さて、強敵を探すことにしたのだが、心当たりは何人かいる。
俺は自身のスタート地点近くまで戻ってきていた。
俺がハルに一勝一敗しているという情報が出回っている以上、負けるにしても相手は多少は選んだ方がいい。
適任な相手は、やはりアイツだろう。
VSギアで、実況中継を確認する。選手……特に連勝中のプレイヤーや、注目選手として紹介されたプレイヤーたちのVS中の様子が映し出されている。
あれは……ここから道なりに進んだところだな。
事前に島を回って地形を把握していた甲斐あって、映像から大体どの辺りにいるのかが把握できた。バイクを走らせ、その地点に向かう。
道路から少し逸れた、広い空間にそいつはいた。
俺はバイクを降り、ヘルメットを外す。
「イナ先、バイク乗ってんの!?」
「おう。島でレンタルしたヤツな」
「い、良いなー! 俺も乗りてぇー!」
バイクに目を輝かせるミカドは、俺とバイクの周りをちょろちょろと動き回っていた。
「免許取れば?」
「そうっすね、知り合いが乗ってるとこ見ると取りたくなってきた!」
「お前にとっちゃ面白い話もあるぜ。他にもバイクに乗ってる選手がいたんだが、そいつの地元だとバイクに乗ってVSするらしい」
「ははっ、イナ先も冗談とか言うんすね」
冗談じゃねえんだなコレが……
VSバカのこいつでも冗談だと思うような話ではあるが。
「ミカド、お前何勝してる?」
「3勝っすね。先生は?」
「俺は4勝」
「マジすか!? 負けた!」
「いや、俺はバイクで移動時間短縮してっからな。それに、ここで俺に勝ちゃ並ぶぞ。勝てたらだが」
俺はVS用ドローンを起動し、ミカドを挑発する。
一方、挑まれたミカドは……目を輝かせていた。
「マジで! イナ先やる気になった!?」
「4勝の余裕ってヤツだ」
「うわイヤーな大人。でも、VSしてくれるんなら文句はねえっすわ。んじゃ、やりますか! VSスタート!」
こいつ相手ならイカサマなしならうっかり勝つなんてこともないだろう。調整とか必要ない分、普通にプレイすりゃいいだけで気楽だ。
まかり間違って勝っても、まあデメリットはあるが許容範囲だ。
なんて思っていたが全然負けそうだ。
やっぱクソ強ぇなコイツ。
「俺のターン。魔力6で賭博天使ディセルを召喚する。ダイスを2度振り効果を決定するぞ」
俺の場には召天使ルナレル、ドロップスライムの2体が場にいる。ミカドの場にはクリーチャーは4体。
「1回目のダイスで奇数か偶数、どちらの目が出るか当てれば俺のクリーチャーを強化。外せばお前のクリーチャーを強化する。俺は……そうだな、半……奇数だ。今日は奇数の目が多い」
「イナ先ってそういうゲン担ぐタイプだったんすね」
「ダイスなんて所詮六分の一……丁半ならニブイチなんだから、テキトーな理由付けがあった方が選びやすいだろ」
「それこそ直感で良くね?」
その直感ってのも、大抵の場合人間何かしら認識できないレベルの情報を五感で得て無意識に判断しているもんらしいがな。
「ほらよ」
ダイスの目は5。
「成功。俺のクリーチャー強化だな」
「やりますね、さすがの強運っす」
「続けて強化値だ。再びダイスを振る」
次の出目は2。
ディセルがクリーチャーたちに祝福を与えると、ルナレルとドロップスライムの攻撃力、体力が2点強化される。
「ちっ。出目が微妙だな。まあいい、ディセルは突進を持つ。ディセルと強化されたクリーチャーたちでお前の場のクリーチャーに攻撃する」
場に出ていたミカドのメカ恐竜クリーチャーたちを破壊する。一体、『メガバイト・サウルス』だけは残ってしまう。
「『READ:シクティス』の効果発動! 破壊された時、山札からカードを1枚引くぜ。……引いたカードは『フラッシュ・プテラ』! このカードはクリーチャーの効果でドローされ手札に加わった時、場に出すことができる!」
「なんだと……!」
引きが強い。だが、イカサマしてんじゃねえのか、とは思わない。相手の手元はしっかり見ているからな。シロだシロ。素で引いてやがる。
つーかやべぇな。ただでさえメガバイトを残してしまったのに、追加でクリーチャーを呼ばれてしまった。俺の生命力も残り少ないし、次のターンで終わりそうだ。
「ちっ。俺は魔力1で魔法装具『月華の円盾』をディセルに装着し、『ガーディアン』を付与する。これでターン終了だ」
手札には一応、魔法を打ち消す高速魔法カウンターロールがあるが……これとガーディアン1体でミカドの攻撃を防げる気はしない。つーか魔法使う必要もないんじゃなかろうか。
「悪いっすね先生。勝たせてもらいますよ」
「はっ、勝負は最後まで分かんねえから面白ぇんだろ」
カモフラージュのために、心にも思ってもいないことを言ってみる。
よく聞くセリフだが、正直俺は一ミリも共感できない。理解はできる。勝ち負けのスリルを楽しみたいという心理は。
だが俺は可能なら、勝ちの決まった勝負しかしたくない。負ける可能性は可能な限り排除しておきたい。
この世界では金や命のかかったVSさえ存在するんだからな。
「さっすが! 分かってますねイナ先。そうだよ、どっちが勝つか分からない勝負。高め合い! 楽しくって仕方ねえ!」
「全力で来な」
「言われなくても! 俺は手札の『タイラントレックス・イクシオン』の効果を使用。自分の場のこのターン攻撃していないクリーチャーを全て破壊することで、その攻撃力・体力の合計分が自身に加算される! カニバル・タイラント!!」
ミカドが効果名を叫ぶと同時、手札にいるタイラント・イクシオンの顎が彼の場のクリーチャーを全て食い尽くす。
「そして、イクシオンの必要魔力は破壊したクリーチャー1体につき1点下がる。行くぜ先生! 万象よ、喝采せよ、平伏せよ。彼の王道を阻む者無し! 来い、『タイラントレックス・イクシオン』!!」
遠吠えとともに、『暴君』の名を持つ恐竜が姿を現す。
T-REX……いわゆるティラノサウルスと呼ばれる種がモデルとなっているのだろう。
近年、学説では全身に羽毛が生えていただのとの話があるが、俺が前の世界で観た有名映画のようなフォルムに、鋼鉄の体が混ぜ込まれている。その牙と爪は、弱小クリーチャーを容易く切り裂いてしまいそうな鋭い輝きを放っていた。
「イクシオンは速攻を持つ! そしてその攻撃力は……」
「13点……!」
俺の残り生命力は12点。イクシオンの攻撃力が上回ってはいるが、俺の場にはガーディアンとなったディセルがいる。攻撃は一度防げる……が、それはミカドも想定しているだろう。
一応、ここはそれらしいセリフを吐いておくか。
「だが、忘れているぞミカド。俺の場には『月華の円盾』を装着した賭博天使ディセルがいる。ガーディアンと化したクリーチャーは、相手の攻撃を自分に引き寄せ、味方を守ることができる。俺にトドメを刺すことはできない」
「いいや、そうでもないっすよ」
「なに?」
「俺はこのターン墓場に送られた『メガバイト・サウルス』の効果を使用! メガバイトが破壊されたターン、手札のコスト3以下の攻撃魔法1枚を魔力消費無しで使用できる。俺は魔力3の『ダイナソー・スタンプ』を使用! 俺の場のクリーチャー1体を選び、その攻撃力分のダメージを相手クリーチャー1体に与える!」
イクシオンの攻撃力は13点。その分のダメージが、ディセルに与えられるワケだ。イクシオンがディセルにゆっくりと近付き、その片足を上げる。
「俺は高速魔法『カウンターロール』を使用。ダイスを振り、5か6が出れば魔法効果を打ち消す」
「ここで高速魔法……! 面白え、運命に身を委ねるとしますか!」
ミカドの言葉に対し、俺は黙ってダイスを振る。
静音性が高く、まるで音を立てず、そしてブレずに飛行するドローンの上に、ダイスが転がる。
出目は……4。
「外れ、か」
「……惜しかったっすね。カウンターロールは不発、逆にダイナソー・スタンプは有効に作用。ディセルは破壊されます!」
イクシオンに踏み潰され、ディセルはペシャンコになってしまう。コミックスの登場人物のようにペラペラの紙のようになってしまった彼女は、すぐに消滅した。
「俺の勝ちだ! 行けっ、イクシオン!」
巨大なT-REXの牙が俺に迫り、MR映像が俺を貫いた。側から見たらそこそこショッキングな絵面だ。
同時に、俺の生命力も尽きた。
「お前の勝ちだな。くそ、やっぱ厳しいか」
「先生、ありがとな。GG!」
GG……グッドゲーム、良い試合だったというような意味合いらしい。俺は使わないが、ミカド以外にもたまにVSプレイヤーが互いの健闘を讃えて使用しているのを見かける言葉だ。
「これでミカドも4勝だな。試合中に2人予選を突破したみたいだし、俺たちも急いだ方が良さそうだ」
プロVSプレイヤーの嵐山と、知らないプレイヤーだ。注目選手にも紹介されていない。
俺も勝率調整を終えたことだし、テキトーな雑魚を狩ってとっとと予選突破を決めるとするか。
◆
てなわけで、探し当てた雑魚プレイヤーを相手に、調整を挟みつつ快勝する。これで5勝目だ。
『……決まった! 伊波選手が5勝! おっと、続いて藤宮選手もだ! これで6、7人目の予選突破者が確定しました! お二人は現在の地点でお待ちください、大会運営より迎えを寄越します!』
あー、別に良いんだがな、迎えに来なくても。バイクだし。
俺は飛んでいるドローンに手招きし呼び寄せ、呼びかける。
「俺は自力でスタジアムに戻れる。迎えに来なくて構わない」
『なるほど、バイクに乗っていますからね……分かりました、お気を付けてお戻りください!』
他にもバイクを利用しているシジマがいるからか、俺のバイク使用には特にツッコまれなかった。
スタジアムまで戻り、予選突破選手の控室に戻る。俺は6番目とのことだったが、俺の後に突破したキョウカと、俺より先に突破したらしいミカドの姿はない。バスで回収されている途中なのだろう。
デカい控室内、椅子に座っているのは2人の選手。プロVSプレイヤーの嵐山ハヤテ、2番目に突破したらしい無名選手の清水ユタカだ。
二人は知り合いという訳でもないらしく、特に話すでもなく大人しく座っている。他の選手は、ミカドと同様にバスで回収中のようだ。
嵐山については昨年の中継でVSを見たこともあるが、清水については未知数。少し情報収集をしておくか。
「こんにちは。嵐山プロ、清水選手」
俺がそう声を掛けると、二人は驚いたように振り返った。
嵐山の方は、黒髪の長髪ながら、爽やかな顔付きの男だ。30代前半くらいだろうか。プロとして実力もそうだが、見た目での人気も持っていると聞いていたが、そうだろうなという感じだ。
清水の方は、普通の男、という風貌だ。中肉中背の、ほどほどの長さの黒髪。顔立ちも印象に残り辛い、地味な顔。年代は、俺と同じかやや上くらいか。
「君は……伊波選手だな」
嵐山が俺の名を言い当てる。
驚きはない。注目選手で紹介されていたし、その内容が内容だからな。昨年ハルに敗北し汚名を着せられたプロとしては意識せざるを得ない。
予想通りだが、驚いたというポーズはしておく。
「光栄です、嵐山プロに名前を覚えてもらえているなんて」
「結束くんに勝ったというプレイヤーだし、当然だ。俺も今年は彼女に勝つことを目標にしている」
「あの時は、たまたまツイてただけですよ。俺の試合見たでしょう?」
「ああ……ダイス運が良かった、ってことか?」
「その時はダイスというより、引きでしたね」
イカサマだったがな。
「しかし、運だけで勝てるほど結束くんは甘くない。VSチャンピオンシップの予選もな。それは私が一番よく知っている……本戦で当たった時は容赦しないぞ」
「お手柔らかに、とはいかないようですね」
嵐山との挨拶はこんなものでいいだろう。
本命は清水の方だ。
「清水は見たところ、俺と同年代だよな。よろしく」
「……………………」
清水は俺の呼びかけに言葉では答えず、小さく首を縦に振るのみだ。
コミュニケーションが得意でないタイプか。普通に話せる嵐山ともこんな調子だったんだろうな。嵐山も肩を竦めている。
「ああ、悪い。名乗ってなかったな。俺は伊波ハクト、以前はVS学園の臨時講師をしていた」
「ハクトくん、無駄だ。俺も彼に話しかけてみたが、反応はさっぱりだ」
嵐山はそう言うが、言葉を口にしないだけで、首を動かして反応してはいる。
声が出せないのか出したくないのかは知らんが、反応が薄いのは相手が食いつく話題を提供できていないからだ。
「彼とはどんな話を?」
「清水くんのことは聞いたことがなかった。過去どこでVSしていたのか、他に大会に出たことはあるのか……」
んなモン話したくないヤツだっているだろうよ。俺だって昔のことは大っぴらには話したかないわ。仮に話したとしても信じて貰えんだろうが……
このまま嵐山と話しつつ、清水が反応する話題を調べていくとするか。まずはジャブからだ。
「凄いな、清水は嵐山プロに続いて2番目に予選通過か」
あえて間違った事実を述べてみる。
清水は確か、4番目に予選通過した選手だ。実況で言ってた。
間違ってる事実を述べる相手に対して、訂正したがる素振りを見せればそこから話を……
「いや、彼は4番目だったよ。たまたま会場の近くにいたから歩きで戻ってきたようだ」
……まあ、しゃべりたがりのようだったしな。コイツが引っかかる可能性も当然あった。
ちっ。この話題は出来りゃ使いたくなかったんだが……
こいつの興味のある話題。それは分かり切っている。
決め打ちして話を振ろうとした、そんな時。
「伊波先生!」
チッ。
面倒なタイミングで、控え室にキョウカとミカド、他数名が入ってきた。
「橘選手と藤宮選手はVS学園の生徒。そうか、君の教え子か」
「ええ。橘は直接教えたわけではありませんが」
「あ、嵐山プロ!」
俺の隣の嵐山を認めた二人は、丁寧にお辞儀をする。ひとしきり挨拶を交わして、改めてキョウカが俺に向き直った。
「キョウカ。直接会うのは久しぶりだな」
「センセ、すっごい焼けたわね」
「まあよ、南の島だからな」
「ビーチで焼いたんでしょ? いいなぁ、私も遊びたかったわ。水着見てもらいたかったのに」
「馬鹿言ってんじゃねえよ。学生は学生同士で遊んどけ」
「八代さんはビーチで会って遊んだって言ってたわよ? しかも黒崎さんと一緒に居たって」
……そこ繋がりあんのかよ。
八代ソウジロウはVS学園に出資しているから、その関連か?
「あれは事前準備の一環で、その時たまたま会っただけだ。島の地形、環境の把握……予選のサバイバルで早速役に立ったしな」
「え、そんなことしてたんすか? 流石盤外戦術の先生」
「VS心理戦概論な。少しでも有利に勝負を進めるためには、出来る限り準備をしておくのは当然だろ」
「うっ。私も、もっと早めにくるべきだったわ……せっかく先生から色々教えて貰ったのに」
キョウカは肩を落としている。心理戦概論の講義でも、盤外戦術の一環として事前のルール確認、過去の傾向からの予想については教えていたが……今回は活かせなかったようだな。
「藤宮はイナ先の講義取ってたんだっけ。良いよなー、あんなに人気あるって知ってたら俺も取ってたよ。履修登録期間ギリギリにやるもんじゃないな」
「橘くんが盤外戦術までやり始めたら手が付けられないから、知らなくていいですよ」
「そんなぁ……って、イナ先にはタメ語なのになんで俺には敬語なんだよ! 逆でしょ普通!」
ガキ共とくっちゃべっている間も、清水の様子を確認する。だが、大人しく口を噤んでいるだけで、何も喋ろうとしない。
「伊波くんはVS学園の臨時講師をしていた、とさっき言っていたね。それでトップクラスの優等生たちにこの人気とは、凄いじゃないか」
「伊波先生の講義は素晴らしかったです! VSにおける心理戦について、講義を受けるまでは軽視していたのがもったいなかったですよ」
「ほう……心理戦。確かに、俺もそこまで重要視していなかった。伊波くんは講師として優れているようだし、俺も指導を賜りたいものだな」
「ご冗談を。嵐山プロに教えられるほどの手前ではありませんよ」
その後、四人でわいわいと歓談している間にも、清水は黙ったままだった。
事前調査も出来てない対象が予選4位突破、となると少しでも情報を得たいところだったが……仕方ない。キリヒコに調べさせるか。
と、考えていたところ。
「おっ。予選突破第三陣の到着のようだな」
控室の外が騒がしくなって来るのを聞き取った嵐山が、そんな言葉を漏らした。確かに、予選突破者が続々と出ていることがスマホに通知されている。
第三陣の人数は今までで一番多く、8人もの選手が控室に入ってきた。これで本戦参加者31名中、大体半分程度。
その中にはアヤメも入っていた。
「黒崎さん、あなたも突破したんですね」
「黒崎ちゃん、おっす」
「……ああ。二人とも、大体二週間ぶりくらいか」
アヤメは同輩に挨拶しているが、若干不機嫌そうだ。嫌われてんな、キョウカにミカドは。
キョウカはアヤメをライバル視していたため、ことある事に勝負を挑まれていたらしいからな。それに、ミカドはVS学園に入学してブイブイ言わせてたアヤメの鼻っ柱を叩き折った。(本人にその気はないようだが)
嫌ってるというより、苦手意識か。
「伊波先生も。それに……ッ」
俺の奥。恐らくは嵐山か、もしくは清水を見て、アヤメは明らかに目を泳がせた。
馬鹿、動揺を分かりやすく表に出すんじゃねえ。
「よう、アヤメ。お前も予選突破したか」
「えっ、ええ。伊波先生に黒星を付けられたおかげで、苦労しました」
取り敢えずフォローしておきながら、どうアヤメを連れ出したものか考える。が、向こうもそれを察知したらしい。
「伊波先生、予選で乗っていたバイクについて聞きたいことがある、と運営の方が言っていましたよ」
「あー、別にルール違反じゃねえと思うけど、一応相談はしといた方が良かったよな。オッケー、案内頼むわ」
それらしい理由で俺を連れ出す。良い機転の利かせ方だ。さっきの動揺は減点だが、それを差し引いてもやはり使える駒だな。
控室とスタジアムを出て、広く周囲を見渡せる場所で歩きながら話す。ひとところに留まって話すと盗み聞きされるかもしれないからな。
「ハクトさん、その……」
「嵐山か? もう一人の陰気な男か?」
「もう一人の方です」
「そいつがどうした」
「彼はハクトさんやスイレンと同じように、上質な魂を持っています」
「つまり、精霊が見えると?」
「はい。それは間違いないかと」
なるほどねぇ。精霊が見える人間か。
スイレンの例を取っても、周囲から理解を得られずに内向的な性格になっていくのは納得が行く。行くが、納得が行くかどうかと事実がそうであるかはまた別問題だ。
安易な結びつけは視野を狭める。俺もやりがちだし、気を付けないといけない。
「分かった。お前が気付いてるかは知らんが、アイツはギャラリーに紛れてお前の試合を観察していたようだ。気を付けろ」
だからさっきアヤメの話題を振ろうとしたんだが……邪魔が入った。
「私のVSを? ……はい、分かりました。肝に銘じます」
「よし。それと、良くやったな。予選での試合もそうだが、本戦に進出したのはデカい」
「ありがとうございます。幸い、ハクトさん以外には全勝で抜けられました。ハルを倒した、という情報が出回っているせいで強いプレイヤーに狙われたので、一戦に時間がかかりましたが」
「よく勝てたなお前……」
こいつ、こんなに強かったか?
確かに、スイーパーに居た頃は闇のカードでハルを圧倒した。だが、それ以前はVS学園の序列では上位に入ってはいなかった。7位になったのも最近だ。
「俺に報告せずにデッキ弄ったりしてねえだろうな」
「し、してませんよ! 仕事に支障が出るじゃないですか。やるにしても、必ず報告します」
「ならいいが……」
その後、一応アリバイ作りのために大会運営にバイクの使用について弁明を行った後、控室に戻る。
その頃には殆どの本戦出場者が集まっており、広い控室が狭く感じるほどに騒がしくなっていた。