イカサマが闇のカードゲーマーに通用した   作:レイトントン

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約束は基本的には守るべき

「俺のターン。俺は魔力2で攻撃魔法『不当な等価交換』を発動。互いのプレイヤーは自分のクリーチャーを1体選び破壊する。俺はドロップスライムを選択」

「私はゴースト・ペネトレイターを選択します」

「さらにお前から奪ったテンペストで、グリモリアを破壊する。そら、カードを返すぞ」

 

 カードを勢いよく投げ返すと、キリヒコは事もなげにカードを掴み取った。やはり身体能力が高いな。VSに持ち込んでおいて正解だったかもしれない。

 

「これで魔法により破壊されたクリーチャーは3体。俺は魔力0となったイザキエルを場に出し、おまえに直接攻撃する」

「く……っ!」

「イザキエルは本来ターン終了時に破壊されるクリーチャーだが、『緑鳥の楽園』の効果によりクリーチャー効果による破壊は無効となり、場に残る。俺はこれでターンを終了する」

 

 イザキエルがターン終了時にも場に残っているのは珍しい絵面だ。心なしかドヤ顔をしているように見えなくもない。

 

「私の、ターン……! 私は『幽霊船長ヘンドリック』を場に出します!」

 

 ここで切り札を引き当てるとは流石だな。

 フィールドよりボロボロでありながら壮観な船が浮上し、その先頭には海賊帽を被った骸骨が立っている。

 

「ヘンドリックの効果発動。場に出た時、墓場にいるクリーチャーを任意の数だけ、効果を無効にし攻撃力/体力を3にして蘇生する! 死体の船員と化しなさい、クリーチャーたち!」

 

 骨だけになってしまったクリーチャーたちが、ヘンドリックの部下として蘇る。

 ヘンドリック自体も6/6とかなりのステータスを持つ上、高いクリーチャー展開能力。これも闇のカードだけあり、非常に強力だな。

 しかもこいつ、説明を省きやがったが本来このガイコツ共は『突撃』を持つ。盤面の処理までできるのだから厄介だ。

 

「さらに私は魔力2で攻撃魔法『死体爆破』を発動! 私の場のクリーチャー1体を破壊し、その攻撃力分のダメージを相手プレイヤーに与える!」

 

 このカード、盗撮した時驚いたんだがまじで強いんだよな……

 こいつを倒した後手に入ると思うと、笑いが止まらんね。

 ヘンドリックの攻撃力分、6点のダメージを受ける。

 

「くっ……! ターン終了……!」

「俺のターンだな。……おっ」

 

 中々面白いカードを引いた。こいつでトドメを刺してやるか。

 

「俺は手札から補助魔法『魔力抽出』を発動。自分の場のカードを破壊し、このターン中のみ、破壊したカードの必要魔力を俺の魔力にプラスする。俺は『緑鳥の楽園』を選択」

「……!? わざわざ領域を破壊するだと……!」

 

 そうしないと、こいつを場に出しても効果が発揮されないからな。

 

「俺は『病鳥アルボルタ』を召喚する」

「……!!」

「効果は当然知っているな?」

 

 『緑鳥の楽園』を張られて焦っていたのだろうが、俺のデッキにこいつがあると分かっていてクリーチャーを展開したのは迂闊だったな。

 場のクリーチャーが全て病に感染し、破壊される。体力の7点ダメージに耐えられたクリーチャーはいない。

 

 ガイコツ9体に俺のクリーチャー3体。計12体が破壊され、1体につき3点のダメージが相手に入る。

 

「脅威の36点直接ダメージだ。あばよ」

「ぐ……ぐあああああ!!!」

 

 キリヒコが吹っ飛ぶ。

 こいつには散々手間を取らされた。イカサマは警戒するし、身体能力は高いし、全く厄介な相手だったな。

 

 まあ、それもここまでだ。

 

(ご苦労さん、イザキエル)

(我が主、あなた最後アルボルタの能力で私ごと——)

(手間取らせたな、悪い悪い。カードの中に戻っててくれていいぞ)

(誤魔化さないでください! あれ凄く嫌な気分になるんですからね!?)

 

 まあ痛みもないことだし、悪いが受け入れてもらうしかない。

 協力してもらった手前口には出さないが。

 

 やがてすぐに闇が縮小していき、キリヒコに纏わりつくと、彼は小さなカードとなって廃工場の床に落ちた。

 それを拾い上げると、カードの絵柄枠にはキリヒコの無念の顔が映っている。

 

「まさか、この私が……」

「これで後は首領……星雲ナユタだったか。そいつだけだな」

 

 さて、キリヒコだが……世のため人のためを思うなら、消しておいた方が良いようなヤツだ。

 キリヒコ自身も、消されると思っていることだろう。

 なので、俺は提案する。

 

「おいキリヒコ。俺に対価を払え。そうすれば殺すのは勘弁してやる」

「……全く信用できないことを仰いますね」

「今のお前が信用がどうとか言ってられる立場か? 別に断るってんなら、俺はそれでも構わんぞ」

 

 こっちはキリヒコの生死などどうでもいいことでしかない。どうせ豚箱にぶち込まれたら一生出てこれないんだからな。

 対価が得られればよし。得られなくとも良しだ。

 今のこいつにできるのは、本当に切れないのかは分からない蜘蛛の糸に縋ることしかない。たとえ信用できずとも。

 

「……本当に、殺さないというのですか?」

「ああ」

 

 状況次第だが。

 他人の魂を奪うような極悪人相手だ。対価を搾れるだけ搾って、口約束なんて反故にしても構わない。

 

 逆に、場合によっては約束を守ってやってもいい。周囲の信用の面で得になるからだ。ハルが上手く首領を倒せるようなら、こいつの死体を処理する暇もないし。ユヅキは甘い女だし、悪人を許したとなれば印象が上向く可能性もある。

 

 カードを海に沈めに行くには時間が足りないし、今カードを破いて、首領を倒したらバラバラ死体が出てきました、とかなった場合後処理が面倒だしな。アヤメも、カードを破いたり破損した後解放されたらどうなるかは、やったことがないから知らないと言っていた。不確定要素は可能なら排除したいところ。

 

 

 約束を破っても守ってもいいってのは気楽でいいことだ。

 まあ、許すにしろ消すにしろ、まずは対価を貰っておこう。

 レアカードはこいつらから奪えばいいから、わざわざ貰うという手順を踏む必要はない。

 俺が欲しい対価……情報は一つ。

 

「まず大前提として、魔神復活とやらは諦めろ。星雲ナユタに働きかけ、計画の実行を阻止しろ。これが守れなければ命の保証はない」

 

 コイツの立場なら、星雲ナユタを止めることは容易だ。

 

「それは……いえ、分かりました」

「よし。では聞こう。星雲ナユタは、どうやって闇の力を手に入れた? その情報を渡せば、お前は生かしておいてやる」

「…………いいでしょう。何から話したものか……あれは3年前の——」

「あ、そういうエピソードトークはいいから端的に情報だけくれ」

 

 申し訳ないが、闇の力に興味はあっても、こいつらの過去とかミリも興味ない。

 

「あ、はい」

 

 スン、とキリヒコは真顔になり、簡単に概要を話し始めた。

 

 ……この時の俺は、どうしようもなく迂闊だったと言わざるを得ない。

 目の前の情報という対価に飛びつき、床に散らばるキリヒコのデッキは後で拾えると目を向けていなかったのだから……

 

 

 

 

 

 

「西島さん、ハクトさんは……」

「……どうやら、物理的な干渉はできないようですね。あなたたちだけで先に進ませるわけにもいきませんし、私が先行しましょう」

 

 西島さんを先頭に、ハル、俺の順番で廃工場を進む。ハクトさんを置いて。

 

 あのキリヒコって男相手に、いきなり鉄砲を撃ち始めたのは驚いたけど……

 やっぱり、ハクトさんがいないと少し不安だ。

 

 ……いや! 何を考えているんだ。ハクトさんと約束したじゃないか。

 もし逸れたら、俺がハルを体を張って守るって。まさに今がその時じゃないか。

 俺は背後を警戒しながら、西島さんとハルの後ろを付いていく。

 

「……結束様、久里浜様。伊波ハクトとはどのような人物なのですか?」

「どのような、って?」

「私は、ソウジロウ様からは『娘を誑かし100万もの大金をせしめようとした詐欺師』『終いには誘拐など始めた大悪人』としか伺っていませんでした」

「誘拐なんてハクトさんはしませんよっ」

「詐欺の方も、スイレンからは自分から100万を差し出そうとした、って聞いてるよ。こう、報酬の額を決める時、ハクトさんに指を一本立てられたからって」

 

 ハルと俺は、ハクトさんがそんなことをするはずないと反論する。

 ……いや、自分で庇っておいてアレだけど、ハクトさんなら100万の要求くらいならしてもおかしくないかも?

 い、いやいや。さすがにそんなことはない。……はずだ。

 

「確かに、短い中でも伊波ハクトの印象は悪い。口が悪ければ性格も悪いし、軽薄で態度も尊大。カッコつけばかりで鼻に付きます。それに、初対面なのに私を嫌らしい目で見てきて腹立たしい。同じ職場にいたらセクハラで訴えてます」

「……そこまで言わなくても……」

「しかし、詐欺や誘拐に手を染めるまでか、というのは私には判断が付きません。——早急に彼を見極める必要があります。お二人とも、どうかご協力を」

 

 協力、というのは……早く首領を倒して、西島さんがハクトさんを監視できる状態にしてほしい。そういうことかな。

 俺にどこまで力になれるかは分からないけど、ハルのためにも全力で臨む。

 

「はい!」

 

 俺とハルの声が重なる。

 

 西島さんの後に続き、やがて、月明かりが一面を照らす、何もない一際広い空間に出る。

 ……いる。

 多分だけど、ここにスイーパーの首領が。

 

 俺の予感が当たっていたことは、すぐに証明された。

 

「……よく来たな、侵入者共」

 

 暗闇に響く声。

 しかし、俺はその声も聞いても、慄いてはいなかった。

 ハクトさんと、アヤメさんに聞いていた通りだったからだ。

 彼は、闇の中から月明かりの下に歩み出て、その姿を現した。

 

「……驚かないんだな」

「聞いていたからね。スイーパーの首領が、()()()()()()()()()()()()ってことは」

 

 ハルの睨む先には……

 恐らくは、小学校高学年。そのくらいの歳頃の子供が、ガラクタの玉座で冷たい視線をこちらに向けていた。







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