イカサマが闇のカードゲーマーに通用した   作:レイトントン

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映す価値なしではないらしい

「これで、彼女が目覚めた時には24時間分の記憶が綺麗さっぱりなくなっているよ」

「んなことは分かってんだよ。手駒ども(アヤメとキリヒコ)で試したからな」

「そうだったね。ふふ、これもジャバウォックのカードの影響かな。彼女の絶望に澱んだ顔。思い出すだけで唆られるよ」

 

 アカネにドン引きしつつ、記憶を飛ばされたショックで気絶したキョウカを見下ろす。

 

 キョウカから聞き出したパスコードにより、スマホの中身は確認済み。

 父親に通話の履歴があったが、それ以外にどこかに連絡した様子はなかった。今はGPSで追えないように電源を落としてある。

 

「よし。そいつはテキトーに路地裏にでも捨てて、拠点にジャバウォックを納品しに行くぞ」

「了解した。……ああ、そうそう。さっき車の中で彼女の鞄を調べた時、面白いものを見つけたよ。そら」

 

 何か袋のようなものを投げ渡される。

 中身は……菓子。手作りのクッキーか。そして、メッセージカード。宛先は俺だ。

 

 なるほどねえ。

 

「愛されているじゃあないか、ハクトくん。嫉妬に狂いそうだよ」

「こいつを俺に渡そうと待ってたわけだ。けど悪いな、俺は他人が手作りしたもんは食わねえんだ」

「生徒や教員からもらったお菓子、全部手駒に処理させてるって言っていたしね。全く、酷い男だ」

「受け取り拒否したら俺の印象が悪くなるだろ。せっかく真心込めて作ってくれたんだ、捨てるのも忍びないしな」

「それ本気で言ってる?」

「んなわけねーだろ」

「ふふ、それでこそ君だ」

 

 試し行為っつーのか、厄介なヤツだとわざと菓子を激辛にして、本当に食ったのかどうか判別しようとするようなのもいるからな。リアクションがなければ食ってないと判断する、ってヤツだ。

 捨てずにキリヒコやアヤメに食わせて報告させてるのは、それを判別するためだ。

 

 袋をキョウカの鞄の中に仕舞い直す。

 コイツの俺への好意すら、俺が作り上げた夢幻にすぎない。夢から覚めたのも一瞬、儚い短さだったな。

 記憶が消えたら、また夢の中に逆戻りだ。

 

「さて、契約は果たした。今度はそっちの番だ」

「ああ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そして、改めて。——ようこそハクトくん、秘密結社デプスシェイドへ」

 

 

 

 

 

 

「君たちが追いかけている、DSの構成員。あれはワタシだ」

 

 一月前、イカサマダイス・偽造カード事件の直後、アカネと飲みに行った後のこと。

 白衣をハンガーに掛けソファに座るや否や、アカネはそう口にした。

 

「そうか」

「さすが、驚かないんだね。予想は付いていた、というところかな」

「まあな。色々怪しいところがあった」

「ふふ。参考までに、根拠を聞かせてもらっても?」

 

 こいつが居る今この場で、イザキエルが呼び出せないことも根拠の一つなんだが……俺が精霊を見ることができるのは、極力隠しておきたい。

 DSは精霊の研究もしているという。俺のように精霊を使って悪さをする者の対策として、精霊の顕現を阻害する何かを用意していても不思議じゃないと考えた。弱い根拠だが。

 まあ、これは口にすべきではない。

 

「俺とキョウカのVSの時、お前が第3棟に現れた。何しに来てたんだと疑問に思っていたんだが、その理由に心当たりができた」

 

 キョウカ曰く、第3棟の地下にジャバウォックが封じられているとのことだったからな。

 それを調査しにきたという仮説が立ったわけだ。

 

「それに、その時の発言だ。お前は偽造カードを見抜けるようなことを言っていたな」

「ああ。君のイザキエルは間違いなく本物だと言ったはずだね」

「たったあれだけのやり取りで偽造カードを見抜けるヤツが教員にいるのに、30人以上も偽造カードをデッキに入れている生徒がいたのは妙だと思った。抜き打ち検査なりで、偽造カードを所持している生徒が摘発されているにしては多すぎる。教頭や学園長が抜き打ち検査を思い付かないとは考えづらい。お前が犯人だとするなら、偽造カードをわざとスルーしたと仮定すれば説明が付くと思ったんだ」

「ふふっ、素晴らしい! ヒントを見逃さず、きっちりワタシの尻尾を掴んでくれていたわけだ」

 

 ヒント、ね。

 なるほど、これはテストというわけだ。

 あの時、アカネは俺のイカサマを疑っていたのだろう。証拠は掴めなかったはずだが、それは寧ろ彼女の評価を上げる結果となったようだ。

 

 いきなり自らの正体を明かしたのも、正体を明かした上で()()()()()()()()と考えている。

 

 そして、断れば俺を始末する気だろう。

 俺もやられてやる気はない。ただ、目の前のアカネは貧弱そうだし簡単に仕留められるだろうが、その程度のことをこいつが考慮していないはずもない。仮に問題なく殺せたとして、死体の処理も面倒だ。下手なことはしない方がいいだろう。

 

「もう一つ聞いてもいいかな?」

「答えられる質問なら」

「イカサマダイスと一部の偽造カードをばら撒いたのは君だろう?」

「どういうことだ? それはおまえじゃないのか?」

 

 すっとぼけながら、俺はアカネに感心していた。

 やり手だな、この女。まさか見抜かれてやがるとは。

 

 

 アカネの言う通り、イカサマダイスとダイス関連のカードを学園にばら撒いたのはこの俺だ。

 正確には、キリヒコに命じて生徒たちに販売させた。

 

 

「ふふふっ! 良いね、用心深いのは大きな加点要素だよ、伊波くん。ワタシの衣服や持ち物に、盗聴器やレコーダーといった類の機械がないとは限らないものね」

 

 そう言うとアカネは、既に脱いでいる白衣に加え、無地のTシャツやジーパン、下着を脱ぎ裸になった。

 脱いだ衣類は全て俺に渡してくる。検めろと、そういうことだろう。

 

「……ちょっと、自信を無くすね。まるで反応しないなんて」

「どこ見てんだよ変態」

「それ普通こっちのセリフじゃないかなぁ!」

 

 キレるアカネを無視して脱いだ衣服を検めるが、確かに盗聴器の類はない。

 

「しかも普通、下着から行く?」

「そっちの方が隠しやすいからな。それに下着から返してやった方が着直しやすいだろ」

「くくっ。君を落とそうとする生徒や教員は大変だねぇ」

 

 服を全て返してやると、アカネはゆっくりとそれを着直した。

 

「それで? イカサマダイスと偽造カードをばら撒いたのは認めてくれるかな?」

「いや、それは何のことだか——嘘嘘、冗談だ」

 

 枕を振り上げるアカネを制止する。

 

「まったく、こちらは潔白の証明のために服まで脱いだんだよ? 歩み寄りをしたまえよ歩み寄りを」

 

 歩み寄りはともかく、録音や盗聴の心配がないのは確認できた。自己PRには丁度いいか。

 

「ああ、お前の言う通りだよ」

「なんでまたそんなことを?」

「今度は俺が聞こうか。なぜ俺がイカサマダイスをばら撒いたと?」

 

 意趣返しのように聞いてやると、アカネは楽しそうに笑う。

 

「他人の犯行を証明するとなると、名探偵にでもなった気分だね。ただ、確たる証拠があるわけではないんだ」

 

 だろうな。疑惑は残っても、確実な証拠は残してはいない。コイツと同じで。

 アカネは、では聞きたまえ、犯人君。と探偵気取りで話し出した。

 

「実はワタシも、こっそり三国くんから話を聞いていてね。そこで、君から催吐薬を飲まされそうになった、と話を聞いた。が、そんなものを持ち歩いていること自体がおかしい」

「お前の言う通りだな。だが、それを指摘されても問題はない。あれはただのハッタリで、栄養ドリンクを催吐薬と言い張ってただけ……という言い訳もできる」

「ほう。カモフラージュも完璧とは恐れ入る」

 

 実際にはちゃんと本物の催吐薬を用意してあったがな。

 仮にも教職の身。拒否されなければ、体罰に訴えることも極力したくなかったが故の準備だ。

 だが、薬を飲ませなかった以上、最早それを確かめる術はない。証拠はもはや手に入れようがないのだから。

 

「そして、確信したのは偽造カードだ。全く、ワタシも完璧に騙されるところだったよ。惚れ惚れする手腕だ」

「ほう? あれに気付くとはな」

「カードを回収したのが君でなければ、まず見落としていた。普通なら気付けるものなどまずいないさ。正直、生徒たちの言う偽造カードを見た時は寒気がしたものだ。私が捕らえた生徒から取り上げたギャンブルカードは、まさに本物同然だった。我々(デプスシェイド)以上の偽造カード製造技術を持つ組織が、裏で糸を引いているのかとね」

 

 賭博天使ディセルをはじめとしたギャンブルカードをばら撒いたのも俺だが、当然俺には()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「しかし、今にして思えば、あの偽造カードはあり得ないほど本物らしかった。恐らく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだろう」

「今度はこっちが感心させられたな」

 

 バラエティ番組なんかで『美術品の偽物はどれか』といったクイズをたまに見る。

 

 他が全て本物であるなら、偽物を見破ることのできる人間は、思っている以上に多い。なんだかんだ、普段からそれに長い時間触れている者は僅かな違和感を感じ取り、それを指摘する。

 

 あるいは、選択肢の全てが偽物の中、本物はどれかと聞かれても、全てが偽物であると答えられる者はいるだろう。よほどの審美眼を持つ者なら、偽物全てから違和感を感じ取ることができるかもしれない。

 

 

 だが。全ての選択肢が本物の中から『偽物はどれか?』と聞かれ、偽物がないことを看破できる人間はほぼ皆無と言っていい。

 

 

 

 

 俺がイカサマダイスと、偽造と嘯いた本物のギャンブルカードをばら撒いたのは、事件発生の2週間前。学園長からDS捕獲の依頼を受けた直後だ。

 

 ()()はイカサマダイスだけを流す予定だったが、偽造カードが流通しているのなら、それを利用しない手はない。俺が何かしても、『偽造カードを流しているのはDS』という先入観のせいで、大半の人間は勝手にDSの仕業だと思ってくれるんだからな。

 

 だが、DSレベルの精巧な偽造カードの製造は極めて難しい。俺が偽造カードの存在に気付いたのは入学式の翌日。そこから一月で(キリヒコの努力により)最低限VSに使用できるだけのクオリティの偽造カード製造には漕ぎつけたが、それでもDSの偽造カードには及ばない。

 だから俺は、本物のカードを偽物と称して生徒たちに売りつけた。

 

 その後、捕まった生徒たちからカードを回収した際、可能な限りクオリティを上げた偽造カード……精度はDSと比べると粗悪なものだが……をすり替えた。

 

 

 生徒たちにとっては、所詮2週間ほどデッキに入れていた即席の、思い入れのないカードでしかない。後から見ても、すり替えられていたとはまず気付けない。

 そもそも、すり替えたという発想にすら至らないだろう。

 

 そして、一度すり替えてしまえば物証は俺の手に渡り、二度と出てこない。曖昧な記憶の中のカードと比較することしかできない。

 

 さすがに警察やVS連盟は偽造カードのクオリティ差や販売ルートの違いから同一組織による犯行ではないと気付くだろうが、模倣犯だとでも思ってもらえれば捜査の撹乱程度にはなるだろう。

 

 

 

 何より。

 自分たちの犯行を利用されたDSの出方を見れると思ったが、自分から正体を明かしにくるほど上手くいくとは。

 

 

 

「全く、本物のカードを粗雑に扱われたら、君が損をするというのに」

「偽物のカードを粗末に扱ったら、せっかく精巧に作った意味がないだろ。『この扱いの雑さ、もしかして偽造カードなのではないか』という疑念を持たれかねない。大切に扱わないとバレるぞ、と忠告させた」

「抜かりはない、と。ふふ、既に君が恐ろしいよ、伊波くん。で、次はイカサマダイスをばら撒いた理由を聞かせてもらえるかな」

 

 面接で自己PRをする気分ってのはこんな感じなんだろうか。面接なんてしたことないから知らないが。

 

 ともかく、俺は続けてイカサマダイスをばら撒いた経緯を話すこととした。

 

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