イカサマが闇のカードゲーマーに通用した   作:レイトントン

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カードゲームアニメあるある:やたら治安が悪い


悲しき過去があるらしい

 マナブは、ボクに後を託してカードになった。

 

 マナブが残してくれた情報は、絶対無駄にしない。ボクが、カードから戻してみせる……!

 

「はあっ、はあっ、はあっ」

 

 ナユタくんは、一戦しただけで息も絶え絶え、という様子だ。闇の力……カード効果を書き換えるとんでもない力だけど、負担は大きいのかもしれない。

 

「……結束様、お下がりください。あのような無法なカードを使われては、太刀打ちなどできません。私が直接彼を倒します」

 

 西島さんは裾から、あの……なんて言うんだろう、忍者が使うような刃物を取り出した。

 

「待ってください! 刺激したら危ないかもしれない。ここはボクに任せて」

「しかし……」

「大丈夫です。こう見えてもボク、チャンピオンシップで優勝してるんですよっ。それに……尊敬する人に、ボクは誰にも負けないって言ってもらったんです。負けませんよ」

 

 西島さんにはそう言いつつも、内心ドキドキだ。

 あんなとんでもないカード、出されたらどうやったって勝てっこない。

 

 でも、マナブはボクに示してくれた。勝つための道筋を。そして、ボクは知っている。VSを挑まれても断ったり、言葉巧みに相手を操ったりと、()()()()()がとても得意そうな人を。

 

 だから——まだ、戦わない。

 

「次は……あんた?」

「うん。でも、その前にちょっといいかな」

「なに?」

「どうして君は、魔神を復活させて悪人をやっつけようとしてるの?」

 

 

 彼を追い詰めすぎちゃいけない。

 ってことは、逆に心が安定している状態なら、あんな力は出せないんじゃないかな。

 

 彼はさっきから、やたら追い詰められているように見える。多分、自分がやっちゃいけないことをしている自覚があるんだ。

 でも、それをせざるを得ないか、それに手を染めてしまった理由が何かあるのかもしれない。

 

 それを吐き出させて、時間を置いて精神を落ち着かせよう。勝負は、勝機を見つけてから始めても遅くない。

 

 

「…………話したくない」

「そう言わずにさ、教えてよ。ね?」

 

 優しく微笑みかけると、ナユタくんは眉尻を下げた。

 

「いいよ、僕のこと分かってくれる人なんて、キリ兄以外いないんだ」

「分かってあげられるかは定かじゃないけど……一人で悩んでいたらずっと辛いままだよ。言葉にすることで楽になることだってあると思う。ね、ボクに教えて?」

 

 根気強く語りかけ続ける。

 きっと、彼だって話して楽になりたいはずなんだ。そうでなければ、無理やりVSを始めればいいんだから。

 

「……………………」

「ナユタくんはキリヒコさんって人と兄弟なの?」

「ううん。お兄ちゃんみたいな人ではあるけど」

「そうなんだ。あまり話せなかったけど、ハクトさんが警戒するくらいだから、凄くVSが強いんだろうなあ」

「うん! キリ兄はすごいんだよ。本当ならチャンピオンシップにだって——あ」

 

 慌てて、ナユタくんは口を押さえる。

 まずいことを言いかけた、といった反応。そして、何か思い出したのか……下を向いて俯いてしまう。

 

「大丈夫?」

「……うん。キリ兄はずっと前、僕のせいでチャンピオンシップに出られなかったんだ」

「……え?」

「昔から、キリ兄は僕のためになんでもしてくれたんだ。でも、僕が弱いせいで……」

 

 そうして、ぽつぽつとナユタくんは話し始めた。彼が、スイーパーの首領になった訳を。

 

 

 

 

 初めは、軽い弄りみたいなものだった。

 

「なんだぁ、このクズカード?」

 

 孤児院でももちろん、VSは皆やっている。お金がないから拾ったカードだったり、貰いものだったり、少ないお小遣いでやりくりしたもので、もちろん強いデッキってわけではないけど。

 

 キリ兄や孤児院の皆で楽しくVSをするのが、僕は好きだった。

 

「や、やめてよぉ」

「ナユタお前、こんなカード使ってんの? だせーな、お前なんかと100回VSしても負ける気しねーわ」

 

 あはははははは! と周囲も合わせて笑う。

 彼、ケントは僕よりちょっと歳上で、いわゆるガキ大将ってやつだった。周りにはいつも手下を連れていた。それで、皆で僕を囲んで笑い者にしていた。

 

「そうだ、賭けVSしようぜ。お前が勝ったらカード恵んでやるよ」

「だ……ダメだよ……カードなくなっちゃうし、賭けなんて……」

「んだよノリ悪ぃなあ。じゃあお前はカード賭けなくていいぜ。代わりにさ、負けたら俺の言うことなんでも聞けよ?」

 

 それも断ろうとした。けれど、大勢に囲まれて、突き飛ばされたり蹴られたりして、僕はどうしようもなく怖くなってしまった。

 だから、賭けVSを受けた。

 

 僕は僕のカードが好きだ。ボロボロだけど、ずっと一緒のカードなんだから。

 でも……僕は彼らがそんなに強くないことも分かっていた。

 

 勝てるわけがない。僕は何度も負けた。

 それでも、最初はまだ良かった。命令も、木に登ってみろと言われたり、犬にちょっかいをかけさせられたりと、そんなものだった。木に登らされて降りられなくなったり、犬に追いかけられたりはしたけど……

 

 

 

 それに、僕にはキリ兄がいた。

 

「こら、あなたたち。ウチのナユタに何をしているんですか?」

「げっ、逃げろキリヒコだ!」

「全く、悪ガキ共め……すみませんナユタ、見つけるのが遅くなってしまって」

 

 キリ兄は昔からVSが強かった。僕と同じような拾ったカードばかりなのに、使い方がとても上手くて、時にはレアカードを持った相手にだって勝てるんだ。

 それに、喧嘩だって凄く強い。いつも僕を助けてくれるし、孤児院のトイレの掃除とか、僕がしたくないことを代わってやってくれることもあった。

 

 将来の夢は、VSでプロになることなんだとキリ兄は言っていた。今は高校生だけど、卒業するまでに大会で実績を積んでプロになると語っていた。

 キリ兄ならきっとなれると信じて疑わなかった。

 

 僕にとってキリ兄は、スーパーヒーローだった。

 

 

 

 

 その頃、ケントの要求はエスカレートしていた。

 色んな悪いことをやらされて、僕がこっぴどく怒られることがよくあった。その度、キリ兄は庇ってくれたけど……

 

「いい加減、あのケントくんにはキツいお灸を据えないといけませんね」

「でも、あの子のお兄さんって怖い人なんでしょ? インネン付けられちゃうよ」

「ははは。そんなものナユタの身に比べたら何でもありませんよ。それに、あんなヤツ私の敵じゃありません。……VSはまあ、なかなか出来るようですが」

 

 キリ兄は腕は良いけど、カードが寄せ集めだから、ケントのお兄さん……ヒロキとの戦績は、五分五分くらいだった。

 喧嘩だったら絶対負けない、とキリ兄は豪語するけど。

 

 

 

 でも、キリ兄にばかり頼ってもいられない。いつまでも僕が弱くて、ケントに逆らえないからキリ兄が苦労するんだ。

 

 今日こそはVSも断るし、もう言うことは聞かないと突っぱねるぞ……

 そんな気持ちで臨んだのが、まさにその日だった。

 

「お前がナユタか? へっ、気の弱そうなチビだ」

 

 ケントが、兄のヒロキを連れてきていた。

 

「おまえ、キリヒコの弟分だろ? で、VSに負けたらなんでも言うこと聞くんだってな。なかなか使()()()()じゃねえか」

「い、いや……その……」

「あ?」

「もっ、もう言うことは聞きません!! VSっ、も! しません!」

 

 ギュッと目を瞑り、手のひらに爪が食い込むほど握りしめる。人生で一番、勇気を振り絞った瞬間だった。

 

「なんだよ。意外とガッツあるじゃねえか」

 

 そんな言葉がかけられるとは思わず、僕は顔を上げた。

 ヒロキと目が合う。その目は、少しも笑っていなかった。

 

「じゃあ、どこまでそのガッツが続くかチャレンジしてみようぜ」

 

 

 

 そこから先は、あまり思い出したくない。今でも、学校やプールの水飲み場に近づくと、苦しみを思い出してえずいてしまう。

 

「じゃあ、お前のデッキは借りてくぜ。ちゃんと役目を果たしたら返してやるからよ」

「ぼ、僕のカード……! かえ、して……」

「ああ、あとキリヒコや他のヤツにチクったら……分かってるよな?」

 

 

 げほげほと水を吐き出しながら、去っていく兄弟の背中に手を伸ばすことしかできなかった。 

 

 デッキを取られたこともそうだけど、僕はどうしようもなく、ケントとヒロキに恐怖していた。もはや、彼らに逆らうなんて考えは生まれない。

 

 あの瞬間までは。

 

 

 

 

 

 ヒロキたちが僕に与えた役目。それは……カードショップで、万引きの罪をキリ兄に被せることだった。

 僕がカードを盗って、キリ兄のカバンに入れる。それで、外にいるヒロキたちがそれを指摘する。

 

 そんなことはできない。何度もキリ兄に、僕のスーパーヒーローに相談しようと考えた。

 でもダメなんだ。あの息のできない苦しさを思い出すと、体が震えて動かなくなってしまう。

 

「カードショップに来たのは久々ですね、誘ってくれてありがとうございます、ナユタ」

「う、うん」

「とてもじゃないけど、ケースにあるようなカードには手が出ませんが……見てください、ストレージと言うんでしたっけ。このコーナーのカードは安いですよ。これなら少しは買えそうだ」

 

 キリ兄はとても楽しそうだ。カバンも、簡易VSスペースに置いている。

 カードを入れるのは、簡単だ。

 

 ……でも、できない。

 キリ兄に、そんなこと……できるわけない。

 

 やっぱり、キリ兄に相談を……

 そう考えてキリ兄に声をかけようとした時。窓ガラスの向こうから、こっちをじっと見つめるヒロキと目が合った。

 あの時の同じ、口元は笑っているのに、目が、少しも笑っていない。

 

 それだけで、僕は動けなくなる。

 

 ……カードを。多分、普通の人ならちょっとお金を貯めれば買えるくらいの、でも僕らじゃ到底手が届かないようなそれを手に取る。

 呼吸が浅くなる。

 これを、これをキリ兄のカバンに入れるだけでいい。

 

 カバンに、入れる……

 

 

 

 

 

 

 やっぱり、できない……

 

 

 

「ナユタ、大丈夫ですか!? 顔色が悪いですよ!?」

「だ、大丈夫。ちょっと……外の空気を吸ってくるよ」

「私も一緒に——」

「大丈夫だから……」

 

 心配するキリ兄をよそに、僕はショップを出てヒロキたちのところに向かった。

 精一杯、頼み込んでみよう。いざとなれば、キリ兄だって近くにいる。助けてくれる。きっと助けてくれる……

 

「ナユタ。おまえまだ役目を果たしてねぇだろ。またやられたいのか?」

「む、無理です……できません……」

「ああ? 全く情けねえヤツだな。ま、それならしょうがねえ。なら……お前があのカードを盗んできたら許してやるよ」

 

 ヒロキは、壁のガラスからカードを指差す。いかにも盗みやすい位置にある、それなりの値段のカード。

 僕は……僕はこの時、恐怖と緊張で感覚が狂っていた。

 

 キリ兄のカバンに入れるよりはずっと楽だと、そう思ってしまった。もしバレても、僕が怒られるだけだから、なんて甘い考えを持っていた。

 万引きなんて、絶対に許されることじゃないのに……

 

 カードをヒロキの元に持っていくと……彼は僕の手首を押さえて、そのまま僕ごとショップに入った。

 

「ナユタ……!? それに、ヒロキ!」

「よう、キリヒコ。こいつはお前の弟か?」

「弟分です!」

「そりゃ涙ぐましい関係だこって。しかし、てめえと違い浅ましいやつだな弟分は? まさかカードを万引きするなんてよぉ」

 

 キリ兄は僕の手の中にあるカードを見た。

 信じられない、という顔を一瞬見せて……ヒロキを睨み付ける。

 

「下衆め……! ナユタに何をしたのですか!」

「心外だなぁ。俺は万引き犯を捕まえただけだぜ? それよりもう店員が来るぞ。このままだとお前の弟分は万引き犯だな」

 

 体が震える。このまま、僕は犯罪者になっちゃうんだ。

 ……でも、キリ兄が身に覚えのないことで犯罪者呼ばわりされるより、ずっといい。

 

 そう思っていた。

 

 

「お客様方、どうかなさいましたか?」

 

 キリ兄が、僕のスーパーヒーローがどんな行動を取るかなんて、まるで考えちゃいなかった。

 

「店員さん、聞いてくださいよ。このガキが万引きしていたんです! 俺たまたまそれを見かけて、取り押さえたんですよ。見てくださいコイツの持ってるカード! この店の商品でしょ?」

「万引き……?」

 

 店員さんの、僕を見る目が鋭くなる。

 

「少々お待ちを。防犯カメラの映像を確認してまいります」

「ま、待ってください!」

 

 キリ兄は店員さんを呼び止めた。

 

 ……今にして思えば、これがヒロキの筋書きだったのかもしれない。







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