イカサマが闇のカードゲーマーに通用した   作:レイトントン

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得にならない勝負はお断り

「えっ! ハクトさんVS学園の教師になったの!?」

 

 スイレンから衝撃的な事実を聞かされて、ボクは思わず大きな声を出してしまった。

 入学式が開けて翌日。初めてのホームルームで、『履修登録』について聞かされた後の小休止でのことだ。

 

「うん。実は私、学園に馴染めるか不安でね。ハルとマナブがいるから大丈夫かとは思ったんだけど……お父さんにお願いして、ハクトさんを先生に捩じ込んでもらったの」

「相変わらず凄いね、スイレンパパ……」

「ふふふ。ハクトさんも渋々だけど先生になってくれるみたいだから、良かったらハルも一緒に選択しようよ」

「もちろん! ハクトさんの授業か、どんな感じなのかな」

 

 VS学園は4限まではクラス毎に分けて授業が行われるけど、5、6限は学年を問わず、生徒ごとに受ける授業を選択することができる。

 これから1週間は履修登録期間ということで、どの講義を選択し受けていくか、というのを判断する期間とのことだった。

 

 けど、ハクトさんの授業なら迷うことなく受講したい。きっとその価値がある。

 

「早速登録しよう」

 

 ええと、ハクトさんの講義は……『VS心理戦概論』……?

 心理戦について教えてくれる、ってことか。なんというか、ハクトさんらしいかもしれない。

 履修登録者の上限は40名、先着順。けれど、登録している人数は5名。少ないように思えるけど、ハクトさんは無名の新人講師だし、当たり前か。

 

「あと登録しているのは……マナブとアヤメさんはきっとしているよね」

「うん。ハクトさんの講義は火曜金曜の5限らしいけど……今日は学校にいるって。会いに行ってみない?」

「うん! ハクトさんに会うの、久しぶりだなあ」

 

 スイレンに促されて、ハクトさんの講義に向かう。VS心理戦概論の教室は学園の端も端、利用者の少ない第3棟での講義となる。

 

「なんていうか、各クラスのある本棟や教員棟と比べて寂しい感じだね」

「仕方ないよ。本棟は割と最近改築された建物だけど、第3棟は古い建物だし。ハクトさんは新人講師だしね」

 

 まあ、古くはあるけど汚いわけじゃない。ボクたちはハクトさんが使用するという教室に入った。

 きちっと机が並べられたものの、誰も座っていない空いている席が全ての教室。そんな中に、ハクトさんはいた。

 いた、んだけど……

 

「は、はは、ハクトさん!?」

「お、お前らか。よう」

「その髪どうしたんですかっ!? っていうか、メガネ!?」

 

 ハクトさんは……金髪を黒に染め、スーツに身を包んでいる。加えて、なぜか伊達と思われるメガネをかけていた。

 

「どうしたもこうしたもねーよ。仮にも名門校の講師だぞ、金髪はマズいだろ。ピアスも外したわ」

「マズいということはないと思いますが……今の時代、髪色くらいで騒ぐ人なんてそうそういませんよ?」

 

 スイレンの言う通りだ。教員をするのに、わざわざ髪色を変える必要なんてない。

 

「正直、俺もわざわざここまでする必要はなかったかもなと思ってはいたが……まあ色々考えた結果だ」

「め、メガネはっ? メガネはどうして着けてるんですかっ?」

「支配人が着けたら先生っぽくなる、ってうるさくてな。ただのファッションだ」

「なるほど……ハクトさん」

「んだよ」

「写真撮ってもいいですか?」

「やめろ」

 

 スイレンも既にカメラまで構えてたけど、写真NGと聞いて肩を落としている。

 

 しばらくするとマナブが合流して、次にアヤメさんがやってきた。

 

「お前ら、せっかく新入生だったり新学期だったりなんだから新しい友達と仲を深めろよ」

「だ、だって……ハクトさんが先生になるなんて知らなかったんですもん。教えてくれたって良かったじゃないですか!」

「そりゃ悪かったが、こっちにも守秘義務とか色々あんだよ。マナブも知らなかったんだ、まぁ許せ」

 

 それなら仕方ないか……スイレンは依頼主だもんね。あれ、でもアヤメさんは知ってたの?

 ズルい……

 

「ところでハクトさん。受講申請者は今のところ、実質0人ですが……大丈夫なのですか?」

 

 アヤメさんはそんなことを口にした。実質0人? と思ったけど、今申請しているのはこの場にいる4人に、アヤメさんの友人の中で了承してくれた4人、合わせて8人のみ。

 定員の五分の一しかいない上に、ほぼ知人のみで構成されている。

 

「問題ない。何の実績もないペーペーの新米教師の講義なんて不人気で当然だろ。寧ろ8人も受講する生徒がいるなら新人としちゃ優秀な方だろ」

「けど、他の新任講師は半分以上埋まってますよ」

「そうか……まあ、大会優勝経験者だったり論文で賞取ってたり、色々実績のある連中だからなァ」

 

 他の新任講師と既に顔を合わせているようで、ハクトさんはその人たちの素性も知っている様子だ。そのせいか、少しも焦っている様子は見られない。

 でも……はなから諦めるのは良くないと思う。

 

 ここは一つ、ボクが一肌脱いで協力しよう。ハクトさんも、前にボクが有名人であることを自覚しろ、って言ってくれてたしね。

 

「……任せてくださいハクトさん! ボク、ハクトさんの授業を宣伝してきます!」

「そりゃありがてえな、チャンピオンシップ優勝者様に宣伝してもらえるとは。広告宣伝費を払おうか?」

「あははっ! 要りませんよ、そんな。去年は(スイーパー)の件で、散々助けてもらいましたから!」

「そうか。なら頼んでいいか?」

 

 ハクトさんは優しく笑いかけてくれた。もしかしてボク、期待されているのかも。

 よおし、頑張ってハクトさんの思っている以上に講義を広めて、ビックリさせよう!

 

 

 

 

 狙い通り。アヤメが俺の講義への申請者数を話題に出したことにより、ハルは積極的に俺の講義を勧めてくれるつもりのようだ。VSチャンピオンシップ優勝者の宣伝。そのインパクトは大きい。

 勢い良く教室を飛び出したところは、少し心配になるが。

 

「スイレン、マナブ。悪いがハルに付いてやってくれないか? VSの実力については全く問題ないが、それ以外はどうにもアイツ一人だと心配だ。単身で裏カジノに突撃するヤツだし」

「もちろんです。ハルは大切な友達ですから。行こ、マナブ」

「うん。ハクトさん、来週からよろしく」

 

 スイレンとマナブも追っ払い、アヤメと二人きりの状態を作る。アヤメにはしてほしい工作がある。

 

「ハクトさん」

「待て」

 

 だが、その前にすることがある。

 一応、スイレンの触れた場所に盗聴器の類がないか探っておくとする。まあ、実際そんなことはないと思うが念のた……

 

 

 …………あるじゃねーかクソッタレ!

 

 

 あのお嬢様、どんどんタガが外れてやがるなぁ……クソガキが……!

 大企業のお嬢様なら何でもしていいってわけじゃねえんだぞ!? まあ盗聴自体は別に犯罪ではないんだが。

 これも下手したら「ハクトさんの講義内容を録音するために持ち込んだんです。置き忘れちゃってごめんなさい」とかで通されかねないからな……

 

 この教室はスイレンたちが来る前に徹底的に調べてある。カメラや盗聴器の類は他に付いていない。

 

「悪ぃ、ちょっと虫が飛んでてな。なんだ

?」

 

 と口ではテキトーなことを言いつつ、スマホに文字を打ち込む。

 

『盗聴器が仕掛けられてる』

 

 一節だけで事態を把握したアヤメは、「いえ、何でも。春になって暖かくなりましたしね」と会話を返しつつスマホでの筆談(と言っていいのか?)を行う。

 上手いぞ、会話に違和感はない。

 

『誰が?』

『そこは気にしなくていい』

 

 そう書くと、複雑そうにしながらもアヤメは続ける。

 

『ターゲットが校内におり、今なら工作も容易です。どうしますか』

『実行しろ』

 

 簡潔に仕込みを依頼するとアヤメは頷き、上手く会話を終わらせてから、さっそく教室を出ていった。

 

 盗聴器を潰して普通に会話することももちろんできたが、外せば当然向こうもこちらが気付いたことに気付くからな。

 仮に言い訳を潰してスイレンを訴えたところで、俺への実入りはない。その上、依頼主の娘と余計なトラブルを起こして仕事に支障を来たすのは極力避けたいところだ。

 まあ、そこら中に盗聴器を仕掛け始めるようならさすがに指摘しなけりゃいかなくなるが、まだ様子見しておこう。

 

 それに、スイレンも大きなミスをした。盗聴器を仕掛けたのがバレたことだ。

 誤った情報を掴まされることは致命的だ。警戒されている中で盗聴器を仕掛けたのは迂闊だったな。その辺はまだまだケツの青いガキってとこか。

 今のところは、俺が悪巧みをせず臨時講師としての職務を全うしようとしている、と誤認してもらう。

 

 辟易しつつも、俺は盗聴器の仕掛けられた教室を後にする。しかし、厄介ごとは重なるもののようだ。

 

「——随分と苦労されているようですね、伊波先生?」

「キョウカか。なぜここに?」

「下の名前で呼ばないでください」

「悪いな、学園長と区別を付けるためだ。まさか藤宮学園長を馴れ馴れしくも下の名前で呼ぶわけにもいかないだろ」

「口の減らない……それに、口調も荒いですよ。着任早々、地金を出すとは。コネを使って入れたなら、その後はどうとでもなると?」

 

 不満そうな顔付きで、俺のことを目の敵にしている学園長の娘が現れた。

 嫌われてる理由は、まあ幾らでも思い当たるところはある。

 

「さあ、どうだろうな。それで、苦労とは何のことだ?」

 

 まさか、スイレンに盗聴器を仕掛けられたことではないだろう。現状、それ以上に苦労していることはない。

 俺の言葉を受けて、キョウカはそれまでの不満そうな顔から一転、口角をあげる。

 

「とぼけずともよろしいですよ。他の新任講師の方々に比べ、あなたの講義の受講者数は半分以下。このままでは講師としての評価に差し障るのではないですか?」

「8人も生徒がいりゃ、まあ頑張っている方じゃないか? 俺は実績も何もない新任講師だしな」

「たしかにあなたには色々と足りていませんが、実績という面だけでしたら私もご協力できることがあるかと」

「……というと?」

 

 こいつは俺のことを目の敵にしている。協力、というのがそのままの意味でないことは明白だ。

 

「私とVSをしませんか?」

「ほう?」

「あなたが勝てば、VS学園序列5位のこの私に勝ったとして、今すぐに実績を手に入れられます。講義に参加する生徒も増え、お父様や他の先生たちからの評価も上がるでしょう」

「俺が負けたら?」

 

 にや、とキョウカは待っていましたとばかりに笑みを深めた。

 

「あなたが負ければ……あなたにはVS学園を去っていただきます」

「じゃあ断る」

「さあどうしま……え?」

「断る。デメリットがデカい上に勝った時のメリットもない。受ける理由がないだろ」

 

 負けたらソウジロウ氏からの依頼が失敗に終わる。前金で報酬を貰っている上に、一学期の間講師生活を送りスイレンの様子を見るだけの簡単な仕事。失敗は許されない。初日でクビなど笑えない話だ。

 

 しかも、勝った時の報酬が、こいつに勝ったという実績のみだと? そんなもんなくても仕事には全く支障がない。ハルの宣伝以上の効果が得られるかも不透明だ。

 ふざけるのも大概にしてほしい。こんなVS、受ける価値が全くないだろう。

 

「……なら、私が負けたら私が学園を去ります。どうです? これなら対等でしょう?」

「対等かどうかの話はしてねぇんだよ。お前が学園を去って俺に何のメリットがあんだ、精々口うるせぇガキが一人減るだけだろうが」

 

 しかも、賭けVSで学園長の娘を学園から追い出した、なんてレッテルを貼られかねない。学園長からの心象も地に落ちるだろうし、俺にとってデメリットしかないVSだ。

 

 まあ、強いて言うなら俺を気に食わないと思っている権力者の娘が消える、というのがメリットではあるが、そんなものは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 受ける理由がマジで一つもない。

 

「ガ……ッ!? あっ、あなたそれでもこの学園の講師なの!?」

「おっ、地金が出た」

「うるさい! あなたねぇ、八代社長のコネで講師になった癖に生徒集めもVSもやる気がないなんてどういうつもりなの!? あなたが捩じ込まれたせいで講師になれなかった人だっていたかもしれないのよ!」

「そりゃそいつには災難だった。だが、こっちも仕事なんでな。下手な条件でお前とVSしてクビにでもなったら、それこそ八代氏に顔向け出来ん」

「……なら、せめてコネを使っただけの責務を果たしなさいよ。仕事なんでしょ?」

 

 まだ言い足りないようだが、ひとまず言うべきことは言い切ったとばかりに腕を組みそっぽを向く。

 こいつの言い分も、まあ理解はできる。それに、仕事に対して責任を求めるのは当然のことだ。負けたらクビのVSは置いといて。

 

 元よりそのつもりではあったが、ある程度の仕事はさせてもらおう。

 成果の出し方は俺流になるかもしれないがな。

 

「仕方ねえなぁ。まあ見てな。定員を満たすだけの申請を集めてやるよ」

「……ふん。あなたに出来るかしらね?」

 

 そう捨てゼリフを吐いて、キョウカは踵を返す。

 生徒集め? 全く問題はない。既に準備は整っている。









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