進め! 我らは力の同盟!   作:クラウス道化

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(45)あいあいはすたあ! 力の同盟!

 ロビリッチが居ないことを、どうにかして誤魔化さなくてはならない。

しかし彼女を一度でもこの部屋の外へ出してしまえば、俺たちが潜入している事実が即座に露見してしまうだろう。

 

「エヴァが体調不良ってことにして……なんとか誤魔化せないか?」

 

「救護所まで運ばないといけなくなるわね。しかもあそこにはナビスが常駐中……さすがに無理よ」

 

 非常に困ったことになった。

もはや力づくで突破するしかないのか――そんな考えが脳裏をよぎり始めたころ。ぺこが深々とため息をついた。

 

「まったく……仕方のない奴らだ。我に任せておけ。ヴェーク、ロビリッチの髪を一本切って寄越せ」

 

「あ、ああ……。何をするつもりだ?」

 

「まあ、見ていろ……」

 

 言われるがまま、俺はロビリッチの髪の毛を一本だけ慎重に切り取る。

渡すと、ぺこはそれをひょいと摘まみ、自分の口へ放り込んでモゴモゴと咀嚼を始めた。

 

「お腹、減っていましたの? でしたら、お菓子をあげますわ~!」

 

「もしかして、遠足気分だったのか? エクレア……」

 

「お菓子はあとで貰う。──くくく、さあ……見せてやろうぞ……」

 

 ぺこが髪の毛をゴクリと飲み込むと、徐々に体が変化していく。

黒髪が徐々に白く染まっていき、体格が小さくなっていく。

 

 最終的にはロビリッチに瓜二つの姿になっていた。

俺たちがあまりの出来事に驚いていると、ロビリッチ──いや、ぺこがクスクスと笑い出す。

 

「シェーディのローブが変化するのを見てな。我もこういう芸当ができることを思い出したのだ」

 

「おお! ぺこ、凄いじゃないか!」

 

「マジかよ! 今回の潜入にピッタリじゃねえか!」

 

「ふふん。もっと我を褒めるがいい……」

 

 ドヤ顔で胸を張るぺこ。

これならば、ロビリッチが居ないという問題は解決できそうだ。俺たちがぺこをチヤホヤ持ち上げていると、エヴァが呆れた表情で呟く。

 

「パイプオルガン、弾けるの?」

 

「……」

 

 その一言で、場の空気が凍りついた。

ロビリッチに変身できること自体は大成果だが、今回もっとも重要なのは“演奏係”として穴を開けないこと。姿だけ似せても意味がない。

 

「エヴァ、演奏する曲は決まってるのか?」

 

「えーっと……決まってないわ」

 

 その返答に、俺は思わず肩の力が抜けた。

以前、イリアスベルクの教会でぺこはパイプオルガンの練習をしたことがある。俺が教えたあの曲なら、なんとかなるはずだ。

 

「前に教えた曲、弾けるか?」

 

「あれか? ──ふむ、問題ないだろう」

 

「ほっ……」

 

「良かったですわ~! お菓子を増量しますわ~!」

 

「問題解決だな! んで、集会はいつ始まるんだ?」

 

 問いかけられたエヴァは、部屋の壁に掛けられた時計へと視線を移す。

数秒の沈黙のあと、彼女は満面の笑みで告げた。

 

「あと十分後ね!」

 

「……ここから会場まで、どれくらいかかる?」

 

「えーっと……十分くらいかしら……」

 

「エヴァー!」

 

「しょうがないでしょ!? 今日はサボるつもりだったんだからー!」

 

 文句を言いながらも、エヴァが先頭に立つ。

俺たちは慌ててロビリッチをロッカーに隠し、バタバタと部屋を飛び出した。

 

 ・・・・・ 

 

 アイシスが尻尾でエヴァの尻を叩き、廊下を全速力で駆ける。

俺たちはその後ろを追いかけている形だ。誰かとすれ違うことは全くなくなり、全員が集会に集まっていることが想定できた。

 

「はぁっ……! はぁっ……! こ、ここまで来れば……だ、大丈夫……!」

 

 息を荒げながらエヴァが右へと曲がると、巨大な階段が視界に飛び込んできた。

階下には黄色いローブを纏った団員たちがぎっしりと集まり、ざわついた声が聞こえてきた。

 

「ロビリッチ、王がお待ちだぞ……」

 

「時間がギリギリね……」

 

「……あー、偉大なる王に捧ぐ曲を時間いっぱいに考えておったのだ」

 

「そうか……。ならば、急ぐが良い……」

 

 ぺこがロビリッチの真似をして、何人かを誤魔化しながら階段を下りていく。

周りの団員たちはぺこではなく、本物のロビリッチに見えているらしい。俺は胸をなで下ろすと、周囲に気づかれぬよう息を潜めながら、その後ろに続いた。

 

 俺は内心ほっと胸を撫で下ろしていると、前方にいつの間にか巨大な扉が姿を現していた。

流れる魔物たちの群れに飲まれるように、俺たちはそのまま扉の中へと足を踏み入れる。

 

 ──視界が一気に開ける。

 

 そこは巨大なコンサートホールを思わせる異様な空間だった。

天井からは無数の鍾乳石が牙のように垂れ下がり、壁面も黒光りする岩肌に覆われている。中央には磨き抜かれた岩で造られた円形のステージ。

 

 そして正面には、異形の美と不気味さを併せ持つ巨大なパイプオルガンが鎮座していた。

そのパイプにはタコを思わせる奇怪な装飾──脈動しそうな触手が絡みついており、今にも動き出しそうだ。

 

「あれが……」

 

 中央部、せり上がった鍾乳石の玉座。

そこに黄金の椅子を背に、堂々と座す一人の魔物。

 

 黄色の衣を纏う姉妹団、その頂点に立つ指導者──瑠渦。

 

「どうしますの? とりあえず殴ってから考えてみます?」

 

「いや、それは流石に不味いだろ……! アタシもそうしたいけど、この数は無謀だって」

 

 俺たちは数多の団員に紛れて、パイプオルガンの近くで作戦会議を始める。

ちらちらと瑠渦の様子を見ながら、小声で意見を交換する。

 

「パイプオルガンの演奏が終わったら、エヴァを連れて逃げるべきだろうな。内部の構造を熟知してるエヴァが居れば、作戦の立案が楽になるはずだ」

 

「それが一番堅実だな。よし、切り抜けたら速攻でどこでもてれぽくんで脱出だ!」

 

 俺とアイシスが作戦を詰めている間、いつの間にかぺこはステージへと上がっていた。

観衆のざわめきがすうっと溶ける。場内が、空気すら息をひそめるように静まり返る。

 

 その張り詰めた沈黙の中──瑠渦が優雅に立ち上がった。

 

「ロビリッチよ。今日も黄衣の王たる余のため、その旋律を捧げよ。ここに居る皆で、存分に愉しませてもらおう」

 

 俺は瑠渦の様子を見て、違和感を覚えた。

以前にヴィジョンで見た彼女の印象と大きく異なっていたからだ。どこか愛嬌のある雰囲気から一変し、あのときと比べると別人のように見える。

 

「……まさかな」

 

 ぺこは静かに一礼すると、無言のまま鍵盤へ指を置く。

ひと呼吸──そして音が溢れた。

 

 重厚な響きが洞窟内で反響し、柔らかな音の波が波紋のように広がっていく。

音が徐々に重なり合っていき、論理的な調べが美しさを産み出していく。複数の旋律が絡み合い、一つの楽曲を形成していく。

 

「魔王城にもパイプオルガンはあったけど……この曲は初めて聞いたな」

 

「俺の前世で覚えてたやつだ。まさかここで披露することになるとは思わなかったが」

 

「ほわぁ〜……! 素晴らしいですわ〜!」

 

 アイシスは感嘆の息を漏らし、エクレアは頬に手を当て恍惚とした表情を浮かべている。

俺がそこまで細かく教えたはずもないのに──ぺこは、完璧だった。敵のど真ん中という状況を考えると場違いな感想かもしれないが……エクレアの言葉に深く頷きたくなる。

 

「この曲は……」

 

「…………」

 

 ミクリとシェーディは黙って音色に聞き入っていた。

 

「もぐもぐ……」

 

 そのすぐ隣で、エヴァは変わらずチーズを頬張りながらステージをぼんやり眺めている。

この緊張感の中で、よくもまぁ平常運転でいられるものだ。ある意味、誰より肝が据わってる。

 

 視線を前に戻すと──瑠渦もまた、目を閉じ静かに演奏へ身を委ねていた。

その表情は険しさなど微塵もなく、純粋に音を楽しんでいるように見える。

 

 少なくとも、今のところは怪しまれていない。

俺はそっと小さく息を吐き、胸の奥に溜まっていた緊張をわずかに解き放った。

 

 ・・・・・ 

 

 ぺこの演奏が終わり──深い静寂が集会場を支配した。

本来なら拍手が巻き起こるべき瞬間だ。

 

 なのに、空気は止まったまま動かない。

あまりに不自然な静けさに、俺は喉が鳴るのを抑えられなかった。

 

「お、おい……。なんかおかしくねえか?」

 

「……」

 

 俺は返事もせず、ただ瑠渦の動向に全神経を集中させる。

 

 瑠渦はゆっくりとまぶたを持ち上げ──。

その口元を、不気味な三日月に歪めた。

 

「──小フーガ!! この曲を耳にするのは、何億年ぶりであろうか……。これは、かつて地球という惑星に棲息していた霊長類が生み出した──」

 

 俺は反射的に弓を構え、言葉の途中で矢を放つ。

アイシスがエヴァの腰を抱えて後方へ跳び、ミクリとシェーディは弾かれたようにステージへ駆け出した。俺も駆けながらぺこの横へ並び立つ。

 

 瑠渦が咄嗟に手を翳すと、空中の矢が押し潰されたように消滅した。

黄金の瞳がギラギラと輝き、心底嬉しそうな笑みを浮かべる。

 

「くくく、野生の子羊が迷い込んでおったか……」

 

「やっちまった……!」

 

 俺は己のミスを悟った。

この曲を知っている存在など居ないと決めつけた思い込みが、潜入を失敗に導いたのだ。

 

「ほう……細胞単位で姿を変えておるか。余の視線を欺くとは、なかなかの芸当よ」

 

「褒められても嬉しくはないな」

 

 ぺこは身を震わせ、ぐにゃりと形をほどきながら、元の姿へと戻っていく。

俺たちはすかさず武器を構えたが、内心では冷たい汗が止まらない。正直なところ、この状況は最悪だ。

 

 周囲を囲む団員たちは微動だにせず、沈黙したままこちらを凝視している。

その顔には生気の欠片もなく、不気味なほど整然とした表情──感情を読ませない無の目だ。

 

「まあ、慌てるな。魂の色を見るに……羊飼いは、そこの男か?」

 

「……アイシス、ビーコンは?」

 

「とっくに発信してる! けど……反応がねぇ! 完全に遮断されてる!」

 

 どうやったのかは分からないが、脱出手段が封じられている。

絶体絶命の危機の中で、俺はどうにか隙を作る方法を考えていた。

 

 ──俺はどうなっても構わない。

この身がどう潰れようと、仲間たちだけは逃がす。その覚悟だけを胸に、指が震えるのを必死に堪えていた。

 

「余と同じ世界に生まれ落ちた同胞よ……この姿で対面するは、いささか礼を欠くか」

 

「なにを──」

 

 意味の掴めない言葉。問い返すより早く、瑠渦は玉座へと悠然と腰を下ろした。

黄金の椅子が軋むように光を震わせ、次の瞬間──彼女の肉体から、蒸気にも似た黒煙が噴き上がる。視界が揺れ、煙がねじれるように集まり、空中に巨大な影を結んでいく。

 

「──余は、黄衣の王、ハスター。名付けられざりしもの……」

 

 現れたのは、禍々しい超越者と呼べる存在。

黄色いローブ姿に、手からは無数のタコを思わせる触手が伸びている。背にも触手が生えており、髪が垂れ下がって顔を隠し、ギザギザとした歯が狂気を思わせる三日月に浮かんでいる。

 

 あまりの重圧な邪気に膝が折れそうになり、俺は歯を食いしばる。

ブラディと対峙したとき以上の絶望感が、身体中を包み込んでいく。

 

「いあ! いあ! はすたあ!」

 

「ぶるぐとむ! ぶぐとらぐるん! ぶるぐとむ!」

 

「あい! あい! はすたあ!」

 

 団員たちが、まるで一つの器官であるかのように声を揃えた。

その瞳には感情の揺らめきひとつなく、ただひたすらにハスターを崇め奉る、操り人形のような歓喜の光が宿っている。

 

 この場にいる全員の理性が、狂気の波に飲み込まれようとしていた。

 

 ・・・・・ 

 

 団員たちがじり、と歩み寄り、俺たちをぐるりと包囲する。

 

 息が詰まるほど近い距離。

頭上からも視線が降り注ぎ、完全に逃げ道が消え失せていた。ハスターの歪んだ口元がゆっくりと吊り上がり、愉悦の色を濃くして俺たちを見下ろす。

 

「甘美で懐かしき曲を聞かせてくれた礼だ……」

 

「──ぐっ……!?」

 

「ヴェーク!!」

 

 見えない力が襲いかかり、俺の体はふわりと宙へと引き上げられた。

磔にされたように両腕が固定され、関節が悲鳴を上げる。足が宙を泳ぎ、地に触れられない恐怖が背筋を走った。

 

 必死にもがくが、まるで自分の体が他人のものになったかのように動かない。

視線だけを動かして仲間を探すと──同じく空中に縫いとめられ、苦しげに顔を歪めていた。

 

「余の配下となるがいい。そして……土着神に封印された間抜けに対し、共に愉快な嫌がらせをしてやろうではないか?」

 

 耳障りなほど甘く響く声。

その誘いに対し、俺は喉を焼くような痛みを堪え、睨み返すことでしか抵抗できなかった。

 

 ハスターはそんな俺の反応すら玩具にするかのように、さらに笑みを深くする。

そして、椅子にもたれ眠っている瑠渦へと視線を流した。

 

「ベルゼバブの子たちは、あの忌々しい緑魚に葬られてしまったからな……。さあ、今度の世界では──」

 

 次の瞬間、ハスターの顔面に拳がめり込んだ。

勢いよく後方に吹き飛ばされ、俺は解放されて地面に落下する。しかし、痛みは感じなかった。ミクリが受け止めてくれていたのだ。

 

「…………」

 

「シェーディ!」

 

 尻尾を竹とんぼのように回転させ、シェーディがブラブラと空中に浮いていた。

ハスターが飛んでいった方向をじっと見つめ、包丁を構えている。

 

 土埃の奥でゆらりと影が揺れ、ハスターが姿を表す。

その顔には深い苦々しさが刻まれており、先ほどまで浮かべていた邪悪な笑みは、跡形もなく消え失せていた。

 

「貴様……。余の子羊たちを滅ぼした……!」

 

 怒りに震える声音が、地面ごと震わせるかのように響き渡る。

 

「…………」

 

「娘たちの不始末を片付けに来ただと……? 面白い……。こうなれば余が直接、手を下してやろう……!」

 

「──不味い! 伏せろ!!」

 

 シェーディとハスターの合間に、膨大な魔力の奔流が迸る。

空気が圧縮され、まるで重力が何倍にも増したかのような重圧が全身にのしかかった。膝は勝手に地面へ押しつけられ、呼吸すら奪われる。

 

 それでもなんとか這々の体で這い出し、仲間たちの場所に向かう。

 

「ぐっ、このままじゃ──」

 

 周囲の空間がみしみしと歪み、世界そのものが悲鳴を上げるように、眩い閃光が奔った。

俺は反射的に仲間の前へ飛び出し、盾となるよう腕を広げる。背中越しに、襲い来る暴風の圧が容赦なく叩きつけてきた。

 

 ミクリは必死に結界を張り続けているが、その額からは汗が滴り落ち、魔力が枯渇しかけているのが見て取れる。

アイシスとエクレアも膝をつきながら、なお闘志の灯火だけは消さずに睨みつけていた。

 

 だが――ハスターに抵抗できるほどの力は持っていなかった。

 

「■■■■■──!!」

 

「…………!!」

 

 空間がばきばきと音を立ててひび割れていき、そこから覗くように黒い亀裂が広がっていく。

底知れぬ闇が口を開け、渦巻く暗黒の魔力が噴き出そうと膨れ上がった、その刹那――。

 

 シェーディとハスターの姿が、光ごと闇へ吸い込まれるように掻き消えたのだ。

残されたのは、耳鳴りと、信じられないほどの静寂だけだった。

 

 ・・・・・ 

 

 それからのことは、あっけなく終わりを迎えた。

シェーディとハスターが闇へと消え去った瞬間、黄色の衣の姉妹団の団員たちは次々に崩れるように倒れ込んだ。糸で操られていた人形が、突然手を放されたかのように。

 

 しばらくして彼女たちはゆっくりと意識を取り戻し、きょとんとした目で周囲を見回した。

洗脳が解けたのだ。彼女たちは全員記憶が曖昧で、何が起こっていたのか理解できていない様子だった。

 

 外で待機していたエデンと攻撃隊が中に入り、団員たちは捕らえられた。

そのあと、瑠渦を含めた全員が深い洗脳下に置かれていたことが判明し、責任を問うべきではないとの判断が下された。

 

 彼女たちは被害者だったのだ。

 

 団員たちはそれぞれイリアスヴィル、または故郷へと送還され――こうして今回の任務は、静かに幕を閉じた。

 

 俺たちは黄色の衣の姉妹団の本部で後処理を手伝いながら、シェーディを探した。

だが、結局──シェーディは見つからなかった。

 

「見つかりませんでしたわね……」

 

「そうだな……」

 

 シェーディの行方は掴めぬまま、俺たちは捜索を一旦切り上げ、イリアスヴィルへと帰還した。

 

 ほんの短い時間だった。

それでも――シェーディは間違いなく、力の同盟の仲間だった。

 

 エクレアもアイシスも、普段の強気な表情が嘘のように沈んでいる。

ミクリもまた、悲しげに視線を落としていた。

 

「シェーディのお陰で我らは助かったのだ。悲しんでばかりでは……きっと向こうも心を痛める」

 

「そうだね……」

 

「でもよお、悲しいモンは悲しいぜ。今日は、もう……ドロドロになるまで酔っ払いてぇ気分だ」

 

「……そうしよう。今日は、思いっきり呑もうか」

 

 本当なら、あまり良い呑み方ではない。

ましてや、ブラディとの戦いが続いているこの状況で、泥酔するなど褒められた選択じゃない。

 

 それでも――今はただ、仲間の喪失が胸に重すぎた。

 

 こういうときは、羽目を外すのも必要だと思う。

それに、シェーディを忘れないためにも、みんなと一緒に騒ぎたいという気分だった。

 

 ・・・・・ 

 

 俺たちは、開戦前にも訪れた酒場へと足を運んだ。

 

 時刻はまだ昼。

客もまばらで、どこか落ち着いた空気が流れている。

 

 そんな中、カウンターの方が妙に騒がしいことに気づく。

興味本位で俺たちが覗き込むと──信じられない光景を目にした。

 

「ワーハッハッハッハ……!」

 

「…………」

 

「グビグビグビ──ミルクだ、これ!」

 

 そこには、シェーディとハスターが肩を並べて、当然のような顔でジョッキいっぱいのミルクを飲んでいた。

白い口ひげまでつけて。

 

 シェーディは俺たちに気づくと、ぱっと目を見開き、椅子からひょいと飛び降りる。

そして、心底嬉しそうに、子供みたいに両手をぶんぶん振り回す。

 

「──シェーディですわ~!!」

 

「…………!」

 

 弾けたように駆け寄るエクレア。

勢いのままシェーディに抱きつき、その身体をしっかりと腕に閉じ込める。

 

 シェーディも、ぎゅっと抱き返した。

尻尾が楽しげに高速で揺れている。

 

「シェーディ、無事で良かった……」

 

「我も嬉しいぞ……。だが……」

 

 ぺこはじろりと、シェーディの隣の存在へ視線を滑らせる。

 

「おお、あの時の羊飼いと子羊たちではないか。この緑魚の親玉を一刻も早く引き取ってくれないか? ここまでお喋りな生き物と何百年も居ると、余とて発狂しかねん……」

 

「……シェーディって、お喋りなのか……?」

 

 意外すぎる言葉に、俺は思わず眉をひそめる。

聞きたいことは山ほどある。どうしてここにいるのか、あのあと何があったのか。

 

 よりにもよって、なぜハスターと並んで酒場でミルクを飲んでいるのか。

 

 それでも今は――。

俺はただ、仲間が戻ってきたことを心から喜びたいと素直に思った。

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