イカサマが闇のカードゲーマーに通用した   作:レイトントン

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誓ってクスリはやってない

 迷惑客ススムの対応をした翌日。アラームの音に起こされ、寝ぼけた頭のまま浴室に向かう。洗面台で顔を洗い、意識を覚醒させる最中。鏡越しにこちらを見守る存在を認識する。

 

「……よう」

「おはようございます我が主。規則正しい生活で何よりです。まだ寝てるようなら私が起こして差し上げようと思ったのですが……」

「だからちゃんと起きたんだよ。休みの日くらい昼まで優雅に寝かせてくれ」

「天使に起こされるなど、常人ならばそうそう味わえることではありませんよ?」

 

 天使を自称するその女は、何度見ても信じ難いことではあるが……俺の持つカード『背徳の天使イザキエル』の姿そのものだ。

 

 彼女が言うことには、自らはカードの精霊なのだとか。

 

 誓って言うが、クスリをやっているわけじゃない。

 人様の家に不法侵入するイカれコスプレ女だと言う方がまだ現実味があるが、彼女の存在は他人には見えず、また声を聞くこともできない。

 

 それでもまだドッキリを疑っていた俺だったが、精霊であることを証明すると宣ったイザキエルの腕が支配人の頭を通り抜けた時に、無駄な抵抗は諦めた。

 カードゲームが強大な力を持つことといい、あの後支配人から聞いた闇のVSの話といい。つくづく妙な世界に転移してしまったようだ。

 

「おまえみたいな存在がいるのなら、闇のVSとやらもあながちオカルトとも言い切れないのかもしれんな」

「ええ、恐らく狂言の類ではないでしょう。お気を付けを、我が主。魂を集めているというなら、精霊の見えるあなたの魂は極上の素材となり得る」

「……なんでまた、俺に精霊なんてもんが見えるのかね」

「カードに宿る精霊との相性もありますが、一番の理由はあなたがカードを大切にしているからですよ。なんだかんだ口では悪態を吐きますが、あなたの心はきっと清廉なのでしょう」

 

 それは盛大な勘違いだ。

 

 確かにカードを大切にしてはいるが、俺はあくまで、カードを資産としてしか見ていない。

 スリーブを付けているのはイカサマ用にマークを付けるためで、カードに直接マーキングしたら資産価値が落ちるからでしかない。

 

 それを、俺の心が清廉? 節穴も良いところだ。どうやら精霊が見える理由には心の綺麗さは関係ないらしい。

 まあ、そう勘違いしてもらっておいて損はない。わざわざ誤解を解くようなことをすることもないだろう。

 

「しかし、昨日の少女とのVSといい……イカサマはいただけません。あなたは正々堂々戦っても強いのですから、どうかあのような悪事に手を染めるのはお止めください」

「朝から説教はやめろ。イカサマが悪いことなんて百も承知なんだよ」

「だったら……」

「時には負けちゃいけない勝負もある。それこそ闇のVSとかな。負けたら魂を取られる勝負で運負けとか洒落にならねえわ」

「それはそうかもしれませんが、昨日はレアカードを賭けていただけではないですか」

「金を稼ぐこともまた、俺の命にかかわる大切なことだ。そしてレアカードは金になる」

 

 もちろん、イカサマをするにもバレたら一発で反則負けになるリスクはある。タイミングや使う相手は選ぶ必要があるのは事実だ。

 しかし、リスクを差し引いた上でメリットが上回るのであれば、イカサマをしない理由がない。

 

「俺は使()()()()()()()()()使()()。俺を主人と呼ぶなら、俺の方針には従ってもらいたいね。それができないなら、今まで通りVS中はカードの中に引っ込んでろ」

「主人に忠言することも、時には必要です」

「口の減らない天使だな」

「主に似たのかもしれませんね」

「口煩さは最初から変わってないだろうが」

 

 このまま自宅に居ては、『天使の囁き』とは聞こえのいい小言を聞き続けることになるだろう。天気も良いし、昨日は臨時収入も入った。今日は外出でもするか……と考えていると、スマホに連絡が入る。

 表示されたのは、昨日VSで試合をした中学生だった。放課後、早速スイーパーの情報が知りたいので直接会いたいとのこと。

 面倒な……スマホを通してのやり取りで十分だろうに。

 

 まあ、どうせ出かける気だった。もののついでか。

 

 

 

 

 

 

「ハクトさん!」

 

 繁華街エリアの喫茶店。指定されたその店の前に、彼女は立っていた。

 制服姿のハルはこちらを見つけると、パッと明るい笑顔を浮かべ、パタパタと駆け寄ってくる。

 昨日とは違いキャップではなくベレー帽を被って髪も下ろしている。だいぶ印象が違うな。つーか髪長えな。あれだけの量をキャップに隠してたのかよ。

 

「よう。学校では髪下ろしてるんだな」

「え、ええ。その、どうですか?」

「良いんじゃないか。似合ってるぞ」

 

 そう言っておいた方が気分は良いだろう。実際、ハルは照れ臭くも嬉しそうに頬をかいている。

 

「あの後、無事帰れたみたいだな」

「はい、ショーマさんに送ってもらったおかげです。ハクトさんは今日はお休みだったんですか?」

「おう。あのカスから巻き上げた金で美味い飯でも食おうかと思ってな。回らない寿司だぞ、羨ましかろう」

「もう、そんな言い方……賭けVSは良くないですけど、ちゃんと勝負の結果得たお金でしょう?」

 

 あのカスで通じてしまっているあたり、ハルの本音も透けて見えてしまっている。

 

「いやぁ雑魚から巻き上げた金で食う寿司は美味かったなあ!」

「こ、こらーッ!」

 

 ハルはぷんすかと怒り始めてしまった。

 なかなか弄りがいのある、面白いリアクションだ。

 

「は、ハル。その人が例の情報提供者?」

「大丈夫……? お金巻き上げるとか言ってたけど、怖い人なんじゃ……?」

 

 ハルの背中側、数メートル先で、電柱に隠れながらこちらを窺う二人の学生は、そんな声をかける。

 眼鏡をかけた男子生徒と、気弱そうなおさげの女子生徒だ。口ぶりから、ハルの友人なのだろう。

 

 しかし、初対面で失礼なやつだ。いや、俺の言動のせいか。自業自得だな。

 俺の見た目も原因の一つだろう。金髪に染め、ピアスを開けている。背もこいつらよりずっと高いし、真面目な中学生のガキ共からしたらちょっと威圧感があるだろう。

 

「え? 大丈夫だよ。ハクトさんは怖い人……ではあるかもしれないけど」

「おいこらクソガキ」

 

 まあ、事実ではあるが。世の中、事実だからって何でも言っていいわけじゃねえんだぞ。

 

「ホラ、怖いじゃないですか」

「全然怖がってるように見えねえんだよ」

「きゃー、ハクトさんが怒った!」

 

 きゃっきゃっ、とハルは中学生らしくはしゃいでいる。なんでこんなテンション高ぇんだよ。

 面倒なので、隠れている方のガキ共の相手をするか。

 

伊波(いなみ)ハクトだ。普段はカジノの従業員をしてる」

「あ、えと。久里浜(くりはま)マナブです」

八代(やしろ)スイレン、です……」

「おまえらハルの同級生か。マナブの方はたしか、チャンピオンシップに出場していたな」

「……お兄さん、よく知ってるね」

 

 突かれたくないところだったか、マナブは俺を褒めつつも嬉しくはなさそうだ。

 そりゃそうか、優勝してるハルの前だ。

 

「俺も中継は見てたからな。くじ運がなかったな、相手が準優勝者じゃなければベスト8は行けてただろうに」

 

 マナブは微妙そうな顔を作ったが、一方で隣のスイレンは感嘆の声を上げた。

 

「観ただけでそこまで分かるなんて、凄いですね……VS、お詳しいんですか?」

「いや、そういう訳じゃ——」

「ハクトさんはね、VSがすっごく強いんだよ! こないだカジノで知り合ったんだけど」

 

 余計なことを……と思っていると、カジノという言葉に反応したマナブが眉を吊り上げる。

 

「ハル、『クレセント・ナイト』に行ったのか!? ダメじゃないか、一人で行くなんて危ないって言っただろ!」

 

 マナブは見た目通り少々神経質な性格のようで、ハルの無謀を知って説教を始めている。

 クレセント・ナイト自体は裏カジノにしては安全ではあるが、施設のあるエリアは治安が悪い。少なくとも、女子中学生が一人で行くエリアではないというのは全くの正論だな。

 

「だ、大丈夫だよ。男の子っぽい(いつもの)服装で行ったし、帰りはショーマさん……ハクトさんの部下の人に送ってもらったし」

「いや、全然大丈夫じゃなかっただろ。変な男に騙されてたじゃねえか」

「ハクトさん! 余計なこと言わないでください!」

「——詳しく聞かせてくれ」

 

 マナブは俺の言葉に強く反応した。

 

「構わんが、まずは店に入るか。今日は俺が奢ってやる。ただし、何でもバクバク飲み食いすんなよ、成長期のガキ共」

 

 店に入り注文を済ませてから軽く事情を説明してやると、ハルはあっさり騙されたのを思い出したのか、顔を真っ赤にして恥ずかしがりながら身を縮めてしまった。

 マナブも、大した被害もなかったことが分かり多少冷静になったのか、小さくなったハルを弄りながら安堵の息を漏らしていた。

 

 

 そんな中。一人だけ静かなのはハルのもう一人の友人、スイレンだ。彼女はハルとマナブのやりとりを見つめ時折相槌を打ってはいるが、どうも心ここに在らず、といった様子。

 そして、しきりに俺の方を盗み見ている。初めは、俺のことを怖がっているのかと思ったが……どうも少し違うらしい。

 俺と言うより、さらにその先を見ているような違和感がある。

 

 

 まあ、それはいいか。今後こいつと関わることもそうないだろう。

 

「さて、無駄話はこれくらいにして……早速スイーパーについて話させて貰おうか。つっても、俺も支配人から聞いた話だがな」

 

 簡単に掻い摘んで、ガキ共3人にスイーパーの情報を教えてやる。

 支配人が掴んでいた情報とそれによる推測は以下のとおりだ。

 

 

・スイーパーはVSプレイヤーに対して辻VSを仕掛けるカード強盗集団である。

・スイーパーとのVSは闇のVSと呼ばれ、負けた場合レアカードと魂を奪われるらしい。目撃情報は複数あるが、錯乱した者の意見との見方もあり真偽は不明。

 ただし有力なVSプレイヤーの行方不明が相次いでいるのは事実であり、なんらかの方法で誘拐(もしくは殺害)されている可能性は高い。

・面の割れている者はいない。構成人数も不明。ただし同時に3箇所での被害報告があるため3名以上は確定。

 襲撃頻度が多くないことから少人数の組織と思われる。

・闇のカードと呼ばれる、通常流通していない強力なカードを使う者もいるらしい。真偽不明。

・アンティルールでVSを仕掛けてくる模倣犯も急増している。スイーパーの背格好で共通している点として、黒いフードを被っていたという報告が多い。

 

 

 他にも、目撃証言のあったエリアや被害に遭ったと思われる者たちの名前、実力などを伝えていく。

 

 

「ってところだな。まあお前らの情報も併せると、レアカードと魂を奪われるってのはガチっぽいが」

「うん。俺はレアカードを奪われかけたし、実際にカードに囚われた。……らしいんだけど、俺自身はカードにされた時に眠っちゃったんだ。でも、常に悪夢を見ているような不快感があったかな」

 

 その時のことを思い出すのか、少々顔を青くしながらマナブが俺の言葉を補足してくれる。

 こいつか、ハルの友達でスイーパーに負けたってのは。

 

「……魂を奪うってんだからどんなファンタジーな行為なんだと思ったが、そんなことになんのか。あーやだやだ」

 

 思った通りだ。

 こいつらの体験談は、貴重な情報だ。なにせ今までスイーパーの被害に遭って戻ってきたやつなんて他にいないからな。

 この情報……そう、カードにされたヤツも元に戻せるというのは、特に金になりそうだな。スイーパーの被害者の数は少ないわけじゃない。

 

 俺が情報を提供する、という体で話しているが、その実こちらの方が貴重な情報を貰っていることに、このガキ共は気付いていないのだろう。

 どころか、俺がタダで情報をくれたということで感謝されている節まである。実際は情報交換でしかない、しかも向こうの情報がより貴重なのにだ。

 

 精々、美味い汁を吸わせてもらうとするか。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()しな。別の要素で稼がせてもらいたいところだ。

 

 というのも、ここまで具体的な情報が少ないのは……スイーパーを返り討ちにできたヤツが、ハル以外にいないからだ。

 

 裏の世界の人間がスイーパーを倒したなら、それを喧伝し、その組織のVS戦力をアピールしてくる。が、今のところそれがない。

 つまり、あくまで今判明している情報からの推察に過ぎないが……

 

 スイーパーの構成員は全員、大会優勝者のハルでようやく勝てるレベルである。

 

 ……という可能性がある。

 

 

 もちろん、そのハルがいるのだから、全く希望がないわけじゃない。が、ハルの協力者であるマナブやスイレンは到底そのレベルに及ばないだろう。

 スイーパーも数が少ないと予想されているとはいえ、あまりに分が悪い勝負だ。

 

 約束はあくまで、ハルがスイーパーを潰したら、そいつらの持つレアカードは俺がいただくというもの。おっと、持ち主の特定ができないカードを、だったな。

 ハルが負けるようなら、約束はおじゃんとなるが……まあ、所詮は棚から牡丹餅、あぶく銭だ。レアカードは惜しいが、自分の魂を賭けるのはリターンがリスクに見合わん。

 

「そうそう。あと一つ、情報がある。なんでも裏の人間で有志を募り、レアカードでスイーパーを誘き出す計画があるらしいぞ。そいつらと接触すれば、もしかしたらヤツらの手掛かりを掴めるかもな?」

「そんな人たちが……裏のVSプレイヤー。ハクトさんみたいな強い人たちの集まりってことですか?」

「さすがに俺くらい強いヤツはいない。とはいえ、VSで用心棒して飯食ってる連中だ。全く役に立たないわけじゃないだろうさ」

 

 スイーパーに対抗できるかは甚だ疑問ではあるが、人海戦術で餌を撒き、奴らを見つけるというのは悪くない。

 

「もうこの後会おうと思えばセッティングはできるが、どうする」

「……お願いします!」

「オッケー、連絡入れとくわ」

 

 と言いつつ、実はもう「表の超実力者とコネできたからそのうち連れて行く」と伝えてはあるんだがな。

 俺にも参加要請が届いてたからどうにか断りたいところだったんだ。ハルが代わりに参加してくれるなら何の文句も言われまい。






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