「……キリ兄はどうした?」
「え?」
「あんたたちを倒すためにキリ兄が向かったはずなんだけど……ここに辿り着いたってことは、殺したのか?」
星雲ナユタは、落ち着いた雰囲気の声で……しかしそれが虚勢だと分かるくらいには声を震わせながら聞いてきた。
「こ、殺すなんて。そんな訳ないだろ!」
「今はハクトさん……ボクたちの仲間とVSしてるよ」
ハルがそう教えると、ナユタはほっとしたように眦を下げた。
なんていうか……悪の組織の親玉とは思えない雰囲気だなあ。
「そうか。それで、あんたたちは僕を倒しに来たんだろ。いいよ、やろうか」
「星雲ナユタ。その前に、お嬢様を返しなさい」
「お嬢様……?」
「八代スイレン様です。あなたたちが拐ったんでしょう」
「誰のことか分からないけど……やったのは、多分キリ兄だな。どっちみちカードになってると思うから、僕を倒せば解放されるよ」
ずずず、とナユタの体から闇の瘴気が迸る。
やがてそれは拡大し、俺とハル、西島さんを巻き込んだ。
「これで邪魔は入らない。恨みはないけど、あんたたちもカードになってもらうよ」
「……ハル、俺が先にやる」
前に出ようとするハルを制して、俺が前に出る。
ハクトさんとの約束がある。ハルは体を張ってでも守らないと。
「でも、マナブ……」
「いいから、ここは任せてくれ」
「結束様、ここは久里浜様に任せましょう。意地があるんです、男の子には」
西島さんの言葉もあり、ハルは俺に任せてくれた。よし……やってやる……!
「さあ、VSスタートだ!」
今まで色々なデッキを見てきた。
ハルの、強さと楽しさを両立したまさにVSを体現したような王道のデッキ。スイレンのクリーチャーとの絆を感じる優しいデッキ。ハクトさんのような切り札を活かす戦略が計算され尽くしたデッキ。
このナユタのデッキは、そのどれとも違う。
はっきり言って、前に挙げたような人たちのようなデッキの美しさはない。
「僕は魔力5で『闇を求める戦士マリス』を場に出す。マリスは場に出た時、相手プレイヤーの生命力に5点のダメージを与える」
「くっ……!」
これも闇のカードだろう。5/5のステータスを持ちながらこの効果……単純に、強い。
他のカードも同じだ。ただひたすら、強いカードをかき集めたデッキ。力で圧倒するデッキだ。
いや、ある意味ではこれもまたデッキの色なのかもしれない。いわば、『強さ』がテーマのデッキ。
「僕は魔力1で補助魔法『ダブルスラッシュ!』を使用。このターン、僕のクリーチャー1体は2回攻撃できる!」
「なッ!?」
さっきから、使うカードのパワーが高すぎる!
「行け、『時の旅行者』で2度の攻撃!」
「マナブ、危ない!」
「俺は手札から魔力1で高速魔法『刃溢れ』を使用! このターン、クリーチャー1体の攻撃力を3点下げる!」
時の旅行者の攻撃力は3点。刃溢れの効果で攻撃力は0となる。それなら、何度攻撃を受けようがダメージはない。
「良いタイミングの高速魔法でしたね、久里浜様」
「……くそっ。まあいいよ、僕はターンを終了する」
……彼、ナユタは………
『ダブルスラッシュ!』は非常に強力な効果を持つ。でも、その能力をより発揮できるのは、攻撃力が高いクリーチャーに使った時だ。
たとえば、今場に出ているクリーチャーだけで見ても、『時の旅行者』に使うより次のターンまで待って『闇を求める戦士マリス』に使った方が、俺の生命力を4点も多く削れた。
もちろん、マリスが俺に破壊される可能性もあるので、一概にミスとは言い切れない。でも、明らかにあのカードは手札に温存しておいた方が後々有利なものだ。
……デッキを構成する一枚一枚のカードパワーは高い。でも、VSのタクティクスは……拙い。
ただ、強いカードを出せる時に出すだけ。
にもかかわらず、アヤメさんより強いっていうんだから恐ろしいカードパワーだけど……
これなら、付けいる隙があるかもしれない!
「俺のターン! 俺は魔力2で補助魔法『怪盗参上』を使用! このカードは場に出た時に、手札を2枚捨てることで相手の手札のカード1枚をランダムに奪う!」
「……ッ!」
ナユタは2枚の手札を混ぜてから差し出してくる。
「俺から見て左のカードだ!」
「……くそっ!」
カードが投げ渡される。出されたカードは……やっぱり、闇のカードと思われる強力なカードだ。
「俺は魔力5で『波動の魔女レイン』を召喚! 相手の場のクリーチャー1体を破壊し、その攻撃力、体力を吸収する! 俺はマリスを破壊!」
これでレインのステータスは8/10となる。
「さらに、場の『一流スパイ・コードネーム631』で時の旅行者を攻撃!」
「だけど、時の旅行者は次の僕のターン終了時に僕の場に戻ってくる」
復活能力を持っているのか……厄介だ。
でも、高いステータスのレインを場に出せた。これなら……!
◆
「なるほど。端的に言えば、お前らは孤児院の出身で昔からの兄弟分だった。が、ナユタは内気でいじめられっ子だった。ある時いじめがエスカレートして、怒りの限界を超えたナユタが超能力に目覚めた。原因や由来が分からないから調べたところ、魔神により与えられる闇の力とやらの伝承を目にした。この力でVSで悪事を働く奴を一掃してやろうと考えた。こういうことだな?」
「あ、合ってはいるんですが……なんというかその、我々も割と大変な思いをしてきまして。数行に纏められると……」
「うるせえ。結局お前がだらだら喋るから要点を纏めてやっただけだろうが」
聞くところによれば、闇の力の由来はこいつらにもハッキリしていないらしい。聞くだけ無駄だったな。
星雲ナユタの先天的な才能だとしたら真似するのは難しいかもしれない。もし技術体系がありそれを身に付けたのだとしたら、俺にも習得の余地はあったのだが……
「闇の力ってのは、他に何ができる。VSによって魂を奪える、物理的な攻撃を無力化する、正体を隠すための認識阻害を行える……」
「後は、闇のカードの作成ですね」
アヤメが俺が列挙する闇の力に補足してくる。俺が言えたことじゃないが、こいつ本当に従順になったな……
「そうだったな。ただ、それは自由に作れるわけではないんだろ? それができるなら、例えば手札に入った瞬間勝利するカードを40枚、名前を変えて量産すればいい」
「あなた、VSをなんだと思ってるのですか?」
そんなカードがあったらつまらないとでも言いたいのか?
娯楽として楽しむならそうだが、魂のやり取りをする場面で使わない理由はないだろうが。
「闇のカードの性能は、闇の力を注ぎ込んだ時のナユタくんの精神状態でランダムに決定するんです。ある程度元のカードの効果に左右はされますが。特に感情が昂ってる時は、極端な性能になりやすくて……ただ、彼が直接触れないと、カード効果は変化しません」
ランダムに性能決定か……しかも感情が昂っていないといないと強くならないとは、面倒な条件だ。直接触らなきゃいけないし。
……待て、それは逆に言えば、まさか……
「星雲ナユタは
「はい」
「カードゲームにあるまじきチカラだな……」
◆
「くそっ、くそっ、僕のカードを取りやがって……!」
ナユタは、明らかに苛立っている様子だった。
しかし、ちょっと人聞きが悪いな……カードを取ったといっても、盗んだわけじゃない。カード効果でこちらの手札に加えただけだ。
けど、ナユタにとってはそんなことはどうでも良くて……自分のカードが相手に取られたと思うだけで、怒りが湧いてくるみたいだ。
怒りのまま、彼は山札からカードを引いた。
「僕のターン! 僕は魔力1で補助魔法『ディザイア・カップ』を発動! カードを5枚ドローする!」
「はあ!?」
「ええっ!?」
ごごご、5枚ドロー!?
魔力1で!?
お、落ち着け。そんなカードがあるわけない。何かとんでもないデメリットがあるはずだ。
どんなデメリットがあるんだ……!?
「さらに、手札から——」
いやデメリットは!?
そんな馬鹿な、いくら闇のカードって言っても、今までとカードパワーが違いすぎる!
「『波動の魔女レイン』を召喚する!」
俺の場にいるのと同じく、レインが場に出る。
よ、良かった。どんな無茶苦茶なカードが来るかと思ったけど、レインなら俺のレインが破壊されるだけで済む。
もちろん、相手側に大型クリーチャーが残るのは手痛いけど、『一流スパイ・コードネーム631』はバトルしたクリーチャーを破壊するクリーチャー。どれだけステータスが高くても倒せる。
「効果発動。相手の場のクリーチャー
「……はああああああ!?」
待て待て待て、俺が使った時と効果が違うじゃないか! 俺の時は破壊するのは1体だけだったのに!
カードゲームで使用者によって効果が変わるなんてダメだろ!!!
というか、魔力5のクリーチャーで全体破壊!? くそ、言いたいことが多すぎる!!
俺の場のレインと631が破壊される。くそっ、そんなのアリなのかよ……!
「早く、僕のカードを返せ!」
「え? う、うん」
レインのカードを投げ返すと、ナユタは興奮を落ち着かせてくる。
……彼が興奮し始めてから、急にカードの強さがとんでもないことになった。
これが闇の力の影響だっていうのか?
「さらに、魔力2『瞬殺のラプトル』を場に出す。こいつは速攻効果を持つ! 行け、ラプトル!」
ラプトルのステータスは2/1。2コストで速攻なのは超強力ではあるんだけど、1コスト5枚ドローのような明らかに過剰な効果というわけではない。
やっぱり……彼の感情が鍵なのかもしれない。
「ターン終了。終了時、時の旅行者が復活する」
「俺のターン」
カードを引く。
彼のカードへの対抗策は……ない。
……やっぱり、俺の力じゃ……ダメか。
「ハル!」
「マナブ……?」
「ごめん、俺、力不足で……でも、一つだけ分かったよ。彼を、追い詰めすぎちゃいけない」
彼が怒ると、もの凄い性能のカードを出してくる。
多分、闇の力ってやつが関係しているんだと思う。しかし、カードの効果がその場で変化するなんて……笑えるくらい理不尽だ。
「後は頼んだよ……ハル!」
「ま、マナブっ!」
俺はターン終了を宣言する。
「僕のターン! 場のクリーチャーで総攻撃! これで、トドメだっ!」
「ぐああッ!」
衝撃で吹っ飛ばされる。
敗北した俺は、すぐに闇に覆われてカードにされるだろう。
でも……無駄ではなかった。ハルも、カード能力が変化したことは見ていた。
やれるだけのことはやった。
……ハクトさんとの約束は、守れなかったけど。でも、ハルにバトンは繋いだ。
今の俺にできることは、このくらいしかない。でもいつか、絶対に……ハルを守れるようになる。
意識が薄れてくる。やがて俺は気を失って——
次に目覚めた時。
俺の視線の先には……光の柱が立っていた。
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