イカサマが闇のカードゲーマーに通用した   作:レイトントン

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マッドには倫理観がない

 自宅にアヤメを呼び出し、キョウカに押し付けられたクッキーを食わせることにした。危険物処理班だ。

 捨てたら呪われそう……は冗談にしても、なんか入ってたら、食ってないのがバレるからな。

 

「ここが……ハクトさんの自室、ですか。凄く綺麗で広い部屋ですね」

「そういや、お前は(カードになっている時以外に)来たことはなかったか。普段はカフェとかだもんな」

「え? その、他の誰かは来たことが?」

「ああ、キリヒコはな」

 

 まあ、星雲ナユタと共に縛ってテキトーな部屋に放り投げてただけだが。

 

「……そうですか。キリヒコさんが」

 

 こいつ、嫉妬しているのか?

 自分よりキリヒコの方が信頼されているとでも思っているのだろうか。くだらねえが、それでより働いてくれるんなら勘違いしておいて貰った方が良いかもな。放っておくか。

 

「しかし、一人暮らしには広すぎるのでは?」

「せっかく稼いでるんだから、良い部屋に住みたいもんだろ。……で、今日呼んだ用事は、いつものヤツだ。食え」

「はい、いただきます。今回は……クッキーですか」

 

 紅茶を出しつつ、キョウカから渡された袋を差し出す。

 

 もう俺宛の贈り物を処理するのも手慣れたもので、アヤメはさくさくとクッキーを処理しにかかった。

 その間、アヤメから学園内の様子を聞き出したりしつつ、メッセージカードを眺める。俺を講師として尊敬しているだとか、絶対にまた戻ってきてほしいだとか……即興で新しい便箋に書き直したのか、綺麗な字がところどころ歪んでおり、焦りが見受けられる。

 

「……あ、この紅茶美味しいですね」

 

 先にそっちの感想かよ。

 まあ、確かにちょっと良い茶葉買ったから、試しに使ってみたんだが。意外にも違いが分かるようだな。

 クッキーの方も、あらかじめ包丁で切り分けておいた分以外は、全て食い終わったようだ。

 

「どうだ?」

「はい。味におかしいところはありませんでした」

「よし。手間取らせたな、帰っていいぞ」

「……その。少し机を借りて、宿題を終わらせても良いでしょうか」

「あん? 別にいいけどよ」

 

 ほとんど空いたカップに、ポッドに残った紅茶を注いでやる。この世界に転移した時は食文化も違ったらどうしようと思ったもんだが、なぜかその辺は前居た世界と変わらないらしい。

 

 アヤメはテキストを広げて宿題を始めた。大変そうだな、学生ってのは。

 俺もダイスを振る練習をしながら本でも読んでいるか。プレイマットをテーブルに敷き、その上に右手でダイスを転がしながら左手で本を読む。

 

 この世界の歴史にも興味が湧いたし、異世界人バレも防ぎたいので中学生が勉強するくらいの簡単な本を何冊か購入したものだ。

 アヤメに突っ込まれたら、講師をしているうちに勉強し直したくなったとでも言っておけばいいだろう。

 

 この世界の歴史には、VSが深く根付いてるようだ。

 血生臭い歴史も当然にあるが、凄惨な戦いを避けるための代替手段としてカードゲームによる戦いが発達していったらしい。

 交渉手段にVSを使うやつが多いのもそれが理由か。

 

 転移するまではトランプ以外のカードゲーム、特にいわゆるトレーディングカードゲームというものには触れたことがなかったが、やってみれば案外何とかなるものだな。

 チェスや将棋のような完全情報ゲームよりはずっとイカサマがバレにくいように感じるし、悪くはない要素だ。

 

 と、前の世界と比較しながらこの世界の歴史を学んでいる最中のこと。アヤメがじっと俺の方を見ていることに気付く。宿題はどうした。

 

「どうした?」

「いえ、その……ハクトさん。さっきからダイスをずっと転がしていますが……」

「ああ、手癖でな。ペン回しみたいなもんだから気にするな」

「はあ……」

 

 俺の方が気になるのか、アヤメは持っていたペンをテキストの上に置いてしまった。

 代わりにソファから立ち上がり、俺の隣に座ってくる。さら、と俺の腕に、黒く長い髪の毛が触れた。

 

「どうした?」

「すみません、何を読んでいるのか気になって。歴史の本ですか? 私にも見せてください」

「宿題は良いのか?」

「ちょっと、集中が途切れてしまいまして。気分転換がしたいです」

 

 横から本を覗き見るアヤメだが、その白い頬がうっすら赤くなっているのに気付く。

 

 キョウカ……あのクソガキ、菓子に一服盛りやがったのか?

 これだから他人の手作りなんて信用できねえ。 

 

 結果的に薬を盛られることとなったアヤメは、俺の肩に手を置いたりとやたらボディタッチが多い。鬱陶しいな……

 

「アヤメ、おまえちょっと変だぞ。多分クッキーに何か入ってたんだな」

「えっ!? そんな……全然気付きませんでした。でも、言われてみれば……なんだか体が熱いような」

「今日は帰って寝ろ。幸い毒ってわけじゃないみたいだし、調べてみてまずそうなもんだったら対応する」

 

 流石に違法な薬物が入ってるわけじゃないだろうから、寝てりゃ問題ないと思うがな。

 しかし、命令されたアヤメは固まり、何かを考え込んでいるようだった。

 

「ハクトさん。その、実は少々体が怠くて……少しここで寝かせてもらってもいいですか?」

「……まあいいか。ベッドは貸してやらねえからソファで寝な」

「ふかふかですし、全然問題ないです」

 

 クッションを枕にして、アヤメは横になる。

 が、寝ることはなく薄目でちらちらとこちらの様子を窺っているようだ。

 

 俺は立ち上がり、別室に移動する。イカサマの訓練でもしているか。三十分経って寝てなかったら追い出そう。

 

(我が主にしては甘い対応ですね)

 

 デッキケースから、イザキエルが姿を現す。言葉に反して機嫌が良いのは、直近の問題を解決したからだろう。

 

(道具も手入れはしないといけないからな。性能が落ちては堪らない)

(それだけですか? 本当に?)

(何が言いたい?)

(この娘に情が芽生えている、ということはないですか?)

(それはないな。キリヒコ共々、役に立つから重宝してはいるが)

 

 イザキエルを安心させるために即答してやるが、思わぬ指摘に考え込む。

 情。情か。

 情が芽生える、というのは同情心が芽生えるとか、道具としてではなくアヤメを一個人として見るとか、そういう意味で言っているわけだ。

 

 別に情をかけるような真似をした覚えはないが、端から見たらそう思えるのだろうか。

 だとしたら勘違いしてもらって損はない。

 口は悪いがなんだかんだ情に厚い人間、と好意的に見えるのであれば、本性がバレるまでは得だ。

 

(そうですか、なら構いませんが)

(あっさり引き下がるな)

(我が主は昔から、私との約束はいつも守ってくれますからね。なんだかんだ言いつつ、あなたは誠実な人物です)

 

 こいつ、散々俺の悪事を見ておいて自分が裏切られないと思っているのか……いや、自分には裏切られない、俺がこいつを切ると判断しないだけの能力があると自負しているのかもしれんが。

 イカサマが使えない時はこいつの機嫌が引きに関わってくるし、精霊通しのような真似も時に協力する。壁を通り抜けての偵察も可能だし、使える駒だ。

 実際、俺がこいつを切ることはまあないだろう。こいつが役立たずになることがあれば、デッキも丸っと変えなければいけない。

 

(今回も約束を守ってくれましたしね)

(DSに加入したせいで表に出てこれないこともしばしばだが、まあ許せ)

(あれに比べれば、気にもなりませんよ)

 

 精霊にとってはそちらの方が大事か。

 俺は先日、DSの地下研究所に赴いた時のことを思い出した。

 

 

 

 

 

 

「おい。学園長に告げ口たぁどういう了見だよ」

 

 DSの地下研究所内、廊下にて。アカネに連れられやってきた俺は、話題の提供ついでに問い詰める。

 

「バレてしまったかな。なに、君が講師として残った方が、直接の連絡が取りやすいと思ったまでさ」

「余計な真似すんじゃねぇよ。カジノと秘密結社の二足の草鞋だけで面倒なんだ、これ以上面倒な仕事を増やすな」

「全く、学園内で密会したいという乙女心というのが分からない男だね。仕方ない、ここは研究所の案内デートで手を打つとしようか」

 

 案内ねぇ。

 広大な地下研究施設。俺はしばらくはDSの仕事として、週何回かはここでアカネの助手として護衛兼雑用をこなすことになっている。

 まずは下っ端としての仕事を、ということらしい。能力次第では仕事を選べるということらしいが、初っ端を断っていては話にならないだろう。

 

「くくっ。さあ行こうじゃないか、我が助手よ」

「はいよ」

 

 アカネに案内されるまま、研究所内の施設を見て回る。

 研究所と銘打ってはいるが、どちらかといえば工場のような印象を受ける。というのも、偽造カードの製造を行っているからだ。

 

「公式の大会やVSにおいて偽造カードを使用するのは当然反則行為だが、別に友人間で合意の上であれば、偽造カードを使用してVSするのは問題じゃあない。デッキの調整には悪くないし、個人的にはもっと受け入れられても良いものだと思うんだがね」

 

 アカネはVS界を憂うような素振りでそんなことを口にする。

 いや欺瞞だろ。

 

「それには同意するが、それが目的なら完成度を近付けすぎるのは問題じゃないのか。表に流通させたいのであれば、偽物なら偽物とはっきり分かるようにデザインすべきだ。別に友人間のVSならVSギアを使わずにすれば良いんだからな。……ってツッコミはしたが、こんなことが分からないお前じゃないだろ」

「くく、この程度の良い人ぶるような真似は見抜かれてしまうか」

 

 こいつさあ……

 

「今更良い人ぶってどうすんだよ」

「実はワタシが、信念を持っているものの理想の実現のために悪の組織に身を置いている可哀想で可憐な美人研究者、って可能性も捨ててないかと思ってね」

「違うのか?」

「違うねぇ。ワタシは非常に利己的な人間だよ。偽造カードの研究も、知的好奇心に依るものでしかない」

 

 知的好奇心ね。

 

 偽造カードは有用な代物だとは思うが、今は俺にとって邪魔な部分も大きい。

 それを止めるためにわざわざ組織に入った部分もあるからな。

 

「例の件はどうなってる?」

「例の件……ああ、DSに入るにあたっての条件の一つか。君のデッキに入っているカードの偽造は取り止めにしろ、という要求だったね」

「俺のカードの価値が相対的に落ちるからな」

 

 それも間違いなく本音ではあるが、もっと言えばイザキエルのご機嫌取りが目的だ。

 

 精霊は自らの偽造カードを嫌がるからな。イザキエルもカズヤの使用する偽造カードを見てかなりキレていた。

 いつまでも不機嫌にしておくわけにもいかないが、DSほどデカい組織を潰すのはそう簡単じゃない。短期間に済ませるのはなお難しい。

 

 DSに入ったのはそういう目的もあった。内部に入って偽造カード製造に口出しできるだけの立場を得るか、あるいはそれだけの権力を持つ立場の人間に取り入り製造をやめさせた方が、正面切って潰すより遥かに簡単だからな。

 それが無理そうなら内側から崩壊させるのもアリだと思っていたが……幸いにも、アカネが偽造カード関係に口出しできる人間で助かった。

 

「『背徳の天使イザキエル』や『賭博天使ディセル』その他、君の使用するカードについては製造を止めた。君も我々の要求通り、ジャバウォックの奪還に協力したからね。ああ、契約は守るとも」

 

 そういうことであれば、無理に潰す必要もないか。

 DSは仕事に対する報酬もきっちりしている。規模が大きいとはいえ、秘密結社だけあり構成員はそう多くはない。というのに、報酬はデカい。

 まだ下っ端だというのに、悪くない待遇だ。報酬が美味いというのは良いことだ。

 

「そうか、ありがとよ」

「くくっ、お礼を言われるようなことじゃないさ。契約条件に沿ってのことだよ。ジャバウォックの奪還を手伝ってもらったことだしね」

「そういや……その後体調に問題はないのか? 仕事中はジャバウォックの影響を強く受けていたように見えたが」

「心配してくれるのかい? 嬉しいね、君にも助手としての心構えが出来てきたといったところかな。体調については問題ない。確かに、あのカードにより嗜虐心が増していたのは否定できないが」

 

 ジャバウォックのカードは現在、別の研究施設に回され解析されているという。

 アカネの方は偽造カードを作成しようとしているようだが、難航しているようだ。カードの製造そのもの、というより、製造の際に霊障のようなものが起こることが原因らしいが。

 俺には見えなかったが、やはりジャバウォックにもイザキエルと同じようにカードの精霊が取り憑いているのだろうか。だとすると、偽造カードを嫌がることにも得心がいく。

 

「そういう君こそ、ジャバウォックのカードの近くにいた割には影響を受けていなかったように見えるがね」

 

 そうだろうか?

 正直、かなり攻撃的になっていた覚えがある。キョウカを殺して口封じをする選択肢がずっと脳裏を掠めるくらいには。

 

 DSの組織力なら死体を隠すのも簡単だし、それもなしではなかった。しかし学園長の娘が行方不明になったとあっては、一部の人間しか存在を知らない封印されたカードの強盗とは、学園側の対応が大きく変わってくると予想できる。秘密裏に動かなくてはならないのと、おおっぴらに権力を行使できるのでは捜査の規模が違うからな。

 

 普段の俺なら検討し、選択肢から外した後は考えることはない可能性だったが、常に殺しが選択肢にあった。

 あれはジャバウォックの影響を受けていたのではないかと自認していたんだがな。

 

 それに、記憶を消すためとはいえペラペラと本当のことを話し、キョウカの心を折りにかかっていたのもそうだ。どうせ記憶を消すから、と対応が雑になっていたのは否めない。

 

 記憶を消すのはあくまで最終手段で、そもそも犯行がバレないのが最善。便利なものを手に入れたとはいえ、それは常に心掛けなければな。

 

「ジャバウォックの影響を受けなかった……直接カードに触れていなかったから、というわけじゃないよな。おまえは手袋越しに触っていた」

「それに、触れていないウチの研究員にも影響が出てたりはしたね。大体カードから半径5メートルくらいにいる人間に影響が出るようだ」

「キョウカは別に影響されていなかったようだが?」

「ふむ、確かに。単純に考えるなら、恐怖が勝っていたということだろうが……検証したいところではあるね」

 

 研究者としての気質が疼くのか、アカネは顎に手を当ててぶつぶつと何事か呟き始めた。

 特殊なカード、か。一年ほど前にやり合ったスイーパーの、闇のカードを思い出すな。

 

 ……この組織の研究施設でナユタをこっそり解剖でもしてやれば、闇のカードの力を手にすることができたりしないかという考えが頭を過ぎる。カードの能力を書き換える力。使いこなせれば強力な手段となるだろう。

 

 が、検体が一人じゃあ上手くいく保証もないし、ナユタは闇の力をすでに失っている。

 キリヒコも中々使える駒だ。そこの関係にヒビを入れるような真似は控えた方が良さそうだな。

 

 それに、俺だけが力を手に入れるならいいが、闇の力が他人に渡るのは避けたい。

 

「……ああ、すまない。考え込んでしまった。いや、いけないね。集中すると周りが見えなくなるのはワタシの悪癖だ」

 

 アカネも考え事が終わったのか、研究所内の散策を再開する。

 偽造カードの製造以外にも、別の区画では様々な研究が行われているようだ。精霊についての研究や、例の記憶消去装置のような便利な道具の開発など。

 

 それだけに留まっていれば良かったのだが……

 

 ある区画を通りかかった時、アカネはそこを無視して次の区画に進もうと早歩きで進み始めた。

 

「アカネ。この区画は?」

「ああ。ここは良いんだ」

「答えになってないだろ。ちゃんと案内しろ」

「……いや、そうだね。分かった」

 

 珍しく不満そうな顔で、アカネは俺を案内する。

 その研究区画は、他と比べ乱雑と資料が置かれ、研究員たちの様子もどこかおかしい。まともそうに見えて、目の奥には暗い光が灯っているように見える。

 

「おや、新垣くん。ウチの区画に顔を出すとは珍しい」

 

 俺たちの姿を見咎めたらしい。デスクの位置から見てこの研究チームで最も責任ある立場だろう痩せぎすの中年男性が、アカネに声をかけてくる。

 白衣を着てはいるが、どうも清潔感がない。清潔にはしてあるんだろうが、髪もボサボサで身なりが整っていない。

 

「ワタシの助手に施設の案内をしていてね。少々失礼するよ」

「先日から配属された伊波です」

 

 手を差し出すが、彼はフンと鼻を鳴らして握手を無視した。

 

「島原だ。困るな、新垣くん。ウチの研究区画に新人など連れてこられては」

「全くその通りだ。済まなかったね島原さん。よし、ハクトくん。とっとと退散しよう」

 

 よほど帰りたいのか、アカネは嫌味を口実に帰ろうとする。が、ここまで来てそりゃないだろう。せめて何の研究をしているかくらいは知っておきたい。

 

「島原さん。ここではどんな研究を?」

「ハクトくん。島原さんも嫌がっているようだし、質問はまたの機会にしようじゃないか」

 

 そそくさと区画を出ようとするアカネに反して、俺は既にこの区画でどんな研究が行われているのか、強い興味を抱いていた。

 島原は……アカネの態度を見て逆に興が乗ったか、にやりと笑った。良い性格をしているようだ。

 

「良いだろう、教えてやるとも。伊波くんだったな。君はホムンクルスという言葉を知っているかね」

「ホム……? いえ、聞いたことがありません」

 

 薄っすらと聞いたことがあるようなないような気はするが……馴染みのない単語だ。

 

「錬金術で作られた人間のことさ」

 

 アカネがため息でも吐きそうな調子ながら補足してくる。

 錬金術、ねえ。

 

「古の錬金術師はフラスコの中に小さな人間を作るので精一杯だった。だが、私は違う」

「それは、つまり……」

「ああ。私はこの施設で、クローン技術によって人間を生み出す研究をしているのだよ」

 

 この島原という男、俺と同様に倫理観が終わってるな……

 

 ゼロから生命を生み出すよりも、既にある遺伝子を利用した方が手っ取り早いのは理解できる。クローンなら俺も耳にした覚えがあった。羊やら牛やらのクローンを作った、という研究は前世でもあったはず。

 

 人間の遺伝子の利用か。

 なんだ、これを見せたくないからアカネはここから遠ざけようとしていたわけだ。マッドを気取っておきながら、全然マトモじゃねえか。

 一方、島原は上機嫌に語りを続けていた。

 

「しかし、単に元の人間と同じ命を生み出すだけではそこまで価値は高くない。そこで私は、兵器として活用できるよう……VSに負けない限りは物理攻撃を受け付けない、そんなクローンを生み出そうと日々心血を注いでいるのだ」

 

 ええ……?

 アカネの方を盗み見ると、彼女は頭を振った。お手上げ、と言わんばかりの様子だ。

 

 ひとまず、アカネの好感度稼ぎのため、内心とは異なり眉根を寄せて若干の嫌悪感を露わにしておく。

 島原はムッと顔を顰めた。

 

「やれやれ。君も私の研究の素晴らしさが分からないか。まあいい、天才というのは周囲に理解されないものだ」

「……同じ組織に所属する者として、協力できることはあるかと思います。機会があればまたお会いしましょう」

「ふん。君に何かを頼むことなどないと思うがね」

 

 そう言って、不機嫌そうに島原は俺たちに区画から出ていくように宣告する。逆らうこともないので、俺とアカネはとっとと区画から退出した。 

 

 人工的な生命の創造、それもVSで負けない限り攻撃を受けない人間だと?

 そんなもん、実現できるのか?

 

「君があの研究を気に入らないようで何よりだよ」

 

 アカネはほっとしたようにそう話しかけてくる。

 

「いや、分かるとも。ワタシも同意見さ。人間兵器の創造……使い捨ての命だ。気分は良くない」

「意外と常識人なんだな」

「ワタシを何だと思っていたんだ」

 

 俺としては、倫理的な問題は置いておけば、利用価値があるという島原の意見に同意する。

 だが、それはクローンがこちらに従順ならの話だ。

 

 一時的に無理やり押さえつける方法なんざいくらでもある。しかし、そうしたところでクローン技術が向上してクローン共の人間性が高まっていくほど、反抗心も比例して強まっていくのは想像に難くない。

 島原の「こんなはずでは……」なんてセリフが聞こえてきそうだ。

 

「潰すか」

「おや。倫理から外れた研究を潰すとは、まるで正義の味方だね」

「悪の組織に入ったヤツに何言ってんだ」

「ふふふ! 悪には悪の美学がある、ってところかな?」

 

 そんな良いもんじゃない。

 

 この研究は俺にとっては有害極まる。

 俺に悪の美学なんてもんはない。正義の心なんてものももちろんない。

 

 俺にとって有益か不利益か。それが全てだ。






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