イカサマが闇のカードゲーマーに通用した   作:レイトントン

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賭けVSは合法らしい

「うーん。宣伝しようと思って飛び出してきちゃったけど……何すればいいんだろ」

 

 さすがに、道行く生徒に「この講義受けてみない?」と声掛けするのは違うだろうし。

 かといって、生徒会選挙みたいに校門の前で声高におすすめするのもなあ。うーん……

 

「難しく考える必要ないんじゃないか? ハルがハクトさんの講義を受ける、ってことを周りが知れば、自然と興味を持ってもらえると思うよ」

「マナブの言う通りだよ。ハルはチャンピオンシップ優勝者なんだから」

「そうかもしれないけど、どうしたら周りに知ってもらえるのかな?」

 

 ボクの言葉に、マナブとスイレンは任せて、と笑った。

 2人はそれぞれ別れると、まずはスイレンに連れられて学園内の食堂にあるカフェに連れて行かれる。

 学内でも人気のスポットで、生徒たちががやがやとひしめき合っていた。その中にボクらが入ると、一部でざわめきが大きくなる。

 

「有名人だね、ハル」

「や、やめてよ。恥ずかしいじゃん」

「でも、好都合だよ。わざわざ大声でハルの素性を話す必要もなくなったから」

 

 スイレンは注目を集めたまま、席を確保してスマホから注文を行う。そして、どんな会話をするのか打ち合わせをした後、スイレンは彼女にしては大きめな声で話し始めた。

 

「それで、ハルはもう選択講義を決めたの?」

「うん。とりあえず、『VS心理戦概論』を取ろうと思っているんだ。デッキ構築やプレイングには自信あるけど、心理戦って今まであまり意識してなかったから、気になって。どんな講義なのかな、『VS心理戦概論』」

「『VS心理戦概論』かぁ。面白そうだね、私も申請してみることにするよ」

 

 ……という話を、人気の多いところで行う。単純だけど、ボクへの注目度が高い中で、噂はすぐに広まるはず。

 マナブとも別の人気スポットで同じ話をして、ボクがハクトさんの講義を受けることを盛大にアピールした。

 

 

 その後、校舎外のベンチで、ボクらは宣伝の効果を実感していた。

 

 

「わっ! 見てみて、もう講義への参加申請が18件まで増えてる!」

「最初の倍以上、凄い成果だね。これから噂も広まっていくだろうし、もしかしたら定員以上まで行っちゃうんじゃない?」

「マナブたちのおかげだよ、ありがとう!」

「別に……ハルが凄いだけだよ。俺たちはちょっと手を貸しただけだから」

 

 そうは言うけど、マナブたちが宣伝方法を考えてくれたのは本当だし。

 これなら、ハクトさんもきっと喜んでくれるよね。楽しみだな、ハクトさんの講義。

 

 そんな風に、ボクとマナブ(スイレンはまだ合流していない)が成果に満足していると、遠くから明らかにこちらに向かって歩いてくる人が見受けられた。

 

「マナブ、あの人知り合い?」

「え? いや、誰だろう。ネクタイの色的に、3年生みたいだけど」

 

 彼はこちらへ迷いなく歩いてきて、ボクたち、いやボクの目の前に立ち塞がった。

 それだけで、遠巻きにボクらを見ていた周囲の生徒がざわめくのが聞こえてくる。

 

「結束ハルだな?」

「はい。あの、先輩は?」

「……ははっ、俺のことなんざ眼中にもないってか? 一応、この学園では序列7位。上から7番目の実力なんだがな。3年、三国カズヤだ。覚えなくてもいいぞ」

 

 うっ。なんかやたら刺々しい先輩だなぁ。

 マナブも顔を顰めている。

 

「失礼しました、先輩」

「まぁいいさ。結束お前、バーテックス・セブンを目指しているのか?」

 

 バーテックス・セブン。この学園の成績上位者7名を指す名称だ。確か、学内での施設利用や定員のある講義を受講する優先権などの特権に加えて、卒業時にはプロリーグへの推薦ももらえるんだっけ。

 挨拶もそこそこにこんな話を振ってくるなんて、序列によほど強いこだわりがあるんだろうか。

 

「狙っているわけではありませんが、VSの上達のためにこの学園に入った以上、当然上を目指したいと思っています」

「随分とデカい口を叩くな。VSチャンピオンシップに優勝するだけあって、立派な向上心だ。なら、すぐに上を目指すための良い方法を教えてやろうか?」

「良い方法、ですか?」

「俺とポイントを賭けたVSをするのさ」

 

 賭けVS……か。

 

 VS学園の序列は、手に入れたポイントの数値で決まる。

 

 授業への出席や授業態度、試験結果やレポート、学内試合や大会の成績など、様々な要因で手に入るポイントだ。単位みたいなものかな。

 中でも、手っ取り早くポイントを稼ぐ方法として、生徒同士でポイントを賭けたVSが認められている。

 

 賭けVSなんて良くないと思うんだけど、さすがにお金やカードを賭けたVSは禁止されていてほっとした。

 他のものを賭けてVSしたり、揉め事をVSで解決したりはしょっちゅうみたいだけどね。

 

 しかし。

 

「ボクは昨日入学したばかりですよ? ポイントの説明はもちろん受けていますが、手元にポイントがありません」

「借金って形にしてやるよ。俺が勝ったらお前がポイントを手に入れるたび、それを俺に支払うんだ」

「へえ、そんなこともできるんですか」

「ああ。賭け金は——そうだな、10000ポイントでどうだ? ちょうど進級に必要なポイントだ」

「ボクが負けたら、該当するだけのポイントを全て返済するまではポイントが得られない、ということですか」

「その通りだ。勝てば楽に進級できる。負ければ労力は倍となる。どうだ?」

 

 学園の最上位層。その実力はぜひ体験してみたい。ただ、10000ポイントというのがどの程度の価値なのか、いまいちよく分からない。進級に必要なポイント、ということは、単純に考えるなら平均的な生徒が大体1年をかけて貯めるだけのポイント、と解釈することもできる。

 

「三国先輩はポイントをいくつ持っているんですか?」

 

 ボクと同じことを考えたのか、マナブがそう質問してくれる。

 

「67000ポイントだ。端数は捨ててるが」

 

 なるほど……学園上位層とはいえ、単純に考えると、実力次第では1年で30000ポイントは集められるのかな。なら、マイナス10000、進級するための10000、合計で20000ポイントっていうのは集められなくもない数値なのかな。

 なら、仮に負けても、努力次第でそれを帳消しにすることも可能だ。それでも、いきなり賭けるにはかなり大きい額だと思うけど。

 

 ただ、VS学園のトップ層。その実力を確かめてみるのも良いかも知れない。

 

 それに、もし彼に勝ったなら、ハクトさんの講義の宣伝効果もより大きくなるに違いない。

 

「分かりました、そのVS、受けて立ちます」

「そう来なくちゃな」

 

 ボクらはすぐ近くの屋外VSスペースまで移動する。近くにいた生徒たちも、ボクらのVSに興味があるのか団体のように連れ立って着いてきた。

 

「……お見それするな。ギャラリーを背負うことなんざ慣れたもんってか?」

「え?」

 

 三国先輩は一筋の汗を流しながら、ボクにそう問いかけた。確かに、ボクはチャンピオンシップなどの大会には何度か出場しているから、観客がいるVSには今更緊張もしない。

 先輩は、そうではなさそうだ。序列7位、といっても3年生が抜けて、そんなに時間が経っているわけじゃないからかな。

 

「そうですね。あまり緊張はしない方かもしれません」

「そりゃ羨ましいことだな」

「——新学期早々、万単位のポイントを賭けた試合とはな。バーテックス入りを果たして随分気が大きくなったらしいな、三国」

「っ。今回のジャッジは久住か」

「これだけ大規模なVSとなればな。下級生には荷が重い」

 

 三国先輩に仰々しく話しかけてきたのは、凄く背の高い、筋骨隆々の先輩だった。久住と呼ばれたその人は、三国先輩から視線を外してボクをまっすぐ見つめる。

 

「結束ハル、1年生です。その、先輩は一体……?」

「3年の久住シュウジだ。この学園では、VSの際にジャッジを『審判科』の生徒が務めることになっている。必ずしも呼ぶ必要はないが、賭けVSなどはジャッジを付ける義務がある。そうしなければ、ポイントの移行や権利の行使は認められない」

 

 審判科、か。確かに、担任の先生からも同じ説明を受けた。

 ただ、審判科に入りたがる生徒数は少ないとも言っていた。それでも、一学年30人はいるらしいけど。

 

「分かりました、よろしくお願いします久住先輩」

 

  頭を下げる。しかし、久住先輩は難しい顔をして黙り込んでしまった。

 何か、失礼があっただろうか……と不安になったタイミングで、久住先輩は口を開いた。

 

「……結束。もし三国に煽られてVSを受けたなら、今ならこのVSを辞退してもいい。ペナルティも俺が責任を持って負わせない」

「はぁ? 久住お前、何言ってるんだ」

 

 久住先輩の言葉は、三国先輩のものと違い真摯な響きがあった。真剣な目付きは、心からボクを心配してくれているのがよく分かるものだった。

 

「三国、1年生はまだ入学して2日だ。そんな彼女らに、いきなり大量のポイントを賭けたVSなど……詐欺と変わらんと俺は思う。先輩として、あまり相応しくない振る舞いではないのか」

「社会の厳しさを教えるのも先輩の役目だろ。それに、俺はちゃんとポイントの価値については説明したぜ? 双方納得の上でのVSだよ、これは。なあ、結束」

「はい。大丈夫です、ボクにも利のあるお話でしたから。でも、ありがとうございます久住先輩。お心遣い、痛み入ります」

「……お前が納得の上でのVSなら、俺が口を挟むのはここまでだ。ジャッジを務める以上は、VSについては平等に接するのでそのつもりでな」

「もちろんです」

 

 良かった。ちゃんと優しい先輩もいるんだ。三国先輩みたいな人ばかりだったら、どうしようかと思った。

 久住先輩に深い感謝をしながら、VSを開始した。

 

 

 

 

「俺のターン。俺は魔力4で『黒毛の人狼』を場に出す。このクリーチャーは俺の最大魔力数が奇数か偶数かによってステータスを変える。今の俺の最大魔力は7。よって人狼のステータスは1/6となる」

 

 人狼のクリーチャーは人間の形態と狼の形態に分かれているようだ。奇数魔力のターンは人間形態で、精悍な顔付きの男性クリーチャーとなっている。

 

「さらに俺は魔力2で『滞留する人魂』を使用。このカードは発動したターンに効果を発揮しない代わりに、次のターン相手のクリーチャー1体に3点のダメージを与える。そして、場にいるクリーチャーの攻撃でお前の場のセブンソード・ドレイクを破壊し、ターン終了だ」

 

 滞留する人魂の効果で、ボクが軽量クリーチャーを場に出しても次のターンにはやられてしまう。

 3点以上の体力を持ったクリーチャーを出すか、あるいは様子見をするか。

 

「どうだ、眼中になかった俺も大したもんだろ? チャンピオンシップには出なかったが、これだけ互角に戦えるなら優勝も狙えたかもな」

「えっと……」

 

 鼻高々な先輩の言葉に、どうリアクションしたものか考える。

 結果、無駄な考えをしていても仕方ないという結論に至り、ボクは無視してターンを開始した。

 

「ボクは魔力6で『ツインガトリング・ドラゴン』を場に出す! このクリーチャーは場に出た時、ランダムな相手クリーチャーに、クリーチャーがいない時は相手プレイヤーに、3点のダメージを2回与えます」

「俺の場のクリーチャーは体力6の人狼のみ。全ての効果ダメージがこいつに飛んでくるわけか」

「その通りです。放て、ツインガトリング!」

 

 ドラゴンの両腕に装着された回転式のガトリングガンから、大量の弾丸が発射される。その反動で狙いは疎かではあるけど、多数の弾が人狼を貫いた。

 

「俺は魔力1で高速魔法『受け太刀』を発動! 自分のクリーチャー1体の攻撃力を体力に変換する!」

 

 その効果で、人狼のステータスが0/7に変化する。ツインガトリングの効果で6点のダメージを受けるも、ギリギリで耐えた。

 しかも、次のターンで人狼は攻撃力の高いステータスに変化する。それなら、『受け太刀』で攻撃力を減らしてもデメリットはないようなものだ。

 

「ボクは魔力2で『フレイムウィング・ピーちゃん』を場に出します。これでターンを終了」

「はっ、弱そうな小鳥だな。俺のカードで噛みちぎってやるよ! 俺のターン、最大魔力が8になったことで人狼の効果発動! ステータスが変動する!」

 

 人間型クリーチャーだった人狼が低い唸り声をあげて、狼人間に姿を変える。

 そして、ステータスも5/1と攻撃的なものに変わった。

 

「さらに、前のターンで使用していた『滞留する人魂』が起動する。クリーチャー1体に3点のダメージを与える。俺はピーちゃんを選択!」

「させないですよ! ピーちゃんの効果を発動! 自身を墓場に送ることで、ボクのコスト5以上のクリーチャー1体の体力を3点増加する。ツインガトリングを選択!」

「ちっ、人魂は不発か」

 

 ツインガトリングの体力が強化され8点となる。だけど、まだまだ安心はできない。三国先輩の残り魔力はまだ8点もある。

 そうでなくとも、黒毛の人狼で攻撃されれば、体力の残りは3点。簡単に破壊されてしまう。

 

「まずは人狼で結束に直接攻撃だ」

「くっ」

 

 5点のダメージを受ける。ツインガトリングではなく、ボクの生命力を減らしに来たか。

 これでボクの生命力は17点。カズヤさんの生命力は15点。そろそろ、決着が近づいてきている。

 

「さらに俺は魔力1で『血の徴収』を使用。自分のクリーチャー1体を破壊し、カードを2枚ドローする。俺は人狼を破壊する」

 

 このタイミングで人狼を捨てたのは、次のターンではまた攻撃力の低い人間形態に戻ってしまうからだと思う。人狼が破壊されて、三国先輩は2枚のカードを引く。

 カードを引いた彼は、ジャッジとしてボクらのVSを見守る、久住先輩の方を向いた。

 

「久住ィ! お前、俺の気が大きくなったと言ったな!」

「……ああ。2年までのお前なら、新入生とはいえ大会優勝者相手に10000ポイントの賭けVSなど、考えられなかった」

「はっ……気が大きくもなるさ。こんなレアカードを手に入れたらなぁ!」

 

 歯を剥き出しにするほどに深い笑みを浮かべた三国先輩は……()()()()()を場に出した。

 

 

 

「出でよ……ヴォーパルソード・ドラゴン!!」

 

 

 

「ッ!!」

 

 爆炎から、紅の龍が顕現する。

 ヴォーパルソード・ドラゴン。ボクの切り札と同じクリーチャーが、相手の場に出現した。

 

 

 

 

 

「始まったか」

 

 屋外VSフィールドを見下ろせる、とある空き教室。俺はハルとカズヤのVSを観戦していた。

 

「良くやった、アヤメ」

「しかし彼の性格で、いきなり10000ものポイントを賭けるとは思いませんでした」

「くくっ、恋の力ってのは偉大だなぁ。ちょいとけしかけてやるだけでナイト気取りで格上に挑むんだからよ。いや、格上だとも分かってないのか?」

「もしかすれば……歳下、かつ自分が好調ということもあり、ハルを下に見ている可能性はあります」

「そりゃ自信満々で結構なことだ。さて、観察させてもらうとするか」

 

 カズヤの実力はアヤメから聞いているが、ハルが負けることはまずあるまい。

 勝って、俺の講義を大々的にアピールしてくれよ、ハル。







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