イカサマが闇のカードゲーマーに通用した   作:レイトントン

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鞭の後には飴をあげるべき

 事務所に集まった裏の人間たちのカードは既に運び出されていたらしく、戻ってくることはなかった。

 それは別に構わないが、残りのスイーパーの人数、実力、使用デッキ等々、知っていることは黒フードこと黒崎アヤメには全て話してもらう必要がある。

 主に俺の豊かな生活(カネ)のために。

 

 ということで。

 

「これより尋問を始める」

「……舐めているのか?」

 

 カードに閉じ込められ、絵柄枠から顔を覗かせるアヤメは呆れたような顔をしている。

 アヤメとのVSのあと、ハルを念のため病院に連れて行き、俺はこのアヤメの使っていた闇のカードやらなにやらは事前に回収してから自宅に戻ってきていた。

 

 そう、ここは俺の部屋。

 何をしても外部には漏れない。

 少々刺激が強いことになるので、イザキエルにはカードの中に入って出てこないよう、また外の音を聞かないよう厳命してある。

 

「舐めているのはお前だ。俺は裏の人間だぞ。尋問、ないし拷問が出来ねえとでも思ってんのか?」

「貴様こそ状況が分かっているのか? 私は今カードに囚われているんだぞ? 貴様は私に指一本触れることはできない。カードを切り刻んでみるか? 二度と情報は聞き出せなくなるがな」

 

 このヤロウ……俺が直接手を出せないと思って調子に乗ってやがるな。

 

 馬鹿が。もう少ししおらしくしていれば、多少手加減してやったものを。

 

 人間をぶっ壊すのに、なにも直接危害を加える必要なんてないってことを体に教えてやるよ。

 俺は表の人間にも容赦しない男だが、裏の人間にはもっと容赦しない男だ。

 

 とはいえ、ひとまず形式上質問はしておくか。

 質問もしないでする拷問はただの暴力だ。

 別にただの暴力でも一向に構わないが、メリットは何もない。精々俺がスカッとする程度だ。

 

「ま、ひとまず質問はさせてもらおうか。一応言っておくが、ここで吐いといた方が身のためだぜ」

「逆に聞きたいんだが、その言葉を吐いて従った人間なんて今までいたのか?」

「ああ、幾らでもな」

 

 相当脅しをかけてやった場合だが。

 

「腰抜けだな」

「お前はそうじゃないと? 拷問を受ける覚悟ができてるとは見上げた根性だ。裏の人間でさえ、誰もが拷問される覚悟まで持ってる訳じゃないのにな」

「……ふん。そんなことを覚悟せずとも、カード越しにできることなど知れている」

 

 あ?

 なんだよ、拷問される覚悟してなかったのか?

 しかも、これから行われる事も想定すらしていない?

 なんだコイツ、元一般人か?

 こりゃ思ったより早く終わりそうだな。

 

「じゃあ早速、質問一つ目だ。スイーパーの構成人数は?」

 

 アヤメは口角を上げてこちらを挑発してくる。ガキが……

 

「二つ目。スイーパーの親玉の名前、素性は?」

 

 その後もスイーパーの本拠地だのなんだの色々と聞いてみるが、答える様子はない。

 

「おーおー、活きがいいねェ」

「ふん、私から何かを聞き出せるとは思わないことだな。無駄な時間を過ごしている暇があったら、足を使って探した方が良いんじゃないか? 何年かかるかは知らんがな」

「さすがにそんな時間は掛けてらんねぇなぁ。2……いや、1日でてめえから聞き出してやるよ」

 

 危険人物とはいえ、さすがに世間知らずのガキ相手に2日はやりすぎか。使い物にならなくなったら面倒だ。

 まあ、別にそうなったらそうなったで諦めも付くが。

 

「たったの1日で? そんなことできるわけが——」

「んじゃ、頑張れ」

「はっ?」

 

 俺はアヤメの入ったカードを真っ黒な厚手の箱の中に閉じ込める。ヤツはカードの外に干渉できないから、鍵すらかける必要はない。が、まあ一応かけておくか。

 

『貴様……ッ、出せ! 開けろ!』

 

 叫ぶ声は箱に阻まれ、だいぶ小さくなっている。試しに普通の声量で声をかけてみるが、こちらからの声は届いていない。

 これで良し。外部刺激があっちゃ効果は半減だからな。

 

 人間は常に何かしらの刺激を受けて生きている。

 視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚によって。

 

 カードの中で得られるのは、視覚と聴覚だけだ。カードに囚われた人間は食わずとも死なない。それに、カードの中は暗闇のみで、他には何もないという。

 

 そんな状態で、光と音を奪われたらどうなるか。身をもって体験してもらうとしよう。

 

 

 

 

 といった形で、アヤメには闇の空間でカンヅメになってもらっている。

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 それが俺が行っている拷問だ。

 

 なんだかショボく感じるって?

 冗談じゃない。人間から外部刺激を奪うのは歴とした拷問だ。

 

 人間は常に大なり小なり負荷を受けながら生きている。視覚情報や聴覚情報だってそうだ。

 莫大な情報に晒されながら、脳は常にそれを処理している。が、完全な無音と暗闇によりそれらが急にぱったり来なくなり、その状態が長いこと続いたらどうなるか。

 精神に異常を来たすんだ。

 

 幻覚を見たり、歌を歌い始めたり、下手すりゃ発狂する。

 

 況してや、今のアヤメの状況は普通では考えられない、食事や排泄すら必要ない、与えられない空間にいる。

 あらゆる刺激が彼女から取り上げられている、通常では起こり得ないスペシャルコースってやつだ。

 

 ハルやマナブ、他の捕まった連中がカードになる時は眠らされるみたいでよかったよ。

 そうでなければ、闇のVSに負けて連れて行かれた時点で、精神崩壊のリスクを負うことになってしまう。

 

 

 アヤメも、この拷問が始まった時は鼻で笑っていた。が、どんどん余裕をなくしてきて、今はだいぶしおらしくなっている。

 イカれちまったら話も聞けないので、アヤメ側の声はリビングにいれば聞こえている状態を作っていた。さすがにトイレにまで持ち込むまではしなかったが。

 

 で、拷問の途中ではあったが、ハルたちと話し、スイレンの精霊トークに付き合わされてかなり時間が経った。その間もひたすら孤独な闇に一人置かれていたアヤメは、声色からだいぶ弱っていることが推測できた。

 

 が、まだだ。ギリギリまで粘らせてもらう。

 できるだけ追い詰めてから解放してやった方が、より従順になってくれるだろうからな。

 

 

 

 

 

 

 というわけで、アヤメは何もない空間で5時間27分を過ごしたわけだが……

 

 その間のアヤメの様子の変遷を見てみると、効果のほどがよく分かる。

 

 

 

『おい、聞こえているんだろ!? 開けろ! 顔を見せろ下衆が!』

 

『伊波ハクト! 貴様こんな真似をしてタダで済むと思うなよ……!』

 

 

『……ふん。根比べというわけか。構わんさ、好きにするといい。余るほど時間があるというのも悪くない。さて、VSの戦略でも考えるとするか』

 

 

『分かった。今なら特別に許してやる。全て水に流そう。我ながら寛大な措置だ……おい、今だけだぞ! 今なら許してやるから、早く開けろ!』

 

 

『仕方ない。お前がそこまで言うなら話してやろう。全く、特別だぞ? ほら、話すぞ。話す。話すから早く開けろ。……開けてください』

 

 

 

 

『ねえ、お願い。お願いします。ほんと、すみませんでした。私が悪かったです。開けてくださいお願いします。……あの、聞こえてますか?』

 

 

 

 

 

『ねえねえ、ほら! 私今凄い格好してるよ!? 見たくない? 見たいでしょ? 今なら特別に見せてあげるよ? それだけじゃなくて、ハクトさんのして欲しいことなんでもしてあげる! だから、ねえ聞いてよ!!』

 

 

 

 

 

 

『……ッ、ああああああああ!!!! なんで開けねぇんだよッ!! 話すっつってんだろ!! 聞こえてるだろうが、開けろ、開けろ、開けろクソボケッ! ゴミカス! 死ね!!!』

 

 

 

 

 

 

『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい』

 

 

 

 

 

 あとは、急に歌を歌い出したりしていたな。……音痴だったけど……

 途中、スイレンの相談に乗ったりはしていたが、それを除いたこの半日はそんな音声をリビングのBGMにしながらの生活だった。壊れるギリギリを見極めないといけないからな。

 優しい心を持ったまともな人間なら心が傷んだり病んだりするんだろうが、俺としてはこの程度の騒音を聞くくらいならなんでもない。

 

 それより心配なのは、拷問を終えるタイミングだ。

 あまり早すぎてもこちらが侮られる。かといって遅すぎた場合はアヤメの精神が壊れてしまい、情報を聞き出せなくなってしまう。

 適切なタイミングでアヤメに声をかける必要がある。

 

 

 

 

 

 

 

『まさかこの状態でどこかに捨てたり……水の中に沈めたりしていないよな……そんなわけない……だって、そしたら私は……! 頼む、頼むから、返事だけでもしてくれ……お願いします…………』

 

 そろそろ限界か?

 発狂しかけてるっぽい、というかちょっとは発狂してたようだしな。

 気合いが足りてねぇ、とは言うまい。寧ろめちゃくちゃ持った方だ。高校生くらいのガキだし、そうでなくともこれ、普通の人間が耐えるの無理だから。ガチの拷問だからな。

 

 

 自ら以外に何もない極限の孤独というのは、人間を狂わせる。 

 今回はカードの中で完全な無音の暗闇っていう特別仕様だ。食事や排泄といった刺激すらない。

 

 無。ただひたすらの。

 半日耐えられなくとも仕方ないだろう。というより、よく耐えたよってレベルだ。

 

「よう」

 

 箱は開けず、箱越しに聞こえる程度に大きく、声だけかけてやる。それだけでも、反応は劇的だった。

 

『ッッッ! はい! います! 話します! 何でも話します! 何でもします!!!』

「おう。ただ、その前に言っとくわ。テキトーこいたりまた俺に逆らったら、次は箱に鍵かけて何重にも封をしてから海に沈めるからな。二度と誰の声も聞けねえし光も拝めねえから、覚悟しとけよ」

『はい……はい……! 二度と逆らいません……!』

 

 タイミングはバッチリだったようだな。後はテキトーに優しく振る舞っときゃ、犬のように尻尾を振ってくるだろう。

 箱の鍵を開けて、光をくれてやる。

 俺の顔が見えただけで、アヤメは泣いて喜んだ。

 

「良い子だ。心配すんな、アヤメ。お前が従順なら、もう二度とあんなことはしないからよ」

「ありがとうございます……ありがとうございます……!」

「よし。じゃあ早速。まずはお前のことを教えてくれ。相互理解は大事だ、そうだろ?」

「……はい。私は黒崎アヤメ、16歳。VS学園の2年生です」

「ほう? VS学園の生徒なのか。優秀じゃないか」

「その……良くも悪くもないって程度の成績でしたが」

「両親は?」

「いません」

「そうか」

 

 その後もアヤメ自身のことについて幾つか質問したが、話してみればみるほど、普通の学生としか思えなかった。

 本当にあのVSを戦った相手と同一人物か、と思ったが、役割を実行するために仮面を被るタイプの人間なのかもしれない。

 

 また、スイーパーについても色々と聞き出した。構成員の情報、拠点の位置、そして目的等々。

 聞き出したのだが……中にはハルたちと共有すべきでない、タイミングを考えるべきものもあった。

 

「長々と答えさせて悪かったな」

「いえ! 何も問題ありません!」

 

 拷問がよほど効いたようで、アヤメはだいぶ従順になった。

 ただ聞かれたことに答えるだけでなく、時には自ら俺の有利になりそうな情報を付け加えてくれたりもした。それを褒めてやると、尻尾を振る犬のように喜んだ。

 

 鞭の次には飴をやらないといけない。

 今後は外出時もアヤメのカードを連れて行くか、そうでもなければ動画サイトを自動再生にして目の前に置いておいてやるとしよう。外部からの刺激が途切れないように。






拷問終了後のNGシーン

ハクト「よし。早速、何か映画でも見せてやるか。何か評価の高い映画が良いだろうな……面白いと言われている映画をネットで検索してみよう。……なるほど。『ムカデ野郎』? とかいうのが面白いのか?
とりあえずそれを見せておくか」
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