進め! 我らは力の同盟!   作:クラウス道化

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(28)装備を整えよう! 力の同盟!

 武王杯が幕を閉じてから、数日後。

俺たち力の同盟の一行は、荘厳な謁見の間にて、グランドノア女王自らの手で優勝の栄誉を示すトロフィーと、賞金を授けられた。

 

 式の締めくくりには映写マキナで全員の記念写真を撮影。

笑顔で肩を並べたその一枚は、コロシアムの一角に飾られ、訪れる者たちに俺たちの勝利を伝え続けることとなった。

 

「いやぁ~! すっげぇ楽しかったな! グランドノア!」

 

「ゆうべはおたのしみでしたね……」

 

「へへへ、グッドだったぜー!」

 

 力の同盟は、グランドノアの一角にある宿屋で束の間の休息を楽しんでいた。

俺の目の前では、アイシスがすっかり上機嫌といった様子で座っている。頭の後ろで腕を組み、椅子にふんぞり返りながら鼻歌を口ずさみ、どこか夢見心地な笑みを浮かべていた。そんな彼女の姿を、ミクリは半ば呆れ顔で眺めている。

 

「それにしても、やっぱり四天王は強かったな。試合じゃなかったら多分、やられてたぞ」

 

「それはこちらも言えることだ。我が力を尽くせば、あのような腹黒狐になど負けはせん」

 

「まだ忍法・目からビームを封印してた……! あれを使えば逆転してた……!」

 

「ワタクシはちょっと疲れただけですわ!」

 

「小さくなったときと同じ言い訳じゃねえか! エクレア、あとでアタシと筋トレすっぞ! 鍛え直しだ!」

 

 アイシスがエクレアの肩をがしっと抱き寄せ、そのまま楽しげに頬を突いた。

エクレアは無事、元のサイズに戻ったのだが、やはり中身はあまり変わらなかった。むすっとした顔のまま、アイシスにされるがままにされている。

 

「ちょっと相談があるんだけどさ」

 

「どうした? 我が注文したパワーもりもり弁当を分けるという話なら、断固拒否するぞ」

 

「いや、それは違──どれくらい注文した?」

 

「百食分だ。良いではないか……賞金も入ったのだ。これくらいの贅沢は許されるべきだろう?」

 

「ひゃく……なら許容範囲か。相談したいのは、賞金の使い道についてなんだけどさ」

 

 俺はそう言いながら、部屋の片隅に置かれた鎧に視線を落とした。

グランベリアとの戦いで、表面には無数の傷が刻まれ、ところどころひしゃげた箇所もある。修繕が必要であることは、一目で明らかだった。

 

「鎧の修繕費に賞金を使いたいんだ。それと、全員分の装備品を新調しようと思うんだが……どうかな?」

 

 俺は皆の顔を順に見回しながら、そう提案した。

考えてみれば、自分以外のメンバーは装備にあまり気を遣っていない。ミクリは武器にこだわっているが、服装は未だにヤマタイ村の着物のままだ。

 

 他の仲間は魔物であり、たしかに肉体そのものは頑丈だ。

だが、今回の四天王との戦いを経て、俺は改めて装備の重要性を痛感していた。もしこのまま漫然と構えていれば、命懸けの危険に直面したとき、後悔することになるかもしれない。

 

「ん~、アタシは賛成だな!」

 

「おっ、アイシスが最初に賛同してくれるなんてな。てっきり『己の肉体ひとつで十分だ』って言うと思ったんだけど」

 

「人を脳筋扱いすんじゃねえ! 使えるものは使ったほうがいいに決まってんだ! それも自分の力だ!」

 

「忍の道は厳しい……。ここらで装備を充実させておくのも悪くない……」

 

 予想に反して、アイシスは思いのほか好意的な反応を示してくれた。

さらにミクリも腕を組み、真剣な表情でうんうんと頷いている。

 

「ワタクシも賛成ですわ! あの憎き水ようかんにリベンジを果たすためには、もっと力を蓄えねばなりません!」

 

「正直、我はそんなものよりも食料を買ってほしいのだが……。我は大人だからな。賛成してやろう」

 

 エクレアは拳を握りしめ、目をキラキラと輝かせていた。

ぺこは俺たちを見渡し、やや渋々ながらも賛成票を投じる。こうして、全員の意見は一致した。

 

「決定だな。じゃあ明日、イリアスベルクに一度帰ろう。親方に鎧の修繕を頼むついでに、装備品も見繕ってもらうか」

 

「久しぶりの我が家ですわ~!!」

 

「いや、あれは俺の家……もういいか」

 

 こうして、俺たちは一度イリアスベルクに戻ることを決めたのだった。

 

 ・・・・・ 

 

 俺たちは久しぶりに、イリアスベルクへと帰ってきた。

結局、ハーピーの羽を多用することになってしまったが、今回は一時的な帰還だから仕方がない。自分や仲間の命を守る装備を、適当に手に入れたもので済ませるわけにはいかなかった。

 

「ほりほり、あなほり……。私は悪くないわ……この手が悪いのよ……」

 

「わんわん!」

 

「捕れたての魚だよー! 変な魚は取り除いてあるよー!」

 

 相変わらず、街は平和そのものだった。

ミミズ娘が噴水横の地面に穴を掘り、犬娘があちこちを駆け回っている。俺は仲間たちを連れて、一度自宅へ戻ることにした。

 

 門を通り抜けて屋敷を見ていると、妙なことに気がついた。

植えられている木々や花々が綺麗に手入れされているのだ。それも、俺たちが旅立つ前に比べて、格段に丁寧に手入れされているようだった。俺は首を傾げつつ、玄関の扉に手をかけた。

 

「いやー、楽しい冒険でしたわね~!」

 

「残してたアイス食べなきゃ……」

 

「おいおい! まだ旅の途中だぜ!」

 

「……おい待て。ヴェーク、何か匂うぞ」

 

 ぺこもふんふんと鼻を鳴らし、匂いを嗅いでいる。

俺もつられて鼻をひくつかせると、ふわりと香ばしい甘い匂いが漂ってきた。

 

 ……これはパンケーキの匂いだ。

この屋敷の合鍵は何人かに渡している。その中で、台所でのんびりと料理をしている人物には心当たりがあった。

 

 キッチンへ足を運ぶと、そこにいたのは──陽絹だった。

しかもなぜかメイド服姿で、小鍋に溶かしたバターと砂糖をゆっくり混ぜながら、フライパンでは黄金色のパンケーキを何枚も丁寧に焼いている。

 

「──陽絹、ゆっくり休めてるみたいだけど……その格好はなんだ?」

 

「思っていたより、早々にご到着されたようで。ああ、なにもせずにヴェークの家でお留守番というのは気まずいので、メイドとして働かせてもらっています。どうですか? 旦那様?」

 

 俺が話しかけると、陽絹はこちらを振り向き微笑みかける。

そして、ヤマタイ風の黒のメイド服の裾を摘んで礼をした。アイシスはそれを興味深そうに凝視している。

 

「おー、陽絹か! いい服着てんなあ。コロシアムで見かけたのに声掛けてこねえから、どうしたんだと思ってたけど……家に来てたのか」

 

「一度、この街に鎧を修理に来るのではないかと思いまして。私の推測通りでしたね。……どうぞ、皆さんの分のパンケーキをご用意致しました」

 

「我はパンケーキにうるさいぞ。……ほう、ハピネス蜜も用意しているのか。悪くない」

 

 気がつけば、ぺこは席に座ってフォークとナイフを持っていた。

陽絹は人の背丈ほどはあるパンケーキの山を持ってきて、ぺこの前に置いた。そして、魔力の込められた糸を操り、ハピネス蜜が入った壺を浮かせて上から注いだ。

 

「これは、目でも楽しむ工夫がされているな。面白い……ヴェーク、お前も一口食べろ」

 

 ぺこはパンケーキを突き刺し、俺に差し出してきた。

口に入れるとふわふわと柔らかい生地が広がり、香ばしく、ほんのりとした甘みと甘い蜜の味が口の中に広がる。他の三人も気がつけば席に座っており、美味しそうに食べている。

 

「ほわぁ~! ほわぁ~!」

 

「美味しい……」

 

「ん~、たまには甘いもんも悪くねえな!」

 

 久しぶりの帰省は、思いもよらない歓迎で迎えられることになった。

 

 ・・・・・ 

 

 おやつタイムを終えたあと、力の同盟一行は鍛冶屋へと足を運んだ。

ハンマーの絵が描かれた看板が風に揺れ、店の扉を押し開けると、金属を叩く甲高い音が耳に飛び込んでくる。壁一面に掛けられた剣が鈍い光を放ち、テーブルの上には日用刃物や農具が無造作に積まれていた。

 

「親方! お久しぶりです!」

 

 奥に向かって声をかけると、しばらくして打撃音が止まった。

ややあって現れたのは、額当てを装着し、顔に古い傷を刻んだ男性だった。

 

「おお! ヴェークとその御一行じゃねえか! 遠出するって言ってた割に、戻ってくるのが早かったな!」

 

「親方に用事があって、一時的に戻ってきたんですよ」

 

「おっ、そうか! 何でも言ってくれ! 今は急ぎの仕事も無いしな!」

 

 鍛冶屋の親方は笑い、俺たちの顔を順に見渡す。

彼は俺の鎧を仕立ててくれた恩人であり、イリアスベルク一の鍛冶師だ。ミクリがごく稀に使う手裏剣も、この人の作だ。

 

「仲間の装備を作ってもらいたくて。それと、俺の鎧の修繕をお願いしたくて帰ってきたんです」

 

 そう言いながら、道具袋から鎧を取り出し、カウンターに置いた。

戦いの痕は深く刻まれ、あちこちが変形している。親方は興味深そうに鎧を持ち上げ、表面を丹念に指でなぞりながら、凹凸やヒビの位置を一つひとつ確かめていった。

 

「……なるほどな。こりゃあまた、派手にやったな。戦った相手は……グランベリアだな?」

 

「えっ、はい。そうですけど……どうしてわかったんですか?」

 

「この傷をつける剣には覚えがある。……さっき、俺に大剣の修理依頼が来てな。使い手としては一流で、今まで剣の手入れは何度もしたことがあったが、修理は初めてのことで驚いたんだよ」

 

 親方はそう言って、鉄床の上に視線を向けた。

そこには見覚えのある大剣が置かれている。

 

「ありゃあ、グランベリアの使ってた剣じゃねえか! おっちゃん、すげーヤツだったんだな!」

 

「ほえ~。人は見かけに寄らないってことですわね~」

 

「手裏剣も上手に作れる……。忍者の武器についても詳しい……親方すごい……」

 

「へへ……。大したことじゃねえよ。俺はまだまだ修行中の身だ。でも、そこまで言われると照れちまうな……へへっ」

 

 親方は頭をぽりぽりと掻いた。

意外にも褒め言葉に弱い人物なのだ。そして俺の鎧をじっくりと眺め直したあと、再び大剣に目を落とし、腕を組んだ。

 

「これを預かったときによ、グランベリアは『ウォークにやられた』って言ってたんだが……」

 

「……あー、えっとですね。実はその──」

 

 親方になら打ち明けても構わないだろう。

そう判断して、俺は自分がウォークであることを明かした。親方は大きく目を見開き、俺の顔を何度も見返す。

 

「おいおい! あの伝説の冒険家、ウォークがこんな近くに居たなんてよ! 驚いたな!」

 

「伝説は言いすぎですよ……」

 

 親方はそう言って、テンション高く俺に詰め寄ってくる。

この人は、流行に敏感で結構俗っぽい。見た目はいかにも職人って感じなのだが、中身は大衆的な人である。

 

「いやー、人に話せないのが残念だな! よし、じゃあこの鎧の修繕と、仲間の装備だな。任せておけ! どんなものが希望だ?」

 

「実は、家にあったこれで作成できないかと思って、持ってきたんです」

 

 アイシスは背負っていた巨大な鉄塊を、どすんと地面に降ろした。

それはミダス廃坑の奥で見つけた、奇妙な光を放つ鉄の塊だ。

 

 たまも様と話しているとき、倉庫を無駄に圧迫しているこの存在を思い出したのである。

以前、親方に頼んで、これで焼肉用プレートを作ってもらったことがあるのだが、常識外れの頑丈さだった。ならば装備の素材として使えるのではないか──そう考えたのだ。

 

「おお、これか。よし、これならイイもんが作れるだろうな!」

 

「良かった。じゃあ、お願いします。みんな、希望を書いた紙を渡しておいてくれ」

 

 俺は仲間たちに声をかけ、装備の希望を書きまとめた紙を差し出すよう促した。

事前に、どんな装備が欲しいか話し合っており、それぞれの要望を紙に書いてもらっていたのだ。仲間たちは親方の前に集まり、順番に紙を手渡していく。

 

「ふむふむ……。これなら、四日で用意できるだろうな。楽しみにしていてくれ!」

 

「相変わらず、良い腕をしているな。我ながら、あのとき間違えて食べなくて良かったな……」

 

「す、すまねえ、ぺこさん……ちょっと距離を置いてもらえるか? まだ、少しトラウマが抜けきってなくて……」

 

 以前、親方は公園のベンチで寝ぼけていたぺこに声をかけたことがあった。

そのとき、ぺこが食べ物と間違えて丸呑みしてしまい、大騒動になったのだ。それ以来、親方はぺこに対して苦手意識を抱いている。

 

「あー、すいません。じゃあ、お願いします」

 

「おう! このランドルフに任せとけって!」

 

 俺たちは親方に装備の作成を依頼し、鍛冶屋をあとにした。

 

 ・・・・・ 

 

 装備が完成するまでの四日間は、それぞれが思い思いに時間を過ごすことになった。

アイシスとエクレア、ミクリの三人は『鍛え直し』と言って、朝から晩まで息が上がるほどのハードな筋トレに励んでいる。

 

 ぺこはなぜか陽絹にやたらと突っかかり、不機嫌そうにすることが多かった。

だが陽絹は慣れたもので、そんなぺこに笑みを浮かべ、美味しいお菓子を差し出す。結局のところ甘い誘惑には抗えず、今日もぺこは特大のパフェを前にして、すっかりご機嫌を取り戻していた。

 

「へえ、剣のメンテナンスが終わるまでは、サザーランドに泊まってるのか」

 

「う、うむ……。その……たまにはゆっくり過ごそうと思ってな……」

 

 俺は街中で、私服姿のグランベリアとばったり出会った。

剣の修理を待つあいだ、イリアスベルクで羽を伸ばしているらしい。せっかく俺の故郷に来ているのだから、何かしらもてなしたいと思い、俺がよく通う喫茶店に案内することにした。

 

「ここのコーヒーが美味しくて、よく通ってるんだ。執筆中のリフレッシュとか、仲間がトラブルを起こしたときに、心を落ち着けるためとか……。多いときは、週に十四回くらいは通ってたかな……。うっ、胃が……」

 

「そ、そうなのか……」

 

 グランベリアはカップに視線を落としたまま、どこか落ち着かない様子だった。

コロシアムで見せた威風堂々とした姿とは打って変わり、今は指先をいじりながら視線を逸らしている。

 

「……あー。もしかして、何か用事があったのか?」

 

「あっ、いや。違うのだ。……その、えっとだな……」

 

 グランベリアはそそくさと、懐から本を一冊取り出した。

ワールドウォーカーの初版、第一巻──俺が書いた本だ。グランベリアがなにを求めているかはなんとなく察した。

 

「その……サインを、貰えないだろうか?もちろん、ウォークが普段サインを書かないことは承知している。無理を言っていることも、分かっている。だが……どうしても、欲しくて」

 

「……なるほど」

 

 俺はコーヒーを一口飲み、頬杖をついた。

グランベリアの眼差しは真剣そのもので、口調にも緊張が滲んでいる。

 

 俺がサインを書いたことは、これまでエヴァに送った本以外にない。

もっとも、あれもサインというよりは、ちょっとしたメッセージを添えただけだったのだが。ウォークであることを隠しているからサインをしないだけで、別にサインをすること自体を嫌っているわけではない。

 

 実は、グランベリアが俺の本を熱心に読んでくれていることは知っていた。

祝賀会の折に、アルマエルマがそっと耳打ちしてくれたのだ。

 

 グランベリアは緊張した面持ちでこちらを見つめている。

期待と不安が入り混じった表情……無下にするのは、どうにも気が引ける。だが、今は我慢のときだ。

 

「昨日の夜、親方がグランベリアの剣の修理がもうすぐ終わりそうだって言ってたんだ。先に、そっちに向かわないか?」

 

「……そうか。それは……大事なことだな。すぐに向かおう……」

 

 グランベリアは目を大きく見開き、そして肩を落とした。

俺の言葉を、やんわりとした拒絶だと受け取ったのだろう。

 

 少し強引な誘導ではあったが、俺たちはカフェをあとにした。

 

 ・・・・・ 

 

 鍛冶屋に入ると、カウンターの上に一本の大剣が置かれていた。

鞘に収められたその剣は、グランベリアの愛剣──大剣アレスだ。奥では親方が椅子に腰かけ、本を片手に休憩していた。

 

「おっ、来たか。ご注文通り、きちんと直しておいたぜ!」

 

「いつもありがとう、親方。では、さっそく確認を……」

 

 グランベリアは一歩前へ進み、剣を両手でそっと持ち上げた。

柄を何度か握り直し、手に馴染む感触を確かめる。そして一息置いてから、静かに鞘を引き抜いた。

 

「これは……?」

 

 刀身には、以前にはなかった文字が彫られていた。

ただの飾りではなく、刻まれた文字からは淡い魔力がじんわりと滲み出している。

 

「“不撓不屈”──ヤマタイ地方の言葉らしい。困難にあっても、決して諦めない、という意味だそうだ」

 

「──」

 

 グランベリアは黙ったまま、大剣を見つめていた。

わずかに揺れる瞳。柄を握る手には、自然と力がこもっている。

 

「アルマエルマから聞いたんだ。俺の本を愛読してくれてるってな。この字は……俺が書いたんだ」

 

「そっ、そうなのか……!?」

 

 俺は頷いた。

この文字は、俺が親方に直接協力してもらいながら、魔力を込めて一文字ずつ刻んだものだ。

 

 グランベリアとは良い試合ができたこともあり、俺はなにか贈り物をしたいと思った。

そこで、修理中の大剣アレスに文字を刻んだのだ。実用面も考慮しており、刻印によって魔力の伝達効率は以前より高められている。

 

 グランベリアはこれまで一度たりとも、剣を修理したことがなかった。

それは、敗北を知らずに歩んできた証でもある。……もし死合になれば、結果はどう転ぶか分からなかっただろう。

 

 だが少なくとも──今回、俺は彼女に勝った。

敗北を糧に、さらに高みに至ってほしい。そんな願いを込めて、俺はこの言葉を選んだのだ。

 

「親方と相談して、この剣に合うような意匠にしたんだ。……気に入ってもらえたら嬉しい」

 

「……ふふふ。とことん私を楽しませてくれる人だな。感謝する」

 

 グランベリアは満足げに目を細めると、大剣をゆっくりと鞘に収めた。

そして微笑みながら、そっと俺の手を握ってくる。

 

「この言葉に恥じぬよう、私はさらに精進する。……また、手合わせ願えるだろうか?」

 

 俺は少し考え、そして苦笑しながら頷いた。

 

「もちろん! まあ……あの試合みたいに派手には、頻繁にできないけどね」

 

「むむ。それは残念だ。……ならば、今度一緒に私の師匠の下へ──」

 

 俺は最後までグランベリアの言葉を聞くことができなかった。

 

 突如、体がふわりと浮き上がり、鍛冶屋の外へと強引に引きずり出されたのだ。

慌てて自分の体を確認すると、手足には魔力の込められた糸が絡みつき、首には見覚えのある触手がぐるぐると巻きついている。グランベリアは口を半開きにしたまま、呆然と俺を見つめていた。

 

「……腹が減った。帰るぞ……」

 

「買い物帰りに、“偶然”通りかかりましてね。ヴェーク、夕飯のお手伝いをしてください」

 

「いや、このまま帰ったらグランベリアに失礼──ぐえっ!」

 

 有無を言わせぬ力で、不機嫌そうな二人にずるずると引きずられ、俺はそのまま屋敷へ連行されてしまったのだった。

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