イカサマが闇のカードゲーマーに通用した   作:レイトントン

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では、イカサマ師は?

 相手の額に銃弾をぶち込んでも死なない。

 そんなことは今まで経験したことがなかった。当然だ、そんな人間は存在しない。人は脳を破壊されたら死ぬのだ。

 

 しかし。相手は肉体を得た精霊だという。人間でないなら仕方ない。臓器があるかも分かったものではない。なら、そういうものとして受け入れよう。

 ただし、相手が人間じゃなく、脳天を撃ち抜かれても死なない。それだけで相手を殺す……ないし無力化することを諦めるのは早計に過ぎる。

 

 銃で殺せなくとも、別に試せることは多い。

 要は、行動できなくすりゃ良いんだろ。

 

 毒を盛る。

 首を落とす。

 手足を捥ぐ。

 質量で押し潰す。

 全身を炎で焼く。

 体の近くで爆弾を爆発させる。

 コンクリに詰めて海に沈める。

 硫酸に漬けてドロドロに溶かす。

 体をバラバラにして豚の餌にする。

 

 他にも考えれば出てくるだろう。なんなら、銃も場所によっては効果があるかもしれない。さっき銃撃した時は逃げたからな。単に俺とキリヒコ、二人がかりだったからという可能性もあるが。

 

 だが、それらを実行するためには動きを封じる必要がある。まずは何より、目の前の天使サマの情報を可能な限り拾い集めないとな。

 

 とりあえず、目の前の清水改めクルルエルとテキトーな会話で時間を稼ぎつつ、知ってそうなヤツに聞くか。

 

(おい、イザキエル。同じ天使だろ、ヤツのこと何か知らねえのか?)

(そうですね……精霊界ではクルルちゃんと友達同士でしたが——)

 

 クルルちゃんねえ……

 

 イザキエルと脳内で会話して情報収集をしつつ、違和感を持たせないためにも、目の前のクルルちゃんとやらに話しかける。

 目の前で相対しながら、黙ったままでいる訳にはいかねえからな。

 

「おい。キリヒコのカードはちゃんと持ってるんだろうな?」

「ああ、この通りだ。三国カズヤもな」

 

 やはり、キリヒコはこの天使とやらに闇のVSで敗れたらしい。闇のカードを使われたんだろうな。

 

 キリヒコの目が閉じられたカード……と、ついでにカズヤのカードを、クルルエルは提示する。

 ……そういや、カードになったコイツは……なるほどな。

 

「ずっと疑問だったことがあるが、納得がいった」

「……何のことだ」

「俺はスイーパーのアジトで、カードになったテメーを……ハルに返り討ちにされたマヌケを探してたんだよ」

 

 クルルエルの眉間に皺が寄る。おっ?

 この話題は煽りに有効らしいな。さっきは同じような罵倒にも冷静だったにもかかわらず。

 ……ハルに敵愾心を抱いているのか?

 

「しかし。アヤメ、キリヒコ、ナユタでない四人目のスイーパーは見つからなかった」

「お前の注意力が散漫だったのではないか?」

「はっ。この俺がそんな単純な見落としをするわけねェだろ。テメーがカードにされた人間たちの保管場所にいなかったのは確実だ。だから俺は、お前が何らかの方法で自力でカードから逃げ出したんだと考えていた。だが違ったようだな」

「……ほう?」

「テメー、()()()()()()()()()に隠れてやがったな?」

 

 恐らくだが、カードになった自分をデッキごとキリヒコに拾わせ、レアカードの山の中に紛れ込ませたんだろう。

 

 カードの精霊がカードに閉じ込められてるなんて、誰も想像だにしないし違和感も持たないだろうからな。俺もそこまでは深くチェックしていなかった。

 

 ざっくりとはレアカードを検分したが、こいつの名前のカードがあったかどうかまでは確認できてない。なにせ千枚以上はあっただろうからな。

 

 そして、それらが光に導かれて持ち主の元に帰った後、身を隠した……ってところか。

 廃工場だけあり、隠れられそうな場所は多かったからな。

 

「正解だ。なかなか名探偵だな、伊波ハクト」

「別に。現場をよく調べられたなら、そのくらいは予想が付くだろ」

「私は全然付きませんでしたが……」

 

 アヤメが口を挟んでくるが、そりゃテメー(アヤメ)はカードになってただろうが。

 

「キリヒコも、アヤメも、ナユタも。伊波ハクト、お前に付いたという訳か」

「テメーみたいなアホより俺に付いた方が得だと、全員よく分かってるらしいな。賢い部下を持てて嬉しいよ俺は」

「そうか、残念だな。それで、お前に会ったら聞きたいことがあったんだ。ナユタはどこにいる? 彼にはまだ役割がある」

「ナユタ? ああ、殺したよアイツなら。使えねーカスだったからな」

 

 とりあえず嘘を吐いて動揺を誘い、反応を探る。一年前、クレセント・ナイトまでアヤメを探しに来たキリヒコにもやった手管だな。

 

 クルルエルの目的の一つには、ナユタの身柄も含まれていたらしい。わざわざ探すあたり、ナユタの闇の力の触媒としての能力は相当に高いようだ。

 

 俺のことをアヤメから聞き出そうとしたのも、そこに繋げるためだろう。

 アヤメには情報を握らせてないだろうから直接俺に聞こうと考えるたぁ、俺のことをかなり警戒してやがるな。

 こいつもただ間抜けなわけじゃないらしい。

 

「下手な嘘はやめろ。アヤメとキリヒコを生かしておいて、ナユタだけ殺すはずがない」

「言ったろ、あのガキ使えなかったんだわ。アヤメやキリヒコと違ってな。正確にはヤクザに売っ払った。肩書き上はスイーパーの首領だったからなぁ、良い金になったぜ。今頃コンクリに詰められて海の下なんじゃねえか?」

「だとしたら、キリヒコがお前に従うはずがないだろう」

「ナユタは無事だと騙して働かせてるからな。全く笑えるぜ、ナユタのために〜って必死こいて働く姿は。既に死んでるのにそうとも知らずによ」

 

 俺の品性のない煽りに、クルルエルは義憤に駆られたか、眉を顰める。

 

「下劣な男だ。人を騙し、イカサマに手を染めるとは。貴様は私が断罪する」

「おいおい、俺がいつイカサマなんてしたんだよ」

「闇のカードを持ったアヤメに勝てる者など、そうはいない。まして、予選通過に一敗する程度の実力なら、尚更勝てるとは思えん。やはりキリヒコの予想した通り、汚い手を使ったのではないのか?」

 

 試してみたらどうだ? と挑発したいところだが、誘いがあからさますぎるかな。

 

「さぁ、どうだろうな。テメーこそ、確信もなしで人をイカサマに手を染めただの、随分と誹謗中傷してくれるじゃねえか。天使ってのは思い込みで人に罰を下してんのか?」

「人を騙しているのは事実だろう」

「それとイカサマの濡れ衣とはなんの関係もねえだろうが」

 

 しかし、こうして口に出して色々と整理してみると、無力化する手段も見えてくるな。

 

 イザキエルからの情報も頭に入れた。仕掛けるとするか。

 こいつは俺を断罪する気満々のようだ。ちょいと刺激してやればすぐ乗ってくるだろ。

 

「まあいい。お喋りはこの辺にして、トンズラさせてもらうとすっか」

「待て。貴様のような巨悪を逃すと思うか?」

「テメーみたいな間抜けに俺が捕まると思うのかよ?」

 

 むしろとっとと捕まえて欲しいと思いながら、俺は素早く、二発の銃弾を撃ち込む。額にぶち込んでも効果はなかったから、目を狙った。眼球が一時的にでも潰れてくれれば、視界が塞がり、俺たちの逃亡が容易になる。

 そして、そうなればヤツは慌てて闇の空間を展開するはずだ。

 

 クルルエルは銃弾を避けることはせず、闇の力で防いだ。そっちのパターンか。まあいい。

 

 一度闇の力を発動させてしまえば、強制的にVSに持ち込ませることができる。

 物理的に殺そうとすると、結局一度は無力化する必要が出てくる。が、こいつをカードにしちまえば問題は全て解決だ。

 

 闇の空間が夜を覆い隠し、俺とアヤメ、クルルエルが世界から切り離される。

 

「さぁ、捕えたぞ伊波ハクト」

「ありがとよ、まんまと挑発に乗って闇の力を使ってくれちゃって」

「……なに?」

「テメーをカードにしちまえば、テメーが銃で死ななかろうがなんだろうが関係ねえからなァ。無力化するのに一番効率の良い手段は、闇のVSで勝つことだ」

 

 これでコイツの無力化は叶ったようなものだ。

 しかし、クルルエルは俺の罠にかかったと知っても、さして慌てた様子はない。

 理由は大体分かる。

 

「……驚いたな。貴様、私に勝てる気でいるのか?」

「テメーこそ、一年前中学生に負けた癖に俺に勝てるつもりかよ? 言っとくが、俺はハルに勝ったんだぞ?」

 

 そん時はイカサマしてたけど。

 

「それは結束ハルがイカサマを警戒していなかったからだ。結束ハルに、そして闇のカードを使ったアヤメに普通のプレイヤーが勝てるはずがない。イカサマは発覚したら即敗北……同じ手が、警戒する私の前で使えると思うなよ」

 

 クルルエルの言葉に、俺は嘲りで返す。

 発覚即敗北? 笑わせんなよ。そんなのは()()()()ことだ。

 そしてそれは、()()()()()()()ってことでもある。

 

「あっそ。んじゃ、始めるか。闇の力でカードの中にぶち込んでやるよ。カードの精霊は大人しくカードに引き篭もってな」

(それって!! 精霊差別ですよ、我が主!!)

 

 うるせぇ。

 

「さぁ、VSスタートだ」

 

 

 

 

 ハクトさんと、清水……でなくクルルエルと名乗った天使のVSが始まった。私はその場で見ていることしかできない。

 

 ハクトさんが、イカサマをしているのかどうか。それは私にも知らされていない。

 

 ほぼ確実にしている、とは思うが……決定的なところはぼかされている。

 

 当然だ。私はハクトさんに逆らうつもりもないけれど、手口を知らせようとしないのは大いに理解できる。

 そこを突かれたら、ハクトさん自身を危険に晒すことになるから。

 

 

 では、イカサマをしたVSは本当にあったのか?

 

 私がハクトさんのVSを直接見た回数はそう多くない。

 

 私とハクトさんのVS。ハクトさんの恐ろしさを知った後から考えると、イカサマをしていた可能性は確かにある。

 

 スイレンとのVS。これは、イカサマなんてするまでもなかった。スイレンとハクトさんでは、実力に開きがあり過ぎる。

 

 キリヒコさんとのVS。デッキの盗撮は、イカサマと言って良いのか。2戦目は……どうやったのか、キリヒコさんの手札を覗いていた様子だった。あれも恐らく、イカサマだろう。

 

 VS学園では藤宮や、時々他の生徒とVSしているようだったが、イカサマは確認できなかった。

 

 ただ……ハルや、闇のカードを使った私やキリヒコさんは、クルルエルの言う通り常識離れした強さを誇っていた。

 特に、闇のカード。あれは異常だ。あの強さに対抗できたハルがおかしい。

 

 では、ハクトさんも異常な強さを持っていると言えるのか。

 

 ……正直言おう。そうは思わない。

 

 ハクトさんの強さには波がある。

 

 強い時は、ハルよりも強い。が、そうでない時は、恐らくハルと同等の実力を持つ橘に負けてしまう。

 ではその波の高低はどう決まるのか。それが、イカサマの有無ではないかと、私は予想する。

 

 イカサマをすればハルをも凌ぐ。が、使わないとハルと同レベルの実力者には負ける。

 

 こうして整理してみると、ハクトさんがイカサマをしているのは、やはりほぼ確実に思える。

 

 

 

 なら、今回は?

 

 

「カットしろ」

「はいよ。俺の方はテメーなんぞにデッキを触ってほしかねぇが、まぁ仕方ねえか」

 

 ハクトさんのシャッフルしたデッキを渡されると、クルルエルは幾つかの山に分けて無作為に重ね直す。ハクトさんも同様にそれを行い、不正の起きない状況を作る。

 

 キリヒコさんの時は、なんらかの手段で相手の手札を覗いていた。しかし、それは入念な準備に基づいた戦術のはず。今回、相手が存分に警戒している中で、イカサマなんてできるのか?

 

 それも、発覚すれば魂を囚われる勝負で。

 

 

 

 

 

「俺のターン」

 

 ハクトさんはカードを引く。

 その山札を私も注視するが……不審な動きは見受けられない。

 クルルエルも、ハクトさんの一挙手一投足に注目している。これでは、イカサマなんてとても……

 

「俺は魔力3で領域魔法『ジャックポット・スロット・パラダイス』を使用。発動時に5つのCOカウンターを乗せる。さらに発動時と互いのターン開始時にダイスを振り、出た目に対応した効果を適用する」

 

 ハクトさんはダイスを取り出した。

 

「待て。貴様のような男の用意したダイスなど信用できん」

「なら触って確かめてみな。試しに振っても構わねえぜ」

 

 ハクトさんはダイスを投げ渡す。クルルエルはそれを手のひらで受け止めて、ダイスをくるくる回して目の位置や数がおかしくないか確認し、また数回自らの場にダイスを転がして、出目に偏りがないかを確認する。

 

「…………」

「普通のダイスだろ? 分かったらとっとと返してくれ。とっとと終わらせたいんでね」

「何か急ぐ理由でもあるのか?」

「明日は大会本戦だからな。あんま夜更かししたくねぇんだよ」

 

 ねみー、とハクトさんは欠伸をしてみせる。クルルエルを……闇のVSを前にして、全く気負っていない様子だ。

 

「ふん」

 

 クルルエルはダイスを投げ返す。

 

「さ、ダイスを振らせてもらうぜ。出た目は……1だ。一枚カードを引く」

「…………」

「ターン終了だ」

「私のターン。スロットの効果でダイスを振る。……出た目は5だ。もう一度ダイスを振る」

 

 続けて出た目は3。これでスロットには8つのカウンターが乗っている。4を出して破壊したプレイヤーには、8点のダメージとなる。

 

「ククク。もうカウンターが8つか。楽しくなってきたなぁ?」

「……気狂いめ。私は手札から『聖戦の約定』を使用。山札からガーディアン・クリーチャーを1体手札に加える。私は『聖騎士ガルバディウス』を手札に。ガルバディウスは魔法効果で手札に加わったターン、必要魔力を2点減らす。そのまま場に出す」

 

 巨大な盾を持ち、鎧を纏った戦士が場に現れる。

 3/5と高いステータスを持ちながら、ガーディアンとコスト軽減能力を持つ優秀なカードだ。だが、闇のカードではない。

 

 やはり、使用には何か制限があるのか?

 

「従騎士ハルクで貴様に直接攻撃を行い、ターンエンドだ」

「俺のターン。ダイスロールだ」

 

 出た目は……またも、1。

 

「ラッキー。追加でカードを引く」

「——待て。その場から一切動くな」

「あん?」

 

 ハクトさんが怪訝な声を漏らすのをよそに、クルルエルは素早くハクトさんの目の前に躍り出る。そして、場に転がされたダイスを摘み上げた。

 

「…………」

「おいおい、2回連続で1が出たくらいでイカサマを疑ってんのか?」

「貴様に対してはな」

「はっ。まあいい、さっさと調べな」

 

 しかし、クルルエルが幾ら探しても、ダイスに仕掛けはない様子だった。

 ハクトさんの振り方も、特に不審な点があったわけではない。

 

 やはり証拠は見つからず、クルルエルは素直に自分の場に戻る。

 

「俺は魔力2で『分裂するスライム』を場に出し、さらに『2倍法(ツーバイフォー)』でスライムのコピー体を生み出す」

 

 ハクトさんの場にスライムが2匹現れる。

 弱いステータスのスライムを並べたが……何か意味があるのだろうか。

 

「ターン終了だ」

「それで終わりか? ならば遠慮なく攻めさせてもらおう。私のターン……私は魔力3で魔法装具『魔剣バリスクレスタ』を使用!」

 

 その瞬間、私の目はクルルエルの手が妖しく光るのを捉えていた。

 闇の力を使用したな……!

 

「フゥーッ……バリスクレスタは装着したクリーチャーを効果による破壊から守り、またステータスに+5/5の補正を掛ける! これで——」

「待ちな。俺は魔力1で高速魔法『カウンターロール』を使用。ダイスを振り、5か6が出た場合はお前の魔法を打ち消す」

 

 また、ダイスカード?

 疑問に思う間もなく、ハクトさんは三度目のダイスを振る。

 出た目は——5。

 

「当たりだな。テメーの魔法装具は無効だ」

「馬鹿な……貴様、一体どんな手を使っている?」

「あー? 運が良いだけだっての」

 

 ハクトさんはそう言っているが……

 3回連続で、それも最後は三分の一をあっさりと、ここしかないというタイミングで引いた。

 

 おかしい。

 偶然の可能性も、もちろんあるが……それにしては出来すぎている。

 

 何より。

 あのハクトさんが、この命のかかった場面で、偶然に頼るなんてことがあるんだろうか?

 

「魔神よ、この男はダイスに細工を施している。闇の力で裁きを下せ!」

 

 クルルエルが叫ぶ。が、闇の力は反応を示さない。

 

「まさか……本当にイカサマをしていないのか……?」

 

 思わず、といった様子でそう溢すクルルエルに対して、ハクトさんは悪辣な笑みを浮かべる。

 

「そう言ってんだろ? テメーも散々確かめたじゃねえかよ。まあ、仮に俺が細工してたとしても、魔神サマとやらもそれに気付けねえかもな」

「何……?」

 

 

 

「なにせ、()()()()()()()()()()()らしい」

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