イカサマが闇のカードゲーマーに通用した   作:レイトントン

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略してBSS


僕が先にVSを教えたのに

「マナブ。おいマナブ!」

「おっ……ごめん、何? 佐藤くん」

 

 学校、休み時間。俺は先日のスイーパーと対峙した時のことを思い出して、少しぼうっとしていた。友達から声を掛けられていることにも気付けないなんて、疲れているのかな。

 

「だからぁ、結束だよ! 最近めちゃくちゃ可愛いよな……お前幼馴染だろ? なんかきっかけがあったとか、知らないのか?」

「……いや……」

 

 友達の熱っぽい視線の先には、先週から打って変わって、すっかり女の子らしくなった幼馴染の姿があった。

 結束(ゆいつか)ハル。俺の幼馴染の女子で、凄腕のVSプレイヤーだ。

 

 

 

 

 彼女とは家が隣同士で、初めはわんぱくだった彼女のことを男だと思っていたこともあり、昔からよく一緒に遊んでいた。

 彼女にVSを教えたのだって俺だ。まあ、すぐに実力は追い越されちゃったけど。

 

 そう、彼女のVSの実力は、非常に高い。

 つい先日のVSチャンピオンシップ——これも俺が彼女に参加しないかと誘った大会だ——を、まさかの優勝で飾った。

 ハルは俺なんかよりも強いとは思ってたけど、テレビ中継がされるくらいまで大きな大会で優勝できるまでなんて思わなかった。

 

 優勝した次の登校から、ハルは学校の中でも一番くらいの有名人になった。

 後輩たちはクラスにその姿を観にくるし、先生たちからはことあるごとに褒められる。終いには、全校集会で表彰されたりもした。

 

 皆、ハルが凄いことに気付いてきたんだ。

 

 誇らしくも、少し寂しいような気持ちだった。

 俺だけが知っていた友達の良いところが、皆にバレてしまった気がして。

 

 

 

 

 でも、今にして思えば、そんなのは些細なことだった。

 

 ある日、俺とハルはスイーパーと呼ばれる闇のVSプレイヤーに襲われた。俺のカードと、魂を賭けて勝負だ、と。彼が謎のカードを翳すと、闇が周囲を覆い、俺たちの逃げ道を塞いだ。

 

 負けたら、魂を奪われる。

 いくら強くても、そんな勝負をハルにさせるわけにはいかない。それに、俺だって優勝はできなくても、チャンピオンシップに出場するくらいの実力はある。

 返り討ちにしてやる、という意気でスイーパーに応戦したけれど……

 

 結局、俺は負けてカードに囚われてしまった。

 

 それに、情けないことに……守ろうとしたハルがスイーパーを倒し、逆に救けられてしまった。

 ハルは「マナブが先に戦ってくれたから、相手のデッキ内容が分かったんだよ」と言ってくれたけど……正直、ハルなら俺がいなくてもスイーパーを倒せていたんじゃないかと思う。

 

 

 ともかく、この件でハルは『スイーパーを止める』という目標の下、動くようになった。

 スイーパーの情報を集めるため、学校の不良や、その先輩、悪そうな人たちにVSを挑み、裏の情報に詳しそうな人の話を聞いていく。

 

「『クレセント・ナイト』って裏カジノがあって、そこなら裏の事情に通じた人がたくさん居るみたい。このエリアにあるみたいなんだけど」

「ここ、治安が悪いからあまり近付くなって父さんたちが言っているエリアじゃないか。ダメだ、危ないよ」

「でも、スイーパーの情報を……」

「ダメだって。警察やVS連盟に相談した方が絶対良いよ。俺は放課後、また警察と連盟に行ってみる」

 

 何か言いたげなハルだったけど、裏カジノなんて危険な場所に行かせるわけにはいかない。釘を刺して、俺は警察とVS連盟に相談に行く。

 

 しかし。

 

「うん、我々警察も総力を挙げてスイーパーを捜しているんだけど……手掛かりが少なくて、構成員の特定に至っていないんだ」

「あの、例のカードを回収した人は……」

「ああ、うん。その線も調べてはいるんだけどね」

 

 警察官のおじさんは、困ったように眉尻を下げて頭を掻いた。

 なんだか……ちょっと嫌な感じだ。軽んじられているというか、対応が軽いというか……

 

 いや、分かっている。ハルがスイーパーを撃退したというのを、いまいち信じていないんだ、この人たちは。

 確かに俺は一度カードとなり、解放された。でも、スイーパーのカードが回収された以上、ちゃんとした証拠は示せない。

 

「分かりました、また何か分かったら伝えます。よろしくお願いします」

「うん。情報提供、ありがとうございます」

 

 VS連盟にも相談するも、似たような対応だった。

 ……こんな調子で、俺はハルを守れるんだろうか。

 

 

 

 

 翌日。

 いつものようにハルと登校する時間になり、家の前で彼女を待つ。中学生にもなって女子と一緒に学校に通うってことで、初めは揶揄われたりもしたが、ハルの格好と性格が男子っぽいものだったせいか、すぐに皆興味をなくしていった。

 

 今日もそんないつも通りの日常が始まると思っていたんだけど——

 

「お待たせ。おはよう、マナブ」

「おはよう、ハ、ル……」

 

 ハルの家から出てきたのは……髪を下ろした彼女だった。

 今までよく身に着けていたキャップを外してベレー帽にし、纏めていた髪を下ろした、だけ。なのに、風に吹かれて揺れるハルの長い髪を見て、なんだか顔が熱くなるのを感じた。

 

「どうかな? 髪、下ろしてみたんだけど」

「え? う、うん。なんか新鮮っていうか」

 

 上手く言葉が出てこない。

 な、なんで急に、こんな……

 

 登校中、道行く人たちもチラチラとハルの方を見ているのを感じる。

 

「なんか、いつもより見られてるかも。あはは、自意識過剰かな?」

「そ……そんなことないんじゃないか」

 

 実際、その通りだった。通学路に差し掛かり、ちらほら後輩や同級生が見えてくると、やはりこちらを見て話す声が聞こえてくる。

 

「よ、よう久里浜、結束。おはよう!」

「あ、佐藤くん。おはよう」

「おはよう」

 

 クラスメイトの男子、佐藤くんが珍しく登校中に話しかけてきた。

 

「やっぱ結束、だよな。いや、ビックリしたわ。全然印象違うっつーか」

 

 照れ臭そうにそう口にする。佐藤くんが話しかけてきたのを皮切りに、他にもクラスの女子や後輩たちも次々にやってきた。

 

「や、やっぱり結束さんなんだ!」

「すっごく可愛い……!」

「ずっと髪下ろしましょうよ〜!」

 

 大会で優勝し有名になっていたこともあり、どんどん大きくなる人の塊。校門近くに到達する頃には、ちょっとしたパニックになった。

 

 そんなトラブルに見舞われながら一日を過ごしたわけだけど……

 

「あ、マナブ、スイレン。ちょっといい?」

 

 授業が終わった後、話題の渦中にいたハルから声を掛けられる。

 

「……なに?」

 

 この時、俺はちょっと不安に思って、声が硬くなった。

 大きく変わった……いや、髪を下ろして帽子を変えただけなんだけど。とにかく変わったハルから、何か思いもしない言葉が出るんじゃないかって。

 

「この後、時間良いかな。ボク、スイーパーの情報を提供してくれるって人と会うことになってて。マナブとスイレンも良かったら来てくれない?」

 

 だから、スイーパーの話題が出た時……安心した。

 ああ、見た目が変わっても、中身はいつものハルなんだって。

 

「うん、俺は大丈夫。スイレンは?」

「わ、私も……」

 

 そんなわけで、俺とハル、スイレンの三人は指定された学校近くのカフェに向かうことになった。ハルが選んだのは、俺たちが普段利用するようなファミレスとかとは違って、落ち着いた雰囲気の個人経営の喫茶店だった。

 

「うっ……高い」

「そ、そうかな?」

 

 学生の財布には辛いものがあるんだよ。スイレンはお嬢様ぶりを発揮しているけど……

 お金はあるのか、と気にしていると、ハルは相手が出してくれるって言ってた、と笑った。

 スイーパーの情報提供者か。一体どんな人なんだろう。

 

「あっ、ハクトさん!」

 

 ハルが、今日一番嬉しそうな声をあげてその人に駆け寄る。

 俺はその人を見て、大いに驚いた。

 

 派手な金髪に、耳に開けたピアス。顔立ちは整っているけど、視線は鋭く、背も俺よりずっと高くて、ちょっと怖い印象を受ける。

 俺とスイレンは思わず電柱に隠れた。

 

「あ、あの人が……?」

「怖そうな人だね……ハルはどこであんな人と……?」

 

 電柱に隠れながら、様子を窺う。

 

「よう。学校では髪下ろしてるんだな」

「え、ええ。その、どうですか?」

「良いんじゃないか。似合ってるぞ」

 

 ハルは……ハルは、少し照れ臭そうに、自分の格好についての感想を聞いた。

 俺に聞いた時と違い、とても緊張しているように見受けられる。そして、ハルがハクトさんと呼んだ男は、何でもないことのようにあっさりと彼女を褒める。

 俺は言葉に詰まって、できなかったのに……

 

 褒められたハルは……とても嬉しそうにはにかんで、照れ臭そうに頬を掻いている。

 楽しそうに笑う彼女はいつも見てきたけど、あんな風に笑う顔は……初めて見たかもしれない。

 

 彼は一頻り、とても楽しそうなハルと話すと……俺たちの方に歩いてきて、自己紹介をしてくれた。

 伊波ハクト。カジノの従業員だという。

 

 カジノ、と聞いて、俺の頭に思い浮かんだのは、『クレセント・ナイト』。まさか……ハルが一人で?

 

 予感は的中し、ハルは一人でカジノに乗り込んだのだという。しかも、ハクトさんの話によれば、変な男に騙されかけたとか。

 

 ハクトさんから詳しい話を聞いた結果、大事には至らなかったらしいけど……ハクトさんはその迷惑客というのからハルを守ってくれた、ということだった。

 

 良かった。安心するとともに、ハクトさんに対しても緊張せず話せるようになってきた。

 彼は見た目の印象からは考えられないくらい、しっかりした人だった。口調は荒いけど、カフェの代金も奢ってくれるし、スイーパーの情報も中学生(おれたち)にも分かりやすく丁寧に纏めてくれていた。

 

 ……しっかりした大人。

 ハルも信頼しているし、この人なら頼れるのかもしれない。短い時間で、俺はそう思わされていた。

 

 

 

 だから、ハクトさんが忙しいからスイーパー討伐に参加しない、と言い出した時は、少し失望した。

 けど、その失望は、すぐに尊敬に変わることになる。

 

 ハクトさんに案内された裏稼業の集まりは、スイーパーによって襲撃されていた。

 

 異変に真っ先に気付いたハクトさんがまず突入したけど、何か凄い音がしたので(銃声みたいなのも聞こえた気がしたけど気のせいだったみたいだ)俺たちも駆け付けた。

 

 中ではスイーパーとハクトさんが相対しており、ハクトさんは逃げるように促してきた。けれど、スイーパーは俺たちのことを逃がさない。

 

 そして俺は、今日何度目かという衝撃を受けた。

 ハルが中にいたスイーパーにVSを挑み、そして……敗北した。

 

 ハルは、チャンピオンシップで優勝した、俺たちの中で最強のプレイヤーだ。それに、俺を倒したスイーパーの男にだって勝ったんだ。そんな彼女が負けるなんて、思ってもみなかった。

 そして、スイーパーに負けた彼女は……カードにされてしまう。

 

 どうしよう、どうしよう。

 俺はハルを守れなかった。散々、偉そうなことを言ってきたのに……

 パニックになりかけた俺は、こんな状況でも呑気なハクトさんに八つ当たりした。

 

 けど、当のハルは……とても落ち着いていた。

 なぜ? これからカードにされて、戻れないかもしれないのに。

 

 答えは簡単だった。

 

「二人とも、大丈夫。ハクトさんが付いてるから」

 

 ハルは……ハクトさんの実力を何より信頼していたんだ。

 VSを教えた俺じゃなくて、ハクトさんを。

 

 そして、それは実際にその通りだった。

 

 ハクトさんは、ハルが勝てなかったスイーパー相手にVSをして……圧勝した。

 

 凄い。あんな華麗な戦術に、綺麗に切り札に合わせたデッキ構築、運命的なドローは見たことがない。

 

 ハルが信頼し、憧れる理由がよく分かった。

 ハルを救出した後ではスイレンも、しきりにハクトさんは凄い、と興奮気味に口にしていた。

 俺も、悔しいけど……同じ気持ちだ。

 

 ハクトさんほど頼れる大人は、他にいない。

 

 

 

 ただ、どうしてだろう。ハルとハクトさんが話していると、どこか胸が苦しくなるような気分になるのは……

 

 

 

 

 

 

 ハクトさんは今、スイーパー相手に事情聴取のようなものを行っているのだそうだ。

 何か、俺にもできることはないのだろうか……

 

 そう悶々とした日々が続いたある日のことだ。そのニュースが飛び込んできたのは。

 

「マナブ、マナブ! 大変なのっ! スイレンが!」

 

 休日、家で休んでいると……血相を変えたハルが突入してきた。

 

「ど、どうしたんだハル。スイレンが?」

「スイレンと連絡がつかないの! 行方不明だって……!」

 

 俺は思わず立ち上がった。スイレンが行方不明?

 このタイミングでの事件。俺の頭には一つの可能性しか思い浮かばない。

 

「スイーパーか……!」

「やっぱり、きっとそうだよね……」

「スイレンのお父さんたちは動いているはずだから、とりあえず俺たちはハクトさんと合流しよう!」

 

 ……結局、ハクトさん頼りか。

 いや、いや。頼れる大人を頼るのは悪いことじゃないはずだ。ハクトさんに言わせれば、俺たちはまだガキなんだから。

 

「うん、ハクトさんにはもう連絡したよ。これからいつものカフェで会えるって」

 

 ……真っ先に、ハクトさんに連絡したんだ。ハルは。

 いや、正しい。俺だってそうしようとしたんだから。ハルは何も間違ってない。

 何も、間違ってないんだ……






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