イカサマが闇のカードゲーマーに通用した   作:レイトントン

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カードバトル回。長めです。


スリーブはカードを保護するためにあるらしい

 呑んだくれが地面を転がり、際どい格好のお姉さんから声をかけられ、幽鬼のような落ち窪んだ目の人たちに視線を送られ恐々としながら、ボクは暗い路地を進んでいた。

 

 目指す先はカジノ『クレセント・ナイト』。ここいら一帯で一番大きなカジノ施設であり、裏の人間たちの交流も盛んな場所だという。

 

 先日、マナブ……ボクの友達が闇のVSプレイヤー、通称『スイーパー』に襲われた。彼はカードにされ、魂を捕らえられてしまった上にレアカードを強奪されてしまった。

 『スイーパー』の男はなんとか倒して、仲間もレアカードも取り戻せたけど……『スイーパー』は組織で動いており、レアカードとVSプレイヤーの魂を狩っているらしい。その尻尾を掴むために、ボクは奴らの情報をかき集めていた。

 

「蛇の道はヘビ、か……」

 

 アンダーグラウンドの情報は、裏に精通した人物に聞くのが手っ取り早い。そうした考えから裏の人間たちにVSを挑むうち、この裏カジノに辿り着いた。

 

「ここなら……『スイーパー』について知っている人がいるのかな」

 

 煌びやかな建物を想像していたのだけど、見た目は普通の雑居ビルだ。しかし、やはりどこか普通ではない様子が見て取れる。周りにたむろしている人たちの感じ故か、知らぬ間に違和感を感じ取っているのかは分からない。

 

 とにかく、その雰囲気に呑まれていたボクだったけど……ビルの入り口から、黒服にサングラスの怖そうなお兄さんたちと、酷く落ち込んだ顔の男性が出てきた。落ち込んだ人は手荒く突き飛ばされ、地面に蹲ってしまった。

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

 思わず、声をかける。あまりにも弱々しい様子に、放っておけなかった。

 

「うう……僕はもうオシマイだぁ……」

「一体どうしたんです? 何があったんですか?」

「聞いてくれよォ……VSに負けて、デッキを取られちゃったんだよォ……」

 

 その言葉を聞いて、ボクは目の前が真っ赤になるほどの怒りを覚えた。

 つい先日、友達がカードにされ、レアカードを奪われたばかり。その時も許せないと思ったけど、また同じようなことが起こるなんて。

 2回目になると、焦りや恐怖よりも怒りが湧いてくる。

 

「——詳しく聞かせてください」

 

 

 

 彼、ススムさんはカジノでトランプやルーレットなどの遊戯を楽しんでいたところ、VSで賭けをしないかと誘われたそうだ。

 勝負には余裕で勝ったのに、泣きの一回をしたい。お互いにデッキを賭けて勝負しよう、と相手に言われ、それを承諾。しかし、相手はイカサマをしていたのにそれに気付かず、敗北した。結果、デッキは取られてしまったと。

 

 とても許せることじゃない。デッキを奪うだけでも非道なのに、皆で楽しむVSでイカサマだって?

 

「任せてください。ボクがあなたのデッキを取り返してみせます」

「気持ちは嬉しいけど……君、まだ中学生くらいだろ? その……」

 

 ススムさんは、ボクの実力について疑問視しているらしい。彼の言う通りまだ中学生だし、疑いはもっともだ。でも、ボクは同年代の中では、それなりに強い方だと思う。

 

「一応、先日のVSチャンピオンシップでは優勝しています。確実に勝てるとは言いませんが——」

「うおっ、マジじゃん! 君、よく見たらテレビで見たことあるよ! えーっと……」

「結束ハルです」

「そうそうハルくんだ! いやー、なんて頼もしいんだ。君みたいな強いヤツが味方なら勝ったも同然!」

 

 パシパシ、とススムさんは気安くボクの背中を叩く。なんだか……調子の良い人だな。初めはボクがデッキを取り戻すなんて言っても信用してくれなかったのに、素性が分かった途端に掌返しだ。

 でも、絶対中継ちゃんと観てなかったよね……

 

 デッキを奪われた被害者にこんなこと口が裂けても言えないけど、調子に乗ってデッキを失うハメになったのもなんとなく分かる。

 

 

 けど。この人がどんなにお調子者でも、悪いのはデッキを奪った側だ。ボクは早速、カジノに乗り込んだ。

 真正面の入り口から入ろうとするボクの姿を認めた警備らしき黒いベストの人たちは、まだ中学生だからだろう、ボクの前に立ち塞がった。

 

「あー、ごめんよキミ。子供は入れないんだ」

「そうそう。ここは大人の遊び場……って、後ろのお前は、さっきの!」

 

 ボクを入れないように優しく注意する二人だったけど、後ろのススムさんに気付いて呆れた顔をする。

 

「お前、調子乗ってあんな目にあってまだ懲りてないのかよ」

「うるさいッ。今度はさっきと違うぞ、強力な助っ人を得たんだ。次はこの子とアイツでVSだ!」

「ハクトさんは忙しいんだよ。お前みたいなのの相手ばっかしてらんないの」

 

 しっしっ、と二人の男性はススムさんを鬱陶しそうにあしらう。ススムさんが今にも激怒しそうな雰囲気を感じ取り、ボクは思わず口を挟んだ。

 

「——なら、まずはお二人でボクとVSで勝負しませんか?」

「なに?」

「ボクが勝ったら、そのハクトさんという人を呼んできてください」

 

 自分でも無茶苦茶を言っている自覚はある。

 本来、VSは誰とでも楽しく勝負するゲームだ。争いの道具じゃない。

 でも、闇のVSなんてものを目の当たりにして、さらにデッキを取られた人が現れて、ボクはすっかり冷静ではなくなっていた。

 

「おいおい……どーする摘み出すか?」

「いや、ハクトさんみてーにVSで勝ったらカッコよくね? つか久々にVSやりてぇわ」

「実は俺も」

 

 黒服の二人は自分たちのデッキを懐から取り出した。受けるつもりらしい。

 ボクも自分のデッキを構えた。

 

 

 

 

 二人の実力は、一般的なVSプレイヤーという感じだった。弱くはない。けど、怖くもない。

 

「つ、強え……」

「バケモンかよ」

 

 ショーマさんとアツキさんというらしい(お互いにそう呼び合っていた)二人は、約束は守るらしくアツキさんの方がハクトさんとやらを呼びに行った。

 いやに潔いな。デッキを奪った人たちだとは思えないくらいに。

 

「す……凄いじゃないかハルくん! なんだあのドラゴンの連続攻撃は!? あんなカードがあれば無敵だ、アイツだってやっつけちゃってよ!」

 

 はしゃぐススムさんだったが、ショーマさんに睨まれてしゅんと肩を落とした。弱いなこの人……

 

「ハル……どっかで聞いたことあんな……あっ! こないだ、なんとかって大会で優勝してた子じゃんか! テレビで観た! どーりで強いわけだ」

 

 負けた割に、ショーマさんはさして落ち込んだ様子もなく話しかけてくる。なんだか、ススムさんの事情に反してのんびりとした雰囲気というか。いかにも自然体といった感じだ。

 

「あ、あの……」

 

 ススムさんの熱量との差が気になり、彼に話をしようとした。そのタイミングに、彼は現れた。

 

「派手にやられたらしいな」

 

 白のワイシャツに黒のベスト。まさしくカジノディーラーのような服装をした、金髪の男性。ボクよりはだいぶ歳上、二十歳前後というところだろうか。

 耳にはピアスを開けており、見た目だけならかなり怖そうな人だ。しかし、冷めた視線や、ショーマさんたちにかけられた声からは、どこか落ち着いた雰囲気を醸し出している。

 

 後ろには派手な格好の女性もいるが、ボクの目には彼しか映らなかった。

 チャンピオンシップを通して、ボクはVSプレイヤーの強さをなんとなく分かるようになっていた。VSに対しての姿勢や周りの反応、諸々含めてボク自身が考えるというよりは、本能が勝手に計算を弾き出すように。

 

 強い。

 このハクトという人は、ボクがチャンピオンシップで戦った中でもトップクラス……いや、もしかしたら誰よりも強いかもしれない。

 

 こんな人が、VSプレイヤーにとってなにより大切なデッキを他人から奪った?

 真実を確かめるためにボクは、本当にススムさんのデッキを奪ったのかを聞く。

 

 やはりというか。ハクトさんと話を重ねる内に、ススムさんから聞いていた話と事実は全く異なり、ススムさんの過失がむしろ大きいことが分かってきた。

 

 それどころか、メリットがないと一度は突き放したVSを受けてくれるという。条件は、ボクがスイーパーを潰したら、元の持ち主が分からないレアカードを全て渡すことだ。

 

 それを聞いたボクは、ハクトさんは見た目や言動に反して()()()()()()()()()と思った。

 わざわざ持ち主の分からないカードを、と強調してきたあたり、知らないわけではないはずだ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……

 

 いや、さすがに0ってことはないか。

 ともかく、メリットがどうとかいいながら、こちらが十分納得できるだけの、というよりだいぶ易しい条件で済ませてくれた。

 

 こんなに優しい人を、本人は何も悪くないのに疑ってしまった。罪悪感から、そして彼の強さに対しての興味から。ボクはハクトさんに出された条件を飲んだ上でVSを挑んだ。

 

 

 

 

 

 

「野晒しでVSするわけにもいかないし、入りな。おっと、お前は出禁だから来るんじゃねえぞ」

 

 ススムさんはショーマさんとアツキさんに押さえられて、ボクの方はカジノの中に案内される。

 ただの雑居ビルだった外観と対照的に、煌びやかな店内。お金持ちそうな人たちが、ルーレットやスロット、カード(主にトランプのようだ。VSではない)で遊んでいる様をキョロキョロしながら見ていると、裏手のスタッフエリアに案内される。

 

「ここがVS用のスペースだ」

「わ……」

 

 教室より少し広く、高い天井。部屋一つが丸々VSのためのスペースとなっている。MR映像を十全に活かせるだけの空間がある。

 VSの専門学校の対戦室に劣らぬ広さだ。

 

「元々はうちのカジノの遊戯にVSも入れる予定だったんだとさ。ま、それはいいから始めるか」

 

 ハクトさんは腰のデッキケースからデッキを取り出した。その束を見て、ボクは思わず声を漏らす。

 

「……カードスリーブですか」

「ん? ああ、カードは大切にしないとな」

 

 彼のカードには、カードを保護するスリーブが付けられている。

 珍しい。彼の言うことは尤もだが、VSのカードは頑丈で、傷付きにくい。裸で使用している人がほとんどだ。ボクもそうだし、チャンピオンシップに出場するようなトッププレイヤーたちもそうだった。

 

 何より、カード情報をモノクルのように片目に着けたデバイスで読み取り、MRで映像化し出力するVSにおいて、スリーブは特別な処理の施された専用品しか使用できない。

 

 高価なものだ。にもかかわらず勝敗には影響しないし、カードの頑丈性から必要性が薄いのだから、その分のお金はレアカードに回すのが主流だ。

 

 スリーブを使うなんて、カードを大切にする人なんだな。ますます、疑ったのが恥ずかしい。

 ボクもデッキを取り出してカードを切り、自らの台の上に置いた。

 

「始めましょう」

「……オーケー。VSスタートだ」

 

 そうしてVSが始まる。

 

 

 

 互いにこのゲームのコストとなる『魔力』は基本的にターンに1点増えていく。強力なカードは魔力が溜まってから使うものだ。が、ボクはハクトさんの実力を確かめたいという考えによって、いつもより勇み足でVSに臨んでいた。

 

「……続いて、『フレア・ウィスプ』と『特攻隊アルファチーム』を場に出します。これで場のクリーチャーは6体!」

 

 温存など考えず、どんどんと場にクリーチャーを増やしていく。ハクトさんの出すクリーチャーに阻まれながらも速攻を続けた結果、ハクトさんの生命力は16点まで減ってきている。こちらも18点と削られてきているが……上手くいけば、次の総攻撃でボクの大幅有利となる。

 もちろん、そう上手くはいかないだろう。ハクトさんの場には『天翔るペガサス』というクリーチャーがいる。

 

 しかし、その1体でこちらのクリーチャーを処理されたとしても残りは5体。もし残りを処理し損なえば、甚大なダメージを与えられる……そんなふうに考えていたボクの前に、ハクトさんは魔法カードを出してきた。

 

「俺は魔力4で攻撃魔法『ナインナイブス』を使用! 相手クリーチャー全てと、おまえ自身に2点のダメージを与える」

「……くっ!」

 

 調子に乗って軽量クリーチャーを場に出し過ぎた。加えて、上手く魔法で破壊できるよう、体力を調整されていたようだ。ハクトさんの魔法により、ボクのクリーチャーはほとんど全滅する。残ったクリーチャーも——

 

「『天翔るペガサス』で残る『特攻隊アルファチーム』に攻撃! そして『ドロップスライム』を場に出す」

 

 ペガサスの体当たりで、特攻隊がドミノ倒しのように倒れていく。

 これでボクの場にクリーチャーはいない。対して、相手の場にはアルファチームの反撃で体力の減った5/2のペガサスと、たった今召喚した1/1の『ドロップスライム』の2体。

 手札も残り少ない。このままじゃジリ貧だ。

 

「ターン終了だ。どうした? 切り札を見せないまま終わらせるつもりか?」

「……ボクのターン!」

 

 そんな訳にはいかない。このまま負けたら、ススムさんのデッキは取り返せない。

 ……それはまあ、いいけど。

 それよりも。ボクは単純に——この強敵に勝ちたい。

 

 ボクが決意を固めた瞬間、ドクン、と鼓動の音が聞こえた気がした。

 自分の鼓動? いいや違う。

 切り札の脈動を感じながら、カードを引く。

 

(来たな相棒!)

 

「ボクは魔力7で『ヴォーパルソード・ドラゴン』を召喚する!!」

「噂をすれば……か。厄介だな」

 

 紅の鱗を纏ったドラゴンが、爆炎の中から現れる。

 攻撃力4、体力10と体力に偏ったステータスをしている。しかし、その攻撃能力は非常に高い。

 

「ヴォーパルソードは場に出たターンでもクリーチャーに攻撃できる『突撃』を持つ。そして……」

「1ターンに2回攻撃ができる。さらに、攻撃時にターン中のみ攻撃力が2点プラスされ、クリーチャーから受ける攻撃によるダメージを3点軽減する」

 

 ハクトさんはヴォーパルソードの能力を言い当ててみせる。チャンピオンシップを観ていた、ということで分かっていたことだが、こちらの手の内が割れているのは手痛い。

 だが、分かっていても防げるものではない。

 

「……その通り。これであなたの場のクリーチャーは全滅する! 行けっ、ヴォーパルソード!」

 

 ヴォーパルソードが、ハクトさんのクリーチャーを焼き払う。

 ヴォーパルソードの体力は8残っている。強力な魔法さえなければ、次のターンまで十分に耐えてくれるだろう。

 次のターン、6点と8点の2回攻撃で14の生命力を削れる。が、まだハクトさんの残り体力は16点から『ドロップスライム』が破壊されたことで2点回復し、18点。トドメを刺すために、攻撃力の強化をしておきたい。

 

 

「さらに魔力0で『憤怒の仮面』を発動。クリーチャー1体は次のターンに攻撃力、体力にそれぞれ2点が加算される。ボクはこれでターンを終了」

「次のターンの布石を打ったか。さすがチャンピオンシップ優勝者。なるほど腕は確かなようだ」

「これでまた形勢はボクの有利ですね」

「かもな。だが、シーソーゲームは嫌いじゃない。——あくまで最後に俺が勝つからだがな」

 

 ハクトさんは挑発を織り交ぜつつ、滑らかな動きでカードを引く。

 そして、にやりと笑った。

 

 

「良いカードを引いた」

 

 

 す、と彼はそのカードを手札に入れる。言葉の割に、すぐにはそのカードは使用しないらしい。相手ターンに手札から使える『高速魔法』か?

 警戒するボクに、ハクトさんはにこりと微笑みかける。

 

「さっきのターン。あの局面で切り札を引き当てたのは見事だった」

「……運が良かっただけです」

 

 とは言いつつ、ボクは自らとヴォーパルソードの絆を感じずにはいられなかった。ピンチにはいつも駆け付けてくれる、ボクの相棒だ。

 しかし、それを言ったところで鼻につくだろうから謙遜したのだが……ハクトさんはうっすらと笑う。

 

「運が良い、か。確かにそうだ。おまえも切り札を引けたのはラッキーだったな。……が、悪いな。俺も相当運が良い男でね」

 

 ハクトさんは、手札からカードを場に出した。

 

「どっちの運が強いか、運試しと行くか。魔力3を使用して——領域魔法『神々の遊戯場』を展開する」

「領域魔法……!」

 

 互いのプレイヤー、フィールドに影響を及ぼすカードだ。ボクたちの周囲の風景が塗り替えられ、まさしくカジノ場の様相を呈する。

 

「この領域内にいる俺たちプレイヤーは、ターンに1度、場のクリーチャー1体か手札の魔法1枚を捨てることで効果を使用できる。山札からカードを1枚引き、そのカードがコストとしたカードと同じ種類のカードだった場合、それを魔力なしで使用することができる。違った場合はそのカードは()()()使()()()()

 

 コストを踏み倒すタイプのカード!

 

 なるほど強力だが、デメリットも大きい。外したら単純にカード1枚を失うことになる上に、相手にカードを奪われてしまう。もし強力なクリーチャーが相手の場に出されたら、と思うととても気軽には使用できない。

 

 そして、当てたとしてもそれが強いカードとは限らない。魔法の場合は、使用タイミングが合ってなくて不発になることもあるだろう。

 

 なら、クリーチャーを捨てるのが定石か……?

 軽量クリーチャーなら低リスクで効果を起動できるし、もし外して魔法だったとしても、不発に終わる可能性もある。

 

「俺は手札から魔力1で『ふわくも』を場に出す」

 

 予想通り、コスト1の軽量クリーチャーを場に出した。雲に目と口がついた可愛らしいクリーチャーが、ぽん、と場に出てくる。なんの効果も持たないクリーチャーだけど、1/2と最低限の攻撃力と1/1を一方的に倒せる体力は持っている。速攻デッキやその対策でたまに採用される、よく見かけるノーマルクリーチャーだ。

 

「『ふわくも』を場から捨てる。さぁ、カードを引かせてもらうぞ」

 

 ハクトさんは、ぴっ、と勢い良くカードを引いた。そして——にやりと笑う。

 相当良いクリーチャーを引いたのか、と警戒を強めるも、ハクトさんは肩を竦めた。

 

「残念。引いたのは魔法だ」

 

 その言葉に安堵を覚えると同時、ボクは強制的にその魔法を使うこととなる。状況に合ったカードだと良いけど……

 そんなボクの淡い期待は、粉々に打ち砕かれる。

 

「そら、使用するといい。——攻撃魔法『公正なる神の裁き』を魔力0でな!」

「そんなっ!?」

 

 『公正なる神の裁き』!?

 超レアカードじゃないか!

 

 あれは本来魔力7の魔法カード。それを魔力0で使えるなんて破格すぎる。しかし、その効果は……!

 

「このカードは場にいるクリーチャーを、よりクリーチャーの数が少ない方のプレイヤーの数と同じになるまで破壊する。ふわくもが消えたことで俺の場のクリーチャーは0。よっておまえの場のクリーチャーは全滅する!」

 

 空から光が降り注ぎ、ボクの相棒を貫いた。

 

「ヴォーパルソード!」

 

 そんな……()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()カードを引き当てるなんて……!

 

「更に魔力4で『背徳の天使イザキエル』を場に出す。こいつは速攻効果を持つクリーチャーだ。出したターンに攻撃できる!」

 

 『背徳の天使イザキエル』……!

 ターン終了時に破壊されるデメリットはあるものの、それを補って余りある強力な効果を持つレアカードだ。

 

 彼女は速攻効果に加え、クリーチャーが魔法で破壊された時、1体につきそのターン中の必要魔力が2ずつ低下するコスト低減能力を持っている。

 そんなイザキエルの閃光がボクを貫き、5点のダメージをもらった。くそっ……

 

 戦術、レアカード、そして運……全てを高いレベルで持っている。

 ハクトさん……この人は、強い……!

 

 

 

 

 

 

 やべえ。分かっちゃいたがこのガキ、バカ強いぞ。

 こっちは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()VSしてるってのに、こちらが対策を打てばあちらはスーパードローで対応してくる。やっぱチャンピオンシップで優勝するようなヤツは引きが違うな。

 

 ドローした後、カードを確認するフリをしながら山札を盗み見る。

 

 俺はカードスリーブを使用してVSしているが、これはカード保護のため、というわけではない。いや、結果的にはそうなっているが。

 

 俺の使用するカードスリーブ。その裏面の柄には()()()()()()()()

 

 僅かに穴を開ける、傷を付ける、模様の一部を消す……そうして各カードの見分けが付くようにしてしまっているのだ。

 それも、イカサマされていると確信し、相当に注視しないと分からない程度のもの。VSスペースは視覚効果をMRで出力するためにそれなりに広く作られている。

 それくらい離れてりゃ、気付かれるはずもない。

 

 さて、次のカードは……『公正なる神の裁き』か。良いカードだ、元々手札に持っていた領域魔法『神々の遊戯場』の使い所だな。これはギャンブルに成功すれば山札の上のカードを魔力0で使えるカードだ。

 

 が、さっきのターン。魔力が余っているにも関わらず、領域魔法は使わなかった。効果的なタイミングじゃなかったからな。

 なのに今それを使用したら、まるで次に引くカードが分かっているかのようだ、と相手に疑念を持たれることとなる。

 

 ならどうするか。簡単だ。

 

 

「良いカードを引いた」

 

 

 まさに今、これを引いたことにすればいい。

 

 

 俺は引いた魔法カードを手札に入れながら、ハルの気を逸らすためにテキトーな話題を振る。

 相手がそれに乗っている間に、手札のカードの順番を気付かれないように入れ替えた。これはルール上何の問題もない行為だが、念のため密かに行う。

 

 そして、何食わぬ顔で、今引いてきたとばかりに元々手札に持っていた『神々の遊戯場』を使用する。

 

 当然、山札の次のカードである『公正なる神の裁き』が発動し、ハルのヴォーパルソード・ドラゴンを滅ぼした。

 

 そして、手札の『背徳の天使イザキエル』でハルに攻撃する。こいつは本来魔力6のクリーチャーだが、敵クリーチャーを魔法効果で破壊したターンの間のみ、破壊した数につき2点、必要魔力が減る。

 しかも攻撃力5でありながら速攻効果を持つというぶっ壊れクリーチャーだ。ターン終了時に自壊するというデメリットはあるが、それ以上にメリットが大きすぎる。

 

 相手の生命力は残り13点。ぼちぼち決着も見えてくる段階だ。

 

「ターン終了だ。同時に、イザキエルは消滅する」

「ボクのターン……!」

 

 ハルはデッキからカードを引く。相手の手札は、軽量クリーチャーの連続召喚により0となっている。ここで有効なカードが引けなければ、俺の優勢は揺らがない。

 

「……!」

 

 引いたカードを見て、ハルは目を見開いた。

 

「ボクは魔力1で『獄炎との契約』を発動! 生命力3を支払い、カードを3枚引く!」

 

 ここで手札増強カードを引き込んだか……やはり手強い。ハルはバッ、と3枚のカードを一気に引く。そして、ぱっと目を輝かせた。相当良いカードを引いたようだな。

 

「続けて、『不死鳥の導き』を使用!」

「ッ、クリーチャー蘇生のカードか……!」

 

 あれは墓場のクリーチャー1体を選び、その必要魔力を支払うことでクリーチャーを蘇生させるカード。蘇らせるのは当然——

 

「魔力7でヴォーパルソード・ドラゴンを蘇生する。甦れ、ヴォーパルソード!!」

 

 炎で模られた不死鳥がフィールドに現れ、甲高い鳴き声をあげる。その爆炎の身体の中から、魔を滅する龍が再び生誕の時を迎えた。

 

「さらにボクは手札の魔法を1枚捨てて、ハクトさん! あなたの領域魔法の効果を使わせてもらう!」

「ほう。だが良いのか? おまえのデッキに有効なカードは眠っているのか? せっかく生命力を払って得た手札を無駄にするかもしれないぞ? もし強力なクリーチャーなら、次のターンで俺の勝ちかもなぁ?」

 

 煽りを織り交ぜつつ、ハルの様子を伺う。

 

 俺のようにイカサマでも使っていない限り、このカードの効果はとてもじゃないが気軽に使えるものじゃない。もしや相手もイカサマをしているのか、と睨んだわけだ。

 まあ、ヴォーパルソードは『突撃』を持っているから、外して俺の場にクリーチャーが出たとしても処理は容易いと考えているだけかも知れんが、念のためにな。

 

 が、向こうの様子にイカサマをする時の不審さはない。ないが……もし俺が負けたら、速攻で近づいてデッキを改めさせてもらうとしよう。

 

「……引いてみせるさ! カード、ドロー!」

 

 ハルは手札を墓場に送り、山札からカードを引いた。

 そして、そのカードを……勢い良く場に出す。

 

「よしっ! 引いたカードは補助魔法『疾風の翼』。クリーチャー1体に速攻効果を付与する!」

 

 マジかよ。この局面でそんなカードを引いてくるとはな。やはりコイツもイカサマを……?

 

 いや、その様子は見られない。単に引きが強いだけか。羨ましいこった。

 ハルの場にはクリーチャーは1体しかいない。当然、付与する対象は……!

 

「翔べ、ヴォーパルソード・ドラゴン!」

 

 ハルの切り札による2回攻撃。しかも、攻撃力上昇効果も合わさり、計14点のダメージ。

 

「ぐうッ!」

「どうだ! これであなたの生命力は残り4。次に『ガーディアン』を出せたとしても、ヴォーパルソードが蹴散らす。ボクの勝ちだ!」

 

 確かに、ヴォーパルソード・ドラゴンの前では生半可な防御など無意味。

 

 だが、俺は見逃していない。ハルが致命的な隙を晒したことを。いや、本来なら隙とも呼べないような小さな穴だ。

 相手が、イカサマをしているこの俺でなければな。

 

 ——それは、『獄炎との契約』で3点もの生命力を支払ったこと。そして、残りの生命力を10点のラインまで引き下げてしまったことだ。

 

「俺のターンだ。……ドロー!」

 

 ちっ、と舌打ちをする。欲しいカードを引けなかった——そういうアピール。しかし実際は逆で、俺は今の状況において最高のカードを引き当てた。

 まあ、引くことは前のターンから分かってはいたんだが。

 

「俺は魔力1で『突然の崩落』を発動。お互いの手札を全て山札に戻し、その枚数だけドローする」

「手札入れ替えカード……起死回生を狙っている、というわけですか」

 

 ハルは1枚だけの手札をデッキに戻し山札を切りつつ、俺の狙いを読んだと言わんばかりにそう口にする。が、残念ながらそれは間違いだ。

 手札を入れ替えたかったんじゃない。俺が入れ替えたかったのは、山札の順番だ。

 

 山札を切る際。俺はフォールスシャッフルというイカサマを行い、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 こうした意図的な山札操作を防ぐためにもカットはすべきなのだが、主にジャッジが目を光らせている大会などの競技シーンで活躍していたハルは、その重要性を理解していないようだ。

 

「カードを引くぞ」

 

 互いに、1枚だけカードを引く。俺の手に入るのは、当然俺の望んだ切り札だ。

 

「……賭けるしかないか」

 

 思ってもいないことを口にしながら、俺はそのカードを場に出した。

 

「『背徳の天使イザキエル』召喚! 直接攻撃!」

「くっ、ここで切り札を引き込んでくるとは……! しかし、あなたのカードは尽きた。ボクの勝ち……」

「——まだだ。俺の場には、もう一枚カードがあるだろう」

「なっ……ま、まさか……!」

 

 俺の場に残っているカード。そう——

 

「領域魔法『神々の遊戯場』の効果を使用する。場のイザキエルを生け贄とし、山札の上のカードがクリーチャーならばそいつを呼び出す。魔法なら、お前が使用することになる」

 

 イザキエルはどうせターン終了時に破壊される。このカードとの相性は良好だ。

 

「け、けど。たとえクリーチャーを引いたとしても、ボクの場にはヴォーパルソードがいる。次のターンで……!」

「良いことを教えてやるよ。VSには同一のカードを3枚までデッキに入れることができるんだ」

「? 何を、当たり前のことを……」

「分からないか? さっきのターンで使用したのが1体。今生け贄にしたのが1体。今まで俺は2体のイザキエルしか使っていないんだ」

「……3体目が、デッキに入っていると? けど、引けるはずがない! ただでさえ『突然の崩落』からイザキエルを引いてきたのは奇跡のようなものだった。なのに、二連続でイザキエルを引くなんて……!」

「不可能ってか? いいや、()()()()()()()()()。なら俺は引いてみせる」

 

 ハルの言う通り、普通は限りなく薄い確率だ。

 

 しかし。

 

 手段を選ばない俺は、その確率を()()()()()()()()んだよ……!

 

 勢い良く山札から引いたカードは……当然、『背徳の天使イザキエル』。

 

「——出でよ、イザキエル!」

「そ、そんな馬鹿な……!?」

「どうやら、俺の運の方が強かったようだな。……イザキエルにより直接攻撃を行う!」

「うわああああああああ!」

 

 狼狽する相手に、イザキエルが速攻をしかける。ハルは叫びながら天使の極光を浴び、その生命力を全て失った。

 

「俺の勝ちだ。賭けの約束は守ってもらうぞ」

「……負けた…………」

 

 項垂れるハル。一方、俺はすぐさまデッキを片付けた。イカサマの証拠をむざむざ残しておく意味はないからな。

 

 これでハルが『スイーパー』を潰せば、そのレアカードは俺のものだ。ククク……良い金ヅルが手に入ったぜ。






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