されたせいで、頭がちぃぱっぱになってるんじゃないの?」
「ウチの知る限り、ずっとあの調子じゃな。幽閉中の9世陛下にセクハラをして、よく投獄されておったわ」
「……現実って、残酷ねぇ」
俺は鎧の中で、思わず肩を落とした。
たしかに今、魔王城を目指して旅をしている。だが――まさか道中で四天王と正面からやり合う羽目になるなんて、誰が想像しただろうか。……どうして、こんなことになったんだ。
「ははは! ここで引くわけにはいかぬな? 我とミクリが玉藻を! エクレアがスライム! アイシス! お望みのタイマンをするといい! ウォークはあの剣士と遊んでやれ!!」
「ぺこはなんでそんなにノリノリなんだよっ!」
「分かっておりますわ~!」
「アタシの望みを聞いてくれてサンキューな! 行くぞ~!!」
「たまも様はミクリに任せて……!」
「あー! クソ! やるしかねえか! 全員! 気合入れろよー!!」
ここまで来て、退く道はない。
俺は胸の奥に渦巻く不安を振り払うように、声を張り上げた。
『それでは、武王杯──決勝戦開始ぃぃぃ!!!!』
審判の叫び声とともに、最後の戦いが幕を開けた!