その日より以前から、学園内には妙な空気が流れていた。
それまで成績がパッとしなかった生徒の何人か。そして、中堅程度と思われていた生徒たちが、急激に実力を伸ばし始めたのだ。
それだけなら、教育機関としては歓迎すべき事態だろう。しかし、その生徒たちは己の手に入れた力を誇示するように、勝った時には品のない振る舞いをしていた。トラブルが多発し、教員の介入が入ることもままあるほどに。
そして、本日。
その手の生徒たちが、一般の生徒たちに向けて、示し合わせたように揃って無茶な賭けVSを吹っかけ始めた。中には10000を超えるポイントを賭ける例もあった。
多数の賭けVSが同時多発的に発生することにより、審判科の生徒たちも大慌てで対応する羽目になっている。
ただし、審判科の生徒は一学年30人程度しかいない。それも、インターン、VS連盟の説明会、外部大会へのジャッジ参加などもある。全員がすぐに動けるわけではないのだ。現時点で行われている、ジャッジ招集の申請があるVSは50件近い。
「上級生だけでは審判の数が足りません。1年生や教師も配備しなければ」
「入学したばかりの1年生には荷が重いでしょう。精々、元よりジャッジ志望だった少数に任せるのが関の山です」
「そんな生徒は居ても2、3名だろうな……」
というわけで、俺も一時的に講師としてジャッジの権利を得ることとなった。
カジノ従業員としては、イカサマを見逃さない眼力は備えているつもりでいる。こなせないことはないだろう。
書類仕事をするフリをしながら、バタバタと右往左往する教員連中を眺める。緊急時の対応でもキビキビ動ける者、逆に対応に遅れが出ている者もいる。
「サボり魔の伊波くんはジャッジのご経験は?」
そんな中、俺と同じく適度にやってる風を装いつつ話しかけてきたのは、相変わらず不健康そうな目の隈をしたアカネだった。
「いえ、一度も。俺はプレイヤー側ですからね。大抵の先生がそうなのでは?」
「そうか。あれはあれで間近でプレイヤーの熱量を感じられて楽しいものだがねぇ」
「おや、新垣先生はご経験が?」
「まあね。まあ嗜む程度だが」
「今の猫の手も借りたいって状況なら、十分すぎるくらいでしょう。油売ってないで学校中を駆けずり回ってきてくださいよ」
「君に言われたくはないねぇサボり魔くん」
「随分と仲が良いようじゃないか、伊波先生、新垣先生」
アカネと話している内に近づいてきていた教頭の額には青筋が浮かんでいる。教頭は過去スポーツに打ち込んでいたらしく、背も高く凄まれると中々の迫力がある。
少々くっちゃべり過ぎたか。忙しい中で素知らぬ顔でサボってるなんぞ、印象の良かろうはずもない。
「だが、我々にはお喋りよりも先にすることがあるのではないかね? 私は何か間違ったことを言っているかな?」
「いえっ、おっしゃる通りかと。ジャッジを務めに出てきます」
「よろしい」
教頭のおかげで、他の教師にサボりがバレ睨まれる前に出てくることができた。陰険に見せかけて、案外と優しい人だ。
「全く。伊波くんのせいでワタシまで巻き込まれたじゃあないか。どうしてくれるんだい」
「その言葉、そっくりそのままお返ししますよ」
アカネと別れ、校内の巡回に入る。そこいら中でVSが行われている。それを眺めながら、俺はスマホを取り出した。
◆
この学園に在学して2年と少し。私は、今までに感じたことのない、嫌な空気が漂っているのを肌で感じ取っていた。
元からポイントを賭けたVSや、施設利用の優先権を賭けたVSは度々行われていた。けど、その頻度が今までにないほど増えている上、賭けられる額も随分と高い。
何より、仕掛けた側の生徒たちの目だ。
今まで陰に隠れていた生徒たちが、強い欲を持って、そして今の自分たちならば勝てると確信を持って行動しているのが窺えた。
実際、そうした雰囲気を持つ生徒たちは、格上の生徒に勝利し大量のポイントを得ている。そして、過剰なまでに勝ち誇る。今までの鬱憤を晴らすように。
「一体、どうなってるのかしら……」
VSで勝利して、己を誇示したい気持ちは理解できる。けれど、彼らのそれには何かが欠けている。
相手へのリスペクト?
もちろんそれも彼らにはない。しかし、根本的に何か……私や、今まで見てきた強者たち……橘くんや伊波先生のような人たちとは異なっているように思う。
「何かが起きている。私も少しでも手掛かりを集めないと……お父様のためにも」
「学園長の娘は大変だなぁ。こんな時でも、いやこんな時だからこそ、学園のことを心配しているのか」
考え事をしている最中、かけられた声に思わず嘆息したくなる。またこの人か。
「三国くん。随分久しぶりですね」
「まあな。新しい力を手に入れるために、この一月は必死だったもんで」
「入学したての1年生に大敗を喫しましたものね」
彼は入学直後の結束さんに大量のポイントを賭けたVSを挑み、敗れた。ただでさえ入学直後という、1年生がまだ右も左も分からない状況という非道なタイミングで仕掛けたにもかかわらず、返り討ちにあった情けない男だ。
……伊波先生なら、「自分が有利な状況なら仕掛けるのは当然だろ」とか言うかもしれないけれど。あの人の言う盤外戦術を活用している、と考えれば、評価すべきなのかもしれない。卑怯であるという印象に変わりはないけど。
「チッ……だが、その敗北のおかげで俺は新しい力を手に入れたのさ。丁度お前で試したかったところだよ、藤宮ァ」
「私で? 私とVSをする、と?」
「ああ。それも、俺はポイントを
オールイン……!?
そんな馬鹿な。リターンは莫大。でも、あまりにリスクが大きすぎる。
「あなたのポイントは、結束さんに支払った分を考慮すると57000ほどでしたね。バーテックス・セブンから落ちたとはいえ、相当な額です。必須授業さえ受けていれば卒業は安泰のはず。勝てば序列2位まで食い込めるとはいえ……そんな危険を犯すというのですか?」
「はっ。リスクを負わないとリターンが得られないからなぁ」
言うことはご立派だけど、どこか彼の言葉は空虚だ。リスクを背負う者の緊張感が感じられない。
何かがある……?
「どうした? 早くやるぞ」
「待ってください。私はまだ、VSを受けるなんて一言も言っていません」
「なんだと?」
以前の私なら、対等にポイントを賭けたこのVSを受けていたかもしれない。けれど、伊波先生の講義を受けた今、このVSをそのまま受けるのが私に不利であることが良く分かる。
彼は私に強い悪意を持っているから、私をバーテックス・セブンの座から引き摺り下ろそうとしている部分が大きいのだろうけど……私にとって不利なのは、準備も何もしていない状態で、大量のポイントを賭けたVSを受けるこの状況そのもの。
自分で気付かないうちに、精神的な重圧を抱えてプレイングが鈍る可能性は十分にある。
「それだけのポイントを賭けてのVSです。私もデッキの調整を行いたいですし、日を改めて勝負しませんか?」
自分の精神が落ち着いている状態で勝負すれば、彼よりも私の方が強い。それは過去の成績が証明している。私は序列5位。彼は9位。直接対決し、勝利したこともある。
「これはこれは、随分臆病になったじゃないかお嬢様! いつもの威勢はどこに行っちまったんだ?」
「バーテックス・セブン同士のVSですら珍しいのに、50000以上のポイントを賭けての勝負など、前代未聞です。簡単に決断できることではないのはそちらもお分かりかと思いますが」
「なら、決断できるように条件を上乗せしてやる」
「上乗せ?」
「お前、さっき学園の異常事態について、手掛かりが欲しいって呟いてたよなぁ」
確かに、そんなことを独り言で呟いた覚えがある。
「もしこの場で勝負して俺に勝てたら、知ってることを全部教えてやるよ」
……!
彼が、この件に関与している!?
「……実は何も知らない、なんてことはないでしょうね? 知っていること、というのはあまりに抽象的です」
「それはないから安心しな。同時多発的に起こっているVSの原因について、心当たりを教えてやるよ。だが、お前がこの場で勝負を受けないと言うなら、このことは俺の胸の中に仕舞わせてもらう」
正直、これだけのポイントを賭けたVSなど受けるべきではない。伊波先生の講義で言えば、私は保守的な行動をしがちな精神状態に追い詰められている。
しかし。
お父様のためにも、この事件の手掛かりは手に入れたい。学園長の、お父様の娘という立場を持つ者として。
「良いでしょう。そのVS、受けて立ちます」
「そう来なくちゃなあ。楽しみだよ、コネ女を蹴落として、俺が序列2位になるのが」
コネ女……か。
「早速、ジャッジを呼びましょう」
VSギアで学内ネットにアクセスし、VS開始の申請を行う。これで、フィールドまで移動する間にジャッジも駆けつけることだろう。
予想通り、フィールド用の教室の前には審判科の生徒がいた。しかし、予想外だったのはそのタイの色。彼は2年生のようだった。
「よろしく」
「は、はいっ。精一杯務めさせていただきます、先輩方」
2年生がジャッジに選ばれるとは、少し想定外だった。通常、賭けるポイントの額が高い試合や、ポイント保有量の多い生徒の試合は、3年生がジャッジを行う。50000ものポイントを賭けた試合だ。当然、3年生の成績優秀者が出てくると思っていた。
2年生、あるいは2学期からの1年生は、ポイントの少ない試合や賭けのない試合をジャッジして経験を積むのがこの学園の方針なのだけど……
今の状況では、審判科の生徒も人手不足のようだ。
まあ、今はジャッジのことはいい。VSに集中しよう。
「さあ、行くぞ……VSスタートだ!」
◆
三国くんのデッキは、昨年から様変わりしていった。強力なレアカードを多数投入し、それまで培ってきたテクニックとの両輪で上手く戦っている。
その成果は、バーテックス・セブンの末席に名を連ねていたことが証明している。
しかし、私の方が上。
そのはずだった。
「俺のターン、ドロー! この瞬間、最大魔力が6になったことにより、俺の『黒毛の人狼』のステータスが変化する!」
これで人狼の攻撃力は5。人狼の攻撃性能は確かに高い。けれど、攻撃に偏重するあまり、体力は1に落ちる。この効果を知っていれば恐れるほどのものではない。
「私は魔力1で高速魔法『クイックドロウ』を使用。クリーチャー1体に1点のダメージを与え、破壊に成功した時、カードを一枚ドローする」
「そう来ると思ったぜ。俺も魔力1で高速魔法『カウンターロール』を使用する! このカードはダイスを振り、5か6が出れば相手の高速魔法を無効にする!」
「魔法無効効果を持つ高速魔法……!?」
けれど、確率は三分の一。そうそう上手くはいかないはず……!
三国くんはポケットからダイスのケースを取り出す。
「さあ、ダイスを振るぞ」
にやりと顔を歪めて、三国くんは自信満々にダイスを振った。出た目は……6。
くっ……!
「これでクイックドロウの効果は無効! 行けっ、人狼よ!」
ダイスをしまって、三国くんが攻撃を宣言。
攻撃力5点の直接攻撃が私に襲いかかる。人狼の攻撃は高速魔法で防ぐプランだったのに、完全に当てが外れた。
「さらに俺は魔力5で『荊の森の姫』を召喚する! ターン終了だ」
『荊の森の姫』はガーディアン能力を持ちながら、攻撃を受ける時、戦闘前に相手クリーチャーにダメージを与える効果を持っている。厄介なクリーチャーだ。これは以前から彼が使っていたカードだ。
しかし。
「……またデッキを大きく変えたんですね。先ほどの『カウンターロール』のようなギャンブル性の高いカードは、あなたは好まないと思っていました」
「ま、心境の変化さ。自分の価値観に沿わないものも受け入れないと成長はないと思ったまでのことだ」
それは……伊波先生の講義を受けた私も、実感している部分はある。言葉自体には共感できる。
けれど、やはりどこかその言葉は空虚に感じてしまう。
「……私のターン、ドロー。私は魔力5で『駆動騎士イーヴァル』を場に出す! イーヴァルは『突撃』効果を持ちます。そして攻撃時、敵クリーチャー全てに2点のダメージを与えます。イーヴァルで攻撃!」
荊の森の姫の効果で、イーヴァルの方にもダメージが入る。しかし、鉄の騎士は荊を掻き分けて姫に攻撃を加えた。
両者相打ち。加えて、イーヴァルの効果により人狼も墓場に行く。
「ちぃっ」
「私は魔力2で『ディザイア・ポッド』を使用。カードを2枚引く。ターン終了」
「手札を補充したか……まあいいさ。俺のターン! 俺は魔力5で『ダイスマジシャン・マーカス』を場に出す。このクリーチャーは召喚時、ダイスを振り出た目で効果を決定する。出た目は……ちっ、3か。その効果は相手クリーチャー1体の攻撃力を0にする」
「私の場にはクリーチャーがいません。不発でしたね」
「…………まあいいさ。俺は魔力2で補助魔法『加熱する欲望』を使用。この俺のターンから3ターンの間、ターン終了時に俺はカードをドローする。ターン終了、同時にドローする」
三国くんもドローの準備を整えだした。
しかし、三国くんがここまでダイス関連のカードを使うなんて……
「運の良いヤツだ。さっきのタイミングで、マーカスの効果が不発になるのは3の目だけだった。やっぱり
「何を言うんです? さっきはあなたが運良く魔法を打ち消したじゃないですか」
「確率が低いだろ、お前の方が。六分の一をあっさり引きやがって」
そう言われても……そもそも、仮に有効な効果が当たっていたとしても、別に致命傷にはならなかったはず。こんなに言われるようなことじゃない。
「私のターン。私は魔力7で『機械将軍アルトゥム』を場に出す。効果で『機械歩兵トークン』2体が出現。そして魔力0で補助魔法『全軍突撃!』を使用! 私の場のクリーチャー全ては『突撃』を持つ。まずは機械歩兵トークンでマーカスに攻撃」
マーカスのステータスは2/4。5/5のアルトゥムの攻撃で十分破壊できる。けれど、トークンの効果を使うため、あえて1体だけ突っ込ませる。
「このトークンが破壊された時、自分の場のクリーチャー1体に一度だけ、効果による破壊から守る防壁を張る。アルトゥムを選択! そしてアルトゥムでマーカスに攻撃する!」
よし……!
これでフィールドは私の有利な状態だ。
「俺は魔力2で『三つ子妖精』を召喚! このクリーチャーはガーディアンと突撃を持っている。そして——俺は『賭博天使ディセル』を場に出す!」
あれは……伊波先生と同じカード……!?
それに、またダイス関連!
「ディセルは、場に出た時2回ダイスを振り効果を決定する。まず、出た目が偶数か奇数か当てる。正解したなら、お前の場の数のクリーチャー数と同じだけ俺のクリーチャーを。そして……」
「外したなら私のクリーチャーを強化。2回目のダイスで強化値を決定する……そのカードの効果は知っています。ダイスをどうぞ」
「……チッ! どこまでもイヤミなヤツだ……!」
さっきは幸いにも、彼は運に恵まれなかった。でも、1回目のダイスは成功している。今回はどうなるか。
三国くんはダイスを取り出した。
「藤宮。恵まれているお前が、VSの運も強いなんてよ、そんなのは通らねえよなぁ?」
「……通るか通らないか。そんなことは、ダイスを振れば分かることです。早く振ったらどうですか?」
「言われなくてもだ。俺は偶数を選ぶ」
三国くんはダイスを取り出し、それを振る。まずは……6。
また、6。くそっ、運がいい……!
「良し。これで、俺のクリーチャーが強化される!」
以前の伊波先生とのVSが、フラッシュバックする。
まさか……いや、そんなに都合良く行くはずがない。
「さらにもう一度だ……ふっ!」
三国くんも汗を掻きながら、ダイスを振る。
出た目は……一度目と同じく6!
「なっ……!?」
そんな馬鹿な……!?
ディセルの効果によって、ディセル自身、そして三つ子妖精がパワーアップし、巨大化する。
思わず三国くんの様子を見ると、口元を押さえているものの、笑いを堪えきれず震えている。
「ふっ、ふくくっ。ふはははっ!! ツイてる、ツイてるぞ!」
彼はこのVSで4回、ダイスを振った。
結果は、6、3、6、6。いくらなんでも、結果が偏りすぎている。
「ジャッジ!」
声をかけると、ジャッジの2年生は分かっている、とばかりに頷いた。
「三国先輩、ダイスのチェックを失礼します」
「何? なぜだ」
「なぜ、って。分からないんですか? いくらなんでも、出目が6に偏りすぎです。不正の可能性が高い。チェックさせていただきます」
「ああ、なるほどな。ほら」
三国くんは素直にダイスを差し出した。
あまりに余裕だった。それは、イカサマを疑ったのは間違いだったのか、と私ですら一瞬思ってしまうほど。
しばらくダイスを弄っていたジャッジの彼は、苦虫を噛み潰したような顔をする。
「ボディチェックを」
「なんだ、疑り深いな。どうぞ、幾らでもやれよ」
ボディチェックへの申し出も、躊躇うことなく受ける。ジャッジがポケットなど怪しいところを叩いて確かめるも、彼の表情は晴れない。
「………………イカサマはないようです」
「そんな!?」
結局、ジャッジの彼はそう結論付けた。
「他のダイスは見つかりませんでした。藤宮先輩も、このダイスを試してみてください。イカサマダイスなら、何度も振ったら、連続で6が出るはずです。しかし……」
私も、三国くんの台まで近付いてダイスを振らせてもらう。けど、5回ほど振った結果、ダイスの出目はどれもバラバラだった。なんなら、6は一度も出ない。
「う、嘘……!」
「イカサマはなかったとしか……どうやら偶々、三国先輩の運が良かったと言うしかないようです」
彼はまだ疑っているようだったけど、証拠がない以上はもうどうしようもない。三国くんは肩を竦めた。
「やれやれ、尋問は終わりか? なら、続けるぞ。俺のクリーチャーは6点の強化を受けた。さらに、ディセルと三つ子妖精は突撃を持つ……お前の場を一掃してやる!」
ディセルがアルトゥムを、そして三つ子妖精が機械歩兵トークンを破壊する。私のフィールドは壊滅。そして、彼の場には強力クリーチャーが2体。
私の場にクリーチャーも残ってない今、私のデッキに、相手のフィールドを一掃する手段はない。ほぼ確実に1体の直接攻撃を喰らうことになる。
それに……彼のデッキには、ディセルのように伊波先生も使う『背徳の天使イザキエル』が入っている。
もちろん、彼の手札にそれがあるとは限らない。
けれど……どうしても、伊波先生とのVSがフラッシュバックする。ダイスのことだって、何も解決していない。
このままじゃ、勝てない。
「どうだ藤宮、俺が本気になれば、コネなんてセコい真似で成り上がったお前なんかこの通り。バーテックス・セブンに相応しいのはお前じゃない、俺だ!」
私は……私にはやっぱり、実力が足りていなかったんだろうか。
私は今まで、恵まれた環境に胡座をかいていると思われないよう、精一杯努力してきたつもりだった。お父様の娘として、この学園の頂点の7人に食い込めるように。
それこそ、入学当初は躍起になった。三国くんとも度々ぶつかったし、黒崎さんとも何度も戦った。
しかし、今学年。3年生になるまで、結局バーテックス・セブンに食い込むことはできなかった。
そして今、三国くんに敗北すれば、私のポイントは10000近くまで落ちる。
一気に成績下位の生徒となる。再び上位入りするのは絶望的だ。
そうなれば……優しい父は、私に最大限配慮しようとしてくれるだろう。
そして、私はまた後ろ指を差されるのだ。コネだ。学園長の娘だから、と。
……嫌だ………
私の努力が認められないのは嫌だ。
もしお父様の娘じゃなければ、なんて最低なことを、少しでも考えてしまう自分が嫌だ。
けれど、この状況を覆す方法が見つからない。
私は、どうしたら……
「なんだ、随分と面白いことしてんじゃねぇか」
声がした。
初めは嫌っていた、それがその内、尊敬に変わっていた声が。
私と同じく、コネだ、特別扱いだと後ろ指を指されて。それを全て実力で捩じ伏せた人の声だった。
私は声のした方を向いた。
「伊波、先生……!?」
教室の扉にもたれかかる伊波先生が、愉快なものを見るようにけらけらと笑っていた。
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