アヤメからの情報はなかなか興味深いものだった。初遭遇時の彼女の態度や、他から得た情報と照らし合わせて信憑性のある情報をピックしていく。
中でも、気になる情報が一つある。
もし奴らの目的が、アヤメの言う通りなのだとしたら、俺も少々立ち回りを考えなければならない。
「おーい、ハクト。なにボーっとしてんの」
「支配人。すみません、少し考え事を……」
「珍しいわね。それより、アンタとVSしたいって客がいてさ。悪いんだけど相手してあげてくんない? 結構な額を出すって言ってくれてるのよね」
俺とVS? なんでまた。
「例の迷惑客とのVSが少し噂になってるみたいね。それに、例のスイーパーを討伐したのがアンタらしいってのも」
「……誰から漏れたんだか」
大体予想は付くがな。
やはり、アヤメとのVSの前後。例の回収屋とやらが覗いていたらしい。
さすがにVS中あの空間に誰かいたら気が付くから、闇に覆われてからのことは向こうも知らないだろうが。
客とやらはまず間違いなくスイーパーの関係者だろう。ツラを拝んでやるのも悪くないな。
「了解です。ただ、やたらVSを推すのはカジノにも良くない。受けるのはこれきりにしましょう」
「えー」
「えーじゃないんスよ」
この人、俺のVSが見たいからって本業を疎かにしすぎだろ。
まあとりあえず、その客とやらのところに向かうとするか。
と、その前にネクタイピンを着けておこう。
VIPに案内されたそいつは、長い髪を背中側に結いた優男だった。柔らかい笑みを浮かべちゃいるが、その腹の底が黒いのは顔付きからすぐに分かった。
気に入らないな。
「よう」
「あはは。いきなりご挨拶ですね、伊波ハクトさん」
「自己紹介は要らないみたいだな。だが、こっちはアンタにぜひ名乗って貰いたい」
「おや、アヤメから聞いていませんか?」
男は自分からアヤメの名前を出した。隠す気はないのか、自らがスイーパーであるということは。
確かに、彼女への尋問によりスイーパーの構成員は大体割れている。
スイーパーは、たった四人の構成員しかいないという。
ハルに負けた男。アヤメ。そして目の前の『回収屋』と、闇のカードを3人に配った黒幕。
この『回収屋』は黒幕にはキリヒコと呼ばれていた、らしい。
「尋問で聞き出した情報だからな。それだけを鵜呑みにするのは極力避けたい」
「……ふふふ。あなたとは気が合いそうだ」
「そうかい。俺はそうは思わないが。俺とVSがしたいようだが、用事はそれだけじゃないだろう?」
「ええ。アヤメのカードをお返し頂きたく参上しました」
人手不足だもんなぁ。それに、アヤメの話じゃ彼女はスイーパーの中でもかなり特別な存在らしいし、当然か。
アヤメはスイーパー共の中で唯一、魂の質というものを見抜けるらしい。遭遇した時も、俺やスイレンのことを『魂が上質』だとかなんとか言ってたな。
俺とスイレンの共通点といえば、精霊が見えることだ。イザキエルの話と合わせても、コイツらが精霊が見えるヤツの魂を欲しがっているのが分かる。
そしてコイツらは、集めた魂を使って
「悪りぃな。情報聞き出したあと、ギャーギャー鬱陶しいからカードを海に沈めちまった」
「……ふふ、ハッタリがお上手ですね」
「ハッタリ? どうして俺が嘘をつく必要がある。情報を引き出した後、お前らにとって重要な存在と分かった黒崎アヤメを放置しておく理由が俺にあるか? 他人をカードにしちまうようなヤツ、捨てても全然心は傷まないね」
実際はアヤメのカードは、まさに今デッキケースの一つに入っているんだがな。
まだアヤメには使い途がある。
「ま、そういうわけだから、黒崎アヤメのカードはお前には手に入らない」
「そうでしたか、それは残念。また同じような力を持つ子供を探さなければ」
キリヒコの目論見は外れた。
が、かといってこいつが大人しく帰るか、と言われれば、答えはノーだろうな。手ぶらでは帰れまい。
店で暴れられたら少々面倒だ。コイツ、立ち振る舞いから分かるが……回収屋などしていることからも、恐らく身体能力がかなり高い。取り押さえるのは容易じゃないだろうな。
ここは一つ、手土産でも持たせて穏便に帰ってもらうとするか。
デッキを取り出す。
「代わりと言っちゃ難だが、せっかく俺をご指名で、高い金を払ってVSをしたいって言うんだ。賭けをしないか?」
「賭け? 一体何を賭けるというんです?」
「
ピク、と男、キリヒコの眉が上がる。
「その手の人間の魂をあと3人分も集めりゃノルマ達成なんだろ? 構成員の半分、特に魂の質を見抜けるアヤメを失った今、精霊の見える人間の情報は喉から手が出るほど欲しいんじゃないか?」
「……流石ですね。アヤメから上手く尋問できているじゃあないですか。しかし、精霊が見えるかどうかなど、どう判断するというのです? 何を根拠にあなたはその人物に精霊が見えると?」
「尤もな疑問だ。そいつの自己申告でしかないが、精霊が見える旨を話した音声データがある。それを聞かせてやるよ」
「ほう……それはそれは」
「代わりに俺が勝ったら、アンタの闇のカードを貰う。条件に不足はあるかい」
テキトーにそれっぽい条件を付け足しておく。もちろん勝てれば万々歳だが、今回はそれが目的じゃない。
「ふふ、強欲ですね。いいえ、そういうことでしたら不満はありません。では始めましょうか」
キリヒコは山札を取り出した。俺も、デッキケースからスリーブに入ったデッキを取り出し、シャッフルする。
「カットを」
キリヒコは、にこにこと笑顔で自らのデッキを差し出してきた。俺もまたデッキを差し出し、互いにカットを行う。
「……」
「どうかしたかい」
「いえ、なんでも」
いいや。なんでもなくはないだろう。
キリヒコがカットする際、俺のカードにベタベタ触っているのを見逃してはいない。
イカサマを警戒している客ってのは分かりやすいもんだ。こちらを値踏みするような、試すような目を向けやがる。
そんな相手にむざむざイカサマスリーブのデッキを使う訳ねえだろ。証拠を押さえられなくて残念だったな。
「さ、カットも終えたし始めようぜ。VSスタートだ」
こうして、闇のカードゲーマーとの、情報を賭けた
俺をカードにしちまったら、情報を聞き出せないからな。
「私は『ゴースト・ペネトレイター』を場に出します。このカードは場に出た時、他の場のクリーチャー1体を破壊し、その攻撃力分のダメージを相手クリーチャーに与えることができます。私は『カンフー・ゾンビ』を破壊。4点のダメージをあなたの『公明な裁判官』に与えます」
「『公明な裁判官』の体力は3。破壊される。また、裁判官の能力で互いに公開していた手札は、もう晒す必要はなくなる」
公明な裁判官は、場に出ている間、互いのプレイヤーは手札を公開し続けなければならない効果を持つ。
が、その裁判官はカンフー・ゾンビの幽霊に祟られ、消滅してしまう。
「俺のターン。俺は手札から魔力1でこのカードを出す」
「『追放者の宣告』……珍しいカードですね。どのような効果を?」
「カード名を1種宣言し、そのカードがお前の手札にあった場合はそれを捨てさせる。なかった場合は俺の手札をランダムに1枚捨てる」
「……! 裁判官の能力はこのためのものでしたか」
全然違う。
こいつは
「俺は『幽体化』を宣言する」
「当然、私の手札にそのカードはあります。私はこれを墓場に捨てましょう」
『幽体化』は強力な補助魔法で、クリーチャー1体に、相手クリーチャーから攻撃されなくなる効果と相手のガーディアンにガードされなくなる効果を与える。
俺が警戒し、捨てさせようとしても何も違和感のないカードだ。
「さらに俺は……このカードを使用する」
「『すり替え』ですか。手札を全て山札に戻して、その枚数分ドローすると」
コスト0で自分にだけ効果のある『突然の崩落』のようなカードだ。
これで欲しいカードを引き込みたいところだが……よし。目当てのカードを引いた。
「俺は魔力4で『強奪!』を使用する。カード名を1種類宣言し、そのカードが相手のデッキにあれば俺の手札に加えることができる」
「ふむ、条件は厳しいものの、強力な効果ですね」
さて、ここで少し迷いどころだ。
宣言するカードをどうするか。本来なら
キリヒコはどうやら俺の目的に気付いていないらしい。
なら、微妙にあり得そうで、ヤツのデッキに入ってなさそうなラインを狙い目的をカモフラージュした方が、今後俺に有利かもしれない。
「俺は『病鳥アルボルタ』を宣言する」
「……ふっ、ふはは! 残念でしたね。あれはアヤメ専用の闇のカードです。私のデッキには入っていない!」
「……くっ!」
我ながら演技派だ。今の悔しそうな表情と声は中々のものじゃないか?
「だが、念のため。本当に入っていないのかどうか、デッキ内を確認させてもらうぞ」
「もちろん、当然の権利です。どうぞ」
俺はヤツのデッキを一枚一枚確認していく。もちろん、気付かれないように違和感のない程度の速度で、だ。
チンタラやってたら、
こんな短い時間ではカードテキストを把握することなどできない、と向こうが認識する程度の速度で、しかしカードの全体像が
「……確かに、入っていないな。くそ、アルボルタが奪えていれば……」
「闇のカードはスイーパーそれぞれに専用のものが与えられている。アヤメは教えてくれませんでしたか?」
俺が目論見を外したと見て、キリヒコは上機嫌だ。
さ、目的は果たした。後は全力で勝負してます感を出すだけでいい。
「くそ……!」
「ははははは! トドメです、私は『幽霊船長ヘンドリック』であなたに直接攻撃!」
「……俺の負けだ」
さすがに情報収集用のデッキでは勝てないな。
が、これは
「アヤメにはアンタと親玉の方が強いとは聞いていたが……まさかここまでとはな」
「ふふ、我々に刃向かうのがどれだけ愚かか理解できましたか?
「改宗の誘いは間に合ってる。ほらよ、賭けの代金だ」
俺は
また、先日スイレンに相談を受けた時の会話の録音も再生して聞かせてやる。これは俺にしか録音し得ないものなので、渡せない。
初遭遇時のアヤメの口ぶりから、精霊が見える人物の情報には価値があると考え、相談内容をこっそり録音していたが……早速役に立ったな。もちろん、俺に精霊が見えている旨の内容についてはバッサリとカットしてある。
「……確かに。過去、精霊が見えるという発言を同級生相手にもしているようですね。なるほど、可能性は高いようだ」
「満足してもらえたか?」
「ええ……しかし、あなたは恐ろしい人だ。仮にも彼女は知人でしょう? 私にその情報を売るのに、なんの良心の呵責もないのですか?」
「ああ」
スイレンがカードにされても、闇のVSを仕掛けた者が倒されればカード化された人間は解放されるしな。
ちょっと眠っててもらうだけだ。
「……前言を撤回しましょう。あなたは我らの神が蘇った時、真っ先に粛清されるでしょう」
「怖い怖い。さ、貰った金の分は働いた。さっさと帰ってくれ」
俺がそう促すと、キリヒコはくすくすと笑い出した。
「思っていたよりも随分考えが甘いのですね。あなたから情報は聞き出せた。なら、用済みとなったあなたに、私が闇のVSを仕掛けないとでも?」
キリヒコは闇のカードを翳し、俺を闇の空間に取り込もうとする。が、想定が甘いのはそっちだ。
俺もまた、闇のカード『病鳥アルボルタ』を翳し、闇の空間を広げる。
「なにっ!?」
広げられた暗い闇は相殺され、霧散した。
「馬鹿な……」
「別に驚くことじゃないだろ。闇の力ってヤツは元々、スイーパーの親玉の力。お前らはそれをカードを介して使ってるだけだ。黒崎アヤメも元々一般人だったと聞く。なら、俺が使いこなせてもおかしいことはねぇだろうが」
「ふ、ふふふ。心の弱い者では、カードに呑まれる者だっている。だというのに、まさか闇の力をこうも容易く使いこなすとは……」
先ほどとは状況が変わったので、闇のVSは受けてやっても良かったが……
アヤメの情報の真偽を確かめたかった。闇の力を防げるのであれば、もはやスイーパーの連中など恐るるに足らないからな。
ぎろ、と鋭い視線を向けてくる。俺が闇の力を使うのがよほど気に食わなかったらしいな。
「この場であなたを仕留めるのは難しそうだ。退散させていただきましょう。ですが、いずれ必ず神があなたを裁く」
捨て台詞を残して、キリヒコはカジノを出ていった。
一方俺は、早速スタッフエリアに戻り、スマホを開く。
「ハクトさん、ご無事ですか」
一段落付いたと判断したのか、デッキケースからアヤメが話しかけてくる。
「おう。お前の『闇の力は闇の力で相殺できる』って情報が早速役にたったぞ。お手柄だったな」
「は……はい! ありがとうございます!」
アヤメはあれからすっかり犬らしくなってきている。
外が見えるよう、カードを取り出し、透明なケースに入れて首から下げてやる。暗闇から解き放たれ、眩しそうにしつつも嬉しそうだ。
「ハクトさん、スマホで何を見ていたんですか?」
「タイピンに付けた小型カメラの映像だ。キリヒコのデッキ内容を撮ってある」
俺が先ほど着けたタイピンには小型カメラが仕込んである。
『強奪!』でデッキにアルボルタが入っていないことを確認した際、ヤツのデッキ内容は全て撮影させてもらった。
「……うん、私が見たことのある内容とほぼ一致しています」
アヤメからもお墨付きをもらう。カモフラージュ用の寄せ集めデッキなどではなさそうだな。
キリヒコはイカサマを警戒している上、俺より地力が上な厄介な相手だが、デッキ内容を把握できているなら話は別だ。
万一、実戦でヤツの使用デッキが違う場合には少々手間取るだろうが……それでも、可能な限り仕込みは終えた。
ヤツ相手には負けはないな。
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嬉しいことに沢山の感想をいただき全部は返しきれてない状態です。けど、楽しく読ませてもらってるので今後ともドシドシくれよな