イカサマが闇のカードゲーマーに通用した   作:レイトントン

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ターゲットはかなり遣り手

 最後の選手が予選を突破し、控室に戻ってきた時。その男は現れた。

 

「ハロー、エブリワン! やあやあ大会参加者の諸君、この度は予選突破おめでとう!」

 

 白いスーツ姿という派手な出で立ちで金の長髪、筋肉質な壮年の男。控室のスクリーンの前に出てきたそいつのことを知っているのは俺と嵐山くらいだったようで、選手たちの間では困惑が広がっている。

 

「ボクはVS連盟副会長のケネス・ワトスンだ。ちょっと偉い人だよー。まあ副会長って2人いるんだけどね!! 気軽にケニーって呼んでよ」

 

 軽く言うが、VS連盟は巨大な力を持つ組織だ。世界中に支部があり、VSの大会の殆どはVS連盟の主導で開催されている。さらに、警察と共にVSでの凶悪犯罪を取り締まることもある。

 そして何より……

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 現在、世界中の多くの場所でVSのカードが購入できる。コンビニや通販でも買えるし、自動販売機でカードが売られてもいる。

 カードを専門に取り扱うショップも街中いたるところにある。さすがはカードゲームが普及しまくっている世界だ。

 

 その全てにカードを卸しているのがVS連盟だ。VSがものを言う世界。途方もない金が流れてくるのは想像に難くない。

 

 自由にカードを作成できるし、金も幾らでも舞い込んでくる。世界を支配するなど容易いはずだが、なぜそれをしないのかは分からない。

 まあ実質支配しているようなものではあるが、表面上はVS連盟はあくまで大会の運営やVSのイベントを主催するなどに留まっている。

 はっきり言ってクソ怪しい組織だ。世間には受け入れられているようだが。

 

「明日は君たち31人に加えて、前回優勝者のハルを加えて32人で本戦のトーナメント戦。勝ち上がった8名で3日目、決勝トーナメントを戦ってもらう……ぜひ大会が盛り上がる素晴らしいVSをしてほしい。期待してるよ、皆!」

 

 なんだ、DS支部長も人が悪いな。

 ()()()()()がこんな簡単に姿を現すなら、わざわざ決勝トーナメントに進むまでもない。ここで仕事を済ませりゃいいだろ。

 

 ケネスが身振り手振りを交えて本戦出場者たちに話すのを観察しながら、俺はDSの支部長に渡された小型発信機を取り出す。

 

 支部長からの依頼はこうだ。

 

『決勝リーグの前日、決勝リーグ進出者を集めてのパーティーがある。そこにVS連盟のお偉いさんが登場するとの情報が入った。君には、その人物に発信機を取り付けてもらいたい』

 

 衣服や持ち物など、取り付ける場所は問わないそうだ。

 

 発信機やら盗聴器やらの取り付けなど慣れたもの。超小型ゆえに物理的に接触さえしてしまえば、取り付けに気付かれることもあるまい。楽勝だ。

 

 話を終えたケネスが退室する。俺たち本戦出場者もこの場で解散となるようで、俺はすぐに席を立ち、ケネスの後を追う。

 さすがにさっきの今で真正面から行っても警戒されるだろう。さりげなく後を尾けて隙を見つける。

 

 ともかくまずはケネスを捕捉すること。俺は彼の後を追う。

 彼の姿はすぐに見つかった。スタジアムの入り口、広々としたロビーの一角に、VS連盟の一団が集まっている。

 が、やはりお偉いさんだけあり、運営に関わると思しき黒服数人に囲まれていた。

 黒の中にある白のスーツは分かりやすくて良いが、これでは手が出せないな。

 

 車に発信機を付けるのも難しいだろう。

 

 ……まあ、チャンスは次もある。ダメ元で試してみるか。

 

 俺は姿を隠すこともせずスタジアムの出入り口を目指す。

 そして、

 

「あ! 吉岡さんじゃないですか!」

 

 そう声を張り上げる。

 黒服の集団の中から、一人が反応した。よし。

 

「伊波選手。よく私に気付きましたね」

「これでも人の顔を覚えるのは得意なんですよ」

 

 吉岡……俺にVSチャンピオンシップ参加を持ちかけてきた、大会運営の下っ端だ。

 吉岡は自分の存在に気付いたと思っているようだが、とんでもない。俺も記憶力に自信はあるが、サングラスをしていて目元が隠れている一回会ったきりの男を、同じような格好の連中がわんさか居る中で見分けるのは至難の業だ。

 

 試しに呼んでみて、間違ってたら『失礼しました、間違えました』としれっと逃げればいいとやってみただけ。

 

 結果は成功。吉岡と軽く世間話を始める。

 

 吉岡は俺を良く思っていないだろうが、気付いていないフリをする。なにせ、ハルに勝った俺が出れば宣伝効果が高いと踏んで高いホテル代を払って誘致したのに、蓋を開けてみればアヤメもハルに勝ったってんだからな。

 盛り上がりはしたが、無駄に働かされて内心穏やかじゃないだろう。

 

「まさか俺以外にハルに勝った選手が居たとは。大きな口を叩きました、お恥ずかしい」

「はは、お気になさらず……スナク島は楽しめましたか?」

「ええ! 吉岡さんのお陰で大いに。ノーヘルでもツーリングが楽しめるのはニホンにない楽しみですよね。ビーチも綺麗で、ついつい日焼けしてしまいした……って、すみません」

「いえ、楽しんでいただけたなら何よりです。それに、本戦出場を決めたその実力を見るに、やはり誘致した甲斐があったというものですよ」

「そうですか? それなら良かった」

 

 ケネスの方を見ないようにしながら、耳を澄ませて様子を窺う。ダメか……?

 

「……ああ、すみません。お仕事中ですよね。すみません、お忙しいところを」

「いえ、お気になさらず。では、私はこれで——」

「まあまあ、仕事中と言っても、少し知人と話すくらいは良いじゃないか」

 

 よし。食いついたか。

 吉岡の肩を気軽に叩くのは、白いスーツに身を包むケニー。この男の軽い語り口から、本戦出場者が周囲の人間と楽しげに会話していたら割り込んでくる可能性もあるかとダメ元で試してみたが、大成功だ。

 

「ええと、VS連盟副会長のケニーさん、でしたよね。初めまして、伊波ハクトです」

「ハクト! 試合見てたよー、キミは素晴らしい選手であり、ギャンブラーだね! ダイス・カードをあれほど使いこなすプレイヤーはベガスにもそうはいない!」

「ありがとうございます。ただ、今日はツキがいまいちでしたけどね。ハルに勝った時はもう、全てが思い通りに行くような運の良さだったんですが」

「ほう! そうだった、キミはハルに勝ったんだったね。凄いな。長年VSチャンピオンシップを見守ってきたが、彼女ほど龍に愛されたプレイヤーはいなかった。そんな彼女を下せるとしたら、特殊な使い手か……あるいは卑怯な手段でも取らないと難しいと思っていたよ」

 

 にこ、と俺に気安く微笑みかけるケネス。だが、その言葉には裏の意図が込められているのが分かる。

 確かに、ハルを倒した時に俺はイカサマをしていた。だが、そんなことをむざむざ認める訳ねぇだろ。

 

「はは、特殊な使い手……確かにそうかもしれませんね。実は、ギャンブルは得意なんですよ」

「へえ、確かに見た目の印象はそんな感じだね。確か、選手紹介ではVS学園で講師をやっていた、なんて言っていたけど……随分様子が違うようだ」

 

 ケネスは俺がボロを出さないと見るや、すぐに切り替えてにこやかに話し出した。食えない男だ。

 

 しかし……

 

 この男、隙がまるでない。

 

 もちろん、周囲を黒服が囲んでいる以上、普通なら発信機を取り付けるような真似はできない。

 だが、俺は自信があった。会話や身振り手振りで視線を逸らして発信機を取り付ける自信が。

 むしろ、監視の中だからこそ手は出せないという油断。そこを突ける、と。

 

 しかし、この男の視線、体捌き、足運び……どれを取っても、過去見た覚えがないほどの鋭さだ。

 発信機を取り付けるだけの隙が、見当たらない。

 

 マジかよ。俺が発信機の類を付け損ねる?

 今までにない失態だ。転移する前を含めても、これだけデカい失敗はそうそうない。

 ちょっとショック。

 

「ハクト、キミは面白い男だね。ぜひまた話がしたいな。頑張って決勝トーナメントまで残っておくれ」

「決勝トーナメント、ですか? もちろん残るつもりではありますが」

「ああ、決勝トーナメント進出者は、前夜祭のパーティーに招待されるんだよ。そこにはボクも参加するんだ」

「そうだったんですか。勝ち上がれたら、その時はぜひまたお話しましょう」

 

 クソッ。ここまでターゲットに近付けたのに。

 つーか、こいつに発信機取り付けんのかよ。入っていきなり振る仕事にしちゃ難易度高ぇんじゃねえのかDSさんよぉ。

 

 まあ、顔を繋いだだけマシだと思うしかないか。パーティー会場で近くに座るだけの理由作りが出来ただけ良しとしよう。

 

「ところで」

 

 ケネスは、にこやかな雰囲気を崩さないまま。しかし目の奥に鋭い光を湛えて、俺に問いかける。

 

「さっきから何か握っているみたいだけど……何を持っているんだい?」

 

 空気が一段階冷える。

 さきほどまで困ったように眉根を下げていた吉岡も、今は俺を疑念の目で見ている。いやサングラス掛けてるから目を見れたわけじゃないが、雰囲気的にな。

 

「見せてもらってもいいかな?」

 

 有無を言わさず、ケネスは俺の手の中を検めようと要求する。抵抗しない方が良さそうだな。

 

「もちろんです」

 

 言われるまま、握った左手をパッと開く。

 中に入っていたのは……

 

「それは……バイクのスマートキーかい」

「ええ。これからホテルに戻るところだったもので」

「ああ、そういえばキミは予選サバイバル中、バイクで移動していたね! いやー、その手があったか! と膝を打ったよ」

 

 先ほどまでの緊迫した空気は霧散する。

 ちっ。ここで怪しんで取り押さえたりしてくれれば、イチャモン付けて発信機を付ける機会を作ってやったものを。

 

 さすがにヤクザ者の手管くらいは警戒するか。

 

 なら、やはり交友を深める形で心理的にも物理的にも距離を縮めて行くしかなさそうだな。本人は気にしない性だろうから、まずは敬語を取っ払ってみるとする。

 

「バイクって結構グレーな手段だと自分では思っていたんだが、ケニー的にはアリなのか?」

「アリアリ! 寧ろハクトはなんでグレーだと思ったのさ」

「免許持ってない学生も参加してるからだな。カードという資産で差が出るのは仕方ないにしても、別なところで公平性に疑義が出るのはちょっとまずいかな、と思ったんだよ」

「オー、そんなところまで考えてたのか。確かに、言われてみればそうかもしれないね」

 

 吉岡の方を見てみると、渋い顔をしていた。そこまで考えたならやめといてくれよ、と言わんばかりだ。

 ごもっとも。

 

「でも、クソ暑い中歩きで選手探す気にはなれなかったんだ。悪いな」

「構わんよ、特にルール違反でもない! 来年からは考えないといけないかもだがね」

 

 来年は出ないだろうし、どうでもいい。

 

「ケネス様、そろそろ……」

「ああ、もうそんな時間か。じゃあね、ハクト。頑張って明日の試合を勝ち抜いてよ」

 

 ケネスは吉岡ら黒服をぞろぞろと引き連れて、スタジアムのロビーから去って行く。

 ケネス・ワトスン……あいつに発信機を取り付けるのは一筋縄じゃあ行かなそうだな。

 いきなりこんな仕事振りやがって。DSにクレームでも入れるか。

 

 

 

 

 スタジアムを出て、周囲を見渡せる広い場所に陣取り、電話を掛ける。日が落ちかけているが、この時間なら向こうは昼過ぎってとこか。

 数コールで、アカネは電話に出た。

 

『やあ、ハクトくん。寂しくなってワタシに掛けてきたのかな? 可愛い助手だねえ』

「馬鹿言え、クレームだよクレーム」

『クレーム? はて、身に覚えがないな』

「なーにが『初回は簡単な仕事』だよ。アレに発信機付けろって、普通なら並大抵じゃねえぞ」

『おや、ターゲットともう接触を? ふふ、さすがは我が助手。優秀で何よりだ』

「話逸らしてんじゃねえ」

『ごめんごめん。仕事の難易度ね。そうだね、バレてそうだからもう言ってしまうが……よくあるアレさ。初回に報酬が美味い超難度の高い仕事を振って、失敗させて従順にさせるヤツ』

 

 だと思ったよ。いきなり振る仕事の難度じゃねーもんコレ。

 なんだよあの身のこなしはよぉ……

 

『騙したのは悪かったと思ってるよ。一応、ワタシも組織人だからね』

「貸し一つだなこりゃ」

『コレは困った。君への貸しは早めに返しておかないとまずいことになりそうだ。……だが、君は仕事はこなすつもりだろう?』

 

 VS連盟に喧嘩売るのはフツーにナシだが、バレなきゃ問題ない。イカサマと同じでな。

 バレないように発信機を付ける……手もなくはない。付けた後外される可能性もあるが、それはもうどうしようもないわな。

 

「リスクもあるが、報酬は美味いからな。初回の仕事だし、やることはやってやるさ」

『ふふ、良い事を教えてあげるよ。大抵の場合はこの洗礼によって下っ端スタートとなるが、逆にこれをクリアすれば上層部からの覚えもめでたくなる。いわゆるエリートコースというやつさ』

「秘密結社でも昇進を考えなきゃいけないとはな」

『組織というものはそんなものだよ。貸しを返させる機会があれば、いつでも頼ってくれたまえ』

「何言ってんだ。普通は並大抵じゃなくても、俺には楽勝だっつーの。悪いが、この貸しは大事に取っておく」

 

 アレ相手に正面からやれるとは思えんが、正面から行けなくともやりようは幾らでもある。

 とりあえずは決勝トーナメントに進めないとお話にならないが、たとえば俺とアヤメが決勝トーナメントに進めれば、取れる手も増える。

 

『怖い怖い。ふふ、俄然報告が楽しみになってきたじゃないか。また連絡してくれ』

「おうよ。……ああ、そうだ。島原の様子はどうだ?」

『定期報告から変わらないみたいだよ。研究所での監禁がお気に召さないようだ』

「当たり前だろ。俺だってヤだわ監禁されたら」

 

 監禁っつっても、研究所の外に出れないだけだが、日の光を浴びれないのはストレスだろう。

 いや、さすがにそのくらいは配慮してんのかな。脱走のリスクがあるから俺ならやらないが。

 

『研究も差し止めになっているからねぇ。ワタシも研究を止められたら脱走の一つも企てるだろうから、気持ちは分かるさ』

「脱走するようなら楽なんだがな」

 

 ブッ殺す大義名分が生まれるからな。

 島原の研究成果ごと、とっとと消しておきたいのが本音だ。

 本来なら島原を焚き付けてわざと脱走させてから消す、といういつものマッチポンプ策を取りたいところなんだが、組織の新入りで信用もされてない中じゃ怪しまれそうだ。

 ただでさえ支部長には勘付かれてる節があるしな。

 

『こわいこわい』

「ま、大会が終わるまではどうにもならんだろうがな。じゃ、夏休みで講師の仕事がないからって、あんま研究所に引きこもんなよ」

『ん? ワタシ今外出してるけど』

「なに? 意外だな。どこに居んだ?」

『ん? んー……あ、いたいた』

「は? いた、って何が……ああ……」

 

 目の下の隈を化粧で隠したアカネが、こちらを見つけると大きく手を振ってきていた。

 だいぶ目立ってやがる。ツラとスタイルがいいからな……不健康そうな印象が拭われたらなおさら注目されるか。

 

「やあやあ」

「やあやあじゃねえよ。お前、こっちに来てたのか」

「ああ。愛しの助手くんの勇姿を目に焼き付けようと思ってね。失敗したらそれはそれで、珍しい君の情けない姿を記録しておこうかと」

「絶対後者が本音だろ」

「ククッ。良いじゃないか、たまには隙を見せないと可愛げがないというものだ」

「俺に可愛げなんて求められても困るっての」

 

 とは言いつつ、俺とて自分に隙がないなんて傲慢な事は考えちゃいない。

 極力隠そうとは思っているが。

 

「腹減ったわ。飯食いに行くか」

「おっと。ご相伴に預かってもいいのかな」

「奢りじゃないがそれでも良いなら」

「なら、ワタシが奢ろうか?」

「まさかとは思うが、それでさっきの貸しを返そうとしてる訳じゃないよな?」

 

 アカネはちろ、と赤い舌を出して応じる。油断も隙もねぇな。

 

 ……なんか物陰からアヤメが悲しそうな目でこっちを見ているが、気付いてないフリをしておこう。下僕相手にわざわざ俺の交友関係を説明する必要もない。DSに加入したことを話すのも面倒だしな。

 

 

 

 

 なんて思っていた、その日の夜。

 アヤメからの定期連絡が途絶えた。





次回更新一週間後くらいになるかも
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