ナユタは負けてしまったようだ。俺が手を下すまでもなかったとも言えるが、あんだけのインチキ能力を持っておいて情けねぇヤツだ。
ま、起こってしまったことは仕方ない。くそっ、ユヅキがいなければ全員に銃をぶっ放して終わりだったんだがな……つくづくツイてない。いや、死体処理の手間も考えるとそれも結局リスクがでかすぎるか。
やはりハルが勝った時点でレアカードの数は減ってしまうな、どうしても。
「おい、お前ら無事か」
俺はレアカード部屋の窓から乗り出して大部屋に入る。
「ハクトさん!」
「よく(も)やっ(てくれやがっ)たな、ハル。信じてたぞ」
「えへへっ、ハクトさんの言う通りでした。ボク、やっぱりちょっと強いのかも!」
俺の真意に全く気付いていない様子のハルは、満面の笑みでピースを向けてくる。
「分かったんなら俺とのVSは必要ねぇな」
「それは絶対やりますぅー!」
ちっ。
「マナブは?」
「ここに」
ユヅキが、カードとなったマナブを見せてくる。どうやら俺の狙い通り鉄砲玉になってくれたようだな。
「そうか。向こうにカードになった連中を纏めた部屋があってな。スイレンは回収した」
「スイレンお嬢様のカードは!?」
「安心しな、ここに——」
カードを取り出そうとして……突如、俺の首から下げたカードケース、腰のデッキケース、そしてユヅキの手に持ったマナブのカードが発光し出した。恐らくは、俺の背後もそうだ。
見れば、ナユタの体の闇の力が失せかけている。敗北すれば消えて無くなるというのは本当らしい。
ぱっ、と、ハルがカードから解放された時のようにマナブとスイレンが眠ったまま。そして、キリヒコとアヤメは意識を保ったまま、カード化が解かれる。
俺は逡巡の末、銃をキリヒコに向け、スイレンを抱き抱えた。そして思った通りユヅキはマナブを抱え、油断なくキリヒコとアヤメを警戒している。
「今更抵抗はしませんよ」
キリヒコは両手をあげ、アヤメも同様にしている。ユヅキはマナブをゆっくり寝かせると、二人の後ろに周り、クナイを突き付けていた。
つーかクナイて。忍者かよ。
俺もスイレンを床に寝かせようとしたところで……
「……ハクトさん、きっと救けに来てくれるって、信じてました……!」
ちっ……!
なんでマナブより目覚めんの早ぇんだよ……! 男女差か、あるいは精霊パワーか……!?
「おう。でもユヅキやハル……マナブやお前のお父様が頑張ってくれてな……」
少しでも感謝の矛先を分散させようと、この場にいない人間まで出してみるが、この目は聞いちゃいねえ。
仕方ない。お父様とのコネのための好感度上げだと思うことにしよう。
「うーん……」
「おっ! っと、マナブが目を覚ましそうだ。見てやってくれるか、スイレン」
「はい、任せてください!」
体よくスイレンを追っ払い、ユヅキにジト目を向けられながら……俺はカード化された人間たちの部屋に目を向ける。彼らもすぐに目を覚ますことだろう。
あの人数だ、すし詰めになってくたばってくれてりゃいいが、そうでないならレアカードが誰のものか特定会が始まっちまう。
まあ、残念だが元々残ったカードが手に入りゃそれで良いって話ではあった。あれだけのカード枚数だ、残ったカードだけでも相当な額になるだろう。
加えて、カードの特定といっても、カードに名前が書いてあるわけじゃないからな。イチャモンなんざ付け放題。『誤った所有者にカードを渡したら本来の持ち主に申し訳が立たない』とかなんとかそれっぽい理由を付けて徹底的に邪魔してやる。
くくく……レアカードは俺のモンだぜ……!
——しかし。ここで俺は気付く。
「あれ……なんか、レアカードも光ってね?」
レアカードの保管室から、巨大な光の柱が立ち昇り始めたことに。
「ど、どういうことだ。説明しろキリヒコ!」
「え、さっき私のデッキからも……ああ、あなた話を聞いていたから気付かなかったんですね。アヤメの時は……」
「私は、自前のカードと闇のカードしか使っていなかったので」
「何をもったいぶってんだ、早く言え!」
そして、キリヒコは……絶望的な報せを俺に寄越した。
「闇のVSで奪われ、スイーパーのデッキに入れられたレアカードは……そのスイーパーが負ければ持ち主に強制返還されるんです。あの光に導かれて」
「そして、闇の力の大元であるナユタが倒された今……我々が集めた全てのカードは持ち主に返還されます」
…………な。
なんじゃそりゃああああああああああッ!?
「てめーッ、闇のカードゲーマーの癖になに良いヤツぶってんだ!! 律儀に持ち主に返すなんておかしいだろ!!」
「そう言われましても……闇の力ってそういうものなんです。『仕様です』としか……」
ざっけんな、なんだこのハッピーエンド突入確定演出みてぇな仕様はぁ!?
これのどこが闇の力なんだよ!!!
「良いじゃないですか、持ち主に返るのであれば。伊波ハクトは何を問題視しているのですか?」
「それは……ッ」
言い淀み、視線を逸らすと、不安そうな顔のハルと目が合う。
そこで、俺は気付く。
ハルと『
知っていたのか……このことを……!
クソがッ!
あの時、『やけに即決で返事をする』という僅かな違和感を放置せず、その場で確認しておけば、こんなことにはならなかった……ッ!!
それに、キリヒコの時に情報に飛び付かずカードに目を向けていれば、対策を立てることができたか、できずともここまでの精神的ダメージを負わずに済んだかもしれん……!
納得はいかないが、俺の落ち度がデカいことを理解する。してしまう。
「いや、そうだな……なんでもない」
ひとまずユヅキにはそんな言葉を返しつつも……俺は過去の自分に腑が煮え繰り返るような怒りを覚えていた。
俺には
しかし、そんな俺を嘲笑うかのように。
やがて光の柱からカードがヒュンヒュンと音を立てて飛び出して行き、持ち主の元(主に二つ隣の人質部屋)へ返っていった。
お……俺のレアカードがぁぁぁ!!!!!
◆
カードの強制返還なんて
「ぼちぼちカードから解放されたヤツらが目覚める頃だろ。面倒事に巻き込まれたくねぇし、通報だけしてとっととズラかるぞ」
そう全員に指示して、ユヅキの車に乗り込ませる。キリヒコは拘束してユヅキに見張らせている。
高級車ってのは広くて助かるな。
「あの……ハクトさん」
「なんだ?」
「私たちを通報しないんですか?」
確かに、警察にアヤメたちの身柄を引き渡すつもりであれば、
まあ……キリヒコなら目を離すと拘束から抜けそうだし、ユヅキを残すくらいはしないといけないが……
それに、
ちら、とバックミラー越しにガキ共の様子を見る。全員、疲れて眠ってしまっている。高い緊張状態の中にいたからな。
「ユヅキちゃんはどう思う?」
「……何か企んでいる。違いますか?」
「違わないねぇ。アヤメ、キリヒコ。お前ら俺の下僕になれ。逆らうならお望み通り通報してやる」
「なっ……」
「はい。私は貴方に仕えます」
驚くキリヒコとは対照的に、アヤメは俺の言葉を聞いてすぐに広い車内で跪いた。
「キリヒコ、お前は?」
「……選択肢はない、でしょう? しかし、あなたの考えていることが分からない。一体なぜ、私たちを通報することも……殺すこともしないのですか。あなたなら容易でしょうに」
理由は幾つもあるから、説明すんのダルいんだよな……
こいつらの興味を惹きそうなとこだけ話しとくか。
「この件はまだ終わってないからだ」
「……? それは、どういう……」
「キリヒコ。
「それは、もちろん…………ッ……!?」
「そいつの名前は?」
「……わ、分かりません……なぜ……!?」
キリヒコは答えようとして、その答えが自らの頭の中にないことに驚愕する。
おかしいと思ったんだ。
アジトをイザキエルに探らせても、そいつの存在は浮かび上がらなかった。
俺は初め、キリヒコがソイツのカードを回収したのは、情報漏洩するのを恐れたか、もしくは何かしらのカードから解放する手段があるからと踏んでいた。
が、解放されているとしたらスイーパーとしての動きがなさすぎるし、キリヒコとのVS中もアヤメをカードになったまま活用するような発言をしていた。
ならカードのままなのかと思えば、保管庫にソイツらしきカードもなければ(アヤメやキリヒコのように闇のVSを仕掛けた側のヤツはカードになっても気絶しないため他と判別可能)、キリヒコがカードを持っていたわけでもない。
ならばソイツはどこに消えた?
誰も答えを知らないのだ。
黒幕はナユタ、キリヒコとは別に存在した……という可能性が、俺の中で生まれた。
「こいつは面倒な予感がする、と思ってな。事情を知っている駒が要ると思ったわけだ。ま、それだけじゃないがな」
「…………! まさか、我々の事情を知って、情けを……!?」
『それは100%ないです』
ユヅキとアヤメの声がピタリと重なる。いや、本当にその通りだ。笑わせんなよ。
「闇のカードも紙屑になっちまったし、レアカードも持ち主の元に帰っちまったよな」
ナユタから力がなくなったから覚悟はしていたが……アルボルタはじめアヤメから奪ったカード、キリヒコから奪ったカードもただの紙屑になった。
「ええ……そうですね」
「それだと困るのさ。俺には世界一嫌いな言葉があってな」
「……? それは、一体?」
「タダ働き」
俺は常に俺の利益のために動く。
それが聖人のように利他的に見えたとしても、あるいは悪魔のように他者を痛ぶっているように見えたとしても、本質は同じことだ。
そんな俺だが、働いて利益が得られないなんてことは死んでもお断りだ。何がなんでも何かしらの報酬は掴み取ってみせる。
今回は駒2枚を含んだ
交渉次第だが、スイレン救出(誘拐者は俺だが)の謝礼。
スイレンの父親とのコネ。
VSチャンピオンシップ優勝者とのコネ。
こんなところで済ませておく。
「タダ働きなんざ御免だからな。てめえらを駒にすりゃ、まあ労働の対価くらいにはなるだろ」
「……はっ。ははははははは! それは嫌な言葉ですね。不覚にも共感を覚えます」
「ナユタを施設に放り込むくらいはしてやる。その代わりてめえは俺の奴隷だ。俺に逆らうことは許さんし、俺の命令は全てこなしてもらう。良いな?」
「伊波ハクト。あなたは……あなたは危険な存在だ。あなたは実に非情、冷酷でありながら、時に他者を救う様を見せる。まるで天使と悪魔、どちらの顔も持つような……」
褒めてんのか貶してんのか分かり辛えな。
「返答は?」
「……しかし、あなたは私を信用できるのですか?」
「信頼はしないさ。だが、おまえナユタを見捨てられないだろ? そういう意味では信用している」
キリヒコの弟分への溺愛ぶりは話を聞いてよく分かった。
お互い、たった一人残った家族だ。さぞ大切だろうな。
「……ああ、安心しますよ。忠誠の証に、あなたの靴でも舐めましょうか?」
「運転中だぞ。常識で考えろ」
「これは失礼いたしました……我が新たな主よ」
今のが主従関係を受け入れたという言質のつもりか。キザなヤツだ。
(……私と主の呼び方被ってるんですけど)
(悪いな。こんなのその内処分するから我慢してくれ)
(仕方ないですね。その代わり、また映画、特にアニメのヤツが見たいのですが……)
(…………アヤメに映画見せてるのを横で見てから、ハマっちまったわけね。分かった、幾らでもどーぞ)
(ありがとうございます!)
イザキエルの機嫌を損ねすぎると手札にぱったり来なくなるからな。いつかはキリヒコも処分しなければならない。
とはいえ、しばらくは換金しないでおいてやるとするか。
ちなみに、俺の言う換金がなんなのかというと……
超簡単に言ってしまえば、キリヒコ、アヤメ、そしてナユタの身柄はヤクザどもに超高値で売れる。
当然だ。ヤクザはメンツが命。それがスイーパーとかいう組織に誘拐された後、警察に保護されたとあってはそれが丸潰れだ。
何がなんでもその首を探し出して落とし前を付けたい。そう考えているヤツらなど山ほどいる。
その内、懸賞金なんかも出てくるだろう。まあ、認識阻害で顔を見られていないから見つけるのは至難だろうがな。
俺はキリヒコたちがスイーパーだと自白している映像をタイピンの隠しカメラで撮影している。これで垂れ込んで、人質が発見された廃工場の位置情報でも言い当てて見せれば、ヤツらもこちらを信用する。
復讐に燃えるヤクザに身柄を引き渡されてどうなるかなんてのは明らかだ。特に肩書き上だけでも首領だったナユタは、それは酷い目に遭うことだろう。
が、そんなことは俺の知ったことじゃない。
◆
ハルとマナブ、アヤメを家まで送り、キリヒコとナユタは拘束してひとまず今晩は俺の自室に放り込むことにして、最後。俺の自室前まで車を運転し、止める。
「んじゃお疲れさん、ユヅキちゃん」
「なぜ、彼らとの話を私の前で? こっそり話せば良かったものを。あなたはただでさえソウジロウ様に良く思われていません。ただスイレン様を助けた、となれば印象が良くなるはずでは? 私があなたが二人を下僕にする、人質を取るなど非道な話をしていたと報告すれば、せっかく上がりそうな印象が下がるのでは?」
「いや、お前がそれを報告することはない。なぜならお前はもう知っているからな。今回の件には別の黒幕がいる……つまり、スイレンはまた狙われる可能性があるってこった。もしまたスイレンが拐われそうになった……そんな時、事情通の手は多い方が良い。そして、お前がソウジロウ氏に悪い報告をすれば、俺が手を貸すことは永久にない」
「……わざと聞かせていた、ということですか。まったく油断ならない男です」
「惚れたか?」
「冗談キツいですね。……性格は終わっていますが、使える男ではあるようです。まあ我々だけでもお嬢様をお守りするには足るでしょうが、保険があってもいいでしょう」
こんなこと言ってるが、今回は守れてないからな。
「ユヅキちゃんからのデートの誘いならいつでも歓迎する」
スマホを取り出す。ユヅキはふん、と鼻をならして、それでも連絡先の交換に応じた。
チョロいなこの女。
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