イカサマが闇のカードゲーマーに通用した   作:レイトントン

27 / 62
学校の先生とかマジだるい

 定員を満たすほどの受講申請を得るという目標は達成。あとはほどほどに教師やってればソウジロウ氏の面子も立つだろう。

 不安材料があるとすれば、俺に教師の経験なんてまるでないってことくらいだ。ま、やるだけやってみるかね。

 

 総勢40名の生徒が集まる教室で、俺は教壇に立つ。

 

「集まってるな。オーケー、これからVS心理戦概論の講義を始める」

「先生、出席は取らなくて良いのですか?」

 

 早速というか、ぴしっと挙手をして俺に聞いてきたのは、学園長の娘であるキョウカだ。あんだけ俺をこき下ろしておいて講義は受けるらしい。

 恐らく、ちゃんと講義をしているかどうか調査するためなんだろうが……初めに挙手で質問とは、まさか気付いているのか?

 いや、ただクソ真面目なだけか。

 

「申請してきた生徒の顔と名前は全部覚えた。席の配置で人数が足りてるかどうかも一発で分かる。こっちで把握しているから必要ない」

「……そうですか、失礼しました」

 

 逐一質問されるとしたら、少し方針を考えなくてはならない。

 

「じゃあ、まずはこの講義の目的を話そう。心理戦、という言葉から分かる通り、自らと相手の心理状況をコントロールし、それによりVSを優位に進めるテクニックを学ぶ。盤外戦、と言った方が正しいかもしれんな」

 

 心理戦と銘打ったのは盤外戦(術)だと人が集まらなさそうだったからだ。盤外戦も心理戦の内だから、嘘は言ってない。

 俺の言葉を受け、受講する生徒たちにもざわめきが広がる。盤外戦術と言われると、なんか聞こえが悪いのは分からないでもない。

 

「お前たちが忌避感を覚えるのも分かる。正々堂々勝負してこそ、この学園の生徒として、あるいは将来プロになる者として相応しいVSへの臨み方なのではないかと、そういうことだろう。それを否定するつもりはない。が、盤外戦術を学ぶことの意義は大きい。少しでも自分に有利な状況を作り上げ、VSに勝利するためにな」

 

 一息で長々と話したところ、キョウカと同様に手を挙げる女生徒が現れる。笹原という生徒だ。彼女の名前を呼び、発言を許すと彼女は疑問を口にした。

 

「盤外戦術により有利となれば勝てるって、本当にそうでしょうか? VSはデッキ構築やプレイングの上手い方が勝つんじゃないですか?」

「もちろん、基本的にはそうだ。基礎を疎かにしていては勝てるものも勝てない。一方、盤外戦術で得られるのはほんの僅かなアドバンテージだ。基礎が100とするなら、まあ精々5あれば上等ってとこか」

 

 生徒たちからはたった5かよ、と野次が飛ぶ。

 イカサマや、もっと悪どい手段ならグンと上げられるんだが、真っ当な講義にできる範囲の小技では仕方ない。それでも、結構デカい数字だと思うんだがなあ。

 

「俺はお前たちがVS学園に入学できている時点で、ある程度の基礎は身に付いているものと判断している。もちろん、これからより深い知見を得ていくのだとは思うがな。しかし、1年生たち。それだけの実力を持っているのに、入学して1週間。思ったよりも白星をあげられていない。違うか?」

 

 一部の実力者を除いた生徒たちは、図星を突かれたと肩を跳ねさせる。1年生の戦績はリサーチ済みだ。

 

「理由は簡単。ここはVSのプロを目指す学校だからだ。地元では敵なしだった、という生徒も自分に近しい、あるいは上のレベルの好敵手の出現に驚いたんじゃないか?」

 

 新入生は特に。2年、3年も過去にした苦い経験を思い出したか、眉根を寄せる者が多く見受けられる。

 

「そいつらだってお前たちと同じく、デッキ構築やプレイングを学んでいる。実力が拮抗した者同士、大きな差は生まれにくい。そんな時、盤外戦術を使うことで勝率を数%……0.何%程度かもしれないが、自分たちを有利にできるとしたら? それを知っているだけで、こちらに流れを引き寄せられるかもしれない」

 

 同じ時間で向こうは基礎をさらに突き詰めるわけだから、将来的に差が生まれる可能性は大いにあるがな。

 目の前に手っ取り早い裏ワザ的なものをぶらつかせれば、飛びつきたくなるのが人間の心理だ。

 俺も、生徒のためを思って長期的な視点で育成するより、すぐに目に見える成果が出た方が評価点を稼ぎやすい。

 

「盤外戦術を上手く扱えれば、こちらは有利な、相手側が不利な精神状態で戦うことができる。ほんの僅かだとしても、有利な状態で戦えた方が得だろう。どうだ、笹原?」

 

 質問してきた生徒、笹原に声をかけると、彼女は顎に指を当てて考え込む。

 

「確かに、そうかもしれません。けど、盤外戦術で相手の精神状態を揺るがしたとして、本当にVSに影響するんですか?」

「そうだな……佐藤」

「は、はいっ!」

 

 生徒を一人指名すると、彼はまさか自分が呼ばれると思っていなかったかのように、慌てて返事をし立ち上がった。

 

「VS中、相手側が僅かに優勢な場面で手札にこんなカードが来たとしようか」

 

 俺は『神々の遊技場』をスクリーンに映し出す。コストを支払い山札の一番上のカードを当てればタダで使用する。外せば相手がタダで使用する、という特大のメリットとデメリットを持つ、いわゆるギャンブルカードだ。

 

「佐藤。お前、自分のポイントを全賭け(オールイン)したVSでこのカードを使えるか?」

「えっ……と……」

「こんなカードそもそもデッキに入れないとか、ポイント全賭けなんてしないとかそういうのはナシな。仮定の話だ」

「うーん……僅かに不利程度ではリスクが高すぎて、ちょっと使えませんね」

「なら、友人と気軽にVSしている時はどうだ?」

「それならまあ、遊び感覚で使うかもしれません。一発逆転も狙えますし」

 

 俺の思い描いた通りの回答をした佐藤に、「ありがとう、座っていい」と促してやる。

 

「今のは極端な例だが、プレイヤーが置かれている状況によってカードを使用するかどうかという選択さえ変化するのが分かったと思う。少なくとも、もし盤外戦術でポイントの全賭けを強いることができたなら、佐藤が『神々の遊技場』を使うことを抑制できる」

 

 まあ、そもそもそんなギャンブルカードは全賭けVSの前にデッキから抜くだろうがな。

 

「人間は『絶対に負けられない』『失敗できない』という精神状態においては、リスクの高い選択は避け、保守的なプレイをする傾向にある。やり方次第では、こうした心理に相手を誘導することで、本来のプレイングから遠ざけることもできる」

「なるほど……精神状態がプレイング、延いては勝敗に影響する可能性があるということは分かりました。ありがとうございます」

 

 笹原も、納得したことを宣言する。周囲にも同様に、俺の説が一つの理を持っているという雰囲気が伝播していく。

 

「ああ。それに、王道の正面からの戦いをするにしても、この講義は聞いて損はない。相手がこうした盤外戦術を使ってこないとも限らないからな」

 

 懇切丁寧にこの講義を受ける意義を説明してやる。

 申請だけ多くて、単位(ポイント)を得た生徒がほぼいない講義とか意味ないからな……評価にも差し障るだろう。

 生徒の興味を存分に引いてやった上で、講義を開始した。

 

 

 

 

「……って訳で、相手の心理を動かすには、人間がどういった心理を抱く傾向にあるのか。そしてそれをどう利用するのかを考える必要がある。チャ……あー、ある研究者によると、人間が行動を決める際の心理的な動きには、いくつかの法則があるとされている。そのうちの一つとして、人は大抵の場合、何か恩を受けたらそれを返そうとするってのがある」

 

 ちゃんとした講師なら6つの法則を一気に教えて板書させたりするんだろうが、俺は全部を教えるつもりもないし、ダラダラやるためにできるだけ講義内容を引き延ばしたい。

 

「そうだな……たとえば、旅行に行ってきたヤツから土産をもらったら、次自分が旅行に行った時には土産を持って帰ってやろうって気になるだろ?」

 

 生徒たちの反応は……頷く者が多い。

 

「こうした相手から受けた恩に報いろうとする心の動きは返報性の原理と呼ばれるのだが、これを利用して相手を誘導してやれ。自分有利な条件のVSを都合の良いタイミングで取り付けるため、その前には相手有利の条件、例えば相手のホームでVSを受けてやるとかな」

「ホームとアウェーってよく聞きますけど、そんなに変わるものなんですか?」

「もちろん個人差はあるが、ある野球チームでは全体勝率とホーム戦での勝率ではホームの方が7ポイント以上高かったというデータもある」

「へえ……」

「でもよお、同じ学校の生徒だぜ? ホームもアウェーもなくねえか?」

 

 俺に対する反論というより、単純に疑問だというように吉田という生徒が声をあげた。

 普段講義に積極的に参加していなさそうな、少々ぶっきらぼうな感じの生徒が、だ。

 よしよし。良い流れだ。

 

「吉田は中学の時、職員室に躊躇なく入れたか?」

「あっ……い、いやでも職員室はまた違くねえ?」

「上級生の教室、あるいは他学年の階の廊下でも良い。なんとなく、こちらが異物として見られるのって気分悪くないか?」

「確かにそうかもしんねえ」

「だろう? これがアウェーの時、相手にかかる心理的な負担だ。本人が意識してないつもりでも、必ず影響はある」

「なるほどな……悪いセンセー、的外れな質問しちまって」

「何言ってんだ、最高の質問だったぜ。他にも気になることがあれば、吉田も、他の生徒でもいい。バンバン質問しろ」

 

 生徒たちの顔にはやる気が満ちている。

 どうやら、心理誘導は上手くいっているらしい。

 

「よし。返報性の話に戻ろうか。この法則を使い、相手有利の条件を先に受けてやることで、相手側を『前回はこちらが有利な条件でのVSを相手は受けたのだから、今回こちらが不利でも仕方ない』という心理に持っていく。コツとしては、実際は大したことでなくとも、いかにも重要なことを譲歩しているように見せかけることだな。ただし、あからさま過ぎると気付かれるから注意しろ」

「しかし先生、始めに自分が不利な条件でVSを受けるなら、あとでこちらが有利な条件を得られても、トータルでは結局変わらないのでは?」

「そこは各々の腕の見せ所だな。この学園で言うなら、貰えるポイントの比重が小さい時に相手有利の条件を飲み、大きい時のVSで自分が有利になるように時期を調整する、ってとこか」

 

 生徒たちも活発に質問してくれているし、狙い通りに講義は進んでいる。

 極端に悪辣な使い方は避けて教えているおかげで、意外と王道を好む生徒たちにも受け入れられているようだし、想定以上に上手くいっているように思えるな。

 まあ、まだ1回目の講義だから、明後日の講義では生徒が減っていたりするかもしれないが。

 

 手応えを感じていると、講義終了時刻を告げるチャイムが鳴る。

 

「よし、今日の講義はここまでだ。あ、今日の講義で分かったと思うけど、俺板書とかしねーで喋ってるだけだから、教科書とかは用意しなくていいぞ。あとメモするのは構わんが録音と撮影は禁止な。んじゃまた金曜日に」

 

 生徒たちはガヤガヤと帰り支度を始めている。その顔付きはざっと見た限りだと満足そうなものが多い。

 

 なんだ、意外と大したことねーなVS学園ってのも。心理誘導の話してんのに、自分たちが誘導されてると気付いてそうなヤツがいねえ。

 いや、わざわざ講師を疑うようなヤツが奇特なだけか?

 

 さー、仕事終わったし、とっとと日報付けて帰るか……と思ったら、一部の生徒たちが教壇に詰めかける。

 え、何?

 

「あの、伊波先生。質問があるんですが」

「私も、聞きたいことが……!」

 

 あー、あれか。優等生が授業の後に質問しに行くってヤツか。実際にあるんだな、そういうこと。VS学園はエリート校らしいし、優等生気質が多いのも当然といえば当然に思える。

 面倒くせぇな……とっとと帰らせろよクソガキ共がよォ……

 

「おう。別の仕事もあるし、お前らも次の講義あるだろうから手短にな」

 

 だが、ここで突き放すような態度を取れば生徒が次の授業に参加しなくなり、俺の評価が下がる。

 ビジネススマイルを浮かべ、生徒たちの質問に5分程かけて答えてやる。半分くらい俺自身に対する質問だったのでテキトーにはぐらかしたが。

 

「この辺にしとくか。お前ら次の講義に遅れんなよ」

 

 教師ってのも楽じゃないな。こりゃ期間限定で正解だ。

 

 教室からは生徒たちがどんどんと抜けていく。そして、最後に残ったのは……講義の冒頭に質問してきた笹原と、俺の質問に答えた佐藤だった。

 

「伊波先生、その」

「例の件なんですが……」

「おう。待たせたな、講義を手伝ってくれてサンキュー。良い演技だったぜ、二人とも」

 

 俺は自らのスマホを操作し、2人に()()()()()()()()

 

「けど、良いんですか先生? ()()()()()()()()()()()()()()()()だけでポイントをくれる、なんて」

「講義の手伝いをした生徒にはポイントを渡しても良い。これは学園長からもお墨付きをいただいてるきちんとしたルールだ。たとえば、授業前に機材の準備を手伝った生徒にもポイントが与えられるだろ? それと同じだよ」

「まあ、それはそうですけど」

「現に、お前らが積極的に質問した影響で他の生徒たちも質問をしやすい空気ができた。途中からは色んな奴が質問してきてただろ? 講義に参加するハードルを下げるためだ、何も悪いことはない」

「私たちのお陰ってことですね。ならもっとポイントくださいよセンセー。50000ポイントくらい」

 

 笹原がそんなアホなことを言ってくる。こいつ、普段はこんな感じなのか。()()()に選んだの失敗したかもしれんな……アヤメの選んだ友人だから、問題ないかと思ったんだが。

 

「こらこら、んなことしたら職権濫用だっつーの」

「ちぇー、やっぱダメだよねー。でも、別にルール違反ではないっしょ?」

 

 各講師ごとに生徒に与えられるポイントの上限は決まっているから、50000ポイントはどのみち無理だが、確かに一人の生徒に持ちポイントを全て与えてはならないというルールはない。

 が、そんなことをする気は全くない。

 

「普通やらねえからルールに定められてないだけだ。『ルールに記載がないから』で堂々とほぼ違反、グレーゾーンみたいなことはあまりしない方がいいぞ。周りからの印象も悪くなるし、その場では良くても将来的には損するだけだ」

 

 俺はルール違反でもやるが、さすがに堂々とはやってない。黒でもグレーでも、やるならバレないようにしたいところだ。

 外面を良くしておいて損はない。

 

「誰かがやらかすとルールの締め付けが厳しくなって、結果全体の損になんだよ。ルールとは上手く付き合わないとな」

「そっかぁ。さすが盤外戦のセンセー」

「勉強になります」

「おっと、説教臭くなったな。悪い悪い、お前らも次の講義に向かいな」

「はーい。金曜日もよろしくね、センセ」

 

 笹原はにへ、と笑って去っていった。佐藤もそれに続く。

 アヤメの友達か……どんな会話をしているのか、想像できんな。








閲覧・お気に入り・感想・評価・ここすき・誤字報告していただいた皆さん、ありがとうございます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。