「ハクトさん、助けてください! スイレンが行方不明になっちゃったんです!」
「きっとスイーパーだよ。あいつらがスイレンを……!」
カフェの前で合流するや否や、ガキ共は矢継ぎ早にそう告げてくる。そのことはもう分かってんだよ。
「とりあえず落ち着け。カードにされたからって死ぬわけじゃない」
「でも……! いつどうなるか分からないじゃないか! あいつらは人の魂を使って何かしようとしてるんだろ!?」
マナブが鬼気迫る表情で詰め寄ってくる。よほど焦っているようだ。
「
「ど、どういうことですかハクトさん」
「あー。アヤメ、説明頼むわ」
「わ、私ですかっ?」
アヤメのカードをテーブルの上に差し出す。
俺が口頭で説明するより、カードになった元スイーパーが説明した方が、インパクトは遥かにデカい。
同じ内容を話しても、見た目や立場の違いで説得力は段違いだ。
「あなたは、あの時のフードの?」
「……そうだ。ハクトさんに
「わあ……! 凄いですハクトさん、スイーパーも味方にしちゃうなんて!」
ハルの俺への信頼は鰻登りだな。一方、マナブは複雑そうな表情をしている。
ハルやスイレンからの信頼は十分高まっている。後はコイツだ。ガキ共から利益を搾取するためには、全員が俺を信頼している状態が望ましい。
「我々の目的は闇のVSを通じて収集した魂を贄とし、魔神を復活させることでした」
「ま、魔神……!?」
「そんな、おとぎ話みたいな話が……!?」
それついては全く同意だが、魔神だのなんだのは正直どうでもいい。害がないなら復活なんぞ、どうぞいくらでもしてくれて構わない。
問題は、復活した時に起こることだ。
「そして——魔神に願い、その圧倒的な力で悪しきVSプレイヤーを殲滅する。それが我々、スイーパーの最終目標です」
アヤメの告白に、二人は面食らった様子でリアクションできないでいる。
気持ちは分かる。これまでのスイーパー共の活動からは考えられない目的だ。彼女らは善人悪人問わずVSプレイヤーを狩ってきた。だというのに今更、悪人を滅ぼすためにやってました、なんてのは筋が通ってない。
が、キリヒコにも片鱗は見えたように、狂信者なんて俺ルールを押し付けてくるやつばかりだからな。自分たちは大義があるから一般人を襲ってもオーケー! とでも思っているのだろう。
VSは今、良くも悪くもカードゲームとしては力を持ちすぎている。紛争の決着方法として選ばれることもあるほどの力。悪用すれば莫大な利益を得ることだって可能だ。
アヤメのいう『悪しきVSプレイヤー』など星の数ほどいる。
スイーパー、掃除屋。コイツらは地球の掃除屋気取りだったって訳だ。
「それは……その」
「目的は立派ですが、悪い人を問答無用で消してしまうのはどうかと思います。それに、その目的のために、スイレンみたいに善良な人の魂を生贄にするのは、どう考えても間違ってる」
迷ったマナブも、ハルのきっぱりとした言葉にハッとする。
ここは俺も同意しておこう。
「その通りだ。善人の魂を多数犠牲にしてまでやることじゃないな」
悪人が許せないなら警察官にでもなっていてくれ。
「それに、悪人が消されちまうなら当然俺も消されちまうからな。絶対許さん」
混じりっけなし、100%の本音だが、あえて戯けて言ってみせる。ハルとマナブも冗談と受け取ったらしく、緊張が解れて笑みを浮かべている。
だが、冗談ではない。
魔神が復活して悪人を消す?
俺なんて真っ先に消される対象だろうが。そんなもん阻止だ阻止。
「そ、その割に……ハクトさんは落ち着いてるよね。どうして?」
「良い質問だマナブ。アヤメ、魔神復活に必要な魂の数は?」
「……VSプレイヤー約1000人分、と聞いている。加えて、精霊の見える人間が5人」
それが多いのか少ないのか。意見の分かれるところだろうが、より難易度が高いのは、精霊の見える人間の方だ。
俺が知る限り、精霊の見える人間ってのはごく限られている。スイーパーの連中は魂の質が見えるアヤメを抱えながら、これまで2人しか捕えられていないそうだ。
これを、
問題は残り3人というのをどこまで信用していいかだが、初遭遇時のアヤメは俺とスイレン、ハルを見て「大物が掛かった」「思わぬ収穫だ」と溢している。
もし残り2名以下で目的を達成できるようなら、俺とスイレンを見た時点でもっと反応するはずだ。
「また、魔神さえ復活しなければ贄とされた者たち、カードにされた人間も、闇の力の大元である首領を倒せば全て元に戻るはずだ」
首領とやらを倒せば、これまでのスイーパー共の努力は全て水の泡となる。その上で消して埋めるなり警察に突き出すなりしちまえば、もう魔神復活への道はない。
「スイーパーの人数は残り2人。仕掛けるなら今だな」
「ハクトさん、乗り気ですね。絶対止めると思ってたのに」
今の俺にとっちゃ、スイーパー相手の襲撃なんてノーリスクみたいなものだからな。闇の力を相殺できる今、物理攻撃に持ち込むことも、逆にこちらから闇のVSを仕掛けることもできる。闇のVSの方は相殺されるかもしれんが。
確実に勝てる相手、キリヒコだけ削れりゃ勝ったも同然。その後は逃げて態勢を整え、じっくり首領を削ってやればいい。
首領の対策としては、まず身体能力次第だが、物理的攻撃が効くならそれで終わりだ。
効かないようならVSの実力者をかき集めて、物量で潰す。デッキを丸裸にした上で俺と同等以上の実力者をぶつけまくる。
誰か一人が勝てば良いし、負けても一時的にカード化するだけですぐに元に戻れる。リスクはほぼない。
……まあ、それだけの実力者を多数雇うのに、それなりのコストがかかりそうだが……
スイーパーのレアカードが手に入れば、十分ペイできるだろう。アヤメの話ではかなりの人数の魂を溜めているとのこと。それはつまり、そいつらのレアカードもたんまり持っているということだ。
それに、今回の襲撃でハルが親玉を倒せるようであれば、雇用のコストは浮く。そうなれば、レアカードは丸々俺のモノだ。
まずいな、笑みが溢れそうだ。今はスイレンが拐われた深刻な状況ということになっているのに。
「いや、止めないさ。スイレンを早く救けてやらないといけないからな」
「は、ハクトさん……!」
ガキ二人は感激しているようだが、背景を知っているアヤメは何も言えない。
「よし、そうと決まれば善は急げ、悪も急げ。早速仕掛けるか」
と、席を立とうとした時。
目の前に影が差す。
俺の席の横に、女が立っていた。
接近に気付かなかった。やり手だな。
そして、特筆すべきはやはりその格好。
「おいおい。ここはいつからメイド喫茶になった」
黒のロングスカートに白いエプロンと手袋。俺のように派手に染めたものではない、柔らかいブロンド。氷のような冷めた青い瞳が俺を射抜いている。
一体どこの誰だ、このメイドは。
「に、西島さん!」
「ご機嫌よう、結束様、久里浜様」
なんだ、ハルたちの知り合いか。
……ん? 西島? 最近どこかで聞いた名前だな。
……ああ、スイレンが父親に電話をかける時、取次ぎしていたのがそんな名前だったな。
なるほど、スイレンの父親から差し向けられたわけだ。恐らくはスイレン誘拐の容疑者、俺を確保するために。
しかしツラが良いなこの女。スイレンの父親のお手付きなら、良い趣味をしていると言える。
「伊波ハクト様ですね」
「ああ。アンタは?」
「西島ユヅキです」
「ユヅキちゃんね。なんとなく要件は分かる。スイレンのことだろ?」
「はい。あなたにはソウジロウ様よりお嬢様の誘拐の容疑がかかっています」
ソウジロウというのはスイレンの父親だ。
まあ当然だが俺を疑うよな……
「ま、待ってください! ハクトさんはそんなことしません!」
「そうだよ! 絶対スイーパーの仕業だって!」
ガキ共は必死こいて擁護してくれるが、そんなんじゃ納得はしないだろう。
「スイレンはいつどこで拐われた?」
「あなたが一番よく知っているのでは?」
「知らないから聞いてんだよ。アリバイってやつがあるかもだろ?」
「……昨日の19時から20時ごろ、学区エリア内です。それ以上詳しいことは」
「昨日のその時間はカジノで勤務だった。従業員なら証言してくれるだろうし、勤務記録もある。……ま、こんなもん幾らでも改竄できるし、信用には当たらないかもしれないがな」
どちらもやろうと思えば事前に仕込み、改竄も可能なものでしかない。
が、正直にそれを申告した態度が功を奏したのか、ユヅキの内面に隠した刺々しい感情は、ほんの少しなりを潜めた。
チョロいなこの女。
「俺もスイレンはスイーパーに拐われたと見てる。これからヤツらに仕掛けるつもりだ」
「子供二人とあなたで? 無謀では?」
「スイレンの救出に目的を絞るなら、ほぼ間違いなく成功する。アンタはどうする。足を引っ張らないと約束できるなら連れてってやるが」
「……結束様、久里浜様。この男は信用……いえ。この男に付いていけば、お嬢様を取り返せるのでしょうか」
「はい」
「きっと」
ハルはともかく、マナブからの信頼が思ったより厚くて驚く。
能力は認めているが……ってところか?
まあ、ハルに惚れてそうだしな。邪魔者は気に食わないか。
上手いこと俺はハルに興味がないとマナブにアピールしなければな……
「場所は郊外エリアの廃工場だ」
まあ、アヤメから聞き出した情報ってだけではないんだがな。
先日のキリヒコとのVSの後に渡したデータカードにはGPSを仕込んである。そのGPSが指し示していたのも同じ地点だった。
さっさとしないと移動されてしまう可能性もあるし、仕掛けるなら速攻が良い。
◆
ユヅキが移動手段の手配をしてくれるということで、それを待つ間。ハルとマナブには精神を集中させるため、一番楽な形で過ごすよう指示する。
俺は……アヤメと話していた。
「ハクトさん、その……大丈夫なのですか」
「何が」
「西島ユヅキです。彼女はあなたに張り付いている気ですよ」
「
「しかし……! よく考えてください!
「首領を倒せば全員元に戻るんだ。なら、首領がスイレンを拐ったことにしちまえばいい」
実際はスイレンをカードにしたのは首領でもキリヒコでもなく、俺なんだがな。
彼女のカードも今、アヤメと同じように手元にある。アヤメと違い眠っているが。こうしておけば俺が負けない限り、魔神復活の贄にされることはない。
ユヅキやスイレンの父親が俺を疑ったのは、全くの正解だったということだ。
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