スイレンと遭遇するなど、トラブルもあったものの、スナク島でのリゾートを楽しむこと5日。俺は夕飯にアヤメとバーガーを食いながら、明日の予選についての確認を行っていた。
明日の朝には大会が開催される。
初日は予選。2日目に32人で本戦、3日目に上位8名で決勝トーナメントが執り行われるという行程だ。前大会優勝者であるハルは2日目からの参戦となる。DSから振られた仕事のためには、2日目の本戦を2勝しなければならない。
そのためにはまず予選を突破する必要がある。予選の試合形式はまだ発表されていないが、まあ大体予想は付く。
キリヒコは3日目を終えた後に合流したあと馬車馬のように働いた。島中をあっちに行ったりこっちに行ったりと、なかなかの稼働率だったが、キリヒコは文句一つ言わない。褒美の効果は覿面だ。
「しかし、ハクトさん。あの準備は意味があったのですか?」
「大アリだ。大会の参加条件ゆるっゆるなんだから、南の島での開催というハードルを差し引いても、予選にはそれなりの人数が集まると思った。そうなってくると予選内容は、その人数をスタジアムにぶち込んでMR映像なしでVSさせるか、もしくは島中でサバイバルだろうな。実際、過去街中でサバイバル形式の予選を行った実績は幾つもある。去年もそうだったし」
前回は、街中が戦場と化したらしい。通行人を退かしてVSが優先されていたとのことだった。はた迷惑な……
その点、今大会は南の島。通行人に迷惑をかける心配もないとなれば、遠慮なく島にVSプレイヤーを散らばらせることができるだろう。
サバイバル形式なら、島中に注目は分散される。かなりの人数のVSとなれば、ジャッジが付く余裕はないかもしれないが、デカい規模の大会だ。大量のギャラリーが俺を監視することになるだろう。
一応、去年の大会ではジャッジは付いていなかったらしいが、衆目に晒されるわけだからな。試合中のイカサマはかなり厳しい。
「しかし、予想が外れたらお金の無駄では?」
「8割方合ってると思うがな。なんなら賭けるか?」
「……いえ、ハクトさんに賭けで勝てる気がしないのでやめておきます」
「そうかよ。ま、外したら外したで、金はまた稼げばいいだけだ」
なんて言いつつ、これに関してはDSに経費として請求するつもりだ。俺の懐は傷まない。
ちなみにアヤメとキリヒコには俺がDSに加入していることは伝えていない。他にも隠し事は多いが、下僕は余計なことは知らなくていいのだ。
「……ん?」
なんてことを話していると、スマホに通知が来る。
『VSチャンピオンシップ 参加者の皆様へ』
大会運営からの通達か。アヤメのスマホも見てみると、同じく通知が来ている。
内容は、明日の予選について。読み進めていくと、やはり予想通りの内容がそこには記されていた。
「……予選は、やっぱサバイバルか。良かったな、賭けてたら俺の勝ちだった」
「幾つかのグループに分けられ、暗幕付きのバスに乗せる。そこから指定のスタート地点へ振り分けられていくようですね。緊急時以外での通信機器の使用も禁止だと」
一応の白星の譲り合い対策って訳だな。まあ抜け穴がありすぎるから、本腰入れた対策って訳じゃなさそうだが。ほんとに軽い対策という感じだ。
これなら、
そう、
試合中のイカサマが使いづらい現状、100%勝てる勝負は出来そうもない。なら、わざわざ正面から選手たちと戦ってやることはない。
八百長と雑魚狩り。楽に、そして高確率で予選突破するならコレだろ。
「合流地点を幾つかピックアップしておくから、スタート地点から最寄りのポイントで、他の参加者を狩りつつ俺を待て」
そこで合流ポイントを巡る俺に白星を譲る。ついでに、他参加者を蹴散らして予選突破を妨害する、という手筈だ。
意図的な敗北、白星のやり取りは普通に大会規約違反だが、今更気にすることもない。
大会運営側としても、わざわざ呼んだ俺が予選落ちした、とあってはせっかく金と手間をかけた意味がないからな。
他にもちょっとしたズルもするし、代わりに精々盛り上げてやるとするか。
◆
翌日、俺はホテルを出てバスの回収地点に向かっていた。割り当てられたのは、グループG。既にかなりの人数がいる。ざっと30人といったところか。
単純に考えたら、仮にGグループが最後だとしても少なくとも200人程度は参加者がいることになる。実際はもっと多いかもな。
そんな中、見知った青年を見かけたので、声をかけてみる。
「よう、ミカド。お前もこのグループだったか」
「……ん? 誰……って、イナ先っスか!?」
茶髪のパーマ、タレ目に泣き黒子が特徴的で、どこかおっとりした雰囲気の青年。
VS学園序列1位。橘ミカドは講師の時の俺からの変貌ぶりに驚いていた。
「どどど、どうしたんすか髪色と肌! めちゃくちゃギャル男じゃん!」
「学園では先生やるのに金髪はちょっとな、って黒くしてたんだ。肌はほら、リゾート地だからよ」
「えっ、いつからスナク島来てたんすか?」
「一週間くらい前かな」
「うわー金持ちかよ! 羨まし!」
「VS学園の講師、まあまあ給与良いからな。でも、お前なら卒業してプロになったらもっと稼げるだろ」
本当は運営に用意させたが、そんなことを伝える必要もない。
「それはそうかもしれないっすけどぉ……俺もリゾート楽しみたかったぁ〜」
どうやら、ミカドは俺と同じく大会運営から参加の打診を受けたらしく、飛行機のチケットとホテルの部屋も運営から与えられているものを使ったらしい。そりゃ、普通は大会に必要な分だけになるよな。
せっかく南の島に来るのに、大会参加だけじゃもったいない。だから俺は吉岡に吹っかけたんだが、ミカドのような良い子ちゃんにはその発想はなかったようだ。
「お前、去年一昨年と大会に参加しなかった癖に今年は出るのな」
「そりゃそうだよ。結束と本気のVSしてーと思ってたんスから! 補習なんて受けてらんねーし、死ぬ気で勉強した!」
いや今までは補習で出られなかったんかい。
「ハルとは学校でやりゃいいじゃん」
「それはそうなんスけどね。ただ、結束ってすげぇ実力者だから……できるだけ双方盛り上がるシチュエーションでやりたかったっつうか。大会でぶつかるなんて燃えるじゃん!」
互いに全力で臨むVS。スポーツマンシップってやつか。まあ、理解はできる。
「結束ともそうですけど、イナ先ともやりてぇな。グループ同じってことは、スタート地点近いでしょ。やりましょうよVS!」
「ばーか、わざわざ黒星付けたがるヤツがどこに居んだよ」
しかし、こいつも出るのか。本戦では当たりたくねえな。こいつと当たったら、イカサマなしじゃ負けそうだ。
ハルとどっちが上なのかは、俺もちょっと気になるところだから、潰しあってくれたらありがたいんだが。
「ドライだなぁ……強いヤツと勝負すんの楽しいじゃーん」
「理解はできるが共感はできねえな。俺は分の悪い賭けは極力したくない。ま、本戦で当たったら逃げらんねぇし、そん時は相手してやるよ」
「っしゃ。勝ち進んでけばいつかはイナ先とも当たるっしょ。お互い頑張りましょ!」
いぇーい、とミカドは拳を突き出してくるので、それに合わせてやる。
心底楽しそうだ。実際、こいつはVSする時はいつも楽しそうにしている。
まあ、楽しいだろう。こいつ基本VSで負けることってないからな。
圧倒的な実力を持っているというのに、性格も良い。明るく、気安く、驕らずに、周囲の生徒に対して話している。
そんな
強すぎて学園の実力者の心をことごとくへし折った、というのはアヤメから聞いた話だ。アヤメ自身も例外じゃない。
「おう。お互いにな」
「参加地点グループGの皆様、お待たせしました! バスに乗り込んでください!」
ミカドと話しているうち、開始時刻が来た。参加者たちがぞろぞろとバスに乗り込んでいく。
俺も同じく乗り込むが、ミカドとはあえて離れる。
「皆様、この度はVSチャンピオンシップにご参加いただきありがとうございます。これよりこのバスはスナク島内を巡り、選手の皆様のスタート位置までご案内いたします! また、昨晩のメールで依頼していた通りにVSギアに大会専用アプリをダウンロードしてあるか、再度ご確認ください!」
大会専用アプリの機能により、大会参加者のGPS情報は大会運営側に把握されている。島内の地図も入っている上、個人を特定はできないものの、他の選手の位置も把握できるようになっているらしい。また、大会の実況も確認できるようになっているとのことだ。
大会に参加する上では必須のアプリ。表の大会ってことで、
「ありがとうございます! 大会ルールの詳細については事前にメールした通りですが、予選突破の条件を改めて簡単に通知いたします」
大会スタッフは片手を挙げ、掌を広げる。
「5人! 島内の大会参加者を5人倒した選手から決勝リーグ参加の資格が与えられます! 先着31名となり、最後の1名が予選を突破した時点で予選終了となります! 負けても直ちに失格にはならないので、ガンガンVSしてくださいね!」
ルールはメールで送られてきた内容と相違ない。5勝か。相手は選んだ方が良さそうだな。
予選から本腰を入れることもない。雑魚狩り雑魚狩り。
バスには暗幕が貼られており外の景色が見えない。移動時間が暇なので、実況席の中継を再生してみる。他の参加者も同じようなことをしているのが見受けられた。
『……ということで、選手たちは現在スタート地点まで移動しております! そこで移動中、予選に出場する注目選手の紹介をさせていただきたいと思います!』
注目選手の紹介か。一応、俺もある程度下調べはしているが、情報に齟齬がないか、あるいは漏れがないかを確認するには丁度いい催しだ。
『まずはなんと言ってもこの人! 前大会で結束選手と優勝を争った実力者! プロVSプレイヤーの嵐山ハヤテ選手だ! 結束選手に敗れてからも数々の大会で好成績を収めています! 凄まじい連続攻撃を今大会でも魅せてくれるのか!』
VSギアに、嵐山の姿が映し出される。プロでもかなりの実力派ということだが、ハルに負けてからしばらくは『中学生に負けたプロ』の烙印を押されていた。が、その後他の大会で八面六臂の大活躍をし、汚名を返上してみせた男。
ハルが高く評価されているのは、この男に勝ったこと、そしてこの男の実力が本物であると証明されたことが大きい。
『続きまして、VS学園からの刺客たち! VS学園では成績上位7名はバーテックス・セブンと呼ばれ学内最強とされていますが、結束選手を含めてそのうち4名もの生徒が参加してくれています! まずは序列7位、黒崎アヤメ選手! 美しい黒髪を靡かせる華麗なる鳥使いだ!』
おっ、アヤメも紹介されている。序列7位に食い込んだとは聞いていた。スイーパーとして俺やハルと対戦した闇のカードは消滅したが、元々ミカドに折られる前は学園でもかなりの実力派だったらしいからな。本人は謙遜するが。
『黒崎選手はなんと、結束選手とのVSで勝利した経験がある、という噂!! その後学内での対戦では結束選手に敗れているようですが、それでも一勝一敗! チャンプと互角!? これはとんでもないダークホースが現れた!!』
よしよし。狙い通り、アヤメに注目が集まっている。これで俺への注目を分散させる目的は果たせた……どころか、俺より先に紹介されたおかげで俺への注目はかなり薄まったと見て良いだろう。
アヤメがハルに勝ったという情報をリークしたのはもちろん俺だ。
ハルはインタビューの時に漏らした『自分に勝利した注目選手』は俺だと運営に説明していたようだからな。アヤメの下に大会運営が来ていないことからも、それは分かっていた。
スイレンの入れ知恵だろうことは想像に難くない。元々、ハルは俺が大会に出るのを熱望していた。相談の結果、インタビューで負けたことを暴露するなんて手を取ったのだろう。
だが、その策には穴がある。アヤメもハルに勝った経験がある、ということだ。闇のカードのカードパワーありきだけど。
当然、アヤメがハルに勝ったことがある、なんて情報が出てきたら運営はハルに確認する。そして、バカ真面目なハルが対戦成績について嘘なんて吐けるはずがないからな。
闇のカードのせいだ、なんて言い訳もせず、アヤメに負けたことを認めたことだろう。俺の大会参加も叶っている状態だし。
一方、俺は元々大会に参加するつもりであったところ、参加要請を受けたので旅費と宿代をぶんどった。
つまりは大会運営(主に吉岡)の一人負けという状況だ。
吉岡が肩を落としている姿を想像しつつ、中継にも気を配る。
この流れで言うなら、次は……
『序列4位の生徒も参戦だ! 強大なパワーを持つメカクリーチャーを操るのは、VS学園学園長の娘さん、藤宮キョウカ選手! 黒崎選手同様、ビジュが良い!!』
キョウカは今頃渋い顔をしてそうだ。学園長の娘という肩書きから、彼女はいつまで経っても逃れられないでいる。
『そしてそして、VS学園最強!! 入学してすぐに序列1位を獲得し、未だその座を譲ることのない無敗の王者! 帝王、橘ミカド選手だ!! 今まで彼がチャンピオンシップに参加したことはありませんでしたが、今年度遂にVS学園最強がベールを脱ぐ! 結束選手は序列2位とのことですが、直接対決は未だ実現していないとのこと。どちらが上か。VS学園頂上決戦に注目が高まるところです!』
やはり、他2人と比べるとミカドへの注目度は段違いらしい。ま、実力から考えたら妥当も妥当だな。
『……おっと? 生徒に関しては以上ですが、VS学園からは元講師も参加しているようです! 今年度一学期だけ在籍していた幻の講師! 伊波ハクト……なんと彼も、黒崎選手と同様に結束選手との対戦成績が一勝一敗だそうです! 彼女に続き、思わぬ隠れた実力者が出てきた!!』
鬱陶しい紹介とともに、俺の姿が映し出される。
が、VS学園の時の映像を流用しているようで、その見た目は黒髪に眼鏡、スーツ姿と、我ながら見慣れない真面目そうな姿。
隣に座っている参加者を盗み見るが、同じように映像を見ているはずのところ、隣に座る俺には気付いていないらしい。
その後も注目選手の紹介が続いていくので、一応確認して頭に入れておく。事前調査で情報を入れていなかった選手は特に。
なんてことをしている内に。
「では、次に伊波ハクト選手」
呼ばれて立ち上がると、周囲からの騒めきが大きくなる。さっきの映像と今の俺じゃ髪色から肌の色まで全然違うからな。大会スタッフも驚いている様子だ。
「で、ではこの地点で開始まで待機していてください。こちらミネラルウォーターです」
水を受け取り、バスから降りる。俺のスタート地点は……バス停だった。
周囲には木々が生い茂り、目に見える範囲には民家らしきものもある。遠目には海も見えるな。
ここから相手選手を探す訳か。遠くを探すならバスで。近くを探すなら徒歩で、ってことか?
クソ不便だな。こりゃ仕込みをしておいて大正解だ。
しばらく実況を見ながら待機していると、遂に。
『大会をご覧の皆様、そして選手の皆様! 大変長らくお待たせいたしました……! VSチャンピオンシップ予選、開始の時刻となりました! では皆様、ご一緒に! VS、スタート!!』
そんな合図とともに、VSギアに予選開始、と表記がされる。
バス停で日差しは防げるとはいえ、よくもクソ暑い中に長いこと放置してくれやがったな。水一本じゃ足りねーっつーの。