イカサマが闇のカードゲーマーに通用した   作:レイトントン

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八百長試合には演技力が要る

「ふう」

 

 ハクトさんに幾つか指示された合流ポイント。私はスタート地点から最寄りのそこに留まり、ハクトさんを待っている。ハクトさんは私の体調も考慮してか、パラソルや自販機が近くにあるビーチを合流地点の一つとしていた。

 

 そして、今。2人目の対戦相手を倒したところだ。

 

 1箇所に留まっているだけあり、私の情報は観客中ですぐに出回ったらしく、周囲にはギャラリーが集まってきている。多分、遠目に見ても何かが行われているのはよく分かるだろう。結果、選手も引き寄せてしまっている。

 

 事前の選手紹介で、私はハルと一勝一敗だと紹介された。そのためか、選手と思しき人たちもギャラリーに紛れており、挑んでくる気配がない人もいる。

 代わりに、挑んでくるのはかなり実力のある人ばかりだった。2戦とも勝ったものの、薄氷を踏むような、ギリギリの勝利。非常に疲れる。

 

「すげぇ……2人とも前大会だと本戦まで行った選手だよな。勝っちまったよ」

「これで序列7位? レベル高ぇなVS学園」

「7位って言っても、ハルちゃんに勝ったんでしょ?」

「一勝一敗でしょ。それに、ハルは今序列2位らしいよ。ハルの方が上だよ多分」

「ん? でも、それなら序列1位の橘の方が強いの?」

「直接対決はこれから、って言ってただろ」

 

 ギャラリーからそんな会話が聞こえてくる。

 好き勝手言ってくれるな。でも、実際私がハルに勝ったのは実力じゃなく闇のカードのおかげだし、反論はできない。する気もない。

 

 まだ予選を突破した選手がいるとは通知がないし、このペースなら私も本戦に進めるかもしれない。

 ハクトさんに白星を譲るなら、本戦の方が価値が高い。可能なら私も本戦に出場しておきたいところ。

 

 そんなことを考えていると、ブォオオオオーン、とエンジン音が遠くより響いてくる。

 

 私とそれを囲むギャラリーから少し離れたところに、バイクが止まった。ヘルメットをしたその人は、バイクから降りるとこちらに歩いてくる。

 

「なんだ?」

「ヘルメット? 選手か?」

 

 彼……ハクトさんは私の前で立ち止まると、ヘルメットを外した。

 

 スナク島内はニホン国内と違い、ヘルメットの着用は義務付けられていない。代わりに、サングラスやゴーグルの着用が必要だ。

 なのにわざわざヘルメットをするのは、ハクトさんのこだわりのようだ。転倒時のリスクを考えて着けている、と考えるとハクトさんらしい気もする。

 

「盛り上がってると思ったら、お前かアヤメ」

「伊波先生。バイクで島内の移動を?」

「まあな。一々タラタラ歩くなんざ面倒だろ」

 

 ハクトさんは予選がサバイバルになるのをあらかじめ予測していた。だからこそ、観光を楽しむと同時に、私とキリヒコさん、そしてハクトさん自身で島内の地形を確認すると同時、様々なポイントに便利な道具を隠した。

 食料や水もそうだし、バイクもその一つだ。事前にレンタルし、島内の至る所に隠してある。スタート地点から最寄りのバイクを回収したのだろう。

 

 十数台ものバイクのレンタル。全部で一体幾らになるのか……ハクトさんはお金を稼ぐのも好きだが、お金を使うのも好きだと言う。しかし、お金遣いが荒くてちょっと成金っぽい。

 

「伊波……!? 伊波ハクトか!?」

「VS学園の講師! 二人とも結束選手に勝ったことのあるVSプレイヤーか!」

「面白くなってきた!」

 

 ギャラリーたちはそんなことを言っている。が、今から始まるのは出来レース。勝敗はすでに決まっている。

 それは少し、申し訳ない。

 出来レースだけど、それなら出来レースなりに、盛り上がるVSをしなければ。

 

「…………」

「ハクトさん?」

「随分注目を集めているんだな。ギャラリーの中には何人か、チャンピオンシップの参加選手もいるようだ」

 

 ハクトさんの視線を追ってみると、確かにこちらを観察する様子の人が何人か目に入った。

 

「ええ。恐らく、事前の選手紹介の影響かと」

「そうか。そうだな。目立ってる中だとやりにくいが……まあ良いだろ。お前に対戦を申し込む」

「承諾します。……VS、スタートです」

 

 私がVSスタートを宣言すると、ブゥン、とハクトさんのバイクから何かが飛んでくる。

 あれは……ドローン?

 大会用の撮影ドローンとはまた違うみたいだけど。

 運営側で実況するために、VSの様子を撮影するドローンは既に、前の私のVSの時からこの場に滞空している。

 

「八代ギアの最新型VS用ドローンだ」

 

 そういえば、スイレンの父親からプレゼントされた、と言っていた。とうに売ったものだと思っていたけど、ハクトさんはまだ持っていたのか。

 

「なんだありゃ!」

「あの上にカードを乗せるのか」

「すげーな、さすが八代ギア」

 

 観客へのアピールも十分。ハクトさんも、なんだかんだ盛り上げ上手なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 ハクトさんのオーダーはシンプルなものだった。

 

『テキトーなとこで負けろ』

 

 山札からカードをランダムに引く以上、私もハクトさんも、筋書き通りとはいかない。

 故にアバウトな指示になるのは分かる。だから私は、中盤までは普通にVSを進めていた。

 

 一方、ハクトさんは。

 

「俺のターン。俺は魔力4で見習い天使リアムを召喚する。そして、魔力1で『天命の契約』を発動。手札を1枚捨て、ダイスを振る。1なら一枚、2〜6なら出た目の半分、端数を切り捨てた数値分カードを引く」

 

 まだ小さく、緊張しつつも張り切った様子の天使、リアムが姿を現す。

 

 そして、天命の契約。ダイスの出た目でドロー枚数が変わるドローソース……

 1〜3なら1枚、4、5なら2枚、6なら3枚カードが引ける。6なら手札を捨てた分を含めても手札が1枚増える。4、5なら手札の入れ替えとなる。しかし、1〜3なら手札が1枚減る、ということか。

 

「手札を1枚捨てる。さあ、ダイスを振るぜ」

 

 ハクトさんはダイスを取り出し、自分のフィールド……ピタリと静止しているドローンの上に振った。

 ダイスの出た目は……1。

 珍しい。ハクトさんは強運だが、今回のダイスの目は悪い。

 

「ちっ。俺はカードを1枚ドローする。だが手札を捨てたことにより、リアムの効果が発動。場のクリーチャー全ての攻撃力と体力を1点加算する。場の分裂するスライム、スライムトークン、リアムに攻撃力と体力を加算する」

 

 まだ見習いの天使は、精一杯の力で自分のフィールドに祝福を齎した。スライムたちの力が上がる。

 

「スライムたちでお前の場の『風見鶏ハムド』を攻撃。分裂するスライムはその効果で、スライムトークンを場に残す。俺はこれでターンを終了する」

「私のターン!」

 

 カードを引く。

 ハクトさんの指示はアドリブ要素の大きいものではあったが、もちろんやりようはある。

 

 ハクトさんの切り札は、場のクリーチャーを魔法で破壊した分だけ必要魔力を下げるイザキエル。なら、スライムトークンは残しておいた方がいい。

 幸い、スライムトークンのステータスは低い。私が無視しても不自然さはない。

 

「私は魔力6で『黒鳥ザーブルグ』を場に出します。ザーブルグはターンに2度、私の墓場の魔力2以下のクリーチャー1体を場に復活させます。甦れッ、『水鳥ミューズ』、『炎鳥ブレアード』!」

 

 私の場に鳥クリーチャー3体が姿を現す。

 

「ミューズの効果! 場にいるこのクリーチャーを墓場に送ることで、クリーチャー1体に突撃を付与します。効果を適用、ザーブルグは突撃を得る!」

「これでザーブルグはこのターン、クリーチャーに攻撃できるって訳か」

「ザーブルグでリアムに攻撃!」

「だが、ザーブルグのステータスは2/2。4/4となったリアムで返り討ちだ!」

 

 ザーブルグの効果を当然知っているハクトさんは、普段は口にしなさそうなセリフを挟む。演技なんだけど、なんだかシュールで口の端が上がりそうになる。堪えろ、私。

 黒い翼を持った鳥が、リアムに突進。しかしハクトさんの言う通りにはならず、天使は破壊される。

 

「ザーブルグの効果は、このクリーチャーが攻撃する時、ダメージを与えあう前に破壊するというもの。よってザーブルグはダメージを受けない」

「なら、俺は魔力2で高速魔法『身代わりの聖水』を発動。クリーチャーが相手によって破壊された時、その必要魔力分の枚数山札を捲り、必要魔力以下のコストのカード1枚を手札に加え、それ以外は山札に戻しシャッフルする」

 

 身代わりの聖水……高速魔法にして、強力なサーチカードだ。

 ハクトさんのデッキは、お金に物を言わせて超レアカードがこれでもかと搭載されている。強力な効果を持つカードが多いんだけど、このカードも例に漏れない。

 

 山札を4枚捲り、コスト4以下のカードを手札に。ハクトさんが捲ったカードは、『突然の崩落』、『ナインナイブス』、『ジャックポット・スロット・パラダイス』、『巨大ボススライム出現!』の4枚。

 

「俺は魔力4の補助魔法『巨大ボススライム出現!』を選択。手札に加える」

「しかし、炎鳥ブレアードの効果も発動します。相手クリーチャーが破壊された時、2点のダメージを相手プレイヤーに与える!」

「ちっ」

 

 火の粉を含んだ羽ばたきによる烈風が、ハクトさんに襲いかかる。その生命力を2点削り取った。

 

「互角の戦いだな」

「しかし、伊波の場には弱小トークンが1体。黒崎が有利だろう」

 

 ギャラリーたちの戦況評価を聞きつつ、私が有利に立っているように見えていることに安堵する。

 引いてさえいればだが、2/2であるブレアードとザーブルグはハクトさんのデッキに入っている攻撃魔法『ナインナイブス』で全体破壊できるラインだ。

 

 ……懐かしい。あのカードで、闇のカードである『緑鳥ビルム』を全滅させられたんだった。

 もう、一年近く前の話か。

 

「やるな……俺のターンだ。俺は『無謀な挑戦』を使用。カードを2枚ドローし、相手の場に『無垢の魔人』2体を場に出す。そして、魔力4で補助魔法『巨大ボススライム出現!』を使用。お前の場のクリーチャーを全て破壊し、お前の場にボススライム・トークンを召喚する」

「なっ……相手の場のクリーチャーを犠牲に召喚するトークン!?」

 

 私の場に、巨大な緑色の粘液体が出現する。

 こんなカードがハクトさんのデッキに入っていたなんて……

 ハクトさんは私のデッキ内容を全て把握しているが、逆はそうではない。当然だ。私はハクトさんの下僕なのだから。

 

「ボススライムは、破壊したお前のクリーチャーの攻撃力、体力を合計した数値になる。よってお前の場のスライムのステータスは12/14となる。そして互いのターン終了毎に、ステータスを半分にし2体に分裂する」

 

 強力なクリーチャーではあるが、弱点も多い。何より、私のクリーチャーが破壊されてしまった。

 魔法による破壊。つまり。

 

「俺は背徳の天使イザキエルを2体、魔力0で場に出す。イザキエルで直接攻撃!」

「くっ……!」

 

 これで私の生命力は残り8点。

 

「魔力2で補助魔法『遅滞戦闘』を使用。コスト5以上のクリーチャー、イザキエル1体を手札に戻し、2枚ドローする。さらに魔力1で魔法装具『月華の円盾』をイザキエルに装着。自らの効果で破壊されず、『ガーディアン』を得る。ターン終了だ」

 

 私の場のスライムが分裂し、場には6/7のスライム2体が残る。

 

「伊波選手は随分黒崎選手のライフを削ったな」

「ああ。だが、強力なスライムが場に残った。次のターン、大ダメージは必至だろう」

「それを見越してのガーディアン付与の魔法装具か」

 

 ギャラリーも今の攻防をよく観察している。わざわざ南の島に観戦しに来るだけあり、VSへの造詣もそれなりに深い様子だ。あまり露骨すぎるプレイはできそうもない。

 

「私のターン! 私は魔力1で『神鳥との契約』を使用。墓場に眠るクリーチャー3枚を山札に戻し、カードを2枚ドロー……」

「待ちな、俺は魔力1で高速魔法『カウンターロール』を使用。ダイスを振り、出た目が5か6なら魔法の効果を無効にする」

 

 ハクトさんは再びダイスを振る。だが。

 

「……3か。ちっ、ツイてねえな」

 

 ダイスの目は振るわない。まあ、2回連続で外すなんて、ままあることだ。

 

「補助魔法『不死鳥の導き』を使用。墓場のクリーチャー1体の必要魔力を支払い、蘇らせる。私は『黒鳥ザーブルグ』を蘇生します」

 

 墓場より再び、黒い羽を持つ鳥が姿を現す。

 

「ザーブルグの効果発動。『水鳥ミューズ』と『鉄鳥(かなどり)クルトラ』を場に出します。ミューズの効果発動、自身を墓場に送りザーブルグに突撃を付与。ザーブルグでイザキエルを破壊します」

 

 『月華の円盾』は効果対象のクリーチャーの自壊を防ぐカード。他クリーチャーの効果では破壊される。

 

「そして、分裂したボススライムトークン2体で直接攻撃!」

「ぐっ!」

 

 12点のダメージを受けて、ハクトさんも苦悶の表情を見せる。演技派だな……

 クルトラはガーディアン効果を持つ2/2のクリーチャー。これで見た目上はガードを固めたように見せれているはずだ。もう一体墓場に居たし、クルトラ2体を呼び戻すことも出来たのだが……それなりにダメージを与えておいた方が接戦に見えるはず。

 ハクトさんは先ほど、『無謀な挑戦』と『遅滞戦闘』で大量に手札を増やした。かなり攻めたが、ハクトさんなら対処札を引き込んでいるはずだ。

 少なくとも、私の場のクリーチャーを全く破壊できない、なんてことはないはず。

 

「私はこれでターンを終了します。この瞬間、スライムトークンはさらに分裂。3/3となり4体に増えます」

 

 というより、私の生命力も8点。そろそろフィニッシュだろう。

 

「俺のターン。俺は魔力0で補助魔法『絞り出される出力』を使用。自分クリーチャーを任意の数破壊し、その分だけ次に使用する攻撃魔法で与えるダメージを1点加算する。俺はスライムトークン1体を破壊する。そして、攻撃魔法『ナインナイブス』を使用。お前の場のクリーチャーとお前自身に3点のダメージを与える」

 

 これで私の場は全滅。残りの生命力もぴったり5点だ。

 

「イザキエルを場に出し、直接攻撃」

「……私の、負けですね」

 

 ギャラリーから拍手が聞こえてくる。私たちの健闘(に見せかけているだけだが)を讃えてくれている様子だ。

 私の方も、上手くハクトさんに自然に勝ちを譲れてホッとしていた。勝つつもりもなかったが、違和感を持たれないようにするのにはだいぶ気を遣ったからだ。

 

「良いVSだった。俺が学園にいた時より成長したんじゃねえか」

「いえ、まだまだです。伊波先生は相変わらずお強いですね」

 

 アリバイでも作るかのような、作られた会話。互いをリスペクトし合う、理想的なVSのあり方。しかしその内実は、欺瞞に満ちている。

 

「アヤメは今何勝してるんだ?」

「2勝ですね。伊波先生は?」

「これで3勝だな」

 

 あと2勝で予選突破か。バイクを使っているだけあり、私との合流地点を回っているのを差し引いても、ハクトさんが対戦相手を捕捉するスピードは早い。

 このペースなら、恐らくは予選は越えるだろう。

 

「お前が勝った相手はどうだった? 雑魚?」

「いえ、強かったです。ギリギリの勝利でした」

「あー、ならやめとくか。とっとと予選上がりてえし、雑魚狩りしてぇ」

 

 ギャラリーに聴かれないよう小声で、そんなことを呟くハクトさん。本当、VSに対して情熱のない人だ。

 VSが強い人は、普通自分のVSにプライドや情熱を持っているものだけど……何事にも例外はあるもの、ということか。

 

「んじゃ、お前も()()()よ」

「はい、もちろんです」

 

 本戦も楽させろよ、ということらしい。

 主の命令は絶対だ。勝ち上がれるよう、最善を尽くそう。

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