イカサマが闇のカードゲーマーに通用した   作:レイトントン

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高笑いは失敗フラグらしい

 闇の力の情報を対価に、命だけは助けてやると俺との契約を交わしたキリヒコが、闇の力がどのように発生したか語り始めてからしばらく経った。

 

 経ったのだが。

 

「——そこで私は気付いたのです。ヒロキがナユタにカードの窃盗を……」

「いや長い長い、話が長えよ」

「えっ」

 

 えっ、じゃねえ!

 

「てめーッ、エピソードトークは良いから情報だけ話せっつっただろうが、何浸って話し始めてんだ! なんかあるのかと思って無駄に長え話聞いちまっただろうが! つーか長え話の割にまだ闇の力についてなんにも聞けてねーじゃねえかふざけんな!!!」

 

「し、しかしここは重要なところでして」

 

「知るか! いいか、てめえらは無辜の一般人を魔神の生贄に捧げようとしてる大悪人なんだよ! そんなヤツらの事情なんて、生贄にされそうな俺らみてーな人間からしたら髪の毛一本ほども興味がねえことだって理解しろ!」

 

 

 クソ、なぜ俺はこいつ相手に説教なんてしてるんだ……!

 

 自分が悪党だと自覚しているだけ、俺の方がマシな悪党なんじゃねえかと思い始めてきたぜ……まあそんな訳はないが。

 

 

「は、はい。失礼しました」

「いいからとっとと話せ。もっと短く、分かりやすく簡単にな」

 

 ハルあたりの甘いヤツならこんな無駄話も根気強く聞いてやるんだろうがな。

 全く、余計な時間を食った。

 

「か、カードショップでのいざこざの後、再びヒロキとトラブルになり、少々リスペクトに欠けた条件でのVSを行いました。もちろん私が勝利し、ヤツらを撃退しナユタのデッキも取り戻したのですが……その後、私を逆恨みしたケントとヒロキが、ナユタに負けたら孤児院に放火する、という無茶苦茶な条件のVSを仕掛けたのです。ナユタは拒否したものの強制され、敗北しました。そして家族同然だった孤児院の人たちが犠牲になってしまい……私はもちろん、ナユタも激昂してしまったのです」

 

「まだ長えが、まあさっきよりマシか……その調子で続けろ」

 

「ナユタは闇の力に目覚めました。恐らく、彼の望み、願いが影響したのでしょう。ヒロキやケントの暴力は届かず、弱かったはずのカードはとんでもない効果に書き換わっていました。そして、覚醒したナユタとの闇のVSに負けた2人は、カードになりました」

「へえ、孤児院が燃えたからこんなところに身を潜めているわけだ。で、そいつらは殺したのか?」

「自分たちが放った火の中にカードを放り込んでやりました」

 

 自業自得ってヤツだな。

 

「それで?」

「闇の力について、色々と調べました。都市伝説で人間がカードになったなんて話には枚挙に暇がありませんが、文献を辿る内に魔神の存在に行き着いたのです。その復活のためには、カードにより雌雄を決した後、カードとなった者の魂を捧げよ、と」

 

 なるほど。

 しかし、こいつらが集めた文献となるとちょっと不安だな……正直魔神とやらの存在も眉唾ではないのかと疑り始めている自分がいる。

 いや、これで本当に復活したら洒落にならないから止めはするが。

 

 

「魔神は悪人を滅ぼす存在です。我々のような存在を生み出さないためにも、そしてナユタの幸せのためにも。私は魔神の復活を決めたのです。悪人のいない世界を作る……そのために、闇の力の根本であるナユタを首領に据え、私はスイーパーを立ち上げました。それに……ナユタは一度でも闇のVSで敗北すれば、闇の力の全てを失う、とも文献には記載がありましたので、首領に据え隠すべきだと判断しましてね」

 

 ほう……闇の力の全てを失う、か。

 一度の敗北も許されないなら、そりゃトップに据えてでも後ろに隠すか。

 

「スイーパーは善人も巻き込んでいる。魔神復活を実現できたとしても、ナユタもおまえも魔神に裁かれる存在じゃないのか」

「無論、我が神は私も裁くでしょう。しかし、ナユタはあくまで闇の力を分配しているだけ。指示も実行も、全ては私が行ったことです」

 

 おまえがいなくなったら、どの道ナユタには不幸しか残らんと思うがね。

 自己犠牲は美徳とされるが、残された者の気持ちを計算に入れてない。下手したら後追いなんてこともあり得そうだ。俺よりナユタの気持ちを理解できていないようで、なんだか笑える話だな。

 

「なるほど。端的に言えば、お前らは孤児院の出身で——」

 

 と、いった形でキリヒコからナユタの情報を聞き出した。

 

 

 

 

 

 

 まったく、厄介な能力もあったものだ。

 カードの効果を書き換えるだと? 馬鹿げた力だ。

 

 カードになったキリヒコをデッキケースに仕舞い、アヤメの方は紐付き透明ケースに入れて首からかけてやる。忠犬と化したコイツなら、何か有益な情報をもたらしてくれる可能性もあるからな。

 

「ハクトさん、ナユタくんの力は相当強力ですが……それでも勝ち目はあるのですか?」

「ああ。聞く限りでは、力に振り回されてるだけのメンタルの弱いガキだ。やりようは幾らでもある」

 

 

 なにせこっちにも闇の力があるんだからな。相殺して銃で頭を吹っ飛ばせばそれでお終いだ。

 

 まあ、闇の力の大元ってことで、力を分け与えただけの闇のカードの力では対抗できない、なんてケースもあるかもしれないが……

 

 

 闇の空間に捕まる前に逃げたっていい。どうせハルやマナブと闇のVSをしているだろうから、ヤツの展開する闇の空間がどの程度の大きさなのかはこれから見に行けば把握できる。

 逃げてから態勢を立て直し、キリヒコがいなくて絶望しているところに人海戦術で仕掛けてやればいい。

 つーか、キリヒコがいなければ遠からず餓死するかもしれないしな。

 

 

 仮に闇の空間に捕まったのなら、キリヒコを人質にすることもできればイカサマを仕掛けることもできる。キリヒコならともかく、いじめられっ子の子供が俺のイカサマに気付けるはずがない。

 

 

 はっきり言って、俺にとってはスイーパーとの戦いは、キリヒコを倒した時点で終わっている。

 星雲ナユタは、もはや脅威ではない。

 

「さて……アヤメ、カード化された人間たちの保管場所はどっちだ?」

「はい。あの壊れたフォークリフトの隣に開いたドアから入れます。例の仕込みですね?」

 

 スイレンをそこに混ぜて、誘拐をスイーパーの仕業だったと工作する、という意味で言っているのだろう。この短い期間で俺の考えを理解できるようになるとはな。アヤメは思ったより優秀なヤツなのかもしれない。

 

 イザキエルに先行させてから、アヤメの言った部屋に入る。

 魂を捕らえたカードの置き場は想像より整然としていた。仮にカードから魂が解放されるのにタイムラグがあったら面倒なので、ほどほどに荒らしてスイレンを頑張って探し出しました、という見かけにしておく。

 しかし、皆寝ているが、この中には数年がかりで寝ているような奴もいるんだろうな……

 

 

「まあ、こんなもんか」

「次はレアカードの置き場ですね。向かって左の扉、二つ隣の部屋です」

 

 アヤメが先んじて俺の求めている情報を提示してくる。イザキエルに指示して情報の裏付けを行うも、罠はない。ヤツらのアジトだ、罠の一つや二つ用意してあるだろうしそこに誘導することもできないことはなかったはずだが、それを行う様子はない。

 

 カードから解放されたあとは消すつもりだったが、ここまで従順なら、駒にするのもアリかもしれない。

 

「有能だな、お前」

「そ、そんなことは……ハクトさんに喜んでいただけたなら何よりです」

 

 レアカードの貯蔵庫は、当然だが人のカード置き場よりも多くのカードが貯蔵されていた。

 

「貯蔵庫の隣は普段ナユタくんとキリヒコさんのいる大部屋です。窓から見えるはずです」

 

 アヤメはそう言うが、俺は生返事をするのみ。それよりもまず、目の前のカードの山に目を奪われていた。

 まあ山は言い過ぎだが、これほどの数のレアカード。当然見たことがないカードもあるが、見覚えのある高額カードや、マニア受けしそうな美麗なイラストのカード、女性型クリーチャーカード等、様々な種類の高価なカードが多数置かれている。

 

 これだけあれば数億……いや、下手したら数十億はいくか?

 

 

 

「ククク……あーッはっはっは!!!」

 

 

 

 よし。もしハルが負けるようなら、ナユタを潰す前にカードに囚われた連中は纏めて海に捨てて来ちまおう。焼くのは確実じゃなさそうだしな。そうすれば、このレアカードは丸々全部俺のモンだ。

 

 最初はハルが勝ったら勝ったで、それも楽だと思ったが……

 あー、ハル負けねぇかなぁー。

 

 

 

 

 

 

「……なるほど。そんな事情があったんだね」

「キリ兄はきっと僕のために世界を良くしようとしてくれているんだと思う。いつもキリ兄は僕のために頑張ってくれたから。だから今度は、僕がキリ兄の力にならなきゃいけない……いけないんだけど……」

 

 ナユタくんの話を聞いて……ボクはちょっと涙ぐんでいた。

 でも、いくら同情できる事情があっても……それが、スイレンやマナブたちを生贄にしていい理由には、絶対にならない。

 

 VSで、彼を倒す。そこだけは変わらない。

 でも、彼を悪として倒すとなると……また同じことが繰り返されるだけだ。

 

 

「よしっ。ナユタくんのモヤモヤした気持ち、ボクが受け止めるよ」

「えっ?」

「思い切りVSをしよう。全力で、全てを吐き出すために。魂がどうとか、そういうのは考えずにさ」

「でもお姉さん、仕掛けた僕が言うのも変だけど……負けたらカードになっちゃうんだよ?」

「大丈夫。これでもボク、めちゃくちゃ強いんだよ。ナユタくんにだって絶対負けないから!」

 

 

 だからこそ、ボクはただVSを、楽しいカードゲームとしてのVSを提案する。

 

 

 カードゲームは楽しむものだからね。

 

 

 もちろん、負けたら魂を取られることは分かっている。

 それでもボクは全力で、いつも通りにVSができると確信していた。

 頼れる人がいるっていうのは、凄く心強いことだと実感する。

 

 

「……変なの」

「ふふっ。じゃあ、始めようか。VSスタート!」

 

 

 

 

 

 一進一退の攻防が続き、互いの生命力はボクが15点、ナユタくんが17点まで減っていた。

 

「ボクのターン! ボクは魔力7で『セブンソード・ドレイク』を場に出す! このカードは場に出た時、相手の場のクリーチャー全てに3点のダメージを与える!」

 

 セブンソードの体から生えた鋭い剣のような鱗が、ナユタくんが場に並べていたクリーチャーたちを一掃する。

 

「くっ……! 僕のターン。僕は魔力2で『ディザイア・カップ』を発動。カードを3枚引く」

 

 さっきのマナブとの対戦と比べると、全然カードの性能が違う。だいぶ彼の精神も落ち着いているみたいだ。

 

 さっきナユタくんの気持ちが荒れ出したのは、マナブがカードを奪うタイプの効果を使った時だった。過去、ヒロキという人たちにカードを奪われたことがトラウマになっているのかもしれない。

 

 ボクのデッキにその手のカードは入っていない。けれど、孤児院が放火された、という過去を鑑みると、極力炎が描かれているようなカードは使用を控えた方がいい。

 全部使わないのは、ボクのデッキ構成から不可能だけど。

 

 彼の闇の力はなるべく抑えたまま、彼自身の全力を引き出して勝つ。

 

「僕は魔力5で『波動の魔女レイン』を場に出す。相手クリーチャー1体を破壊し、その攻撃力、体力の半分を吸収する!」

 

 ボクの場のセブンソードが破壊され、レインの攻撃力と体力が4/4まで上昇する。

 この調子なら、このまま続けていけば勝てる。

 

「ボクのターンだ」

 

 山札から鼓動を感じる。

 ボクは山札に手を添え、カードを引いた。

 

(来たな、相棒……!)

 

 ヴォーパルソードは炎の龍。ナユタくんの過去を考えたら、そのまま場に出すのは少し躊躇う。

 どうしようかな、と考えていると……ヴォーパルソードのカードから、熱い血潮が滾るのを感じた。

 僕は即決する。

 

「ヴォーパルソード・ドラゴンを召喚!」

 

 爆炎を破り、ヴォーパルソードが登場する。ナユタくんはその炎に少し気圧されているようだったけど、まだ精神の安定は保っている様子だった。

 

「ヴォーパルソードでレインを攻撃!」

 

 ヴォーパルソードは4/10でありながら、クリーチャーに攻撃する際、受けるダメージをマイナス3点に抑える効果がある。これでヴォーパルソードの体力は9残せた。

 

「う……ぼ、僕のターン!! 僕は魔力8で『深淵の魔物アガーティア』を場に出す!!」

 

 闇の中から、不気味な怪物が姿を現す。細長い手足に、鋭く剥き出した歯と爪、それでいて嫌に落ち着いた不気味な目。骨と皮だけとなった巨大な肉食動物のような魔物だ。

 

「アガーティアはガーディアン能力を持つ。そして、戦闘と効果で破壊されることはない!」

「なっ……!」

「アガーティアは無敵のクリーチャー! 更にこいつが場にいる限り、僕に攻撃は届かない!」

 

 無敵……というのは言い過ぎだけど、確かに対処法はかなり限られてしまう。

 少なくとも、ヴォーパルソードでは突破できないし……デッキに入っているカード次第では、あのカードが出た時点で詰みもあり得る凶悪な性能をしている。

 幸いなのは、アガーティアのステータスは2/2と低いことだ。防御性能が高い代わりに、攻撃能力は低め。対処札がデッキにあれば、引き込むまでに猶予はある。

 

 ……いや。

 そんな甘いことを言っていては勝てない。

 

 ここでアガーティアを突破できなければ、また新たな脅威が場に出てくることだろう。

 

 なら、ボクのすることは……自らのデッキを信じることのみ。

 カードよ、ボクに応えてくれ……!

 

 ——そう願った、その時。

 デッキの一番上のカードが、輝き出した。

 

「……!?」

 

 訳も分からないまま、とにかくカードを引く。

 そして、そこには……デッキに入れた覚えのない、見たこともないカードがあった。

 

 なんだ、このカードは……?

 

 嫌な感じはしない。

 どころか……凄い力を秘めたカードだと、ボクは感じ取っていた。

 

「————ボクはこのカードを発動する!!」

 

 

 

 

 

 

「むっ」

 

 レアカード置き部屋の割れた窓から見える大部屋。そこで闇の空間が展開されているのを発見した俺は、その全長を計測したり外側から干渉できないか試してみたりしていたところ……

 カッ、と淡い光が闇の空間の中より僅かに漏れ出した。僅かだが闇を貫くほどの光。

 ハルか……? いや、星雲ナユタの新しい力という可能性もある。

 

 だとしたらぼちぼち決着の頃合いか。

 もしナユタが出てきたらすぐにカードの回収に向かえるように、レアカード部屋に隠れる。もちろん、足跡を残すような間抜けはやらない。

 

 ……立っているのがユヅキだけ、とかだったら意外すぎる展開だが、まあないだろう。

 いくらあの女でも、この距離なら気付くことはないだろうし。

 

 アヤメには声出すなよ、なんて言わずとも守ってくれるだろう。つーかここで声出すようなら海に沈める。

 

 

 

 ナユタ出ろナユタ出ろ……俺のレアカードのために。

 

 

 

 しかし俺の願いは虚しく、立っていたのはハルとユヅキ。ハルは気絶したナユタと思しき少年を抱き抱えている。

 

 

 

 ちっ、あんだけのインチキ能力持って負けたのかよ。使えねぇなぁ……

 







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