進め! 我らは力の同盟!   作:クラウス道化

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(46)無尽大帝ノ襲来! 力の同盟!

 俺たちはハスターから事の顛末を聞くことになった。

そのあいだ、何か頼まないのも悪いので、とりあえずミルクを頼むことに。

 

「余とシェーディは、高次元域で戦いを行った。結果として余が先に音を上げることとなったのだ。言っておくが、余は決して負けたわけではない。が……四六時中話しかけられては、精神的に敵わなかった……」

 

 肩を落とし、力の抜けた声で呟く姿は、俺の知る邪神のイメージとはまるで違う。

あれほど恐ろしく感じていた存在が、こんなにも疲弊した顔を見せるとは思わなかった。

 

「ワタクシもシェーディとお喋りしたいですわ~!」

 

「…………」

 

「使う言語が違うのだ。余には聞こえているが──ああ、そうかそうか。力の同盟は、みんな可愛い可愛いと、そう言っているぞ……もう数万回は聞いた。それと、注射が嫌いなのは分かった……」

 

「なんか、大変だったんだな……」

 

 あまりにもげっそりしている様子のハスター。

敵ではあったものの、ここまで疲労困憊していると、さすがに同情心のひとつも湧いてくる。

 

 それから、ハスターの計画を聞いた。

どうにも、瑠渦の姉妹で埋め尽くされた並行世界があったらしく、彼女はその世界を支配して、自身の戦力として使う予定だったらしい。

 

 そして、特異点世界――。

俺たちの世界に封印されている、邪神の中でも特に仲の悪い“クトゥルフ”に戦争を仕掛けるつもりだったという。

 

「だが、その野望は潰えた。この緑魚の娘たちが余の軍勢を殲滅してしまったのだ。混沌の底で掃除屋をするだけはある……」

 

「おいおい! シェーディって母親だったのかよ!? 全然見えねえな~!」

 

「ふむ……。トンベリ娘は、種を良き土に埋め、水をかけると生まれるらしい」

 

「栽培ではないか……」

 

 ぺこが呆れた声でぼそっと突っ込む。

シェーディには膨大な数の娘が存在しており、本人も『今いる子供が何人目か』など、とうに忘れたらしい。ただ、すべての子供の名前と、長女がトゥーンという名であることだけは覚えているという。

 

 それから、シェーディの種族名もようやく判明した。

“トンベリ娘”と呼ばれ、混沌と呼ばれる空間の最奥──俺たちがこの世界に来る途中で通った場所で生活する種族だそうだ。

 

 そしてシェーディはその中でも、特別な存在――。

“クィーントンベリ”と呼ばれる、頂点に立つ魔物なのだという。

 

「はー、そりゃ強いわけだ。クィーンクラスの魔物だったなんてなあ」

 

「まあ、余との長きに渡る争いで、今はかなり消耗しているがな」

 

「…………」

 

 シェーディは無言のまま、むんっと腕に力を込めて見せる。

しかしすぐにぷるぷる震えだし、情けなく力が抜けて、そのまま椅子にぺたりと腰を落とした。

 

「それにしても、これはうまいミルクであるな……」

 

「今までの経緯は分かったよ。それで、ハスターはこれからどうするんだ?」

 

「一度、引き分けたのだ……もう手を出さん。そうだ、記念にこれを渡しておこう」

 

 ハスターは懐から一枚の紙片を取り出して俺に手渡した。

薄く黄ばんだ紙に、黒いインクが血管のように脈打つ禍々しい文字列。黄色の衣の姉妹団の団員が詠唱していた呪文と同じものだ。

 

「これは……?」

 

「余を讃える呪文よ。これを唱えれば、余が一度だけ降臨し、助けてやろう。対峙する相手がクトゥルフならば――何度呼んでも構わんがな」

 

 ハスターは舌なめずりをしながら、口の端を吊り上げる。

クトゥルフに対する恨みの深さが、その表情だけで嫌というほど伝わってきた。

 

「では、緑魚を届け終えたことであるし、余はゆくぞ。敬虔なる羊飼いに子羊たちよ……。機会があればまた、深淵で相まみえようではないか……」

 

 不気味な笑い声を響かせながら、ハスターは店の外へと消えていく。

 

「……なんか、大変な相手に目を付けられた気がする」

 

「そうだ──」

 

 ぺこが俺の言葉に同意しようとして──。

また酒場の扉が開いた。そこにいたのは……ハスターだった。

 

「すまん、店主よ。会計を忘れていた……」

 

「払ってくれるなら何もしねえよ! ……虚竜閃をぶち込む準備が無駄になっちまったな」

 

 ハスターはバツの悪そうな顔をしながら頭を掻き、財布を取り出した。

 

 ・・・・・ 

 

 せっかく酒場に寄ったのだから、何か食べていこう――そんな話になった。

俺としても、シェーディが無事帰ってきた記念に、今日は遠慮なく騒ぎたい気分だった。

 

「わわわ~わ~い!」

 

「…………」

 

「も、盛り過ぎじゃねえのか……?」

 

「ははっ! 俺からのサービスだよ! サービス! この料理の名は“最強パワーもりもり定食”だからな! 食う奴に合わせて量を変えてんだ! 今日は、いもう──」

 

「イモ? イモは嫌だ……!」

 

「……ああいや、なんでもねえよ! イモは入ってねえ。米も衣も野菜も、肉百パーセントで出来てるぜ!」

 

「すごいぞ……はやいぞ……うまいぞ……!」

 

 エクレアに手を引かれるまま、シェーディはステージの上でぎこちなく踊っている。

ぺことアイシスは、店主のサービスで大量に盛られたステーキの山と格闘しており、ミクリは忘れ物を取りに宿へと戻っている。

 

 俺は賑やかな景色を眺めつつ、少しだけ肩の力を抜いていた。

そんなタイミングで、隣の席にひょいと誰かが座る。ローブ姿――どこかで見た顔だ。

 

 俺はふと思い出した。

潜入任務中、ロビリッチに面接を受けていた魔導師だ。あのあと、イリアスヴィルに保護されていたのかもしれない。俺はなんとなく、声をかけることにした。

 

「はじめまして、俺はヴェーク。君は?」

 

「私は森羅万象を知り、深淵の真理に到達した……全てを識る者」

 

「あっ、えっと……すごいですね」

 

「それほどでもない……。私は全てを識る者なのだから……」

 

 俺はちょっと後悔し始めた。

かなり濃い魔物のようで、関わらない方がよかったかも知れない。俺は少し黙っていたが、沈黙が耐えきれず口を開いた。

 

「調子はどう?」

 

「個人的には悪くない……。でも、あそこに居るヴェルベラがスミレと口論になる。怒ったスミレは盆を投げて私の注文したサラミサンドに当たるから、これを八秒以内に横へと避けなければならない……」

 

「おら、サラミサンドお待ち!」

 

 ちょうど料理が届いたタイミングで、別のカウンターから怒号が飛び交った。

視線を向けると、植物族の二人が葉っぱを揺らしながら対立している。

 

「お味噌汁にイモは入れないわよ! 頭おかしいんじゃないの!!」

 

「具が全部肉よりはマシです!」

 

 全てを識る者はサラミサンドが乗った皿を横にずずずと避難させた。

その数秒後、口論をしている植物族の片方が持っていた盆を飛ばした。

 

 盆は一直線に進み、先ほどまでサラミサンドがあった場所に直撃する。

俺がそれを見て驚いていると、全てを識る者は続けた。

 

「このサラミサンドを食べるせいで、私は胃がもたれるかもしれない……。だけど、あなたの連れである白天狐が煎じた胃腸薬をくれるから、心配は無用……」

 

「……」

 

 まるで未来を知っているかのような言葉だ。

全てを識る者はサラミサンドをパクパクと食べると、水を一口飲む。その姿は味わっているというより、“決められたことをただ淡々とこなしている”という風だった。

 

 俺は唖然として彼女を見ていると、酒場の扉が開く。

そこに居たのは、ミクリだった。

 

「遅くなってごめん……。あっ、そのサラミサンド……」

 

 ミクリは全てを識る者が手に持つサラミサンドを見て、はっと目を丸くする。

少し慌てて懐を探り、白い紙に包まれた小さな包みを取り出した。

 

「はい、消化を助けてくれるお薬……。ミクリ、この街に来て初めて食べたとき、もたれちゃったんだよね……。すごく美味しいんだけど……」

 

「あなたがこうして薬を分けてくれるのも、私は識っていた……。この未来になったということは、私はそろそろ街を出なくてはならない。下らない争いと、分かりきった終幕が迫っている……」

 

 全てを識る者はそう言うと、薬を口に含む。

水を一口飲んでから、ゴールドを置いて席を立った。

 

「私が円環の終わりを迎えるには、力の同盟が必要……。第八世界からの来訪者よ──空から来た小さな天使と、からくりの器に囚われた娘を助けるように……」

 

「──!! お前は──」

 

 俺は席を立ち上がり、全てを識る者に詰めかけようとした。

しかし、全てを識る者の輪郭は蜃気楼のように揺らめき、消え去ってしまった。周りを見ても、彼女の姿は何処にもない。まるで最初から存在しなかったかのようだ。

 

「どうしたの、ヴェーク……?」

 

「あ、いや……今の魔物って──」

 

 俺がミクリに返事をしようとした瞬間、店の外で爆発音が響いた。

 

 ・・・・・ 

 

 俺たちは慌てて店を飛び出した。

街の一角――いくつかの建物が巨大な岩石に覆われ、まるで地面ごと飲み込まれたかのように沈んでいる。

 

 中からは、かすかに『ドン、ドン』と叩く音。

どうやら、魔物も天使たちも中に閉じ込められているようだった。

 

「どうなってる……!?」

 

「これは……陰陽術だな。たまもが似た術を使っていたのを見たことがある」

 

「それならば! 叩いて壊せば──痛いですわ~!!」

 

 エクレアが勢いよく拳を振り下ろす。

しかし、岩の表面がパラパラと崩れただけで、びくともしない。

 

「マジか! エクレア、また筋トレサボっただろ!」

 

「サボってませんわ~! きちんと毎日タンパク質を摂っていましたのに~!」

 

「アタシがやる! 下がってろ! ──うおおおぉぉぉ!!」

 

 今度はアイシスが全力で殴りつける。

だが──。

 

「硬ってぇ!? 炎拳氷巴を使わねぇと壊せねぇぞ、こりゃあ……!」

 

「脳筋が壊せないとなると……ミクリ、陰陽術で何とかできないか?」

 

「難しい……」

 

「…………」

 

 ぺこがミクリに問いかけるが、首を横に振る。

どうやら、高度な技術が使われているため、ミクリでは解くことができないそうだ。アイシスが一応壊せるようだが、大技を使用しなければならないとのこと。

 

「アイシス、何回使える?」

 

「あー、三回ってとこだな……。それ以上は魔力が切れて、動けなくなっちまう」

 

「やめておけ。壊したとしても、自動で修復するかもしれん」

 

 ぺこの言葉に、アイシスは歯噛みする。

時間帯が昼であることもあり、ちょうど昼食を食べに来ていたものが多数閉じ込められてしまっている。俺は通信機を使い、メフィストに連絡をする。

 

『申し訳ありません……。幹部を含め、イリアスシェルター内に大多数が閉じ込められています。天使長も弱体化しており、中からは破ることができません……!』

 

『やってみなきゃ、分かんねぇだろ!! うおおおぉぉぉ!! この程度の岩、俺がぶっ壊してやる!!』

 

『無駄に手を痛めるだけですよ、天使長。これは非常に強力な陰陽術です。内部から破壊することは極めて難しいでしょう。術者を無力化するか、起点となっている物を破壊しなければ……』

 

 俺はメフィストの指示を聞いて、急いで周りを見渡す。

しかし、それっぽいものは見当たらない。

 

『痛ってぇ!? でも、武器がありゃワンチャン……おい、ガブリエラ! ちょっと棍棒になってくれよ!』

 

『はあ!? 嫌に決まって──』

 

 通信に突然ノイズが走り、沈黙する。

どうやら通信妨害をされているようだ。イリアスシェルターが気になるが、今はそれよりも優先しなければならないことがある。

 

「正面に行こう!」

 

 これは明らかに敵の襲来だ。

内部が混乱している隙を突かれれば、イリアスヴィルはひとたまりもない。

 

 俺たちは急いで城門へと走り出した。

 

 ・・・・・ 

 

 イリアスヴィルの外には、信じられない光景が広がっていた。

門番の天使たちが城壁に叩きつけられており、ぐったりと倒れている。息はなんとかあるようだが、どう見ても戦える状態ではない。

 

 俺は外へと視線を向けた。

荒野には無数の剣や槍が突き刺さり、冷たい風に金属が不気味に鳴っている。

 

 その中心――魔物が静かに立っていた。

 

「……」

 

「アスカノミコト──」

 

 そこに立っていたのは、アスカノミコトだった。

まさに覇気と言うべきものを全身から放っている。思わず後退りしてしまいそうだ。

 

「……エクレア。作戦の準備をしてくれ」

 

「そ、それは良いですが……」

 

「大丈夫だ。──俺たちで時間を稼ぐ。行け!」

 

 俺の言葉を聞いたエクレアは、急いでイリアスヴィルに戻る。

だが――アスカノミコトは一歩も動かない。まるで、俺たちを値踏みするように静止していた。

 

「随分、ゆっくりしてるじゃないか?」

 

「……そのお声は……」

 

 俺の声に反応して、アスカノミコトはゆっくりと瞼を開けた。

凍てつくような視線が、じっとこちらを貫く。SNSでしか交流がなかったため実物は知らないのだが、自分たちの世界の飛鳥命も、こんな風に凜としたエルフなのだろうか。

 

「このような機会、訪れようとは……」

 

「よお! アスカノミコトさんよお! こっから先は進ませないぜ!」

 

「アイシスの言う通りだ。進みたければ、我らを倒してからにするといい」

 

「…………」

 

 アイシスとぺこが挑発し、こちらに引きつけようとする。

シェーディも包丁を構え、臨戦態勢を整えていた。俺も弓を取り出し、矢を番えながらアスカノミコトを見据える。

 

「一人で来るなんて、随分と自信があるみたいだな」

 

「我は無尽大帝、一騎当千の覇者なり……。兵など居らぬとも、戦の形は変わらぬ……。一戦交える前に、あれを見たほうが良いのではないか……?」

 

 そう言って、アスカノミコトは後方を見る。

俺たちは警戒を解かぬまま、その方向を凝視する。

 

 そこには、鉄製の柱が立っており、誰かが縄で縛られて吊るされていた。

まさか、誰かが人質にされたのか。

 

 俺は焦りながら目を凝らすと、縛られているのが誰なのかわかった。

その正体は──。

 

「……ミクリ?」

 

「なんだと!?」

 

「なあ!? これも陰陽術か忍術の類か!?」

 

 吊るされていたのは、どう見てもミクリだった。

 

 ・・・・・ 

 

 ミクリは目には黒い布が巻かれており、視界を塞がれている。

口も縄で塞がれており、拘束は厳重に施されていた。足を物凄い速度でジタバタさせて暴れているが、拘束から抜け出すことができずにいる。

 

 俺は隣に居る、ミクリに恐る恐る目を向けた。

 

「なあ、ミクリが吊られてるぞ……。えっと、ミクリ……?」

 

「……くく」

 

 ミクリは賭け事で勝ったときのような意地の悪い笑みを浮かべる。

俺たちはミクリからゆっくりと距離を取る。すると──。

 

「──我が真身よ、在れ」

 

 ミクリはそう言って、取り出した扇子を開く。

すると、みるみるうちに体が変化していき──。

 

「ミクリとは──妾の幼名。妾の名は白天狐……この姿こそが真身よ!」

 

 その姿は、ミクリが成長したらこうなるであろうと思わせる姿。

九本の尻尾が揺れ、こちらを愉快そうに見ている。俺たちはぽかんと口を開けたまま、立ち尽くしていた。

 

 ミクリ──いや、白天狐は楽しそうにクスクスと笑う。

 

「異なる世界の幼き妾が世話になったようじゃのう?」

 

「おいマジかよ! ミクリって成長したらこんなになるのか~! 今のうちに唾つけ──」

 

「…………」

 

「今はそんなことを言っている場合じゃないだろう……!」

 

 大興奮のアイシスに対し、ぺことシェーディが背中を叩く。

俺も同じことをしようとしていたので、先にしてくれた助かった。

 

「いつから、変わってたんだ?」

 

「お主たちが迷いの森に行った時よ……。あの腹黒天使は少しは役立ったのう。異なる妾の記憶を読み、入れ替わる時間を稼いでくれた。……まあ、想定外のこともあったが」

 

 そう言って、白天狐は尻尾を撫でた。

よく見ると、白くモフモフの尻尾に黒く焦げたような跡が大量についている。

 

「異世界の妾はどうなっておる? 目からビームが出せるようになるなど……」

 

「それについては、俺も良くわかってない……」

 

「……まあ、よい。さてさて……妾とアスカノミコト殿、ご相手を願いましょうぞ……」

 

 俺の額に、冷や汗が流れる。

あの陰陽術を使ったのは、間違いなく白天狐だ。実力はかなりのものだろう。

 

 背後には白天狐、前にはアスカノミコト――挟み撃ちの形になっている。

俺は危険だが、一つの賭けに出ることにした。

 

「……アスカノミコトは俺が相手しようと思う。他の三人は、白天狐の相手をしてくれ」

 

「ヴェーク! それは危険すぎるぞ! せめて、我が──」

 

 俺の言葉を聞いて、ぺこが前に出て止めようとする。

 

「アスカノミコトの戦い方については、俺が一番知ってる。……まあ、別の世界の彼女のことだけど」

 

「……分かった! じゃあ、背中はアタシらに任せな!」

 

「無茶はするなよ……」

 

「…………」

 

 アイシスはニッと笑って、俺の肩を叩く。

ぺことシェーディは納得していないようだが、今回は見逃すとばかりに溜息を吐く。

 

「……待たせたな、俺が相手だ」

 

「一応、名を聞いておこう……」

 

「ヴェーク。冒険家だ」

 

 アスカノミコトは俺の名を聞き、僅かに目を揺らす。

そして、大きな袖から腕を出し、扇子で口元を隠す。

 

「なんと……。このような機会が来るとは……」

 

「……?」

 

 妙な反応だが、アスカノミコトの闘志は揺らいでいなかった。

むしろ、滾っているようにさえ思える。もしかすると、ブラディ辺りに俺のことを聞いているのかもしれない。

 

「その名、嘘偽りではないな……?」

 

「ああ、そうだ」

 

「ブラディの無為な誘いに乗った甲斐があったというもの……! さあ、構えるがよい……!」

 

 アスカノミコトの袖から、腕が伸びる。

錫杖と刀を同時に持ち、それに加えて二本の空いた手と扇を携えている。

 

「……ん?」

 

 俺は目をしばしばさせる。

錫杖と刀を同時に持ち、それに加えて二本の空いた手と扇を携えている。

 

 ……どう見ても、腕が六本ある。

目を擦ってみるが、変わらない。飛鳥命から、腕が何本もあるなんて話、俺は聞いたことがなかった。

 

「……やっぱり、誰か手伝って──」

 

 俺は振り返ると、白天狐と残りの三人が激突している。

 

「ヴェーク! こっちは任せとけ! うおおおお!」

 

「お主たちが使う手は、すべて把握済みよ……」

 

「そうか? ならば、これはどうだ!?」

 

「…………」

 

 明らかに俺に援護できるような状況ではなかった。

俺は振り返って、アスカノミコトと対峙する。

 

「……」

 

「迷えば、敗れるぞ……」

 

「──やってやろうじゃないか!!」

 

 俺は弓をしっかりと握りしめ、アスカノミコトに向かって矢を放った。

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