進め! 我らは力の同盟!   作:クラウス道化

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(32)ウサギとの遭遇! 力の同盟!

 ジャガイモとサツマイモを買い込んだあと、サキュバスの村を出ることになった。

アイシスがひっきりなしに芋は嫌だと泣きついてきたが、俺は意志を曲げなかった。逃げるように村を出ることになってしまったが、アイシスがこの様子なので、誰も不満を漏らすことはなかった。

 

「なんて空気がうめえんだ! 最高の酒を呑んでる気分だぜ!」

 

「そ、そうですの……それは良かったですわね」

 

「いっぱい吸い込んでいいよ……。無料だから……」

 

「もう見える場所に芋はないぞ。……袋にはどっさり入ってるがな」

 

 そう言って、ぺこが手に持った袋をブラブラと揺らす。

中身は芋がほとんど。本当はこの袋の半分程度を芋で埋めるつもりだったのだが、予想以上に量が多くなってしまった。

 

 買い物をするたびに、店員がオマケとして芋をくれたからだ。

さらには、アイシスの姿を見て通りがかりの人が畑から芋を掘り起こして持ってくる始末。どうにか断りを入れて収拾をつけたものの、かなりの量になってしまった。

 

 よく食べるぺこも最初こそ喜んでいたが、村を出るころには少し辟易している様子だった。

食べ物を前にこの反応をするぺこは珍しいので、これは相当なものなのかもしれない。

 

 とはいえ、芋の調理方法はたくさんあり、他の食材とも組み合わせやすい食材だ。

アイシスはあんなに忌避していた芋が美味しく食べられるか不安なようだが、あまり心配していなかった。俺が調理すれば、彼女の味覚を覆すことぐらいは容易い自信がある。

 

「まあまあ。しばらくは料理に芋は入れないから、安心しろって」

 

「なら、良かったぜ……。おっ、あれが貴婦人の村か?」

 

「ああ。思ってたより早く着いたな」

 

「アイシスがずっと早歩きで歩いているせいですわ」

 

「えっ、そうだったか?」

 

「無意識に村から離れたくてそうなったのだろうな……」

 

 目の前には、ぼんやりと村が見えてきた。

山の麓に位置し、周囲も山々で囲まれている。さらに石材で作られた壁がぐるりと村を囲んでおり、まるで要塞のような印象を与える。

 

 侵入者に対して徹底的に備えている様子に見えるが、俺は実際には違うと知っている。

外からではなく、中から逃げ出そうとする人間を閉じ込めるための作りになっているのだ。

 

「……やっぱり寄るのやめようかな。今から西に進めば、荒野はすぐだし……」

 

「まあ、いいんじゃねえか? そんなに観光できるような場所でもないんだろ?」

 

「近くに綺麗な山があるけど、別に貴婦人の村に寄らなくても──」

 

「そうだよ! 寄り道なんてしないで、ささっと行かないと! それっー!!」

 

「なんだ貴様──」

 

 見知らぬ声が聞こえたかと思えば、次の瞬間。

視界がぐにゃりと歪み、俺の体は浮遊感に包まれた。

 

 ・・・・・ 

 

 周りの景色が急速に遠ざかり、周囲の空気が一変していく。

この感覚には覚えがある。時魔法のワープだ。どうやら俺は、望まずしてどこかへ飛ばされたらしい。

 

 視界が落ち着くと同時に、足元に固い地面の感触が返ってくる。

俺は膝をつきながら顔を上げると、その魔物と目が合った。赤い瞳に真っ白な服。首には懐中時計を下げており、頭には長くぴんと伸びたウサギの耳を生やしている。ウサギ耳の魔物は両手を腰に当てて、得意げな笑みを浮かべていた。彼女こそが元凶であろう。

 

 俺は立ち上がり、弓を取り出して警戒の姿勢をとる。

こういう手合は油断できない相手だと相場が決まっているからだ。

 

「誰だ、あんた──」

 

「あー!! ウサギさんですわ!」

 

「ウサギちゃん……」

 

「お前、あのときの……」

 

「思ってたより早く再会しちゃったねえ~♪」

 

 どうやら仲間たちも同じ場所に飛ばされていたらしい。

エクレアは小走りで近づき、ミクリも無邪気に駆け寄る。

 

 アイシスはすでに武器を抜き、低く構えて睨みつけている。

その隣では、ぺこがじっと無言で目を細め、気配を殺すようにして相手を観察していた。

 

「お前が、俺に手紙を送った張本人か? ──言え! 俺の何を知ってる!!」

 

「……ヴェーク?」

 

 俺の横に居たぺこが心配そうに声をかけてくる。

……分かっている。初対面の相手であり、いきなりワープを仕掛けられたとはいえ、怒鳴りつけるのは俺らしくない。

 

 だが俺は、どうしても冷静さを保てなかった。

誰も知らないはずの過去を知っているかもしれない存在に、怯えを感じていた。まるで暗闇の中から、大きな目玉に心の中を見られているかのような気分だ。そんな俺の態度はつゆ知らず、謎のウサギ耳の魔物が困ったように笑みを浮かべる。

 

「ヴェーク、どうしましたの? ウサギさんは少しだけイタズラをしただけですわ……」

 

「ウサギちゃんは素敵な人で──」

 

「少し、静かにしててくれ。……手紙を書いたのはお前だな?」

 

「ちょっと、ちょっと! 早とちりじゃない? まずはボクたちにとって、ふるーい先輩に自己紹介をさせてよ!」

 

 そう言うなり、ウサギ耳の魔物はエクレアとミクリの頭をぽんぽんと撫でた。

敵意は……感じられない。だが俺は構えた弓を下ろさなかった。

 

「ボクは白兎! 本当は魔王サマを導くもの……なんだけど、今回は特別だよ!」

 

 軽やかに笑いながら、白兎は耳をぴょこんと揺らす。

 

「それに──アリスになる可能性の高かった子も一緒に居るしね! だから、ギリギリセーフ! なのかな?」

 

 白兎はそう言って、アイシスをチラッと見た。

アイシスが何か言い出す前に、俺は尋ねる。

 

「先輩? アリス? 白兎、お前は何を言ってるんだ!?」

 

「あららー。他の仲間に自分のことを言ってないのぉ? まっ、そうしてくれたほうがボク的にもありがたいかも! 何が起こるか分からない、第八種断界接触になっちゃうかもしれないからね」

 

 矢継ぎ早に言葉を繰り出したあと、白兎はわざとらしくため息をつき、困ったように肩を落とした。

 

「でもでも、もうマキナも拡散してるし、ボクらには止める術がないんだよ……。まったく、神様を名乗るなら魂の管理くらいしっかりやってほしいよね! 生まれちゃったら死神だって手が出せないんだから」

 

「……こやつ、頭がおかしいのか?」

 

「君に言われたくはないかな! ともかく、先輩のせいで色々と困ったことになっちゃってるんだよ~! 具体的に言うと、この世界──F00001が目をつけられちゃったんだ! すっごいすっごい危機なんだよ~!」

 

「よくわかりませんが……お菓子をあげますわ」

 

「ありがとう! ボク、甘いもの大好きなんだよね!」

 

 白兎は雪崩の如く喋り散らしたかと思えば、今度はエクレアからもらった菓子をもぐもぐと食べはじめた。

俺は頭の中がこんがらがっていた。彼女の言葉は断片的で、理解の糸口すら掴めない。どうして俺を先輩と呼ぶのか、そして、どうしてそのことが世界の危機に繋がるのか──。

 

 ・・・・・ 

 

「ボクの分も作ってもらっちゃって悪いなあ~! マナの乱れが原因で思ってた場所に案内も出来なかったし、今度お返しをしないとね!」

 

 俺たちはようやく、ほんの少しだけ警戒を解いた。

各自で野営の準備を進めながら、俺は白兎に現在地を確認した。彼女いわく──ここはグランゴルド西のタルタロス近くにある、古い祠だという。

 

 俺は手短にテントの準備を終えると、焚火のそばに腰を下ろした。

白兎は俺から少し離れた場所で、揺れる炎に照らされながらサラダを頬張っていた。エクレアとミクリはこちらを伺うように食事をしており、アイシスは無言で武器の手入れをしている。ぺこは俺に寄り添ってくれていた。

 

「食事のお礼ついでに、俺の質問に答えてほしいんだが。あの文字をどこで知った?」

 

「先輩はせっかちだなあ……。でも、気になるのはしょうがないよね!」

 

 白兎は耳を揺らしながら、わざとじらすように間を置く。

 

「うーん……そうだね。この世界って“九番目に創られた”って言えば、そこそこ理解できるかな?」

 

「……! まさか、いや……」

 

 胸の奥がざわめく。

 

「不思議に思わなかった?」

 

 白兎は身を乗り出して笑う。

 

「自分の知ってるものが出土したり……似たような文化や名前があったりさ」

 

 俺は思わず目を見開いた。

 

「反物質対消滅──第八世界はそれで滅びちゃったみたいだけどね。アーキタイプは先輩がよく知ってたもので構成されちゃったわけさ。先輩はとっても幸運なんだよ? 魂だけが天文学的な確率で破壊を免れて、時空を飛び越したんだ」

 

「……」

 

 言葉が出なかった。

まるで悪夢を突きつけられたような感覚に、喉がひどく乾いていく。

 

「それを乗り越えたとしても、本当なら魂はリセットされて、次の肉体に使われる。だけど、ここで問題が起こった。とある事態が発生して、リセットを行う役目を持った存在が瀕死になったのさ」

 

 俺は目をつぶった。

脳裏に、はるか遠くの過去がちらつく。

 

 最期に見た、あの光。

あれはやはり――世界をすべて滅ぼしてしまったのだ。

 

「こうして、先輩は記憶を保ったまま、この第九世界に生まれ直したってワケ。ボクらにとっての、並行世界においても──唯一無二である先輩の誕生秘話だね~!」

 

 白兎はこともなげに言い、ぴょこんと耳を揺らす。

 

「……こんなにお喋りしたのは久しぶりかも! 最近、変なファッションの人に追いかけ回されててねぇ。おちおち大好きなお喋りもできないんだよ。まったくもう……」

 

「……」

 

 俺は返す言葉を失っていた。

白兎はそんなことお構いなしに、楽しそうに話を続ける。

 

「先輩は不思議に思わなかった? 時魔法のストップで食料がずっと腐らないことに。本来なら、腐敗を遅延をする程度の効果しかない魔法なんだよ。それは、先輩が時空を超えた影響で得た能力が影響してるのさ」

 

 俺は白兎の言葉を聞きながら、ただ黙り込むしかなかった。

 

「五次元に干渉する力って言えばいいのかな? 並行世界や時間に影響を及ぼせる力。とはいえ、そこまで強い力じゃないから、混沌を進めるほどじゃないけどね。むしろ、鈍化させてると言っていいかも」

 

「俺が……世界に影響を?」

 

「バタフライ効果ってヤツだよ! 先輩が冒険をしなかったら、少なくともここの四名は存在してなかっただろうね~」

 

「……やはり、我は……」

 

「ぺこは言わずもがな。アイシスは封印が解けずにそのまま。ミクリは聖素に身体を蝕まれてころりん! エクレアは反乱の責を問われてって感じかな~?」

 

 白兎はそう言って、俺がいない場合の並行世界の可能性を淡々と語った。

 

 ぺこは洞窟から出たあと、そのままひっそりと衰弱死。

 

 アイシスの封印は俺が近場で魔法を使ったことによって緩んだ。

 

 ミクリは聖素に蝕まれて弱っていたところ、たまたま近くを通った魔物が救助。

その魔物は博識で、知恵も経験も豊富。本来の歴史では、すでに命を落としていたはずの存在──その名は陽絹と言う。

 

 エクレアが起こした反乱は、本来なら重大な事態に発展するはずだった。

しかし、俺が解決したことによって、死を免れたとのことだ。

 

「時空の可能性は無限大だからね~。先輩がやったことはちょっとした出来事だとしても、その結果は無数に枝分かれするんだから! でもね~、そのせいで一つ、大問題が起こっちゃった!」

 

「大問題……。もしかして、手紙をくれた理由はそれなのか?」

 

「そうだよ! 先輩、異世界のドラゴンに本を渡したことがあるよね? そのせいで、別の並行世界にも影響が及んじゃったんだよ~」

 

「それを、解決しろと?」

 

「そそ。強い子ばっかりだから、ボクだけだと対処が出来なくて。人手不足で参ってたんだ~。それなら、元凶になった人にも手伝ってもらおうと思ってね! なのに、先輩はのんびりし過ぎてて~。あんまり遅いから、介入しちゃった!」

 

 白兎はそう言って、クスクス笑う。

そして、持っていたフォークを俺に向けた。

 

「タルタロスの先には、並行世界が広がってるんだ。二つの世界に影響を及ぼしたんだけど、解決するべき並行世界は一つ。もう一つの世界は……もう手遅れになっちゃったからね~」

 

「手紙にあった……俺にとってかけがえのないものって何だ?」

 

「おっと! ゴメンね、先輩! ボク、もう行かないと! そろそろこの世界のアリスを導かなくちゃ~!」

 

 そう言うと、白兎はぴょんと軽やかにジャンプした。

次の瞬間、まるで最初からそこにいなかったかのように、姿を消してしまった。

 

 ・・・・・ 

 

 夕食を済ませた俺たちは、焚火を囲んで沈黙に包まれていた。

白兎は結局、要点を話すことはなく、胸の奥に消化不良のようなもやもやが残る。

 

 俺たちの間には微妙な空気が漂っていた。

――正確には、俺とそれ以外のメンバーの間に、少し張りつめた緊張感があるのだ。

 

 ぺこは俺の隣に腰を下ろし、何も言わず、焚火の揺れる炎をじっと見つめている。

エクレアとミクリは聞きたいようだったが、先程の俺の様子を見ていたせいか、言葉を飲み込んでいた。アイシスは、眉をひそめながらも何も言わず、怪訝そうに周囲を見渡している。

 

「その、すまない。なんて言うか……俺らしくなかったな」

 

「まあ、そういう日もあるだろう? 我は気にしていないからな」

 

「そうですわ!」

 

「うん……」

 

「……」

 

 俺は悩んだ末、前世のことを打ち明けることにした。

おそらく第八世界と呼ばれる場所から転生してきたこと。あの手紙に書かれていた文字が、俺の前世で使われていた文字であること。そして、なぜかその文字を知っていた白兎のことを恐ろしく感じ、あのときあの態度をとってしまったことを――。

 

「なるほどなあ。ヴェークは歳の割に大人びてるとは思ってたが……納得がいったぜ」

 

「まあ、大した秘密ではないな。要するに、フェニックスのような存在なのだろう? 一度だけ輪廻を経験しているだけで……」

 

「……?」

 

「……?」

 

 俺は苦笑を浮かべ、エクレアとミクリを交互に見た。

彼女たちは首をかしげ、言葉の意味を完全には理解していないようだった。仕方なく、少しだけ言葉を噛み砕いて説明することにした。

 

 タルタロスで出土するマキナが、俺の前世の世界のものであること。

それと同じように、俺自身もその世界の出身であることを告げた。エクレアとミクリは目を丸くして驚き、ぺことアイシスは納得したような表情を浮かべていた。

 

「……ヴェークの暮らしていた世界はどのような世界でしたの!?」

 

「どんなの……!? どんなの……!?」

 

「あんな機械が作れるなんて、どれくらい進んだ文明があったんだ?」

 

「どのような料理が存在していた?」

 

「あ、あはは……。えっと、俺の世界には魔法が存在しなくて──」

 

 仲間たちは興味津々といった様子で、次々に質問を投げかけてきた。

俺は頬をかきながら、曖昧な笑みを浮かべる。

 

 先ほどまで胸の奥にまとわりついていた重苦しさは、嘘のように消えていた。

そんな自分の変化に、少しだけ恥ずかしさを覚えながらも、同時に安堵の息をつく。

 

 俺の秘密を打ち明けても、何ひとつ変わらず受け入れてくれる――その事実が、胸に染みた。

旅の中で積み重ねてきた時間と信頼が、確かに俺たちの間に根を張っているのだと、改めて実感する。

 

 世界の危機を解決してほしいと託された重責は決して軽くはない。

だが、この仲間たちとなら、きっと乗り越えられる――そう思えた。根拠のない確信かもしれないが、少なくとも今の俺には、その思いこそが何よりの力だった。

 

「ほえ~……鉄の塊が空を飛び回ってましたのね。もう一つ聞きたいのですけど──」

 

「な、なあ……。話は明日にしないか? もう眠いんだが……」

 

「駄目に決まってんだろ! 世界がどうしてそんな状況になったか聞かせてくれよ!」

 

「もっと聞きたい……!」

 

「我の聞いたことのない料理……。もっと食料を買い込むべきだったな。明日、料理当番はヴェークがしてくれ」

 

 俺は質問攻めに合いながら、いつもの日常を取り戻した気がした。

仲間たちは、俺がどれほど奇妙な存在であろうと態度を変えず、大切な仲間として受け入れてくれている。俺は心の中で感謝をしながら、質問に答えるのだった。

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