イカサマが闇のカードゲーマーに通用した   作:レイトントン

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ホラーはちょっぴり苦手らしい

 ざっと捕まった経緯を話し終えたアヤメは、痛みに目を細める。

 

 ……ええ…………?

 コイツ、爪剥がれて笑ってたの?

 だいぶイカれてるな……

 

 まあ、理屈は理解できる。俺の拷問の方がキツかったから耐えられた、ってのは。でも、それはそれとして痛いもんは痛いだろ、普通に。

 実は口を割ったのを誤魔化すためにテキトーこいてんじゃねぇだろうな。

 

 そんな疑いもあるためアヤメの報告を完全に鵜呑みにする訳にはいかないものの、こいつの話が本当だとしたら()()()()()()()()()()()()な。

 むざむざ逃げる必要もなかったかもしれない。VS連盟や警察に頼るより、自分で処理した方が欺瞞工作の手間も減る。

 

 とはいえ、先ほど考えたように、あるいは清水と共謀してアヤメが俺を騙そうとしている可能性も、低いが0じゃない。安全を取るなら、やはりキリヒコにかかずらっている間に逃げてから、警察に通報してしまうのが良いだろう。

 キリヒコが倒しちまう可能性も出てきたし、俺が何かする必要はないか。あいつ、強いんだよな普通に。

 

「走れるか?」

「は、はい」

 

 アヤメは明らかに無理している様子で答える。ふざけんなよボケぇ……

 

「無理ならそう言え。計画が狂う方が迷惑なんだよ」

「……すみません、ちょっと厳しいかもしれません…………」

「ま、爪剥がれて気絶して、起きたらいきなり走れって言われてもしんどいわな」

 

 最優先は撤退だが、迎撃も視野に入れてよい範疇になった今、そこまで急ぐ必要はない。

 逃げられれば良いが、追いつかれても構わない。広く選択肢が取れるのは良いことだ。

 

 俺はアヤメに肩を貸しながら、歩いてバイクを停めてあるホテルの外を目指す。

 

 キリヒコが時間を稼いでくれりゃ楽ができるが。倒してくれればそれで話は終わりだし、頑張ってもらいたいところだ。

 

「……ハクトさん、すみません。足を引っ張ってしまい……」

「ホントそうだな。反省しろよ」

 

 アヤメは目に見えて肩を落とす。さすがに拷問くらってメンタルもだいぶ落ち込んでいるようだな。

 

 どーすっかな。あんまり心的外傷が酷いようなら、アカネに貰った腕輪で記憶ごと消しちまうって手もある。やるにしても、ここから逃げてからだが。

 とりあえずは口頭で軽く励ましてみるか。

 

「反省したら、もう二度と敵に捕まんなよ。しんどいだろ、何回も拷問なんてされちゃよ」

「……拷問した人が言いますか、それ」

 

 アヤメは苦笑いしながら、そう反論してくる。ちょっとは気が紛れたらしい。

 拷問されといてこの程度で気が紛れるとか、こいつメンタル強すぎるだろ。どーなってんだよ。

 

 まあ、足取りが早くなるならそれに越したことはない。

 俺とアヤメは、徐々に速度を上げながら、廃ホテルの階段を降りて行き、やがて外に出る。

 

 そのままバイクに向かって進む。しかし、それを妨げる者があった。

 

 

 

「待ってください、お二人とも」

 

 

 

 俺より高い長身に、柔らかい笑みを浮かべ、長髪を後ろ髪に結いた優男。キリヒコが、ホテル敷地を区切る塀の陰から姿を見せた。

 思わず構えた拳銃を突き付けたまま話す。

 

「テメーかよ。急に話しかけんな、ブッ放すとこだったろーが」

「いや、申し訳ない。アヤメも、無事なようで何よりです」

「キリヒコさん、清水は?」

「倒しました」

 

 そりゃ、闇の力に捕えられたコイツがここに辿り着いている時点で、そういうことになるだろ。

 アホな質問……いや、コミュニケーションの一環だな。

 それにしても、清水は倒せたか。

 

「ザコだったろ、相手」

「え?」

 

 俺の言葉に、キリヒコはきょとんと呆気に取られたような顔をする。

 

「ハクトさん、清水がザコだというのは……?」

 

 アヤメは分かってないようで、そう聞いてくる。

 余計な口出しして来やがって、と思いつつ、質問に答えてやる。 

 

「清水の実力が未知数だったのは、スイーパーの親玉が新たに用意した手下である可能性があったからだ。あいつが昨年の事件の黒幕なら、大したことないだろ」

「それは、どういう……?」

「あいつが黒幕なら、つまり()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってこったろ。闇のカードありで、中学生だった……それも転生召喚を身に付けてないハルに負けてんだぞ。同じ条件なら、ハルに勝ったテメーの方が強いじゃねえかよ」

「あ……」

 

 今気付いた、と言わんばかりにアヤメは口を開ける。おいおい……

 闇のカードに閉じ込められたのがよほどトラウマで、正常な判断が出来なかったようだな。ま、ここは俺のせいでもあるから減点しないでおいてやるか。

 

「それとも、キリヒコ。お前の時は闇のカードを使ってきたのか?」

「ええ、まあ」

 

 なに?

 そうなってくると話は変わってくる。

 

「なら、逆によく勝てたな。もうテメーの闇のカードは消滅したってのによ。まさかとは思うが、俺に無断で追加のカードなんて入れてねえだろうな。ちょっとデッキ見せろ」

「……どうぞ」

 

 キリヒコはケースごとデッキを俺に渡してくる。

 デッキケースを開ける。初めに見えたのは、『大骨竜ルーシアス』のカード。

 ふむ。

 

「なるほどな。追加のカードを入れてるわけじゃなさそうだ。アヤメは清水が闇のカードの使用を控えていたと言っていたんだが、お前の時は違ったのか」

「恐らく、三国より私の方が強かったのでしょう。力を温存する余裕がなかった、とも言い換えられますね」

「なるほど。闇の力に関しちゃ、ナユタほどの出力は出てないってことか」

 

 

 二人の証言を合わせて考えると。

 どうやら清水の闇の力は、『緑鳥ビルム』や『病鳥アルボルタ』のような、強力な効果を持った状態を維持した闇のカードを作れるほど高い出力がなかったようだ。ナユタがマナブやハルに行ったように()()()()()()()()()しかできない、と推測できるな。

 

 それも、温存が必要な程度には消耗の激しい力だったのだろう。そうでもなければ、三国カズヤ戦で温存する必要がない。

 

 あくまで推測でしかないが。

 

 

 コイツには聞いとかなきゃならないことが他にもある。

 

 

「テメー、どうやって俺らの先回りをした?」

「ふふ、まるで尋問ですね。清水はどうやら逃走用のロープを用意していたようで、それで逃げようとしたところを捕まえたんです。そのロープを使って、窓から降りたんですよ」

「ほう。ロープねえ。そんなもんで外に出てくるより先に、まず俺に報告すべきだったんじゃねえのか。清水を返り討ちにしました、ってよ」

「揉み合いでスマホが壊れまして……申し訳ありません」

「へえ」

 

 なるほどねえ。

 

 

 

 

 俺は拳銃の引き金を引いた。

 

 

 

 

 パシュッ、と空気の抜けるような音がして、キリヒコの額に穴が空く。

 

 

 

「……え? え? ハクトさん? ……き、キリヒコ、さん?」

 

 

 おお。良かった、ちゃんと当たって。ここ1年くらいで撃った弾、さっきの一発しか命中してなかったからな。発砲する機会自体少ないのもあるが、それにしても全然当たってねえ。

 思えばこっちの世界に来てから、腕が落ちたような気もする。

 

 せっかく射撃場のある島だし、ちょっと勘を取り戻しといた方がいいかと思ったくらいだ。

 

 ま、この至近距離で不意打ちならさすがに外さねえか。相手も警戒してなかったみたいだしな。

 

 

「あ、ああ……」

 

 震えながら手で自らの顔を押さえたかと思えば、アヤメが甲高い悲鳴を上げる。

 うるせえなぁ……人間をカードにしてぶっ殺そうとしてたヤツが、この程度で騒ぐんじゃねえよ。

 

「落ち着け。コイツはキリヒコじゃねえ」

 

 多分。

 

「え……?」

 

 呆然と立ち尽くす、役に立ちそうもないアヤメは放っておいて、俺はキリヒコの見た目の死体を検めるために手を伸ばす。

 

 不意打ちで殺された故に、目はかっ開かれたままだ。

 

 

 

 

 

 ————その目が、ぎゅるりとこちらを向く。

 

 

 

「なぜ分かった?」

 

 

 

 

 

「うおおおおおおッ!?」

 

 

 

 ビビった、マジでビビった。

 

 俺は思わず()()()()()()()()()()()()()()()()に向けて反射的に発砲する。二発。

 二発の銃弾がまたも額に命中するが、構わず起き上がって来た。

 

 

 そんな馬鹿な……脳天ブチ抜かれて生きてる生命体なんているはずがねぇ!

 

「き、キリヒコさん、じゃないのか……いや、生きてる!?」

「テメェ、一体どういうことだ! なんで頭ブチ抜かれて生きてやがる!?」

「先に私の質問に答えてもらおう。どうして私がキリヒコでないと分かった?」

 

 ()()()はキリヒコのツラのまま、しかも頭に穴が空いたまま。そんなことを聞いてくる。

 普通に怖ぇよ!!

 

「ああ!? んなもんテメーがマヌケなだけだろうが! どうやったか知らねーが、そんな精巧に変装すんならソイツの持ってる情報と持ってない情報の区別くれー付けとけタコ!」

「持ってない、情報?」

「さっき俺が『アヤメは清水が闇のカードの使用を控えていたと言っていた』って口にした時だ! テメーは相手を三国と断定しただろうが、キリヒコがいつ三国がテメーとVSしたって知れるんだっつーの!」

 

 まあ、それだけじゃねえがな。闇の空間で話した可能性も0ではないし。

 ただし、デッキの一番下が大骨竜だった時点で、ほぼ黒だろうとは思っていた。別に白でも構わなかったがな。

 

 それに、確実に確かめるなら他にも手段はある。カードにした清水を見せてみろ、と言えば良い。出すのを渋るようなら黒。目の前でカードになった敵を拾わないアホなら、白だとしても殺してしまった方が後々余計な真似をされずに済みそうだしな。

 

 あまり確定的な証拠を出させようとすれば、こちらが不意打ちする前に動かれる可能性があったからやらなかっただけだ。

 

 コイツがキリヒコの偽物濃厚だと疑っているのを悟られないで不意打ちしたかった。結果はコレだがな。

 

「……私が清水ユタカだったこともお見通し、という訳か」

「この状況で他に誰が居んだよ!」

「ただ、一つ訂正させてもらおう。変装、ではない。言うなら……そうだな。変身、か?」

 

 額の穴から銃弾が押し出され、ポトリと地面に落ちる。そして、空いた額の穴がキレーに塞がっていく。

 ……人間じゃねえな、明らかに。

 

「今度はテメーが質問に答える番だぜ。何者だテメェ。どうして頭を撃たれて死んでねぇんだ。清水ユタカでもないのか?」

「…………そうだな……」

 

 キリヒコの姿で顎に手を当てていたソイツの体が蠕動しだし、肉体が変化していく。

 やがて、衣服もろともに、ソイツは今までの……キリヒコや清水のものとは全く別の姿に変わった。

 

「……天使…………?」

 

 アヤメがそう溢す。そうとしか言いようがない。

 

 シミひとつない肌。夜だと言うのに輝いて見える白銀の髪。ほとんど白で構成されたそいつに似つかわしくない、黒い翼。

 イザキエルと似たような姿の、女型の天使……いや堕天使か? ともかく、そんな女が目の前に立つ。

 翼を持っている割に、羽ばたいて宙に浮いたりはしていない。

 

「断罪の天使クルルエル。それが私の名だ」

 

 名前言いづれぇよ。

 いや、そんなツッコミをしている場合じゃない。テンパってんな、我ながら。

 

「テメーは……カードの精霊、か?」

「ああ。肉体を得た、な」

 

 なんだそりゃ……!

 クソが、そんなんアリかよッ……!

 

 どんな方法を使ったのかは知らんが、この精霊とやらは肉体を得たらしい。だからアヤメやキリヒコにも見える訳か。アヤメ曰く、精霊が見えるってのも得心が行く。こいつ自身が元は精霊なんだもんよ。

 

 しかも、得たのはただの肉体じゃねえ。

 脳天をぶち抜かれても死なない、他人に変身できるスグレモノだ。なんなんだよコレは……!

 

 本人はまあまあマヌケなようだが、使い方次第じゃあ俺を嵌め殺すことだってできる危険な能力だ。これを放置しておくわけにはいかない。

 

 こいつは、ここで、確実に。

 潰す。

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