進め! 我らは力の同盟!   作:クラウス道化

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(43)潜入をしよう! 力の同盟!

 ガブリエラを捕らえてから、しばらくが経った。

 

 修羅同盟からの攻撃は一時的に止み、イリアスヴィルには束の間の平和が訪れていた。

結界が完全に機能しているかを確認するまでは、力の同盟と攻撃部隊は待機中。次の作戦が始まるまでは、それぞれが短期間の休息を取ることになっている。

 

「ぶひー! ぶひひー! いやあ、なかなかの見世物ですねぇ、グレッタ先輩!」

 

「ヒップの言う通りだな! へへ、この街にもようやく面白い名物ができたって感じだな!」

 

「下劣なオークどもめ……! くっ、殺しなさい……!」

 

「ああん? 死にてぇのか? なら、ウリエラの姉御を呼んで来るか?」

 

「や、やっぱり生きたいです……。すいません……」

 

 街の中央広場に据えられた檻の前には、今日も見物客が集まっていた。

その中で、魔物たちは笑い声を響かせながら、囚われの天使が屈辱に身をよじる姿を肴に食事を楽しんでいる。

 

「ガブリエラ様……いえ、今は様付けする必要もないでしょう」

 

「では、なんとお呼びすれば?」

 

「ウラギリエラ……」

 

「そこのワイティエルたち……。私にその手に持っているお菓子を恵みなさい……。さすれば、この私の側近にして差し上げますよ……」

 

 天使たちはお菓子をかじりながら、かつての上司をまるで他人事のように眺めていた。

一方、ガブリエラに与えられる食事は、罰として粗末な黒パン一切れだけである。

 

「申し訳ありません、ウラギリエラ。天使長の命令で、えさを勝手に与えるのは禁止されています」

 

「うううっ……冷たい目があまりにも辛い……」

 

「辛いのは他の天使たちですよ。あなたが逃げなければ、何人も助かったかもしれないのに」

 

「自業自得……」

 

「うっうっ、おなかがへりました……。だしてください……あけてください……」

 

 ガブリエラはしょんぼりとうつ伏せになり、地面にゴロリと寝転がる。

俺がベンチからその姿を眺めていると、ぺこが隣に座り、盛大にあくびをした。

 

「まったく、あのプロメスティンとか言う天使はとんでもないな……我の顔を見るなり『サンプルが欲しい』などと抜かしてきおって……」

 

「大変だったな。それで、振り切れたのか?」

 

「殴って気絶させて、イリアスシェルター内の洞窟に閉じ込めておいた。しばらくは安全だ」

 

 ぺこは、つい先ほどまで虫取り網を手にしたプロメスティンに追い回されていたらしい。

曰く、ぺこを“貴重なサンプル”としてクローニングしたいので、細胞を寄越せと迫られたのだとか。

 

 プロメスティンはいわゆる、マッドサイエンティストのようだ。

メフィスト曰く、彼女の研究欲は天井知らずで、常に新しい発見を求めているのだという。俺についても時間があれば調査したいと言われたのだが、遠慮しておくつもりだ。

 

「それで、ガブリエラの様子は?」

 

「特に問題はないな。結界装置も普通に動いてるし、本人も……まあ、そこそこ元気そうだ」

 

「蛭蟲……! 魔物であるあなたが七大天使と手を組むなど、恥だとは思わないのですか!」

 

「お前は華音の元部下を侍らせてただろう? 言えた口か?」

 

「わ、私はいいのです! 慈愛のもとに平等ですから!」

 

「ダブスタクソ天使め」

 

 ぺこは檻に歩み寄り、ガブリエラの手にあるパンをじっと見つめてニヤリと笑った。

その表情には、何やら悪い企みを思いついた気配が漂っていた。

 

「ヴェーク。今日は天気も良いのだし、外で食べようではないか」

 

「……んー、なるほど?」

 

「ま、まさか……。あなたたちも私の前で何かを食べる気ですか!?」

 

「なにか問題があるか?」

 

「あります! ありまくりです!」

 

 檻の中でガブリエラが必死にジタバタと暴れ、羽をばたつかせて抗議する。

ぺこはその滑稽な光景を眺めながら、唇の端を吊り上げ、さらに意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「そうだな……ついでに勝利の美酒も付けて楽しむとしようではないか。くくく、昼から呑む酒は格別だぞ……」

 

「そのワインボトル、私の城に置いてあったものでしょう!? イリアスヴィルが崩壊する姿を見ながら呑もうと用意していたのに! がああああ!!」

 

 処置をされたときは正直どうなるかと思ったが──案外、大丈夫そうだ。

思ったよりも元気なガブリエラを眺めながら、俺は胸の内でそう呟いた。

 

 ・・・・・ 

 

 ガブリエラを眺めながら、昼食を楽しんだあと。

 

 力の同盟の面々はイリアスシェルターの会議室に集まっていた。

円卓の周囲には、イリアスヴィルの幹部たちも顔を揃えている。メフィストからの連絡で、集合するよう指示があったのだ。

 

「まずは――力の同盟の皆さん、そして天使長。ガブリエラの捕獲任務、本当にありがとうございました」

 

 そう言って、メフィストは帽子を取って深々と頭を下げた。

その肩を、ウリエラがバシバシと豪快に叩く。

 

「お前が作戦を立ててくれたおかげだぜ! それだけじゃねえ、この街の誰か一人でも欠けてたら、絶対に成功してなかったはずだ!」

 

「俺も同感だ。俺たちはほとんど後詰めだったし、全員が動いたからこそ成り立った作戦だな」

 

「ワタクシたちも皆さんのお力添えあっての活躍でしたわ!」

 

「…………」

 

 シェーディはコクコクと何度も頷き、同意を示す。

今の言葉は俺の本心からだ。実際に大きなことをしたわけではないし、どちらかと言えば、物理的に大きなことをしたトロが一番の働き者だったような気がする。

 

「そう言っていただけるだけで、報われます。……では、次の作戦に移りましょう」

 

 そう言うと、メフィストは静かに懐へ手を入れ、透明な袋を取り出した。

 

 袋の中には、金色に輝く一枚のコインが入っている。

表面には、クエスチョンマークを三つ組み合わせたような、どこか不穏で奇妙な紋章が刻まれていた。

 

 メフィストは袋を開け、金貨を指先でつまむと、机の上にそっと置いた。

コトリ、と小さな音が響き、部屋の空気がぴたりと張り詰める。

 

「おいこれ……純金じゃねぇのか?」

 

「食いつくところはそこではないだろう、アイシス」

 

「これは、黄色の衣の姉妹団の団員が所持する……“黄色の印”です。次の標的である、瑠渦が創設した組織ですね。力の同盟の皆さんにお願いしたいのは──この組織に潜入し、内部から攻撃することです」

 

 メフィストはそう言って、資料を手に説明を続けた。

 

 “黄色の衣の姉妹団”――瑠渦という魔物が立ち上げた組織で、構成員の多くは虫族。

ただし、他種族の構成員も少なくないらしい。彼女らは皆、黄色いローブをまとって黄色の印を首に掛け、各地の影で暗躍しているという。

 

「なんだか……宗教団体みたいだな」

 

「ヴェーク様のご指摘の通りです。黄色の衣の姉妹団には、明確に宗教的な側面があります。創設者の瑠渦という魔物は、非常に強いカリスマ性を持っており、その影響力は計り知れません」

 

 なるほど、やはり俺が感じた通りの組織らしい。

こういった類の団体は、信念という名の呪縛で動いていることが多く、相手にするとなると厄介だ。そして何より――そういう“信仰”を持つ相手ほど、話が通じない。

 

「今までは、少なくとも穏健な態度を保ち、表向きは“相互扶助”を掲げていました。しかし、今回の修羅同盟に突如参加を表明。それ以前にも――どうにもきな臭い部分はありましたが……」

 

「ほう。どのように“臭い”のだ?」

 

「イリアスヴィルから派遣したスパイが、誰一人として戻ってこないのです。最初は潜入が露見し、幽閉もしくは処刑されたものと考えていました。ですが――」

 

「ホルミエル隊が偵察に出た際、孤島にある本拠地の周囲で、複数のスパイが黄色のローブをまとい、普通に歩いているのを確認しました」

 

 エクレアとトランプに興じていたウリエラが、驚愕の表情を浮かべて立ち上がった。

 

「はあ!? 俺の仲間が裏切るわけねぇだろ!」

 

「ええ、私もそう思っています。ですから、我々は別の可能性を疑っているのです」

 

 メフィストの声が低くなる。

 

「……“強制的な洗脳”を行う手段を、黄色の衣の姉妹団が保有しているのではないかと」

 

 俺はその話を聞いて、思わず眉をひそめた。

悲しいことだが、仲間の何人かが裏切ることはあるかもしれない。

 

 だが、十数人ものスパイを送り込み、一人も帰ってこない――それは明らかに異常だ。

洗脳という線は、確かに現実味がある。

 

「しかし……具体的な実情までは、掴むことができませんでした」

 

「スパイが全員戻ってこないんだもんね……」

 

「ええ。だからこそ、無闇に大人数を動かすのは危険です。それに加え、建物の内部の仕組みが分からない以上、潜入は少数精鋭で行う必要があります」

 

「なるほどなあ……」

 

 アイシスは腕を組み、納得したように頷いた。

確かに、洗脳能力を持つかもしれない相手に大部隊で突っ込むのは自殺行為に等しい。もしかすると、洗脳の方法に制限があったりするのかもしれないが、詳細が分からない以上は、慎重になるべきだろう。

 

「だけど、どうやって潜入するんだ? 前に行ったスパイたちは、どうやって入り込んだんだ?」

 

「単純です。黄色の衣の姉妹団は、常に入団希望者を受け入れています。問題は、その方法で潜入しても前例と同じ結果になる可能性が高いこと。そこで――」

 

「私の出番というわけだ」

 

 会議室の扉が音を立てて開いた。

白衣の裾をひるがえしながら、プロメスティンが堂々と歩を進める。

 

 その後ろには、静かに足を運ぶラプラスの姿。

ラプラスは俺たちを見渡し、穏やかな微笑を浮かべる。

 

「プロメスティンがある機械を開発してくれました。とんでもない量の魔力を消費するため、これまで使えなかったのですが……」

 

「七大天使が二人も居れば問題はない。さあ、聞いて驚け……」

 

 ラプラスは円卓の中央に、布の掛かった何かをそっと置いた。

そして、すぐにその布を払う。

 

「これが私の開発した──“どこでもてれぽくん”だ」

 

「……」

 

 布の下には、丸っこいリモコンのような物が六つ、整然と並んでいた。

プロメスティンは満足げに胸を張り、対照的にラプラスは苦笑する。俺たちは思わず唖然とした。するとプロメスティンが腕を組み、上機嫌そうに続けた。

 

「どこでもてれぽくんは名前の通り、指定した場所へテレポートさせる装置だ。本体はこのシェルターの内部にある。大きすぎて持ってこれないから、ビーコンのみ持ってきた」

 

「すごいマキナなのに、名前がダサいですわ〜!」

 

「……ダサくなどない。ともかく、これを使用すれば、黄色の衣の姉妹団の本部内にテレポートすることができる」

 

「我々で何度も試しましたが、通常の潜入では入団以外に方法がありませんでした。出入り口は一つしかなく、隠密に長けたスパイでもすぐに見つかってしまう。それに加え、移動魔術を制限する結界が展開されています」

 

「どこでもてれぽくんは、結界の干渉を受けないからな。これを利用し、内部に直接侵入。相手の洗脳手段を調査し、可能であれば停止か破壊をする。……個人的には回収してほしいが――いや、回収しろ」

 

 プロメスティンが俺に物凄い圧をかけてくる。

メフィストが手を打つと、自然と全員の視線が一点に集まった。

 

「洗脳の手段を断てば、これまで奪われていたスパイたちを味方に引き戻せるはずです。それに加えて、黄色の衣の姉妹団の本部付近へ兵をテレポートさせ、正面からの攻撃を行います」

 

「潜入による攪乱と、大軍による奇襲――それを同時にやるってわけだな! うおおおお! 燃えてきたぜ!」

 

「……天使長はイリアスシェルターで待機ですよ」

 

「はぁ!? なんでだよ!」

 

「先ほども言ったが、装置の稼働には膨大な魔力を要する。つまり、天使長はカラカラに干上がるまで消耗するわけだ。そんな状態で戦いになど行けるわけがない」

 

「な、なんだよそれ〜! 俺は留守番かよ〜!」

 

 ウリエラは頭を抱え、がっくりと肩を落とした。

 

 ・・・・・

 

「俺たちが侵入するのは分かったが、もし失敗した場合はどうする?」

 

「その場合は、ビーコンから緊急信号を送ってください。こちらから強制脱出を行います。たとえ潜入が失敗しても、内部の様子が少しでも分かれば大きな収穫です」

 

 メフィストはそう言って、俺たちにビーコンの使い方を説明してくれた。

 

「……それと、こちらからの先制攻撃は既に決定事項です。懸念点はありますが、修羅同盟の大部分が動けない今、各個撃破の好機を逃すわけにはいきません」

 

「なるほど。つまり、我々が合図を送らずとも攻撃は始まる、というわけだな」

 

「その通りです。ただし、内部から同時に動いてくれれば、勝率は格段に上がるでしょう。――作戦は二日後。それまでに英気を養い、準備を整えてください。ああ、それと……ロッサ」

 

「準備は出来ておる! さあ、これを試しに着てみよ!」

 

 どこか気品を漂わせる妖魔のロッサが、抱えていた布包みを軽やかに開く。

中には、黄色の衣の姉妹団が着用しているローブが並んでいた。力の同盟は各自で試しに着てみると、サイズはぴったりだった。

 

「おお、鎧の上からでも着られるようになってる」

 

「むう……我の趣味ではないな」

 

「しゃーねぇだろ。アタシだって厚着したくねぇけど、潜入のためだからな! ワクワクしてきたぜ~!」

 

「我は世界一のデザイナーと自称しておる。測らずとも正確に服を仕立てられるのが我の特技だ!」

 

「ふわふわですわ~!」

 

 俺たちが着心地を確かめる中、ミクリがふとシェーディの方へ目を向ける。

 

「あれ……シェーディは着ないの……?」

 

「…………」

 

 シェーディは渡されたローブを机の上に置き、ふんすと小さく息を吐いた。

似たような形のローブは普段から着ているが、それは真っ赤も真っ赤。なにかこだわりがあって、このローブを身にまとう気はないのだろうか。これでは潜入時に目立ってしまう。

 

「シェーディ、悪いけど我慢を──」

 

「…………」

 

 だが次の瞬間、俺の目を疑う出来事が起こった。

シェーディが自分の着ているローブに手を滑らせると、生地がさーっと色を変えたのだ。赤が溶けるように変わり、鮮やかな黄色へと変化する。

 

「そんな機能付いてたのか!?」

 

「我よりも、ふしぎないきもの過ぎるぞ……」

 

「なあ、他の色にも変えられ──すっげぇ! 虹色になった!!」

 

「ピカピカ光りすぎですわ~! 目が痛いですわ~!」

 

「ふしぎ……」

 

「…………」

 

 得意げに両手を腰に当て、シェーディは仁王立ちした。

誇らしげなその様子に、場が一瞬和む。

 

「蛭蟲にばかり目を向けていて気付かなかったが。シェーディ、君も私が知らない未確認の魔物だな……。研究のために少しだけ、採血と身体検査をさせてほしい」

 

「…………」

 

 採血と聞いて、さらにジトッとした目になるシェーディ。

尻尾を振りながら、とてとて歩いてプロメスティンに近付く。

 

「なんだ……?」

 

 シェーディがぎゅっとプロメスティンに抱きつく。

この必殺のハグに、プロメスティンも骨抜きになるのかと思ったが──。

 

「ふむ、何とも安心する抱擁だな。だが、科学の探求の前には不必要な感情だ」

 

「…………!?」

 

「さあさあ! それよりも、髪と皮膚と血と口腔粘膜を提供してくれ……少しだけでいい……」

 

 全く気にする様子のない、プロメスティン。

シェーディは怯えた様子で部屋から飛び出し、その後ろからプロメスティンが追いかけていく。

 

「ヴェーク、助けなくても良いのか?」

 

「まあ、シェーディは強いからな……」

 

「シェーディの母性溢れる抱擁が通じない生き物がいるなんて……! 恐ろしいですわ!」

 

「こわい……」

 

「イリアス様かラファエラが居たら、あのハグですげー大喜びしただろうなあ……」

 

「……潜入作戦の方、お願いしますね」

 

 こうして、潜入作戦の会議は幕を閉じた。

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