イカサマが闇のカードゲーマーに通用した   作:レイトントン

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そんなのデータにない

 その威容を正面から受けるのは初めてのことだった。いつも背中を見ていたその龍と相対するのは、これほどのプレッシャーを感じるものだったなんて。

 

「ヴォーパルソード……!」

「相棒と戦うのは心苦しいか? 心配するな、そんなことを考える余裕はすぐになくなる……行け、ヴォーパルソード!」

 

 ツインガトリングへの攻撃。一度目は耐えたものの、二度目の攻撃によって、両腕のガトリングを破壊され、喉笛を食い破られる。

 

「……!」

「ハル! ……くそっ、まさかハル以外にヴォーパルソードを持ってるヤツがいるなんて……!」

 

 マナブも驚いているけれど、ギャラリーの反応は違う。むしろ、大きな盛り上がりを見せていた。

 ボクと同様、三国先輩もヴォーパルソードを使うのが知れ渡っていたようだ。注目度が高いわけだね。同じ切り札を使う生徒同士の戦いなんて。

 

 でも……ヴォーパルソードの使い手としての力量は、ボクの方が上だと確実に言える。

 

「ボクのターン!」

 

 デッキに手を当てると、龍の鼓動がボクを迎えてくれる。どうやら相棒も戦いたがっているようだ。

 

「ドロー! ボクはヴォーパルソード・ドラゴンを場に出す!」

 

 引いたカードをそのまま場に出す。相対するのと同じ爆炎の龍が、その姿を現した。

 

「さらに、魔力2で魔法装具『炎熱龍の爪』を使用、ヴォーパルソードに装着します。……ボクの相棒がヴォーパルソードだと知っているのに、我慢できず先に出したのは迂闊でしたね」

「なに……?」

「見せてあげます……攻撃だ! 行け、ヴォーパルソード!」

 

 同じ姿をした龍が、鏡写しのように攻撃し合う。しかし、その結果までは同一じゃない。

 

「この瞬間、ヴォーパルソードの効果と『炎熱龍の爪』の効果が起動します。まずはヴォーパルソードは攻撃力を2点あげ、敵クリーチャーの攻撃から受けるダメージを3点軽減する。そして、『炎熱龍の爪』はコスト7のクリーチャーが攻撃する時、その攻撃力の半分のダメージを相手プレイヤーに与える!」

「そうか、ヴォーパルソードの能力は攻撃時にのみ発生する……! なら、後に出したハルの方が断然有利!」

 

 これでヴォーパルソードの攻撃力は6となり、その半分、3点のダメージが三国先輩の生命力から引かれる。

 しかも、向こうのヴォーパルソードの体力は、ツインガトリングとの戦闘により6点まで減っている。ボクの相棒に、一撃の下食い破られた。

 

 

「これで三国先輩の場にクリーチャーはおらず、生命力も残り12点。次のターン、ヴォーパルソードが倒されなければ、ボクの勝ちです」

 

 ヴォーパルソードの体力は9点残っている。三国先輩の手札は4枚。ただ、彼の焦り顔からは、破壊するカードを持っているとは思えない。

 ……周囲の生徒たちからのざわめきが上がる。

 

「結束さんの勝ちかぁ。すごいなあの子。さすがチャンピオンシップ優勝者だ」

「三国先輩も入学早々の時期を狙ったんだろうけど、相手が悪かったな」

「これは1年でバーテックス入りがあるんじゃないか?」

 

 ボクを認めてくれるのは嬉しいけど……まだ勝負も着いていない段階で、そんな話をしている。

 三国先輩にも、聞こえていたのだろう。ぎりと歯を噛み締めていた。

 

 

「……まだだ。まだ俺は……負けてない! こんなところで、バーテックス・セブンから落ちてたまるか!!」

 

 

 そう叫んで、三国先輩はカードを引く。

 

「俺は魔力3で『呪いの魔女レフィ』を場に出し、魔力1で攻撃魔法『猛毒の盃』を使用! レフィを破壊し、次のターンお前のクリーチャー1体を破壊する!」

 

 魔力3で出たクリーチャーを破壊……何かしら破壊時能力がありそうだ。

 その予想は的中する。

 

「レフィの効果だ。破壊された時、相手の場のクリーチャー1体を選択し、次のターンの攻撃を封じる!」

 

 ヴォーパルソードの足元から鎖が伸び、拘束した。これで次のターン、ヴォーパルソードは動けない。これで動きを縛り、次のターン猛毒の盃の効果で破壊しようというコンボだね。

 

「そして俺は……こいつを出す。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「ッ!? その効果は……!?」

 

 

 

 

「出でよ、『背徳の天使イザキエル』!!」

 

 

 

 

「なんだって……!?」

 

 三国先輩の場に、よく見覚えのある純白の天使が降臨した。

 『背徳の天使イザキエル』……ハクトさんのエースカード!

 ヴォーパルソードだけでなく、こんなレアカードを持っているだなんて……!

 

「イザキエルは速攻効果を持つ。いけっ、イザキエルで直接攻撃!」

「くうっ!」

 

 速攻効果を持つイザキエルにより、ボクの生命力が5点削られる。これでボクの生命力は残り11点。

 まずい……追撃が来る……!

 

「俺は魔力1で魔法装具『月華の円盾』を使用。装着されたクリーチャーは自らの効果破壊から守られ、さらに『ガーディアン』を付与する。俺はこれをイザキエルに装着。これでイザキエルは自壊しない上、俺の生命力を守ってくれる。ターン終了だ」

「え……?」

「どうした? お前のターンだ」

 

 追撃が来ない……?

 …………そっか、そうだよね。冷静に考えると、三国先輩の残り魔力は1点だったし。そう簡単に追撃なんてできないか。

 

 …………なんというか……

 いや、いや。そんなこと考えちゃダメだ。

 

「ボクのターン!」

 

 気を取り直して、カードを引く。ボクの手の中には、スイーパーとの戦いで手に入れた、新たな力があった。

 このまま続けてもボクの勝ちだろうけど、ちょっと引きが良すぎたかな……これなら、このターン中に終わりそうだ。

 

「どうだ、お前の切り札は動けない。そして次の俺のターン、確実に破壊される……まだ、俺は負けちゃいない!」

「三国先輩。残念ですが、ボクの勝ちです」

「強がりはよせ。お前の切り札は拘束されているんだ、ここから俺を倒す方法なんて——」

「ボクは……転生魔法『リィンカーネーション・フォース』を発動!」

「転生魔法……!?」

 

 転生魔法。ボクも、このカードで初めて知る概念だった。

 このカードは——

 

「その効果で、ボクはヴォーパルソード・ドラゴンを転生させ、同コストの新たなドラゴンに生まれ変わらせる!」

 

 爆炎の龍は自ら炎を放出し、その中に飲み込まれることで生まれ変わる。

 炎を破ったのは、嵐だ。

 風と雷を纏う、新しい龍がボクの場に生誕した。

 

「転生召喚——出でよ、『ヴォルテックス・ストーム・ドラゴン』!!」

「転生召喚だとぉ!?」

 

 ナユタくんや他の皆も同じリアクションだったな。やっぱり、滅多に見かけない特殊な召喚方法みたいだ。周りの生徒たちも大いに驚いている。

 転生召喚……これが、スイーパーとの戦いでボクが手に入れた、新しい力だ。

 

「転生召喚されたクリーチャーは、転生元のクリーチャーがそのターン攻撃を行なっていない場合、出したターンに攻撃が可能となる」

 

 元のクリーチャーのターン初回の攻撃権を引き継ぐような形だ。ヴォーパルソードはその効果で1ターンに2回攻撃できるけど、1回でも攻撃してしまうとヴォルテックスは場に出たターンの攻撃ができない。

 

「そして、転生元のクリーチャーから魔法装具を引き継ぐことができる」

「こちらの拘束は無効となり、『炎熱龍の爪』は健在というわけか……!」

「その通りです。行きます……バトル!」

 

 ヴォルテックスが、嵐を身に纏ってイザキエルへ突撃する。ヴォルテックスは、ヴォーパルソードと違い1度しか攻撃できない。しかし。

 

「まずは『炎熱龍の爪』の効果。ヴォルテックスの攻撃力10点、その半分の5点のダメージを与えます」

「だが、まだ俺の生命力は7。次のターン、『猛毒の盃』の効果で、せっかく転生したお前のクリーチャーも死滅する! そして『ガーディアン』を持ったイザキエルによって、俺に直接攻撃はできない!」

「いいえ、終わりです。——ヴォルテックスはクリーチャーに攻撃する時、攻撃力がその体力を超えた分だけ、相手プレイヤーに貫通ダメージを与える!」

「なんだと!?」

 

 イザキエルの体力は3点。攻撃力10点から引かれ、三国先輩に与えるダメージは7点。

 

 荒れ狂う嵐が、イザキエルを吹き飛ばし……その勢いのまま、三国先輩にもダメージを与えた。

 三国先輩の生命力は、尽きた。

 

「そんな……馬鹿な……」

「勝者、結束ハル!」

 

 久住先輩の宣言をもって、MRビジョンが消えていく。

 ……これがVS学園序列7位。バーテックス・セブン……か。

 

「ハル! やったな!」

「マナブ。うん、ありがと」

 

 真っ先に駆け付けてくれるマナブ。そして、ジャッジを務めていた久住先輩も、ゆっくりと近付いてくる。

 

「三国との賭けに則り、三国からお前に10000ポイントが移行する。入学2日でこれほどのポイントを得た生徒は、過去に一人もいない。あの転生召喚といい……見事だ、結束」

「久住先輩。ありがとうございます」

「礼を言われることはなにもしていない。俺はただジャッジを務めただけだ」

「そんなことはないですよ。久住先輩が公正に見てくれているからこそ、安心して思い切りVSができるんです」

「む……そうか。なら、感謝の言葉は受け取っておこう」

 

 和やかな雰囲気。しかし、それはボクに駆け寄ってくれた二人と、ボクの間だけのことだった。

 

 ギャラリーの声で、看過できない言葉が耳に入る。

 

「なんだ、三国のヤツ負けやがった」

「入学したての新入生を狩りにいってあのザマか。ポイント的にもバーテックスから落ちるだろうし、あいつも落ち目かな」

「三国先輩も短い天下だったな」

 

 ……酷いな。

 確かに、新入生相手にすることではなかったかもしれない。でも、ボクは騙されて試合に応じたわけじゃない。

 

 それに……戦ってもいない人が、負けた人をとやかく言うのは許せない。

 注意の言葉を叫ぼうと、すうと息を吸い込む。けど。

 

「ハル、ちょっと待った!」

 

 マナブに制止される。

 やっぱり幼馴染だ。ボクが何をしようとしているか分かっているらしい。

 

「止めないでよマナブ。三国先輩は立派に戦ったんだ、あんなこと言われるなんておかしいよ」

「だからって、下手に上級生を注意して入学早々にハルの立場を悪くすることないよ。反発されるかもしれないし」

「そんなのは良いんだよ! ボクは——」

「分かってる。だから、別の言葉を使おう」

 

 マナブが、ごにょごにょとボクに伝えるべき言葉を教えてくれる。

 ……なるほど!

 一石二鳥だ。さすがマナブ。頼りになる幼馴染だよ。

 

 ボクは改めて息を吸い込んだ。

 

 

 

 

「VSを見てくれた皆さん! もし今の試合で、ボクのVSに興味を持ってくれたら……ぜひ、『VS心理戦概論』を受けてみてください! ボクの尊敬する先生が教えてくれる講義です!!」

 

 

 

 元々、三国先輩に勝負を挑まれるまでは、ハクトさんの講義を広めるために駆け回っていたんだ。これだけ注目が集まっているなら、ストレートに宣伝してしまえ、ということだった。

 それに、今劇的な勝利を収めたボクが受ける講義ということで、皆の注意を三国先輩から興味深いものへと移し変える。

 

 結果、ボクの呼びかけは皆に届いたみたいで……

 観客の人たちは揃って、スマホを確認し始めた。きっと、学生フォーラムから履修登録画面を見ていることだろう。

 

「もう申請者は半分くらい埋まってます! 早い者勝ちですよ!」

「おっ。もう申請者が……定員行った!」

「嘘っ! 凄い! やったやった!」

 

 目標も果たしたし、皆もう三国先輩のことは気にしていないようだった。ひとまず、この場の嫌な雰囲気は払拭できたみたいだ。良かった。

 

 三国先輩は、と対戦相手側の台に視線を向けたものの、すでにこの場にはいなくなっていた。まあ、あんなこと言われたら離れたくなるよね。

 三国先輩、大丈夫かな。

 

 

 

 

 

 

「予想通り、ハルが勝ったか」

 

 宣伝も上手いことやってくれたようだし、俺が手を下すまでもなかったな。

 面白いものも見れたことだし、満足の行く成果となった。

 

「三国くんも健闘したようですが、さすがにハルには敵いませんでしたか」

「健闘……まあそうだな」

「これで彼は10000もの大量のポイントを失った。バーテックス・セブンからも落ち、失意に沈んでいることでしょうね」

「気にせず話しかけてやんな。負けてもお前が失望していないなんて知ったら、あいつますますお前にのめり込むぞ」

「そうなれば、操ることはさらに容易になる、ということですね?」

 

 またカズヤの相手をしなければならないということで、少々気の重そうなアヤメだが、こちらの意図は十分に分かっている様子だ。

 

「ああ。お前がちょっとけしかけただけであのザマだ。もっと直接的な依頼をした日にゃ、退学を賭けたVSなんかもするかもな」

「彼は元々、気の小さい生徒でした。それは厳しいのではないでしょうか。」

「そうか? ま、それはそれで別に構わんさ。とりあえずの目的は果たしたし、確認もできた。まずは上々の結果だな」

 

 俺は定員数の申請がされた自分の講義欄を確認してほくそ笑む。これで学園長やその娘も文句は言ってこないだろ。

 

 

「しかし、ハクトさん。『VS心理戦概論』とは……?」

「俺がテキトーにそれっぽい名前付けただけだ。内容は盤外戦をチョロっと教えるだけだな。俺の仕事に差し障らない程度に」

 

 イカサマ対策の講義を開こうかとも考えたが、無意識に上手すぎるカード捌きを見せてしまったら「こいつ普段からやってんな?」という疑惑を持たれかねないからな。

 それに、対策を知られているといざイカサマする時に動きづれぇし。

 

「ハクトさんの盤外戦を……!?」

「ああ。それに当たって、頼みたいことがある」

 

 俺はアヤメに命令すると、彼女はすぐに頷いた。

 さて、スムーズな仕事のための準備を進めるとするかね。







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