進め! 我らは力の同盟!   作:クラウス道化

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(18)故郷でまったり! 力の同盟!

 会話が終わると、俺はイリアス様と連れてきたメンバーたちを部屋へ案内した。

 

 ひとまず全員が腰を落ち着けたところで、俺は水晶端末へ目を向ける。

予想外の長旅に加え、次から次へと起きる騒動への対応に追われていたせいだろう。端末の通知欄は信じられないほど膨れ上がっており、未確認の印が画面いっぱいに並んでいた。

 

「話はまとまったようで──なんですか、この音割れした変な音楽と奇妙な画像は……」

 

「イタズラメッセージが送られまくってて……。プリエステスのヤツ、三百もメッセージを送って……。どれもこれも、同じ内容だし」

 

「…………」

 

「『超ウケる』って? まあ、面白い画像ではあると思うけど……」

 

 シェーディの話を聞き流しながら、俺は黙々とメッセージを削除していく。

本来なら一括削除の機能が備わっているはずなのだが、なぜか一件ずつ消すしかない仕様に改変されていた。削除を押しては次のメッセージが現れ、また削除しては同じ画像が表示される。その繰り返しである。

 

 特異的なAIの高度な技術力を、こんな悪質なイタズラのために発揮しないでほしい。

削除するたびに現れる同じ画像、同じ音。途中から腹が立つというより、妙な執念に感心し始めている自分がいた。

 

「グリーンな頭ちぃぱっぱのことはもう放っておきましょう。それで、影紬。仲直りは──まあ、言わなくても良さそうですね」

 

「助けてくれませんか? 女神イリアス……」

 

「ああ、これはこれは……! 再び顕現されたイリアス様にお会いできますとは、なんという僥倖でしょう……」

 

 陽絹は影紬をぎゅっと抱きしめたまま、当然のようにソファへ腰掛けていた。

頭を撫で、頬ずりをし、そのたびに影紬が露骨に嫌そうな顔をする。しかし陽絹はまったく気にする様子がない。むしろ愛おしそうに目を細めているあたり、余計に質が悪かった。

 

 それと、どうやらイリアス様と陽絹は以前から面識があるらしい。

少し意外に思い、俺はそのことを尋ねてみた。

 

「イリアス様、陽絹と会ったことがあるんですか?」

 

「ええ。あなたがルカに贈り物を用意していたでしょう? それを取りに来たときにバッタリと会ったんですよ。あの時は本当に驚きました」

 

「ああ……。そうだった」

 

 そう言われて、すぐに思い出した。

ルカくんが新たな勇者として旅立つことになったとき、俺は餞別として五万ゴールドを用意していたのだ。

 

 冒険者の先輩として、少しでも役立てばと思って渡したものである。

もっとも、最初から潤沢な資金を持たせるのも違うと思い、本当は最低限の額に抑えていた。冒険の苦労や工夫もまた経験の一つだと考えていたからだ。

 

 だが、その夜。

夢枕に現れたルシフィナさんが、もっと用意しなければ全身の骨を折ると言い出した。

 

 あれは本当に夢だったのだろうか。

今思い返しても妙に生々しかった。

 

 翌朝、目を覚ました俺は汗でびっしょり濡れており、なぜか涙まで流していた。

ぺこに本気で心配されたことを今でもよく覚えている。夢だったはずなのに、身体のどこかが痛かった気さえするのだから恐ろしい。

 

「それで、話はどうなったのです? 平和的に解決したのは判りますが」

 

「歴代影紬が編み出した千体を超える人形──彼女は数多の歴史を背負い、その完成形をもって影紬となりました」

 

「……なるほど。女神イリアスの名のもとに、一応祝福をしておきましょう。影紬、これからはこの地に生ける生命、その個の一つとして生きていくのですよ」

 

「良かったですわね~!」

 

「パチパチパチ……」

 

「…………!」

 

「シェーディも『ガチでオメタン! 嬉しすぎて十六の破滅!』だって」

 

「……まあ、はい」

 

 影紬はそっぽを向きながら短く答えた。

だが、その声に先ほどまでの棘はほとんど残っていない。二人の間には穏やかな空気が流れている。完全にわだかまりが消えたわけではないのだろうが、それでも互いを受け入れ始めていることは十分に伝わってきた。

 

 長い歴史と複雑な感情を抱えていた割には、随分と良い形で着地したのかもしれない。

そんな様子を見て、イリアス様は小さく息を吐いた。

 

「平和的に継承できたようで何よりです。……歴代の影紬は穏便にはいかなかったようですからね」

 

「えっ。……私、心臓をぶち抜いて世襲したんですけど。それよりも穏便にいかなかったんですか……?」

 

「……ふふ」

 

 相変わらず胡散臭い微笑みだったが、今だけは妙な迫力がある。

穏やかに笑っているはずなのに、どこか背筋が寒くなるような圧があった。

 

 イリアス様の口ぶりからして、どうやら笑い話では済まない過去がありそうだった。

陽絹の腕の中にいた影紬も、助けを求めるような目で周囲を見回している。

 

「私は以前、少し荒れていた時期がありましてね……」

 

「少し? あなた、自分のヤマタイでの異名を忘れましたか? “悪鬼羅刹”ですよ。残虐非道の限りを尽くして、たまもや当時の魔王からも問題視されていましたよね」

 

 イリアス様が呆れたように言った。

 

 どうやら陽絹は、昔は相当ひどい鬼だったらしい。

俺は陽絹と長い付き合いだと思っていたが、そういえば彼女自身の過去についてはほとんど聞いたことがなかった。

 

 今の穏やかで世話焼きな姿からは、とても想像できない話である。

むしろ困っている相手を見つければ放っておけず、余計なお節介を焼いて回る方の人間だ。そんな人物に『悪鬼羅刹』などという物騒な異名が付いていたと言われても、簡単には信じられなかった。

 

「今は昔の話ですよ、イリアス様。ちょっとばかし、かるーくおいたをしていて……」

 

「悪鬼羅刹……オババとオロチから聞いたことがある……! ヤマタイ戦国時代に、無差別に村々や強者から強奪して回った大犯罪者……! すごい、握手して……!」

 

「うふふ、照れますねぇ」

 

「……いや、握手を求めるのはおかしいだろ。アイドルじゃないんだから」

 

 イリアス様だけでなく、ミクリも知っていたらしい。

ヤマタイ出身者にとって、悪鬼羅刹は相当有名な存在なのだろう。

 

 話を聞く限りでは完全に大悪党なのだが、それでも今の陽絹と結び付かない。

どちらかと言えば、自ら暴れ回るというより、裏から糸を引いて事態を動かしていそうな印象の方が強かった。

 

「昔の趣味が略奪と破壊でして。それを繰り返しているうちに、とある家──二代目影紬の拠点に辿り着き、それを焼き討ちして。いやあ、あれは今思い出しても美しい炎でしたね……」

 

「……」

 

 影紬はついに陽絹の腕から逃れ、そそくさとシェーディの隣へ避難してきた。

その判断は正しいと思う。

 

「炎の中から一人の魔物が大層な道具箱を持って現れましてね。その魔物は私を見て『芸術家の才がある』と言い出して……」

 

「まあ、奇妙な感じの出会いだけど……そこから弟子になったのか?」

 

「いえ? その魔物を動けぬほど殴りつけたあと、燃え盛る炎に放り投げて、道具と資料を奪い、独学で魔芸の技を身に着けました。三代目も他の影紬候補をすべて打倒し、自分で名乗るようになったのですよ」

 

「……ええ~……」

 

 予想の斜め上どころではなかった。

魔芸の継承というから、俺はてっきり師弟の情や伝統ある儀式のようなものを想像していたのである。しかし実際に語られたのは、殴る、燃やす、奪うの三拍子が揃った、あまりにも力業な継承方法だった。

 

 師弟関係どころか加害者と被害者。

継承ですらない。ただの強奪である。

 

「まあ、そうでしたの? 影紬は野蛮ですわねぇ。ラ・モード家は代々、当主の座を穏便にダンスと殴り合いで決定してきた一族ですから、全然理解できませんわ」

 

「そっちもそっちで野蛮な方だろ……」

 

 思っていた以上に、とんでもない継承の歴史だった。

心臓をぶち抜いて代替わりした影紬も十分に酷いと思っていたが、話を聞く限り歴代も似たようなものらしい。むしろ比較すると、今回の継承の方がまだ理性的に見えてくるから困る。

 

「そのあと、私は人形遣いとしてヤマタイの外へと目を向けるようになり──そこで、イリアス様の教えと出会い、清く正しく平等あろうと心に決めたのですよ」

 

「……ソロミといい、あなたといい……どうして魔物の信徒はこう、変なのが揃ってしまうのでしょう……」

 

 陽絹の現在の人格形成には、イリアス様の教えが大きく関わっていたらしい。

もっとも、その信仰対象である女神様本人は、今にも頭を抱えそうな顔をしているが。

 

「……はあ、昔話はこれくらいにしておきましょう。陽絹、私たちは今──」

 

 そうしてイリアス様は表情を引き締める。

部屋の空気も自然と変わり、先ほどまでの和やかな雑談は終わりを告げた。イリアス様は、今の俺たち──そしてこの惑星そのものが直面している危機的な状況について語り始めた。

 

 ・・・・・ 

 

「なんとまあ……そのような存在がこの星に?」

 

「ええ。これはいわば聖戦です。信徒であるあなたには必ず手伝ってもらいますよ」

 

「ええ、ええ。もちろんですよ、イリアス様。この私、陽絹はあなたの敬虔な子羊なのですから」

 

「……こんな後ろから刺してきそうな子羊は嫌です」

 

 いつの間にか用意されていたお菓子と紅茶を楽しみながら、今の状況を陽絹に共有する。

陽絹は珍しく冗談を挟まず、深刻な表情で話を聞いている。指先で紅茶のカップを撫でながら、何かを計算するように静かに目を伏せていた。

 

「縮み石の加工は可能ですが……。溶かした鉱石を結晶化させるには高出力のエネルギーを照射する装置が必要です。一応、ここの地下に作った工房に一つありますが、大量に処理することは難しいですね……」

 

「そうなの──ん? 地下に工房?」

 

 聞き流しかけていた単語に、俺は思わず反応した。

陽絹はさらっと何と言ったのか。

 

「私専用の大工房ですよ。今は合一の影響で神殿の地下にあったワイン貯蔵庫と一緒になってしまっていますが……」

 

「……俺の不在中、勝手に作ったってことか?」

 

「町長さんに許可を取りましたよ」

 

「俺の許可は?」

 

 俺がそう言うと、陽絹はニッコリと怪しげな笑みを浮かべた。

家主が不在だからといって、どうして地下に工房を増築しているのか。滞在してもいいとは言ったが、そこまで自由にしていいとは言っていない。

 

 というか、工房だけではない。

気付けば家は神殿になり、地下には研究施設が増え、いつの間にか街の観光名所みたいになっている。もはや俺の家とは何なのだろうか。

 

「まあ、もう気にしなくてもいいではありませんか。今は私を称える美しい神殿になっていることですし」

 

「そう、ですけど……」

 

 俺は何とも言えないモヤモヤを覚えた。

だがイリアス様の言う通り、今の俺の家はごく一部しか残されていない。それに、今は家の改築問題より優先すべきことがある。俺は気持ちを切り替え、本題へ戻った。

 

「なら、影紬と協力して機械を作れないか? 予備のボディがもう存在してなくて、陽絹なら用意できると思ったんだけど……」

 

「おやおや……それなら、今から制作しなくても大丈夫ですよ。ほら、ここにあります」

 

 そう言うと、陽絹は部屋のクローゼットへ歩み寄った。

どこか得意げな様子で扉を開く。

 

 なんとそこにあったのは、影紬のボディ──だったのだが。

 

「なんだこりゃ……」

 

「なんだか、腹の立つ顔立ちをしていますね……」

 

「そうかな……ミクリは結構好きかも……」

 

「可愛いですわ! 可愛いですわ!」

 

 身体そのものは普通だった。

問題は頭部である。そこには、まるでヤマタイ土産の饅頭か何かのように丸くデフォルメされた影紬の顔が取り付けられていた。目は大きく、口は妙に開いたままで、絶妙に腹が立つ。

 

 可愛いのかと言われれば可愛い。

だが真面目な顔で見せられると反応に困る類の可愛さだった。

 

「まったり丸だぜ。今日はイリアスベルクの歴史について解説をするんだぜ」

 

「私が作った、まったり丸ですよ。普段は街で読み聞かせをさせています。結構、好評なんですよ?」

 

 独特で平坦な声で話し始めるまったり丸。

感情があるのか無いのか分からない抑揚で、なんだか気の抜ける声だ。

 

「……本当に私、元に戻るんですよね?」

 

 影紬が不安そうに後ずさる。

その気持ちはよく分かった。

 

「安心してください、影紬。まったり丸は本来、生首型の魔導人形ですからね。この首は着脱式になっていて……。ほら、取れましたよ」

 

「これは実に興醒めなんだぜ。こうなったら五代目影紬の座をこの手に収めるほかないんだぜ。そして最終的には全生物を隷属させ、意のままに操れる人形へと作り変えてやるんだぜ」

 

「この生首、凄く怖いことを言っています! 本当に大丈夫なんですよね!?」

 

「もちろんですよ、イリアス様。私が丹精込めて制作した人形が、恐ろしいことをすると思いますか?」

 

「実例がそこに居ます!」

 

 そう言って、イリアス様は影紬を指さした。

影紬はぽっと頬を染め、両手を頬に添える。

 

「いやあ、照れますね……」

 

「褒めてはいません! ほら、早く元の体に戻りなさい!」

 

「あっ、ちょっと……そこは敏感なところなんですから、もうちょっと優しく──」

 

 陽絹とイリアス様がアレやコレやしているうちに──影紬の体が元に戻った。

影紬はその場で軽く跳ね、指を握ったり開いたりして感触を確かめる。肩を回し、首を傾け、何度も身体の反応を確認していた。

 

 やがて満足したのか、小さく息を吐く。

その表情には、どこか安堵の色が浮かんでいた。影紬はくるりと振り返り、俺を見る。

 

「約束を守ってくれたことには、感謝しましょう」

 

「良かったな、影紬。これでヴェペリアも喜ぶぞ」

 

 俺は改めて影紬と向き合った。

こうして見ると、本当に陽絹とよく似ている。青紫の瞳と角が無ければ、双子と言われても疑わないだろう。

 

 それにお茶くみボディのときよりも、ずっと生気があった。

歴代影紬の面影はそこにあっても、もう誰の代わりでもない。

 

 俺にはそんなふうに見えた。

 

 ・・・・・

 

「ほら、影紬……改めて仲直りのハグをしましょう?」

 

 そう言って、陽絹は腕を大きく広げる。

それに対し、影紬は嫌そうな表情を浮かべるが、“はあ”とため息をつくと諦めた様子で陽絹に歩み寄る。

 

「ほら、感動的なハグを──すると思いましたか? 私はもうお茶くみボディではありません。自分の意志で行動できますので」

 

 陽絹の目の前でぴたりと足を止めると、影紬はぺろりと舌を出した。

そのままくるりと背を向け、プイッとそっぽを向く。完全な拒絶の意思表示──なのだが、不思議と険悪な雰囲気はなかった。

 

「おやおやおや。影紬は可愛いですね……。なら、こうしましょう。影紬……”恐縮ですが”、私とハグをしてくれませんか?」

 

「……ええ、構いませんよ」

 

「……ん?」

 

「これは……」

 

 返事をした瞬間だった。

影紬の身体がふらりと揺れる。

 

 まるで夢に浮かされるかのような足取りで歩き出し、そのまま迷いなく陽絹の胸へ飛び込んだ。

あまりにも自然な動きだったため、一瞬何が起きたのか理解できなかった。

 

 つい今しがたまで拒否していた相手へ、自分から抱きつきにいったのである。

部屋の空気が固まった。

 

「──はっ!? 私は一体何を!?」

 

「おやおや、もう離れてしまうのですか? もう少し堪能したかったのですが……」

 

 影紬は飛び退くように陽絹から離れる。

どうやら、自分の意思で動いていたわけではなさそうだ。影紬は混乱した様子で自分の身体を見下ろしている。俺は不思議に思っていると、イリアス様が納得した様子で頷く。

 

「フェイルセーフですか。お茶くみボディを作成する際に、解析で存在は分かっていましたが……特定の単語で発動するんですね」

 

「そのようなもの……私は全く……」

 

「まだまだ修行不足ですね、影紬。人形遣いとして、もっと精進しましょうね?」

 

 どうやら影紬自身も知らなかったらしい。

影紬は恥ずかしそうに俯いたあと、悔しそうに陽絹を睨みつけた。

 

「ぐう……わ、わかりました」

 

「一度やってみたかったんですよね、こういう師匠っぽいこと……。うふふ」

 

 陽絹は心底楽しそうだった。

一方、二人のやり取りをじーっと見つめていたシェーディが突然、立ち上がる。

 

「…………!」

 

「きゅ、急に何を──ああ~」

 

 次の瞬間。

シェーディが勢いよく影紬へ飛びついた。がっしりと抱きしめられた影紬は、抵抗する間もなくその腕の中へ収まる。

 

「シェーディがハグを見てたら、自分もしたくなったって」

 

「これが……心ですか……」

 

「ずるい……! ミクリも……!」

 

「ワタクシもやりますわ~!」

 

 ミクリとエクレアも飛び込んでいく。

シェーディは二人ごとまとめて抱き寄せた。小柄な身体同士が重なり合い、気付けば部屋の中央には謎の饅頭が完成している。

 

 陽絹はその様子を目を細めながら眺めていた。

そして静かに俺の隣へ立つ。

 

「この光景を守らなくてはなりませんね」

 

 その声には、いつもの冗談めいた響きがなかった。

だからこそ、自然と頷いてしまう。

 

「そうだな」

 

 イリアス様は小さく咳払いをする。

 

「意思表示はこれで十分でしょう。さて、陽絹。あなたのことですから、加工の段取りはもう組み上がっているのでしょう?」

 

「もちろんです、イリアス様。加工そのものは問題ありません。特大のフォトニック・レゾナンス・チャンバーを用意したあと、誘導放出を意図的に行える魔物を集め──」

 

 そうして陽絹とイリアス様の話し合いが始まった。

内容は難しく、聞いていても半分ほどしか理解できない。科学だか魔導工学だか知らないが、俺の出番ではなさそうだ。

 

 とりあえず俺は溜まりに溜まった返信作業へ取り掛かることにした。

 

 ・・・・・ 

 

 思っていたよりも、メッセージの返信に手間取ってしまった。

そのうちの八割はプリエステスから送られてきたイタズラメッセージの削除に費やされたが。途中からは返信作業というより精神修行だった。

 

 他のメッセージはこちらを心配するものが大半だった。

ポケット魔王城で送り主の何人かとは直接会っているので、その分は省いている。

 

 気になったのは飛鳥命──あす☆みこからのメッセージだった。

なんでも婚約者が出来たらしく、これでもかというほど自慢げな惚気が延々と綴られていたのだ。相手の男性の特徴まで細かく書かれていたのだが、それを読んでいるうちに俺は一人の勇者の顔を思い浮かべてしまった。

 

 それと、世にも珍しいおにこんぼうの魔物を発見したとも書かれていた。

まったく聞いたことのない魔物が居る辺り、俺もまだまだ世界を見て回りきれていないらしい。

 

「あー、ちょっと目が疲れたな……」

 

「うふふ、お疲れ様でした……。お茶をどうぞ」

 

「ありがとう」

 

 湯気の立つ茶を受け取り、一口飲む。

ほんのりとした甘みが口の中に広がり、張っていた神経が少し緩んだ。

 

 俺は今、イリアスベルクの中央広場にいた。

隣には陽絹と影紬。三人で噴水前のベンチに腰掛け、のんびりと休憩を取っている。

 

 イリアス様はポケット魔王城へ戻り、必要な人材の選別を行っているところだ。

それが終わり次第、陽絹と影紬はミニマムストーンの加工を行うためロストルム村へ向かう。

 

 せっかくの機会なので、それまでは久しぶりの故郷で羽を伸ばすことになったのだ。

 

 他の仲間たちも思い思いに過ごしている。

エクレアはミニライブをすると言って街の酒場へ走り去った。ミクリはおそらく路地裏でサイコロ賭博でもしているのだろう。シェーディはハグ欲が爆発して暴走をしており、神殿で天使たちにハグをして回っている。

 

 相変わらず自由な方々である。

 

「見てください、影紬……。茶柱が立ってます」

 

「そんなこと、死ぬ程どうでも──なんで十四本も立ってるんですか? そこまで立ってると、逆に怖いんですけど」

 

 合一してしまった状態だが、やはり故郷は故郷なのだろう。

以前とは街並みも住人も大きく変わっているが、ここにいると不思議と肩の力が抜けた。俺にとって、ここはちゃんと帰る場所になっていたらしい。

 

「捕れたての魚だよー! 今日はファティちゃんが大物を取ってきてくれたよー!」

 

「…………!」

 

「にゃー!」

 

 相変わらず魚屋のおばさんは元気に商売をしている。

いつもなら魚を盗み食いしては追い回されていたねこまたが、今では魚屋のエプロンを身につけ、一緒になって客を呼び込んでいた。どうやら盗み食いはすっかりやめて、きちんと働くようになったらしい。

 

 ……そして、その隣にはシェーディの娘らしきトンベリ娘が同じ格好で立っている。

一生懸命に魚を並べ、店先に掲げられた看板には自分の顔らしき絵が描かれていた。その横には、『わたしがとりました』と、たどたどしい文字が並んでいる。

 

「わわわーい! あたしが大勇者ルカだぞー!」

 

「きゅきゅきゅー!」

 

「きゅっ!」

 

「みゅみゅみゅ~!!」

 

 別のところに目を向ければ、ふしぎないきものたちと少女が楽しそうに遊んでいる。

どうやらルカくんの真似をしているらしく、少女は木の枝を剣代わりに掲げ、勇ましい声を上げていた。周囲のふしぎないきものたちも、それぞれ好き勝手な声を上げながら付き従っている。本人たちなりに冒険ごっこをしているのだろう。

 

 あの少年が大勇者と呼ばれるようになるなんて、俺にはとても感慨深かった。

初めて出会った頃を思い返せば、こんな未来は想像もしていなかった。人は成長するものだと分かっていても、こうして町の子供たちの遊びになるほど慕われている姿を見ると、何とも言えない気持ちになる。

 

「あっ! ヴェークさんだ!」

 

「久しぶり。孤児院のみんなは元気にしてるかな?」

 

「うん! ──あっ、おやつの時間だ! じゃあね、ヴェークさん!」

 

「…………!」

 

「きゅっ!」

 

「ああ、うん……じゃあね」

 

 ……ふしぎないきものたちがいることについては、もう気にしないことにする。

聞いた話では、突然空からやってきたあと、そのまま町に住み着き、あちこちで働いているらしい。今さら増えたところで驚く気も起きなかった。

 

「共産主義こそ正義! 君主主義は破滅あるのみ!」

 

「わあー、巨大ロボが街の外を歩いてる。やっぱりイリアスベルクと言えばこれだよな~──じゃない! 何だあれ!?」

 

 もう何に対しても動揺しないと思っていたが、さすがに俺は驚愕してしまった。

巨大で真っ赤な二足歩行のロボットが、地響きを立てながらイリアスベルクの外から歩いてきたのだ。胸部には大きなエンブレムが埋め込まれており、その中心には巨大な鎌と槌の紋章が誇らしげに輝いている。

 

 あまりにも主張が強い。

遠目に見ても危険を感じ取れるデザインだった。

 

「ああ! 紹介を忘れていました。彼女はカムラッド・プライム。ヴェークの家の地下で製造した、人型巨大ロボットですよ。ほら、影紬。妹ですよ……」

 

「愛しき姉に敬礼! 共に君主主義を殲滅せよ!」

 

「あんな思想が強そうな妹、嫌なんですけど……」

 

「ミクリと白天狐は喜びそうだな。アイシスには……会わせないようにしとこう」

 

 バリバリの魔王制支持派のアイシスに、このロポットを見せてはまずい。

以前、修羅世界ではカニ労働者組合とトラブルになったときと、同じことが起きる気がした。イデオロギーは簡単には消えないものだ。

 

「あんなの、どうやって作ったんだ?」

 

「タルタロスで頭部だけを見つけてきましてね。それを元にボディを復元して、動くようにしたんです。今では天使や空から降ってきた可愛い生き物たちと一緒に、街の防衛をしてくれています」

 

「へえ、そうなんだ……。あんな大きなロボット、本当によく作れたな……」

 

 見上げるほどの巨体を眺めながら感心していると、陽絹がそっと俺の手に自分の手を重ねてきた。

何事かと思って彼女を見ると、いつも以上に怪しげな笑みを浮かべてこちらを見つめている。その笑顔を見た瞬間、嫌な予感が背筋を駆け抜けた。

 

「その……ですね? 魔芸にはゴールドが掛かるものでありまして、あなたには後援者として色々援助をしていただいていますよね」

 

「あ、ああ……。俺も陽絹の芸を見るのが楽しいから、支援してたけど……」

 

「私としたことが、未知のロボットを発見して興奮してしまい、予算を度外視してしまいまして……。公演で稼いだゴールドも全て使ってしまい……」

 

 陽絹は恥じらうように視線を逸らし、それから上目遣いでうるうるとした瞳を向けてくる。

俺は察した。そしてなぜか、それとほぼ同時に影紬が立ち上がり、当然のように俺の反対側へ腰を下ろした。気付けば二人に挟まれる形になっている。

 

「私もちょうど、陛下以外にもスポンサーを募集していましてね。どうです? サーカスに興味があったり……」

 

「影紬一族に残された時間はあと僅かです。このままでは美味しいご飯を作ることもできず、可愛い娘を養うことができません……」

 

「……」

 

 似た顔が同じような表情でこちらに笑みを送る。

片方だけならまだしも、二人同時にやられると妙な圧力があった。

 

 底なき食欲に果てなき創作欲──俺の家族はどうにも色物ばかりなのか。

だが、そんな連中が集まっているからこそ賑やかで、退屈する暇もないのだろう。呆れながらも嫌いになれないあたり、俺自身も大概なのかもしれない。

 

「……事態が落ち着いたらな」

 

「ふふ、本当にチョロいですね」

 

「そこが良いところなのですよ、影紬」

 

「せめて俺の聞こえないとこで言ってくれる?」

 

 平和になったあと、俺は一体どうなるのだろうか。

宇宙からやってくる巨大な恐ろしい存在よりも、こうして次々と増えていく家族や、その面倒を見る未来のほうが、今の俺にはよほど現実味のある脅威に思えた。

 

 そんなことを考えながら、俺は久しぶりに故郷の街並みを眺めるのだった。




※ このコメントはしばらくすると混沌に飲まれます ※



ついに『進め! 我らは力の同盟!』が一周年を迎えます!!

ここまで続けてこられたのも、感想やたくさんのいいね、コメントをくださった皆さまのおかげです。本当にありがとうございます!

これからもマイペースに更新を続けていきますので、どうぞよろしくお願いいたします!
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