カジノで働き、裏ではDSの仕事に向けて準備を進め、さらに情報収集を続けていたある時。
アヤメから連絡が入る。
「どうした」
『ハクトさん。ハルがインタビューで私たちのことを口走っているようですが……これは企図したものなのですか?』
ハルのインタビュー? 一体何のことだ。
「俺の仕込みじゃねえが、問題ない。報告ご苦労」
とりあえず平気なツラをしておきながら、俺はすぐに電話を切り、ニュース等を確認する。ハルのインタビューはVS記事のトップニュースとなっており、すぐに見つかった。
『神童・ハル敗れる!? 本人の口から語られた謎のVSプレイヤーとは!?』
『本日正午、迫るVSチャンピオンシップに向け前大会優勝者である結束ハル選手(15)に対し、記者を交えたインタビューが行われた。今大会に向けた意気込み、VS学園に入学してからの変化など様々な質問がされる中、際立って目立ったのは、ライバル視しているプレイヤーについて問われた際の一言だ。
「実はボク、VS学園に入る前にVSで負けちゃったんです。その人のことは凄く意識してますね。大会に参加するかは分かりませんけど……」
前大会決勝戦、嵐山プロとの激闘は記憶に新しい。その勝負を制した結束選手を下すほどのプレイヤーがまだ在野にいたのか、と報道陣もざわめいた。
その選手について質問したものの、ざわめきの大きさから事の重大さに気付いたようで、その正体について結束選手は誤魔化した。結束選手の言及した選手が参加するのかどうか、今年のVSチャンピオンシップも目が離せないようだ』
あのクソガキがぁ……
インタビューでペラペラ俺(とアヤメ)のことをくっちゃべりやがったな。
前々から俺の大会参加を促していたし、まさかとは思うが俺を引き摺り出すために敢えてインタビューで俺たちの存在を仄めかした、って可能性もある。やってくれやがるな。
だが、ハルがこんな遠回りな策を取ってくるとも思えない。
……スイレンの仕業か?
いや、アイツなら俺に直接金で依頼するか?
ハルが思い付いたよりは可能性はあるが……本人に聞いたところで、しらばっくれるのは目に見えている。
それからすぐに、ハル、そしてスイレンの目論見通り。
「伊波ハクト様ですね?」
黒服にサングラス。まあ怪しげな雰囲気の男が、俺の自宅に訪ねてくる。
「あなたは?」
「失礼。私こういう者です」
渡された名刺を受け取る。VS連盟の下っ端で、大会運営スタッフらしい。名前は、吉岡か。
一応、VS連盟の公式サイトにアクセスし、問い合わせ係に電話。吉岡という人物が実際に所属しているかどうか、確認する。
「用心深いですね」
その様子を見た吉岡氏は、苦笑していた。
言うほど用心深いか?
「VS連盟の方が俺に何の用ですか?」
「結束選手のニュースはご存知でしょう。あれがあなたのことである、と調べが付きまして」
「ほう。それで?」
「あなたにはぜひ、次回のVSチャンピオンシップにご参加いただきたい」
やはり、そういう話になるか。
「私が、ですか。確かに、結束選手に一度勝ったのは事実です。が、あれはたまたま運が良かっただけのこと。私などが参加しては、大会のレベルを下げるのでは?」
「お言葉ですが、一般の方はともかく、我々VS連盟の目は誤魔化せません。結束選手の実力は本物だ。何の素養もない人物がたまたま勝てるような選手ではありませんよ。それに、あなたはVS学園で臨時講師の経験もお有りだとか」
「そこまで調査済みでしたか」
「それで? お受けいただけるのでしょうか?」
俺は
人にモノを頼む時はよぉ……出すモンがあんだろ?
「しかし、私も仕事がありまして……」
「そこをなんとか。結束選手を破ったプレイヤー。それが大会に参加しないとなれば、大会の盛り上がりに関わります。どうか、お願いします」
断ろうとする雰囲気を察して、吉岡は慌てて俺の参加を促してくる。しかし、タダで出てやるつもりはない。搾れるだけ搾り取ってやる。
「大会優勝者には賞金やレアカードが与えられる、とのことですが、その自信もありませんし……」
ここで、金目当てである俺の性分を覗かせる。吉岡はそれを見逃さなかった。
「もちろん、報酬はご用意します」
「報酬、ですか」
「直接の金銭やレアカードの供与は、八百長を疑われるためできませんが……大会参加に必要な諸経費は全てこちらで持ちます」
ざけんな、そんだけじゃマイナスをゼロに戻しただけだろうが!
と考えたが、それは吉岡も理解しているのか、手をあげて俺を制止する。
「さらに、南の島への旅行をプレゼントします」
「ああ、そういえば。今年は南の島が会場だとか」
「ええ。今年の大会は前大会優勝者、結束選手が中学生だったということもあり、例年よりも注目を集めています。そこでVS連盟は例年とは異なる、特別な会場を用意しました」
「特別な会場、ですか」
「ええ。リゾート地、スナク島です」
スナク島。
前の世界でいうハワイやサイパン島のような位置付けのリゾート地。
俺は行ったことがないが。
「なるほど、南の島への旅行ですか。ただ、旅行するなら別に自分で宿も飛行機も用意できます」
「も、もちろん経費の範囲で最高の部屋、飛行機の客席を用意させていただきます」
「せっかくなら、大会一週間前くらいから滞在して観光を楽しみたいところですね。せっかくの報酬です。大会にかまけて島を楽しめない、ってことは避けたい」
時差ボケ対策にもなるしな。それに事前準備もしておきたい。
「わ……分かりました。上にはそのように伝えておきます」
「そういうことなら、参加する意義はありますね」
「では、伊波選手。大会でのご健闘をお祈りしています」
「ありがとうございます。どうぞよろしく」
吉岡は汗を掻きながらも頷き、握手を求めてきた。断られたら面倒だものな。
これで一先ずは
◆
——1週間前、DS地下研究所にて。
「ハクトくん。ニホン支部長とのアポ取り付けられたよ」
「マジ?」
研究室の隣の自販機前で、アカネに告げられた内容に、思わず聞き返す。それと同時に、ガコン、とコーヒーの缶が排出された。
島原のクローン研究を潰す上で策を色々と練ってはいたが、一番の正攻法が通るとはな。
即ち、意見の上申だ。
直接、口頭で報告した方が丸め込みやすいと思ってアポイントメントを取ろうとしていたが、無理なら報告書なりアカネからの申請で上げようと思っていた。
が、まさか秘密結社に入って一ヶ月も経っていない俺と直接会うだと?
危機管理意識が随分薄いんじゃないのか、悪の組織の大幹部さんよ。
「2日後の15時24分から、16分間なら時間が取れるそうだ。しかし、対面でなく電話ならもっと楽に取り付けられたんだがね」
「電話で上司に頼み事をするのはちょっとな。俺はお偉いさんへの頼み事は極力、直接会ってするようにしてんだ」
「ほう。礼儀正しくて何よりだ」
確かに表面上はそう受け取られるようにしている面もあるが、別に礼儀を重んじている訳じゃない。単純にその方が交渉の成功率が高いからだ。
情報が他人に与える影響の大きさは、言語・聴覚・視覚で異なり、それぞれ7%、38%、55%と言われている。話してる内容自体ももちろん重要だが、身振り手振りや声の調子で相手が好意的に受け取るかどうかは大きく変わる。
もちろん、話す内容だけで交渉を成立させる自信はあるが、相手の視覚に訴えるだけで成功率が上がるなら行わない手はない。
電話では音声情報までになってしまうし、スマホ、あるいはPCの画面越しの話では視覚情報のインパクトは薄れる。相手の反応も小さい画面越しでは見辛いしな。
交渉の成功率が高いなら別に電話だろうがメールだろうが良いんだが、顔も知らない上司相手にそれはない。
「2日後15:24から16分だな、了解した」
「君のことだ、もう交渉成立までのルートは考えているんだろう? ワタシが付き添う必要はなさそうだね」
いても邪魔なだけだし、元々付き合わせるつもりもなかったがな。
「ニホン支部長ってどんなヤツ?」
「そうだねぇ……気さくな人だよ」
「秘密結社の幹部なのに……?」
「ああ。普通の人さ。だからこそ、変人と言っていい」
確かに、秘密結社の幹部が普通のヤツだったら、逆に変なヤツと言えるかもしれない。
「後、ぼちぼち仕事を振られると思うから心構えをしておくといい」
「仕事か。お前の助手とは別でって事だな」
「ああ。まあ、簡単な仕事だろうから、そう気負わずにね」
簡単な仕事ねぇ。
◆
2日後の15:24分きっかりに、俺はアジトの支部長室のドアを叩いた。こんな細かい時間指定をしている以上、早めに入ることはできそうもないからな。
普段はもぬけの殻になっていることが多い支部長室から、入っていい、と落ち着いた声が届く。
扉を開けて、驚いた。
「伊波ハクトだな」
支部長は、まだ30代半ば程度の男だった。アカネの言う通り、どこにでもいるサラリーマンのような風貌。安物のスーツに、ピシッと七三で分けられた黒髪、黒縁の眼鏡。その奥の瞳は細められている。
秘密結社とやらの組織図に詳しいわけじゃないが、ニホン支部長という立場にしては随分と若いな。いや、俺より一回り以上歳上ではあるが。
「はい。この度はお時間をいただき、ありがとうございます」
「ああ。それで、私に話があるそうだな」
挨拶は良いから早く要件を伝えろ、と。無駄がないのは良いことだ。
「島原氏のクローン研究ですが、あれは危険です。研究の取り止めをご命じください」
「ふむ」
支部長は顎に手を当てて考え始める。思索の邪魔になれば反感を買うだろうことを予感し、向こうから促されるまでは口を閉じる。
「確かに、クローン研究の問題点を挙げたらキリがない。クローンとて意思を持った人間。待遇や実験過程に問題があれば叛逆される可能性は大いにある。しかし、それは問題が起こらないだけの条件付けができていないからでしかない」
俺の説明不足が原因だが、支部長は危険の意味を取り違えている。
それに気付かないまま、彼は自らの持論を展開する。
「たとえば、一定期間薬物を投与しなければ身体に異常を来たす、あるいは体の中に特定条件で融解する致死毒のカプセルを仕込む、といった類のセーフティ。実験動物への扱いとしては妥当だが、意思を持つ人間を相手にこのような命を人質に取るような真似をすれば、叛意を抱かれるだろうことは想像に難くない」
「おっしゃる通りかと」
「セキュリティの関係から、研究室に閉じ込めようとするのも悪手だ。外の知識を与えていない兵隊など使い物にならない。が、それを与えれば外への憧れ、欲求は高まるだろう」
「同意見です」
「だからこそ、クローン研究の実験体は叛逆の意思を持ちやすく、『VSに負けない限り物理的な攻撃を受け付けない』という力を持たせるのは危険……そう言いたいのだな?」
「いえ。違います」
ピタ、と支部長の動きが止まった。
自慢げに舌を回していた彼は肩を落とす。
「ええ……違うの……?」
「はい」
「早く言ってよ、めっちゃ喋っちゃったじゃん……」
「すみません。感心するお話でしたので、止め時を見失ってしまいまして」
羞恥からか、急激にフランクな口調になった支部長は、堅苦しいのは止めだ、と言わんばかりにネクタイを緩め、椅子に深々と座り直した。
時間に厳しそうだったのに、随分と時間を無駄にしたものだな。いや、アカネは気さくな人だと言っていたし、俺の考えすぎだったのかもしれない。
「危険ってのがオレの言った通りのことなら、別にクローンの待遇を良くしておけば実験を止める必要ないと思ったんだが……違うんだな?」
「ええ。現在島原は死んだ娘の遺伝子情報を元にクローンを製造しようとしています。年端も行かないガキのクローンが力を持とうが、どうとでもなりますよ」
「なら、別に研究させといて良いんじゃないか?」
「俺が言ってるのは力の方でなく、クローン技術そのものです」
ようやく本題に入れる。
支部長は背もたれに体重をかけながら、俺の言葉に耳を傾けている。
「人間を製造する。この技術自体が危険なのです」
「確かに、クローン技術自体も……いや、口出しはもうやめておくか……」
癖で自分の考えをひけらかしたかったんだろうが、さすがに先ほどと同じ轍は踏まないか。
「支部長はスイーパーという組織をご存知ですか?」
「ああ、昨年巷を騒がせたアレか。確か構成員の一人を残して壊滅したはずではなかったかな」
「その一人が実質黒幕のような存在だったようでして。彼らの目的は『魔神復活による悪人の皆殺し』だったらしいんですが、復活のためには
「……なるほど。クローンによって人間を簡単に作り出せるようになれば、生贄など容易く用意できてしまう。それが問題だと」
俺は頷く。
物理攻撃が効かないだとか、そんなのは些細な問題だ。VSで勝ちゃいいし、そうでなくても、先ほど支部長が挙げたように、ちょいと工夫してやれば製造する側としては
問題は、支部長の言葉通り。クローンに魂とやらがあるのかは知らんが、万が一生贄をクローンで賄えてしまったら、クローン技術がスイーパーの生き残りに渡った時点でアウトだということだ。
スイーパーの生き残り、その計画が進んでいないのは分かっている。
生贄に必要なのは、精霊が見える人間5人と、それ以外に1000人もの人間。それを実行しようとなれば、相当な規模の行方不明者が出る。ナユタを倒したことで、スイーパーがかつて捕獲していた人間たちは皆解放されてしまったからな。一から集め直しだ。
だが、そんな数の人間が行方不明になれば、ニュースにならないはずがない。
行方不明者の情報については、常にアンテナを張っている。いつでもスイーパーの生き残りを潰せるように。
しかし、人間のクローン技術なんて思いっきり倫理から外れたものが研究されているのは想定外だった。さすがにまだ実用段階ではないはずだが。
仮にクローンで生贄が賄えるとなれば、人数の問題もそうだが、隠匿性の問題も完全にクリアされる。なにせ、クローンに社会との関わりなどない。カードにされて生贄にされようが殺されようが、それが研究施設内で行われている限り誰も気付きようがないのだ。
そして、もし
魔神復活、悪人全滅、俺もお陀仏ってワケだ。
そうでなくとも、DSは精霊にまつわる研究も行われている。何かの間違いで畑違いの研究者たちが意気投合し、
『クローンが精霊見えるようにできないか実験してみません?』
『いいね!』
とか言い出して、精霊の見えるクローンを作り出す可能性だってある。
あの島原に限ってはそんなことはなさそうだが、ゼロではない。
「伊波。君は確か、スイーパー壊滅に関わっていたそうじゃないか。そのこともそこで知ったわけだ」
「あまり大っぴらにはしていなかったはずですが、よくご存知ですね」
「ウチの情報網を舐めてもらっちゃ困る。そのくらいは調査済みだとも。いいだろう。ある程度は信用しようじゃないか」
「つまり……」
「クローン研究は、スイーパーの残党を狩り尽くすまで凍結する。島原氏は研究所に勾留。残党狩りには、うちのVS部隊を出そう」
物分かりが良すぎるな。何か裏があるのか?
まあ、止めてくれるなら特に文句はないが。
島原は哀れだが、行いからしても魔神が復活すれば滅ぼされる対象となるのは俺と同じだろう。救ってもらえてむしろ感謝してほしいくらいだ。
本当なら島原は殺しておくのがベストではあるが、今は組織の方針に従っておく。
殺すにしても、バレないようにやるか、完全に俺に非がないように仕込みを終えてからした方がいいからな。
「しかし、ちょうど良かった」
「ちょうど良かった?」
「クローン研究、正直オレもどうかと思ってたんだ。一応、ウチは秘密結社、あるいは悪の組織だから気にすることもないかと思ったけど……」
俺がスイーパーの事件に関わっていたと知っているとはいえ、やけに素直に信用するものだなとは思ったが……支部長としてはクローン研究に忌避感を覚えていたのか。
アカネもそうだが、変なところで常識的というか、ブレーキをかけるものだな。スイーパーの件さえなければ、手駒を簡単に生み出せるクローン研究が有用であるのは島原の言う通りだと思うが。
倫理から外れているのはそうだが、悪の組織が今更気にすることじゃないだろう。
悪の組織に所属していても最後の一線は越えたくない、という心理か?
まあ、どうでもいいか。
「研究が凍結されるのであれば、私としては次善の結果です。ありがとうございます」
「こちらこそ、情報提供感謝する……って、次善なのか」
「最善は研究成果の完全な破棄(と島原の処分)ですから。クローン技術の痕跡がカケラでも残るようなら、最善とは言い難いですね」
「さすがに君の言葉に確信が持てていない状況で、そこまでの処分は許容出来んね。島原氏の研究自体にはなんの非もない」
「ええ。次善で満足しています。ただ、島原氏には厳重な監視を付けていただければ」
あのマッドのことだ、研究が差し止めとなれば組織を裏切り外部で研究を始める、なんて行動に移ろうとするのは想像に難くない。
それこそスイーパーの親玉など、クローン研究を欲しがる者などいくらでもいるだろう。
……島原を囮にしてスイーパーの親玉を誘き出すのもアリかもな。
脱走しようものなら、処分する大義名分も得られる。
そんなことを考えていると、支部長が苦笑した。
「怖いこと考えてる顔だね」
……表情に出していた? 俺が?
いや、そんなはずはない。
ハッタリか、あるいは俺の思考回路を読んだか、それとも悪の秘密結社の幹部としての経験に照らし合わせたか。どれにせよ、秘密結社で支部長を任されるだけのことはある。
敵対せずDSに着いたのは正解だったかもしれない。
「ああ、情報提供といえば。こちらが、俺が調べた限りのスイーパー黒幕の出現したポイントです」
一応、用意してきたデータカードを渡す。
が、中身は正直ロクな情報がない。キリヒコもアヤメもナユタも、闇の力による認識阻害を受けて黒幕の顔も名前も覚えていない始末だからな。
アヤメが勧誘されたのが比較的直近……VS学園に入学して以降だったため、可能な限りで記憶にある場所の防犯カメラを辿った。が、有用な手掛かりは見つからなかった。
一応、アヤメとキリヒコが記憶している限り出せた黒幕と共にいた時間・場所の記録。そして非合法な方法で得た該当地点の防犯カメラ映像が入っている。が、黒幕は既にこの街から離れているだろうから、役に立つ情報とは言い難い。
やはり、島原かアヤメを囮にして誘き出すのが最も確率の高い手か。
「うむ、VS部隊に渡しておこう」
支部長はデータカードを仕舞い込む。
用件は済んだし、部屋を出ようとするが、支部長は待ったをかける。
「伊波。全く別件ではあるんだが、君に仕事を頼みたい」
話の流れをぶった斬って、支部長は俺に依頼があると口にする。アカネの言う通りだな。
面倒事の予感がしてならないが、支部長からの直接の指令を断るのはないな。
「仕事、ですか」
「君のVSの腕を見込んでのことだ。近々開催されるVSチャンピオンシップに出場し、三日目の決勝トーナメントまで残ってほしい」
VSチャンピオンシップ。もうそんな時期か。
昨年開催された際にはハルが優勝した、国内でも有数の規模を誇る大会だ。
プロアマ問わず。年齢、性別問わず。レベルの低い選手も紛れ込んだりはするが、逆に思わぬダークホースも出現しやすいという。
昨年のハルはまさにそれだ。あの規模の大会を中学生で優勝するのは並大抵のことじゃない。
何より、昨年の準決勝はプロのVSプレイヤー・嵐山ハヤテを下しての勝利。
はっきり言って、ハルの実力は同年代のガキ共とは大きく乖離している。
ハル並の実力がなければ優勝できない可能性がある。もし優勝しろ、と言われたら無理にでも断っていたところだが……
「分かりました。しかし、決勝トーナメントへの進出……その目的は?」
「目的は決勝そのものではない。その前夜祭だ」
前夜祭……か。
「そこに現れる
詳細はコレに、と逆にデータカードを渡された。
VSギアを通しざっと内容を確認する。
「拝命しました。VSチャンピオンシップで決勝トーナメントに出場し、該当人物に発信機を取り付けます」
「うん、頼んだ。アカネくんのスカウトだ、期待しているぞ。……おっと、ぼちぼち時間だ。悪いな、予定が詰まっていてね」
「いえ。貴重なお時間を割いていただき、ありがとうございました」
やり取りに懐かしさを感じながら、俺は支部長の部屋を後にした。転移する前、変態金持ちの下にいた時もこんな感じだったな。
支部長の方も、すぐに地上に移動してどこぞへと移動を始めたようだ。
表舞台の大会には出ないつもりだったが、仕事なら仕方ねえか。
試合形式にもよるが、イカサマは封印かな。ギャラリーの目を集めた状態じゃ、リスクの方がデカい。
久々の投稿なのに読んで貰えるのありがてすぎ