イカサマが闇のカードゲーマーに通用した   作:レイトントン

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悩める生徒を導くのも教師

 幸いにも、金曜日の2回目の講義も全員が出席した。この調子でいけば、出席率はかなり高止まりしそうだな。

 

 今日もガキどもの質問に5分ほど答えてやってから、俺は教室を出てとっとと帰路に着こうとしていた。しかし、アヤメが慌てて追ってくる。

 

「ハクトさん」

「どうした」

「い、いえ。その……今日はもうお帰りに?」

「日報付けてからな。全然働いてねえけど凄え疲れたわ。やっぱ教師とか向いてねーな俺」

「そんなことはないと思います。私はハクトさんの講義、とても興味深かったですよ」

「そーかよ、ありがとさん」

 

 媚を売っている……わけではないか。今更すぎるなそれは。

 

「しかし、盤外戦術はハクトさんの生命線です。授業という形とはいえ、広めて良いのですか?」

「ヌルい利用法しか教えてないし、全部は教えるつもりもないから問題ない」

 

 教師なのに歯抜けの情報しか教えないのもどうなんだ、ってところではあるが、俺の手口に気付かれないようにするためには仕方ない。

 

「その後カズヤはどうだ?」

「ハルに負けてかなり落ち込んでいましたが……励ましてみたら、見る見る内に元気になりました。代わりに、連絡の頻度が増えてめん……いえ、その」

「ははっ! 正直に言っていいぞ。愚痴の一つも言えた方が健全ってもんだ。ただし、仕事はしっかりしてもらうがな」

「……では、お言葉に甘えて」

 

 愚痴を言うよう促してやると、アヤメはカズヤがいかに鬱陶しいかを滔々と語り出した。お、おお。思ったよりヤツのことを嫌っているようだ。

 愚痴を聞いてやるといっても、あまり長々と話されるとこっちの気も滅入る。話題を変えよう。

 

「つーかお前、次の講義は?」

「2年生までで主要な講義はあらかた受けましたし、4限までの必須の授業を受けていれば卒業できますから、選択の授業は取っていません。ハクトさんの命令優先です」

「そうか。例の工作も首尾は上々だし、おかげで助かってるわ。サンキューな」

 

 そうか、十分な単位(ポイント)を持っている生徒は選択授業を取らないこともあるのか。

 さっきからキョウカが下手くそな尾行をしてきているが、講義をサボるつもりなのかと懸念していたのは的外れだったわけだ。

 バーテックス・セブン。学園のエリート様ともなれば、単位には余裕があるってか。

 

「アヤメ。廊下の突き当たりで別れるぞ」

「はい、承知しました」

 

 アヤメと別れた後、待っていたとばかりにキョウカが接触してくる。わざわざ一人になるタイミングを狙っていたようだ。

 

「伊波先生」

「キョウカ。何の用だ?」

「私とVSしてください」

 

 またそれか、と言おうとしたが、その目は先日までの俺を蔑んだようなものとは全く別物だった。

 真剣な眼差し。ここで断るのは簡単だが、それをしない方が今後このガキを籠絡する上では都合が良いことは明白だった。

 

「条件は?」

「先日は……講師としての進退を賭けるなど、卑怯な真似でした、失礼しました。私の側からは、特にありません」

「そうか。俺の方は、そうだな。条件ってわけじゃないが、他の生徒がいない場では素で喋ってくれていい」

「……そんなことでいいわけ?」

 

 こいつの信頼度を高める上では、敬語で話させるよりは素のコイツを引き出した方が良い。こいつの普段の言動を見るに、同級生に対してさえ敬語で接している、つまりはある程度の距離を置いているようだ。

 壁を作らせず、素の自分で接することのできる相手。さぞ居心地が良く感じることだろう。

 

 

 

 VS学園にはあらゆる場所にVS用のフィールドがある。最寄りのフィールド用の部屋に移動し、キョウカの相手をする。

 誰もいない教室。一応、教室の扉には小窓が付いているので外から覗くことはできるが、学園の端も端にある第3棟でうろうろしている人物もそうはいないだろう。

 

「……カードスリーブを付けているのね」

「この学園でも、付けているヤツは滅多に見ないな」

「仕方がないわ。VS用カードスリーブは高価だもの」

「ああ。別に、付けなくても傷は付きにくいしな」

 

 会話が弾まない。キョウカの気持ちが沈んでいるのか、こちらの反応に対して嫌に淡々と応えている様子だ。VSを受けた時も感じだが、先日の噛みつきようが随分となりを潜めている。

 

「早速始めるか」

 

 心境の変化があったようだ。都合が良いな。ここは()()()()()()()()()()としよう。

 

 何の賭けもしていない、ただのVS。それも、生徒と講師の野良VSだ。

 

 だからこそ、わざわざ審判課の生徒を呼ぶことを、キョウカはしなかった。完全に判断ミスだが、まさか教師がイカサマをしてくるなんて誰も思わないだろうから、彼女に落ち度はない。

 

 

 

 

 

 

「俺のターンだ。俺は魔力0で『無謀な挑戦』を使用。カードを2枚引き、その代償にお前の場に『無垢の魔人』2体を呼び出す」

 

 このカードはステータス4/5のガーディアン……相手の攻撃を防ぐ能力を持ったクリーチャーを相手に渡す、大きなデメリットを持つカードだ。

 だが、俺はイカサマスリーブとフォールスシャッフルによりデッキのカードを把握しているし、セカンドディールにより好きなカードを手札に持って来れる。デメリットを解消するのは容易。

 

「俺からのプレゼントだ。気に入ってもらえたか」

「何がプレゼントよ。こんなムサイ魔人なんて」

「見た目は関係ないだろ。強力クリーチャーだぞ」

「仮にもこの学園の講師が、こんな大きなデメリットをただ享受するとは思えないわ」

 

 目当てのカードを引き込んだ後、キョウカの目を魔人に向けている間に手札順をこっそりと入れ替え、元々手札に持っていたかのように見せかける工作を行う。

 

「大正解だ。俺は魔力4で『糸切り魔人カドラ・ルー』を召喚。このクリーチャーが場に出た時、コントロールが移ったカード・トークンを全て持ち主の場に戻す。これにより魔人たちは俺のフィールドに戻る。そして、魔力2で攻撃魔法『不当な等価交換』を使用。互いのプレイヤーは自分のクリーチャー1体を選び破壊する。俺はカドラ・ルーを選択」

「私の場にはクリーチャーが『駆動戦士』のみ。破壊するわ」

「さらに魔力2で『分裂するスライム』を場に出し、ターン終了だ」

 

 魔人たちは俺の場に戻ってきた。俺の場には4/5のガーディアンクリーチャーが2体。手札消費もなく防御を固めることができた。

 『分裂するスライム』は2/2の標準的なステータスと、破壊されたときに0/1のコピースライムを場に出す能力を持つ。

 そのままではただフィールドを圧迫するコピーでしかないが、補助魔法などでクリーチャーの強化や能力付与を行える点でメリットがある。

 

「……やっぱり、対処札を持っていたのね。ただ処理するだけでなく、大きなデメリットを逆にメリットに変える手管。見事なコンボね。あの講義内容といい……なぜ大会に出ないの?」

「生憎、表舞台には興味がなくてな」

「……そう。でも、それほどの実力があれば、コネなんて使わなくても……!」

「良いだろ、そんな話は。さっさとVSを進めろ」

 

 前回のやり取りから分かってはいたが、どうやらコイツは俺が講師をやりたくて仕方ないからコネで講師になったと勘違いしているらしい。

 誤解を解くことなどいつでも出来たが、この後。このVSに俺が勝ち、実力を示した後に明かすのが最もコイツの心を揺れ動かすタイミングとなるだろう。

 

「……私のターン! 私は魔力7で『機械将軍アルトゥム』を場に出すわ。アルトゥムは場に出た時、『機械歩兵トークン』を2体場に出す」

 

 トークンとは、カジノで言うとスロットなどに投入するようなコインを指すが、VSにおいてはクリーチャーや魔法の効果で生み出される特殊なカードのことを指す。

 俺の場にいる『無垢の魔人』や『分裂するスライム』が破壊された時に出るコピースライムもそれに当たるな。

 

 アルトゥムの左右に、1/1のトークンが出現する。恐らく、何かしらの能力を持っているのだろう。

 アルトゥム自身も5/5のステータスを持っている。

 

「さらに私は魔力1で補助魔法『スクラップ&ビルド』を使用。場のクリーチャーを墓場に送り、同じコストのクリーチャーを手札から呼び出す。その際は、場に出た時に発動する効果は使えないし、このターン攻撃もできないけどね。私はアルトゥムを墓場に送り……『光線銃機カタストロフ』を場に出すわ!」

 

 巨大な砲口を2つ備えた機械が出現し、その中に『機械歩兵トークン』2体が格納された。

 

「カタストロフは場に出た時の効果はないけど、毎ターン起動できる効果があるわ。ターンに1度、自分のクリーチャーを好きな数だけ破壊することで、同じ数だけ相手クリーチャーを破壊する。焼き払え、デストロイレーザー!」

 

 2つの砲門が魔人に狙いを定めると、青白い光のレーザーで2体を消滅させた。

 クリーチャー破壊能力……しかも犠牲が必要とはいえ、毎ターン行えるとは強力な効果だ。ステータスも5/8と高い。

 

「そして、機械歩兵トークンは自分のクリーチャーの効果で破壊された時に特殊能力を発動する。クリーチャー1体に、効果による破壊を一度だけ防ぐ効果を付与するわ。しかも、この効果は重複するの。私は当然、カタストロフを選択。どう? これでさっきの『不当な等価交換』のような効果では二度まで破壊されないわよ」

 

 機械歩兵トークン2体分の防御効果か。デッキの一番上には『公正な神の裁き』をイカサマにより仕込んであるが、これも無意味となった。

 

「まさに鉄壁ってわけか」

「アンタが本物なら、突破してみせなさいよ。ターンを終了するわ」

「俺のターン。ドロー」

 

 セカンドディールで山札の上から2番目のカードを引く。……よし、探りを入れるとするか。

 キョウカの体力はまだ17点残っている。が、次のターンで削り切る。

 

「俺は魔力0で『すり替え』を使用。手札を全て山札に戻しシャッフル、その後戻した枚数をドローする」

 

 すり替えを除いた俺の手札は4枚。それを全て戻し、フォールスシャッフルで山札順を操作してからドローする。

 

「俺は魔力2で補助魔法『2倍法(ツーバイフォー)』を使用。コスト2のクリーチャー1体を選択し、元々のステータスを持つ分身を作成。そいつに『突撃』を付与する。俺は分裂するスライムを選択」

「なるほど、『突撃』を持つクリーチャーは場に出たターンに攻撃できる。私のカタストロフの体力を削ろうという魂胆ね」

「いいや。俺は分身をお前のフィールドに生み出す」

「なっ!?」

 

 スライムのコピーが()()()()()()に生まれる。ステータスも元のままだが、当然その効果も備えているクリーチャーだ。

 

「何かするつもりね……!」

「当然。さらに俺は、魔力6で『賭博天使ディセル』を場に出す。こいつも『突撃』持ちのクリーチャーだ」

 

 真面目そうな天使といった見た目のイザキエルとは真逆。ド派手な露出の多い服装をした、浅黒い肌のいかにも不真面目そうな天使が場に現れる。

 イザキエルはこのカードに苦手意識があるみたいなんだよな……俺は見たことないが、こいつの精霊もいるんだろうか。

 

「ディセルの効果を起動。ディセルが場に出た時、自分と相手のクリーチャーが1体以上存在する時に発動できる。2回ダイスを振り、その結果により効果を発揮する。まずは丁半博打だ」

「丁半……?」

「ダイスの目が奇数か偶数か当てる。当たれば味方を強化するが、外せば相手を強化する」

「ここに来てギャンブルカードを……!」

 

 確かにギャンブルではあるが、まあテストを兼ねているからな。

 俺はダイスを2つ取り出した。

 

「まず、俺は丁……偶数に賭ける。そら」

 

 そのまま一つ目のダイスを投げる。出した目は2だ。

 

「よし、俺の場のクリーチャーの強化だな」

「やるわね……」

 

 気付かれたか?

 一瞬警戒するが、どうやらただ俺の運を褒めただけらしい。

 

「そして、次のダイスだ。俺の場のクリーチャーを相手のクリーチャーの数だけ選択し、出た目の数だけ攻撃力と体力を増加する。今はお前の場に2体クリーチャーがいるため、俺の場の2体、スライムとディセルを強化できる」

「……! 『2倍法』で私の場に分身体を出したのは、このためだったのね……! けど、そう簡単に大きい目が出るかしら?」

「さぁな。ダイスに聞いてみるとするか」

 

 続いて2個目のダイスを振る。

 出た目は……6だ。

 

「そんな……!?」

「俺の場のスライム、ディセルは攻撃力と体力を6点上昇させる」

 

 ダイスを片付け、改めて場を確認する。

 分裂するスライムは8/8、ディセルは8/9という大型クリーチャーに様変わりした。しかもディセルには突進が付いている。

 

「行くぞ。ディセルでカタストロフに攻撃」

「くっ……防御を施したカタストロフが、こんなにあっさり……!」

「さらに分裂するスライムでプレイヤーに直接攻撃を行う」

 

 スライムがキョウカの体力を大きく削る。随分重い一撃が入り、キョウカも吹き飛ばされる。

 これでキョウカの体力は残り9点。()()()()だ。

 

「俺はこれでターンを終了する」

「ッ……! 私のターン!」

 

 キョウカは勢いよくカードを引く。そして、そのカードを見た彼女は……不敵に笑う。

 

「……私の防壁を施したカタストロフを突破するなんてね。認め難いけど……アナタの実力はやっぱり本物ね。ただ、勝敗は別よ。私は……アナタに勝つ! 魔力3で『サルベージアーム37号』を場に出すわ!」

 

 巨大な腕のような機械が場に現れ、地面にその先端を突っ込む。

 

「このカードは場に出た時、自分の墓場からクリーチャー1体を手札に戻す。私はカタストロフを手札に戻すわ。さらに魔力0で補助魔法『暴走するエナジーブースター』を使用。手札のクリーチャー1体を残し、手札を全て捨てることで、1枚につき1点、コストを軽減するわ! 私はカタストロフを選択し、そのまま召喚!」

「……! キョウカの場にはスライムとサルベージアーム、2体のクリーチャー……!」

「その通り。私はこの2体を燃料に焚べて、カタストロフの効果を起動するわ。焼き払え、デストロイレーザー!」

 

 再び光線が俺のフィールドを舐める。強化した分裂するスライム、ディセルは破壊されてしまった。

 

「やるな。ここで墓場からクリーチャーを呼び戻すカードを引き当てるとは。強力クリーチャーたちが灰になっちまった」

「……っ。ふふ、アナタのターンよ」

「ああ。だがその前に、分裂するスライムが破壊されたことにより、俺とお前の場に0/1のコピースライムトークンが発生する」

 

 分裂スライムよりさらに弱そうなスライムトークンたちが、地面から生えてくる。

 

「俺のターン」

 

 最後の締めだ。イカサマスリーブにより、デッキの一番上は引く前から把握している。

 俺のデッキの切り札である、と。

 

「俺は手札から魔力3で攻撃魔法『連弾の火の雨』を使用。3点のダメージを場の任意のクリーチャーに振り分けて与える」

「なるほど……まとめて1体に3点のダメージを与えることもできれば、3体に1点ずつダメージを与えることもできるってわけね。でも、私のクリーチャーは倒しきれないわ」

「ああ。だから俺は、お前のスライムトークン、カタストロフ、そして俺のスライムトークンに1点ずつダメージを与える」

 

 火の雨が降り注ぎ、場の3体のクリーチャーに1点のダメージが入る。スライムトークンたちはたまらず消滅した。

 

「自分のクリーチャーを!? 一体なにを……」

「このクリーチャーは、魔法で破壊されたクリーチャー1体につき必要魔力を2点下げる。『背徳の天使イザキエル』を2体召喚」

「……ッ!?」

 

 イザキエルは速攻能力を持ち、攻撃力は5点。それが2体いれば、キョウカの生命力9点を上回る。

 

「そんな、この場面でイザキエルが2体……!?」

「コネだけじゃねえって分かってくれたか?」

「……!」

「行け、イザキエル」

 

 2体のイザキエルの手から放たれた二条の光線が、キョウカの体を貫いた。

 

 クリーチャーたちの立体映像が霧散し、VSが終了する。今回のVSは俺の勝利に終わった。

 

 VSギアを外し、手早くデッキを片付ける。イカサマの証拠なんぞ残しておくだけ損だからな。()()()()()も来ているようだし。

 

 

 

 

「良い勝負だった。さすがは序列5位だな」

「ううん。アナタの実力は本物だったわ。それに比べて私は……」

 

 おっと……凹ませてしまったか? 俺がイカサマした以上勝つのは当然だが、少々インパクトが強すぎたかもしれない。

 一人佇むギャラリーの方を、扉の小窓越しに盗み見る。

 

 彼女はやれやれと肩を竦めると、教室の扉を開け、パチパチと控えめに拍手をした。そこでようやく気付いたのか、キョウカは勢い良く顔を上げそちらを向いた。

 

「新垣先生!」

 

 俺と同じく選択講義の講師を務める、白衣の女。新垣アカネだ。

 

「二人とも、見事なVSだった」

「見事って……新垣先生が教室の外から見てたのって、最後の藤宮のターンの途中からですよね」

「おや、気付いていたのか。視野が広くて素晴らしいことだ、伊波くん」

 

 イカサマする上で周囲に気を配るなんざ当たり前のことだ。大抵の場合、相手プレイヤーにバレるなんてことはない。俺の腕なら、レベルの低いジャッジ相手でも誤魔化せないこともない。

 一番厄介なのは複数の視線……ギャラリーだ。角度での誤魔化しが効かないからな。

 

「途中からでも、盤面を見ればそれまでにどんな駆け引きが行われたのか、その残滓があるものさ。伊波くんの先を見通す戦術眼も凄まじいが、強力なクリーチャーを粉砕した腕前、さすがだよ藤宮くん」

「でも……」

「負けたことを悔やむのは良いが、気にしすぎるのは間違いだ藤宮くん。ワタシの見立てでは、伊波くんの実力は教師陣でも飛び抜けている。生徒で対抗できるのは、まあ序列1位のカレくらいだろう」

「……! 橘くんと、同等……!?」

 

 キョウカが驚きに目を見開く。彼女たちの世代にとって、1年の時から頂点に君臨する序列1位の存在は『最強』として強く認識していることだろう。

 それと同等の実力、となれば敗北したことによる精神的なダメージも最低限で済む。

 

「今回は運が良かったところもあるが……これでも無理やり捩じ込まれた臨時講師だからな」

「謙遜はよしたまえよ。君に敗北した娘の前だ」

「確かに、その通りですね。しかし、新垣先生はどうしてここに?」

「いやぁ、面白そうなVSをしているようだとワタシの勘が冴え渡っていてね。VS学園の講師としては、強者同士のVSは見たいと思うのが道理だろう?」

 

 小さく笑いながら、アカネはゆっくりと近付き、上目遣いで俺の顔をじっと見つめてきた。

 

「伊波くんは、大会の優勝経験どころか出場経験もなかったはずだね?」

「ええ。公式の大会には出場記録はありません」

「フフ。それでいてそれだけの実力。まったく、どこで身に付けたのやら……講義内容といい、全く異色の講師と言えるね。実に興味深い」

 

 そんなに変な講義をしているつもりもないんだがな。

 

「そうそう。興味深いと言えば、君のデッキ……相当なレアカードが入っているようだね。『背徳の天使イザキエル』が2枚……いや、君の使用カードから鑑みるに、もしかすれば3枚入っているのかな。

 

 ——良ければ、イザキエルのカードを見せてくれないか?」

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