進め! 我らは力の同盟!   作:クラウス道化

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(41)炎上ガブリエラ城! 力の同盟!

 ついに──開戦の刻が来た。

 

 イリアスヴィルはウリエラの旗のもと、結束を固めていた。

兵の士気は高く、街全体が一丸となっている。非戦闘民たちはすでにイリアスシェルターへの避難する準備を整えており、街には張り詰めた静寂が満ちていた。

 

「いかにイリアスヴィルが籠城戦に優れているとはいえ、長期戦は不利です。作戦の第一段階で何より重要なのは、いかにガブリエラを速やかに制圧するか――それに尽きます」

 

 重い空気の中、会議室では最初の作戦概要が説明されていた。

メフィストは地図を広げ、滑らかな指先で作戦線をなぞる。

 

「潤沢な補給線と複数の拠点を持つ敵に対し、我々にはこの都市しかない。万が一、天使長が率いる第一陣が敗北した場合――ただちにブラディへ降伏の意を示す文書を送ります」

 

「絶体絶命の背水の陣ってヤツだな! まっ、そんなコトには絶対なんねーよ! 全部、俺にまかせとけって!」

 

「……今回に限っては、その脳天気さが少し頼もしく思えますね」

 

「“今回に限って”は余計だろ! なっ、ホルミエル!」

 

「はい! 天使長は裏表のない、素敵で頼りになる天使です!」

 

「今は持ち上げ合っている場合ではありません。メフィスト、話を続けてください」

 

 ウリエラの横に立つ、エデンが軽く注意を送る。

メフィストは静かに息を整え、再び視線を資料に落とす。

 

「幸いなことに、修羅同盟に対して行った工作活動が、想像以上に功を奏しています。敵の補給物資の大部分を破壊し、補給線をいくつか麻痺させました。その影響で、相手の進軍速度は大幅に鈍るでしょう」

 

 俺は円卓に広げられた地図を見下ろす。

赤く塗られた複数の印が、破壊された補給拠点の位置を示していた。どうやら、潜入していた工作員たちが手際よく任務を遂行してくれたらしい。

 

 このおかげで、開戦直後に全面衝突が起こる可能性は無くなった。

少なくとも、地上部隊は一時的に麻痺状態にあり、状況はわずかにこちらに傾いている。

 

 気をつけなくてはならないのは、空と海から攻めてくる軍勢。

この勢力は補給物資を別に蓄えており、補給線も独自で確保しているため、進行が止まることはない。ウリエラの部隊がガブリエラを制圧するまでの間、なんとしても持ちこたえなければならない。

 

「海の方は大丈夫さ! ロッサが上手く話をつけてくれて、トロが“すきやき千人分”で契約してくれたからね!」

 

 海岸防衛を任されているリザード族のミランダが、得意げに胸を張る。

トロとは、超巨大なクジラの魔物の名前らしく、今回の戦争ではイリアスヴィル側に協力してくれるのだと言う。なんでも、近くを泳いでいるだけで船が沈むため、相手は海上から攻められなくなるのだとか。

 

「並行世界にはそんなに巨大な魔物がいるのか……。一度、会いに行ってみたいな」

 

「戦いが終わったら、存分に会いに行けば良いではないか」

 

「それもそうか」

 

「……すきやき千人分、か。我も協力するにあたって、何か条件に付けておけばよかったな。すきやき……いや、今はステーキの気分だ……」

 

「よだれで地図が汚れるぞ」

 

 トロが協力の見返りに要求したのは、なんとすきやき千人分。

その準備のため、料理が得意な魔物と天使たちが、まるで戦場さながらの気迫で包丁を振るっていた光景が思い出される。

 

「空はホルミエル隊にお任せください! 絶対に突破は許しません!」

 

「リフレツィアには、一歩たりとも近づけさせませんよ」

 

 イリアスヴィルの防空を担うのは、ホルミエルと、ハーピー族のルクレツィア。

彼女たちは空中戦を得意とする天使と魔族の混成部隊を率い、空を守る手筈になっている。

 

「エデンも、俺の留守中は頼んだぜ!」

 

「ええ。イリアス様に誓って、この街を必ず守り抜いてみせます」

 

 エデンはイリアスヴィルの守護指揮官として、防衛線全体の指揮を担当する。

空はハーピーや妖精に加え、虫族の参戦も見込まれており、他の戦域よりも戦力を厚く配備していた。

 

「派手に暴れても構いません。我々の結界は理論上、巨大隕石の直撃にも耐えうる強度を有していますから」

 

 メフィストは魔導師部隊を指揮し、重層結界によってイリアスヴィルの防御を統括。

それに加え、各部隊の後方支援を行う手筈になっている。部隊の位置情報を見ながら、通信機や念波を用いて、戦場の情報を随時共有することになっている。

 

「防御面に関しては、現時点で問題はありません。もう一度言いますが、今後の鍵を握るのは――天使長率いる攻撃部隊が、いかに迅速にガブリエラを拘束できるか、です」

 

「へっ、任せとけって! 今までチマチマした嫌がらせをしてきやがった分、倍にして返してやるぜ!」

 

 ウリエラの部隊は唯一の攻撃部隊として、ガブリエラの城を陥落させる任務を担っていた。

最も危険であり、最も重要な作戦。

 

 俺たち力の同盟もこの部隊に同行して参戦する予定だ。

動きやすいように少人数の実力者で結成され、突破力に特化した特攻部隊である。

 

 ガブリエラの居城はイリアスヴィルから最も近く、敵軍の中でも突出して脅威度が高い。

北東の方角――自分たちの世界で言えば、ハーピーたちの集落があった地域に位置している。そこには、雲を突くほど馬鹿げた巨木がそびえ立ち、その内部全体が彼女の根城となっているという。

 

 ガブリエラの早期攻略が求められる理由は単純だ。

彼女は修羅同盟の食糧供給を一手に担う存在であり、事実上の“食糧庫”そのものであるからだ。

 

 全体の六割におよぶ食糧が、ガブリエラの管理下で配給されている。

すなわち、ガブリエラが陥落すれば、修羅同盟の大半は飢えに直面し、組織的な戦闘継続は当面の間は不可能となる。

 

 すでに破壊工作によって補給拠点は幾つもダメージを追っている。

この作戦が成功すれば、イリアス大陸の情勢は一時的に掌中へと収まるだろう。

 

 しかし、依然として兵力差は圧倒的である。

攻撃部隊は勝利後、速やかにイリアスヴィルへ撤退し、次の作戦に向けて準備を整える――それが今回の作戦計画だった。

 

「まどろっこしい準備はもう終わりだ! あとは! 勝つだけだな!」

 

 ウリエラは勢いよく席を立ち、天を衝くように拳を突き上げた。

その声に、場の空気が一瞬で燃え上がる。

 

「俺たちなら絶対に勝てる! ブラディのデケェ尻を月までぶっ飛ばして、盛大に祝杯だ!!」

 

「おー! ですわー!」

 

「アタシもやってやるぞー!」

 

「お~……!」

 

「…………」

 

「天使長、バンザーイ!! イリアスヴィルに栄光あれ!!」

 

 力の同盟と幹部が声を上げ、会議室の空気は一気に盛り上がる。

こうして──修羅同盟との戦いが、ついに幕を開けた。

 

 ・・・・・ 

 

 城塞を抜けると、空一面が敵で埋め尽くされていた。

妖精たちは絶え間なく魔法を撃ち込み、ハーピーはその隙間を縫うように飛び交い、矢を雨のように降らせていた。味方の放った魔法の爆風が頬を掠め、耳をつんざく轟音が鼓膜を震わせる。

 

「行け行け行け~!! 振り返るな~!! 俺らが目指すのは前だけだ~!!」

 

 攻撃部隊は空からではなく、地上を猛スピードで進む。

空は混戦状態に陥る可能性が高いと考えられ、最初から地上での移動を選択していたのだ。実際、とてもではないが突破できるような状況ではなく、地上から選んで正解だった。

 

「こんなに大勢の魔物が……!」

 

「ヴェーク、前方からハーピーだ。撃ち落としてくれ」

 

「分かった!」

 

 俺は息を整え、弓を構える。

前方から突っ込んでくる槍を持ったハーピーの影が三つ。迷いはない。

 

 弦を強く引き絞り、一気に放つ。

三本の矢がほぼ同時に射出され、空気を裂く鋭い音が響いた。矢は正確に標的を貫き、悲鳴を上げる暇もなくハーピーたちは地面に叩きつけられた。

 

 攻撃部隊はバイクで二人一組になり、それぞれが別ルートを取りながらガブリエラ城を目指していた。

俺とぺこ、アイシスとエクレア。ミクリはシェーディと組み、別のルートを進んでいる。

 

 ウリエラは単独で敵陣のど真ん中へ突っ込んでいた。

派手に動いて敵の注意を引きつける役だ。彼女も最終的にはガブリエラ城で合流する予定だが、かなり遠回りのルートを取っている。

 

 俺たちはいち早くガブリエラ城に到着し、制圧を完了しなくてはならない。

彼女を落とせば、相手は一時的に撤退を選択するだろう。敵味方双方の犠牲者を増やさないためにも、迅速に行動する必要がある。

 

 もともと整備の行き届いていない道が、攻撃の衝撃でさらにボコボコに抉れていた。

バイクは何度も跳ね上がり、そのたびに体が大きく浮き上がる。ハンドルが軋む音が耳に残るが、ぺこが巧みに手綱を握り、転倒を防いでくれていた。

 

 敵は主に空から襲ってくる。

だから運転はぺこに任せ、俺は後方席で弓を構え、次々に迫り来る影に対処していた。

 

「ヤバいヤバいヤバい!! ぺこ! 前は大丈夫か!?」

 

「落ち着け。地上にはまだ敵はおらん。それより――もうすぐ川だ。落ちるなよ、ヴェーク」

 

「やれるか!?」

 

「くくく……任せよ!」

 

 目の前に、幅の広い川が迫っていた。

ぺこはスロットルをひねり、バイクのエンジンが獣のように唸りを上げる。地面の凹凸を跳ねながら、速度はどんどん上がっていく。

 

 水面が目前に迫ったその瞬間――。

 

「掴まれ!」

 

 叫ぶと同時に、ぺこが下へと触手を伸ばす。

それが地面をぐっと押し込んだ瞬間、バイクはまるで巨大な弾丸のように跳ね上がり、空へと放り出された。

 

 耳を裂く風の音。

重力を一瞬忘れる浮遊感。景色が遠ざかり、眼下には穏やかに流れる川――そしてその向こうに、一本の巨大な木がそびえていた。

 

「デカ過ぎんだろ……」

 

「聞いた話では、イリアスヴィル裏山の倍のサイズらしい。ガブリエラとやらが、ウリエラより高い建物に住んでる優越感を味わいたくて建てたんだとか」

 

「理由は小物過ぎんだろ……。っていうか、ぺこ──」

 

「ヴェークの言いたいことは分かっている。……燃えておるな、あれ……」

 

 ガブリエラ城は、真紅の炎に包まれていた。

城の輪郭が揺らめき、明らかに大炎上しているのが分かる。火の粉がぱちぱちと周りに散り、煙が立ち昇っていた。

 

「あれについては一度置いといて……スロー!」

 

 俺は時魔法を発動し、落下速度を一気に緩める。

衝撃を殺しながら、バイクは対岸へと着地。土煙を上げ、そのまま再び加速した。

ぺこはスピードを緩めることなく、一直線に燃え盛る城を目指す。

 

 ガブリエラ城は一体、どういう状況になっているのか。

俺はやや不安になりながら、敵地への侵入を果たすのだった。

 

 ・・・・・ 

 

「初めてのバイクの運転が戦場だなんてなあ……! スリル満点で最高だったぜ~!!」

 

「アイシスの運転、激しすぎますわ……! ──オロロロロ!!」

 

「な、なんなのじゃあ~……! このふわふわとした母性は~……!」

 

「…………」

 

「なんか緊張感が無いな……。まあ、合流できてよかったよ」

 

「まあ、これこそ我ら力の同盟よ」

 

 対岸にて、力の同盟は合流することに成功した。

アイシスはキラキラした目で大興奮しており、エクレアは地面にキラキラした栄養素を振りまいていた。ミクリは後ろからシェーディに抱きつかれてすっかり骨抜きになっている。誰一人欠けておらず、俺は胸の中で安堵した。

 

 目下の目標はガブリエラの拘束だ。

やむを得なければ倒す選択肢もあるが、できれば生け捕りにしたい──というのが作戦の方針だった。

 

 理由は単純。

ガブリエラの能力は稀有で、失わせるにはあまりにも惜しいからだ。この荒廃した大地を蘇らせる力を持つ天使を、ただの敵として切り捨てるには躊躇があった。

 

 力の同盟はバイクのスピードを落とし、慎重にガブリエラ城へと進んでいた。

敵の本拠地目前というのに、周囲には魔物の気配がまるでない。先ほどまでの喧噪が嘘のように、空気が静まり返っていた。

 

「なんか静かですわね~。敵地のど真ん中なのに魔物は居ないし、イリアスヴィルとはえらく違っていますわ」

 

「ん~、ここの戦力も軒並み向こうに回してんのかもな!」

 

「まっ、川を突破してしまえばワタクシたちにはもう関係ないですわね~」

 

 すっかり回復したエクレアが軽い調子で言うと、アイシスが笑いながら相槌を打つ。

 

「油断しないで……」

 

「分かってますわ~! 皆さん戦っていますし、ウリエラやエデンも頑張っておりますし! ワタクシたちも頑張らないと!」

 

「そうだな。我らが止まらぬ限り、道は開くものだ」

 

 ぺこの言葉に一同がうなずき、警戒を怠らぬまま、バイクはゆっくりと進む。

ガブリエラ城が近づくにつれ、空気がじりじりと熱を帯びていくのが分かる。焦げた匂いが鼻を刺し、遠くで木が崩れる音が聞こえた。やがて、風に乗って火粉がパラパラと降り始めた。

 

「ぺこ。俺の鎧、熱くなってないか?」

 

「平気だ。……ふむ。逆も悪くない。もっと我にくっついておけ」

 

「あっついですわ~! 暑くて干からびそうですわ~!」

 

「…………」

 

 煙や火粉だけでなく、徐々に熱も強くなってきている。

何か起こっていることは間違いない。疑問に思っていると、通信機からメフィストの声が響いた。

 

『力の同盟のみなさん。聞こえますか?』

 

「ああ、聞こえる。そっちは大丈夫か?」

 

『……あー、予定外のことがいくつか起きていますが、概ね問題は──』

 

『戦争は駄目だぞ~!!! トロがみんなぶっ飛ばしてやる~!!!』

 

『わ~! 逃げろ~!!』

 

 メフィストの声を遮るようにして、通信機から別の声が鳴り響く。

低い重低音の声は空気を震わせるような迫力があり、地の底から響いているようだった。それに加え、ドシンドシンと地響きが聞こえてくる。

 

『全員、結界内に撤退を! 魔導師は全員、結界の強化に回りなさい!!』

 

「……あとにしたほうがいいか?」

 

『いえ、問題ありません。それよりも、ガブリエラ城の様子は確認できますか? 内部のスパイが破壊工作を行う手筈になっていましたが……』

 

「それが──」

 

 俺はメフィストに状況を説明する。

現在、ガブリエラ城の周囲には魔物の気配がなく、城が派手に燃えているということを簡潔に伝えた。

 

『上手くやったようですね。その場所は本来、多数の植物族が警備を行っているはず。つまり、スパイが植物族の寝返りを扇動することに成功した証です』

 

「城が燃えてるのは?」

 

『……。スパイがやりすぎてますね。ガブリエラの注意を逸らすため、破壊工作を行うように指示を出し、準備は一任していましたが……』

 

 メフィストの話によると、内部のスパイによる仕業らしい。

 

『予定通り、ガブリエラの確保をお願いします。それ以外には、高度の柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処してください』

 

「それ、行き当たりで考えろって意味だろ……」

 

『まあまあ。天使長ももうすぐ川を越えますので、上手く対処してください。それでは……』

 

「そっちも頑張ってくれ」

 

 メフィストとの通信が切れる。

俺たち力の同盟は改めて目的を再確認し、ガブリエラ城へと向かうのだった。

 

 ・・・・・ 

 

 俺たちはバイクを一度隠し、徒歩でガブリエラ城へと近づいた。

空は異様なほど赤く、今が昼間であっても異常なほど明るい。炎の光が雲を照らし、焦げた匂いと熱気が風に乗って肌を刺してくる。

 

「──わっ、私の世界一美しい城がアアアァァァ!!」

 

「なんだあれ」

 

「あの正面でうなだれてるのは……例のガブリエラではないか?」

 

「大きな大きなキャンプファイヤーですわ~」

 

「あー、燃えてるなあ。アタシにはそうとしか言えねぇよ」

 

「……」

 

「…………」

 

 ガブリエラ城の前には、数名の植物族が立ち尽くしていた。

燃え上がる枝葉の音がパチパチと響き、彼女らはただ呆然と炎を見上げている。

 

 その中心で、ガブリエラが膝を折り、地面に手をついてうずくまっていた。

時折地面を殴りつけ、涙をこぼしている。

 

「しょ、消火隊はまだなの……!?」

 

「おかしいわ……。植物族の消火隊は非常に優秀なはず。呼べば五分で来るはずなのに……」

 

「プリーステス様が対策なさっていたはず……。どうして……」

 

 植物族たちは混乱しながらも、状況を整理しようとしていた。

こちらにはまだ気づいていない。彼女たちはただ、燃え盛る城を前に呆然と立ち尽くしている。俺はどう動くべきか迷っていた、その時――。

 

 ガサリ、と横の茂みが揺れた。

 

「おや、援軍がご到着ですか」

 

「……あー、君が例の?」

 

「ええ。エージェント36です」

 

 現れたのは、ガスマスクを付けた魔物だった。

防護服に身を包んでおり、声はくぐもって聞こえる。背中には燃料タンクを背負っており、手には噴射ノズルが握られていた。

 

「それにしても、昼に嗅ぐナパームの匂いは最高ですね。特にグリーンが燃えていると、より芳しい……気がします」

 

「そ、そうか」

 

 なんだか危ない人物なような気がして、俺は思わず一歩下がる。

 

「そろそろ、脱いでも良さそうですね。天使長がお越しになれば、あのパワハラクソ上司は即刻排除されることでしょう。ウフフ……」

 

 エージェント36は満足げに笑いながら火炎放射器を地面に置くと、防護服とガスマスクを脱ぎ捨てた。

 

 その素顔は──。

 

「──プリエステスか……!?」

 

「おや、どこかでお会いしたことがありましたか?」

 

「並行世界のプリエステスは随分と……違うのだな……」

 

 防護服の中から現れたのは、間違いなくプリエステスだった。

力の同盟は息を呑み、彼女を見つめる。

 

 その顔は俺の知っているプリエステスだった。

だが、髪型がまるで違う。ソフトモヒカンに剃り込み、耳にはいくつものピアスが光っている。見た目だけは落ち着いた印象だった彼女が、荒野を渡る戦士のようなワイルドさを纏っていた。

 

「あの劣悪な職場が燃えている姿は最高ですね。今なら空も飛べる気がします」

 

「楽しそうで良かったよ……」

 

「ええ、とても楽しすぎて狂い──天使長がご到着のようです」

 

 遠くから、低い唸りのようなバイクの音が近づいてきた。

植物族たちは一斉にそちらを向き、ガブリエラもハッと顔を上げる。

 

 真っ赤なバイクが凄まじい速度で迫ってきていた。

バイクに乗っているのはウリエラで、俺はその姿を目にすると自然と安堵していた。

 

 ウリエラはバイクを横にすべらせ、スライドしながらブレーキを掛ける。

タイヤが地面を抉り、砂煙と焦げた匂いを巻き上げながらあと、ゆっくりと降車。そして、燃え盛る城を見上げて鼻で軽く笑った。

 

「久しぶりに会ってみればよぉ! ベソかいて泣いてんじゃねェか!」

 

「ウリエラ……!!」

 

 ガブリエラは明らかに憎悪を滲ませた声でウリエラの名を呼ぶ。

その表情は憎しみに満ちており、拳を震わせていた。ウリエラはそんなガブリエラを嘲笑うかのようにして、鋭く睨み返す。

 

「ウリエラ、あなたは目障りでした……! 何をするのもあなたが頼りにされ……!! イリアス様が去ってからも、天使たちのボス面をして……!」

 

「おめえもボスになったんだろぉ? この灰の山でよぉ!」

 

「──ウリエラァァァ!!!」

 

 ガブリエラが鞭を引き抜き、怒りのままに飛びかかる。

鋭い風切り音が空間を裂く。対し、ウリエラは背の大剣を抜かず、じっと目を凝らす。

 

「俺たちも行くぞ!」

 

「なっ!? どきなさい!」

 

「一騎打ちってやつだ! 邪魔すんならアタシらを倒してからにしな!」

 

 俺たちは周りの植物族の前に立ちふさがり、加勢させないようにする。

 

「反省しろや裏切り野郎!!」

 

「──があっ!?!?」

 

 ウリエラは神速の鞭を紙一重でかいくぐり、そのまま顔面に拳を叩き込む。

衝撃が空気を揺らし、鈍い音が響く。

 

 ガブリエラの体が弾け飛び、血を散らしながら燃え盛る城の中へと叩きつけられた。

 

 次の瞬間――。

ガブリエラ城が、轟音とともに崩れ落ちた。

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