アヤメは、そこそこガッツリ真面目にVSしてきた。その方がギャラリーへの違和感はないから、良い対応だったな。
テキトーに、とか言ったからバレバレなほど手を抜かれたらどうしようかと思ったが、さすがにそんなアホではなかった。
VSギアの位置情報を見るに、ギャラリーにも大会参加者は紛れ込んでいるようだったので「俺に挑むヤツ居るか?」と声をかけたが、応答はナシ。アヤメとの勝負にも芋引いてた連中だ、勝った俺に挑む気になれないのも当然か。
雑魚の相手した方が楽なんだがな。調整しやすいし。
「じゃあ相手探してくるわ」
「はい、本戦で会いましょう」
アヤメとギャラリーに見送られながら、バイクで次なる対戦相手を探しにいく。
もう他の用意したバイクを使うことはないから、キリヒコが順次バイクを回収しレンタル業者に返しに行っている。
しかし、我ながらよくもまあこんなに堂々とグレーな方法を取ったものだ。
幸い、運営から注意は受けていないが、良識ある大人なら年齢不問の大会で車やバイク移動なんて控えるべきだからな。
なにせこの大会は、バイクの免許が取れない年齢の選手だって多く参加している。
そんな中、バイクを使って移動時間・距離で有利を取るのは、年齢不問の意味を揺るがすような、大人ならではのパワープレイと言える。デッキに入れるレアカードに金を掛けるのとは訳が違う。
だが、わざわざ対戦相手を探すのにバス移動なり歩いて移動するなりする気にはなれなかった。バスはバス停でないと降りられないし、徒歩は暑いし、面倒だし。小回りが効く方が索敵には適しているからな。
本来だったら堂々とこんな真似をする俺じゃないが、大会の趣旨と自分の快適さを天秤にかけた結果、後者を選んだ。指摘されたら大人しく歩きに切り替えよう。
「……ん?」
そんなことを考えていると、ミラーに影が映る。後方からバイクで追走してくる輩がいるようだ。
ノーヘルだが、バイザー型のVSギアをしているようだ。いいなアレ。一々止まらず、走りながらでもGPSを確認できる。
「ニイちゃん、アンタも大会参加者だろう!?」
男は俺に追い付くと、風に流されぬようデカい声を発しながらそう声を掛けてきた。
ライダースーツ姿の大男だ。かなりガタイが良い。俺よりも背が高そうだし、腕も太い。
「ああ! VSを申し込むのか!?」
「おうよ! 俺らと同じく風を受けて
俺ら? 他には誰もいないようだが。
というか、驚いたのは俺も同じだ。まさか俺と同様、バイクでの移動を実践しているプレイヤーがいるとはな。一体どうやったのか。俺と同じく、島中にバイクを隠した?
それはさすがにないか? しかし、油断はできない。
「オーケー、勝負を受けよう!」
「良いねェ! じゃあ始めるぜ、VSライド、アク……」
「ちょちょちょ、待った待った!!」
まだバイクから降りてねぇだろうが!! つーかVSライドって何だよ!!
俺は路肩にバイクを停め、降りる。しかし、同じくバイクを停めた男は不満そうだ。
「なんだ? どうしてバイクに乗ったままVSしないんだ?」
するワケねぇだろ!!!
「いや……危ないだろ……?」
「ん? ああ、そうかそうか! 別にバイクに乗ってるからって、『VSライド』をする訳じゃねえよな! 悪いな、つい地元のノリで勘違いしちまったわ」
「VSライド……? なにそれ……」
なんとなくそれが何を指すかは予想が付くが、こんなに予想が外れてほしいと思ったのは久しぶりだ。
「ああ。俺の地元ではバイクに乗ってVSするVSライドが大人気よ! 疾走するクリーチャー、風を感じる中でのVS! 最高の体験だぜ。どうだ、やってみないか!?」
やっぱそういうことかよ……
色々気になることはあるが……文化の違いに一々口を出すのは軋轢を生むだけだ。
やんわりとお断りしよう。
「いや……悪いが遠慮するわ。興味はあるが、わざわざアンタの土俵に乗ってやるほど迂闊じゃない」
「ほう。ニイちゃん、勝負師だな」
VSライドか……やろうと思えばできないことはないだろうが、今の俺にとっては天敵とも言える勝負形式だ。
それを見越して仕掛けてきた……って線は薄いだろうが、バイクに乗っていることといい。この男、警戒しておいた方がいいかもしれない。
「そうかもな。俺は伊波ハクトだ」
「おう。俺は須郷シジマだ」
つーか、注目選手で紹介されてたヤツじゃねえか。くそ、実力者に目を付けられちまった。
そのガタイに似合わぬテクニカルなプレイングが持ち味だとか。だが、バイクに乗ったままVSするヤツだなんて聞いてねえぞ。
「よろしくな、シジマ。早速始めるか」
「ああ。VSライド、アクティベーション……じゃねえ。VS、スタートだ!」
こうしてバイクには乗らず、普通のVSが始まる。
◆
「俺のターンだ! 俺は魔力5でイービル・ソーンを場に出す。さらに、魔力2で補助魔法『成長促進薬レベル5』を使用。必要魔力5のイービル・ソーンを破壊し、山札から必要魔力が5のクリーチャーを呼び出す!」
「俺は成長促進薬に対し、魔力1で高速魔法『カウンターロール』を使用する。ダイスの目が5か6なら、魔法の効果を無効にする」
ダイスを転がす。ダイスの目は5だ。
「よし」
「ちっ! ツイてんなニイちゃん」
「さっきのVSでは全外しでな。ツキがゆり戻ってきたらしい」
「そうかよ、そりゃ俺にとっちゃツイてない話だ。まあいい、俺は場の『ヘル・リリィ』でニイちゃんに直接攻撃だ!」
俺の生命力が3点削られる。場のクリーチャーは放置か……と思いきや。
「リリィの効果発動。このカードが攻撃で相手プレイヤーにダメージを与えた時、その分のダメージを相手クリーチャー1体に与える。俺は『惰天使グテル』を選択」
ユリの花から光線のようなものが発射され、俺の場のやる気のなさそうなグータラ天使を破壊する。なるほどな。
「グテルの効果を発動。このクリーチャーが破壊された時、デッキからカードを1枚引き、その後手札から好きな1枚を山札の下に戻す」
グテルは召喚時に相手クリーチャーのステータスを下げる効果と、破壊時の手札交換効果を持つ。イカサマもしやすい強力な効果となるのだが、今回は普通に使うとするか。
引いたカードは……悪くない。
「山札に1枚戻す」
「入れ替えたか。良いカードを引いたらしいなぁ。俺はこれでターンを終了するぜ」
「俺のターン……」
「この瞬間、イービル・ソーンの効果を発動する。このカードを召喚した次の相手ターン開始時、相手の場のクリーチャー1体の攻撃を封じるのさ。行け、イービル・バインド!」
棘の蔦が俺の場にいる、天翔るユニコーンを絡めとる。これでユニコーンで攻撃はできない。
まあ、取り敢えずドローしておくか。
「ドロー。……俺は魔力3で領域魔法『ジャックポット・スロット・パラダイス』を発動」
「むう……領域魔法……!」
俺たちの周囲の景色が塗り変わ……そんなに変わってねえな。
道路上から見えるビーチに移動した、くらいの感じだ。だが、ヤシの木の生えるビーチのど真ん中、俺とシジマの間には、金色に光り輝くド派手なスロットマシーンが鎮座している。
「このカードは発動時に『COカウンター』を5つ乗せる。そして、発動時と各プレイヤーのターン開始時、ダイスを振って効果を決定する。そら」
俺はダイスを振る。
「出た目は……うーん、5か。5の効果は、もう一度ダイスを振り、出た目の数だけスロットにCOカウンターを乗せる」
もう一度。今度の出目は4だ。
「これでスロットのカウンターは9つ。気を付けな、一回目のロールで4を出したらその瞬間、スロットは破壊される」
「すると、どうなるってんだ?」
「スロットが弾け飛び、溜めていた今までのCOカウンター分のコインを吐き出す。1つにつき1点、このカードを破壊したプレイヤーにダメージだ」
「なんだとっ! なら、今破壊すれば……!」
「COカウンターは9つ。9点のダメージが入る。ちなみに、他の方法で破壊した場合もダメージは受ける」
他にも、出目によってメリット・デメリットをお互いに享受する領域魔法。それがジャックポット・スロット・パラダイスだ。
さて、領域魔法は置いといて……場のイービルソーンはどうすっかな。出してすぐに『成長促進薬レベル5』で墓場に送ろうとしたあたり、墓場に送られて発動する効果を持っていそうだ。
ただ、向こうの好きなタイミングで効果を使われる方が面倒だな。
「俺は魔力3で『連弾の火の雨』を使用。3点のダメージをイービルソーンに与える」
天から降り注ぐ火の雨によって、イービル・ソーンが焼き尽くされる。
「イービル・ソーンが効果で墓場に行った時、効果を発動。場のクリーチャー1体に、イービル・ソーンの元々のステータス分の強化を与える。イービル・ソーンのステータスは2/3。ヘル・リリィはその分の強化を得る」
「そんな効果だったか。ミスったな」
ヘル・リリィは俺に与えたダメージ分、俺のクリーチャーにダメージを与えるクリーチャー。それが強化されたとなると、被害は大きくなる。
「ターン終了だ」
「へへ。ニイちゃん、腕もそうだが、使うカードが強ぇなあ。ほとんどレアカードなんじゃねぇのかい?」
確かに、俺のデッキのカードは大半が金に物を言わせて集めたレアカードだ。ギャンブルカードも多いが。
「それがどうかしたか?」
「いんや。次はこっちのレアカードを見せてやろうと思っただけよ! 俺のターン、ドロー!」
「さ、スロットを回すぜ。ダイスを振りな」
俺の持つダイスを投げ渡してやる。
ここで4を出せば、9点のダメージがシジマに入る。しかし、彼はにやりと笑うと豪快にダイスを振った。
「出た目は……1だ!」
「おっと、ラッキーだな。1の目は追加で1枚ドローだ。カードを引きな」
「おお! こりゃ俺にもツキが回ってきたか。さらにドロー!」
引いたカードを見て、シジマが笑う。良いカードを引いたらしい。
「俺は魔力1で補助魔法『枯葉剤』を使用。手札からクリーチャー1体を墓場に送り、相手クリーチャーに3点ダメージを与える」
ユニコーンに3点のダメージが入る。これで、ヘル・リリィの効果ダメージで倒せるまで体力を減らせた、とシジマは思っているだろう。
ただし、それだけではないらしい。
「さらに! 今捨てた『土根性-ザ・ソウル・ソイル-』は、手札から墓場に送られた時に発動する領域魔法!」
「お前も領域魔法を使うのか」
領域はプレイヤー1人につき1枚までフィールドに維持できる。砂浜が、畑のような土に書き換わる。
「ソウル・ソイルの効果発動。手札を捨てたターン、そのターンのみ使える魔力が1点増える」
魔力増加……これで『枯葉剤』で使用した分の魔力が戻ってくる。実質魔力0で使用したことになる訳だ。
「さらに! 俺は魔力8でこのカードを場に出す。大自然の守り人よ、その巨躯で大地を揺らせ! 出でよ、『枯れ木の巨人・ビブロス=ギブラス』!」
土の中から、巨大な木の巨人が姿を現した。
シジマが何やら呪文のようなものを口走っていたが、この世界のプレイヤーはたまにああしてクリーチャーの召喚呪文? のようなものを口にする。
本人曰く、ふと頭にフレーズが浮かぶらしい。
恐らく、精霊か何かの影響だと考えられるが……アカネに聞きゃ分かるかな。
「ビブロス=ギブラスは攻撃力10。しかも速攻を持つ!」
「何!?」
あの巨体で速攻かよ!
「それだけじゃねえぜ、更なる効果もある。攻撃する際、自分のクリーチャーを任意の数墓場に送れる。そして、相手クリーチャー1体に墓場送りにしたクリーチャーの攻撃力分のダメージを与える」
「ガーディアンを退かせるって訳か……!」
「まずはヘル・リリィでニイちゃんに直接攻撃だ」
「ちっ!」
5点のダメージをもらう。ギリギリだな。
「そして、リリィの効果でユニコーンに5点のダメージだ!」
「ユニコーンの効果発動。ターンに1度、効果によるダメージを無効にすることができる」
「むっ、防いだか。だが、まだだ! リリィを生け贄とし、ビブロスの攻撃。叩き潰せ、BGハンマー!」
巨体の攻撃が俺を襲い、そして衝撃波でユニコーンがくたばった。
すげぇ迫力だ。MR映像と分かっていても避けそうになったぜ。そして、俺の生命力も残り2点。風前の灯ってヤツだ。
「かっかっか! どうよニイちゃん、俺様の切り札は!」
「ド派手なクリーチャーだ。倒しがいがあるってもんだな」
「おっ、強気だねえ。俺はこれでターン終了……」
「おっと。その前に俺は魔力2で高速魔法『痛恨のエナジー・ドロー』を使用する。このカードは自分が相手の攻撃で生命力にダメージを受けた時に発動可能。受けたダメージ数値の半分、カードを引く」
「何ぃ!? ってことは、5枚ドローか! なんつーカードだよ!」
自身の生命力を削り、カードを5枚引く。こんだけありゃ勝ったも同然だ。
「俺のターン、ドロー。そして、ジャックポット・スロット・パラダイスの効果発動。ダイスを振る」
ダイスの目は、2。
「あちゃあ。2は手札を1枚捨てる、デメリット効果だ」
「はっはっは、ドンマイドンマイ! だが、俺の張った領域のお陰で使える魔力は1増えるぞ!」
「おっと、そうだったな。逆にラッキーか?」
そうだ。2は一見デメリットだが、今この状況下においてはそうでもない。
手札が潤沢にある今に至っては、むしろメリットと言える。
俺は手札からカードを1枚捨てる。じゃあな、コスト1のふわくも。
これで使用可能な魔力は10。手札は8枚。
「俺は手札から魔力2で『ドロップスライム』を場に出す。そして、魔力2で攻撃魔法『不当な等価交換』を使用。お互いのプレイヤーは場のクリーチャー1体を選んで破壊する」
「何ィ!? 俺の場にはビブロスしか居ねぇ!」
当然、ビブロスが破壊される。一方、俺のカードはスライムのみだ。
「だが、ビブロスは破壊された時苗木を残す! 次のターン、俺の手札にステータスを半分にしたビブロスが加わるぜ。そいつで攻撃すりゃ、ニイちゃんもお終いよ!」
「そうは行かない」
「何?」
「2体のクリーチャーが破壊されたことにより、手札の『背徳の天使イザキエル』のコストは4点下がる」
「イザキエル!? これまた超レアカードじゃねえか!」
俺の場に純白の天使が姿を現す。自分のことが知られているのを聞いて、どこかドヤ顔をしているようにも見えるが……
「そんなカードまで入れているとはな。やるねぇ」
「一気に行くぞ。イザキエルで直接攻撃」
「だが、まだまだよ!」
実際、シジマの生命力はまだ14点残っている。
「さらに俺は、魔力0で補助魔法『白き再生』を発動。自分のクリーチャー1体を破壊し、その攻撃力分、生命力を回復する」
イザキエルの攻撃力、5点の生命力を回復する。そして、これでもう一体クリーチャーが破壊された。
「俺はさらにもう1体のイザキエルを場に出す」
「むっ!」
「イザキエルで攻撃だ」
これで残り9点。ピッタリだ。
「だが、まだ俺の生命力は——」
「これで尽きる。俺は魔力3で補助魔法『魔力抽出』を発動。自分の場の魔法カード1枚を破壊し、その分の必要魔力を自分の魔力に加える」
「自分の場の魔法カード!? まさか」
「ああ。俺はジャックポット・スロット・パラダイスを選択する」
「なっ!? そんなことしたら、お前……!」
スロットは、破壊したプレイヤーにCOカウンターの数だけダメージを与える。COカウンターの数は9。そして、シジマの生命力も、だ。
「俺は魔力3で補助魔法『リフ・リフレクト・ミラー』を使用。効果ダメージを受ける時、それを無効にして相手プレイヤーに与える」
「なんだとぉッ!?」
スロットが勝手に回り444を揃えた途端、『ジ・エーンド』と露悪的なピエロの声が響き、スロットが爆発。
降り注ぐ大量のコインが、シジマを押し潰した。
◆
「いやぁ、やられた! やるなニイちゃん。スタンドが専門じゃねえとはいえ、俺に勝つなんてよ!」
バシバシとシジマは俺の背中を馴れ馴れしく叩いてくる。普通のVSをスタンドって言うんだ……
「お前お得意のVSライドなら分からなかったかもな」
割とマジで。
「おうよ。次は俺の地元に来いよニイちゃん。外部のヤツがVSライド出来るって知ったら、あいつら驚くぜ」
「出来るなんて一言も言ってねえ」
多分出来るけどよぉ……
危ないしやらねぇだろうな。
しかし、世の中は広いな。バイクに乗ってカードゲームをするヤツらが居るんだから。俺だったら発想すらしなかっただろう。
だが、考えてみればイカサマ対策としてはある意味、有効である部分もある。バイクで走りながらでは、イカサマはかなり難しいからな。
「ニイちゃん、これで4勝目だって? このままストレート勝ちで、予選突破一番乗りなんじゃねえのか?」
あー……あんまり目立ち過ぎるのも良くねえなあ。
予選試合の様子は、スナク島各地に飛んでいるドローンで中継されているようだからな。特に注目選手に紹介されたプレイヤーのVSは優先的に映されているらしい。アヤメとの試合もそうだが、今の試合も流れているに違いない。
念を入れておいて正解だな。
一応、一回くらい負けとくか? あまり勝ちが込みすぎても下手な注目を集める。まだ予選突破者は出ていないし、本戦には30人以上が進めるんだ。
テキトーな強敵に負けといて、雑魚狩りでとっとと1勝して予選抜け。うん、これが良いだろ。