イカサマが闇のカードゲーマーに通用した   作:レイトントン

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割と迂闊なところもある

 神はサイコロを……?

 一体何のことだ?

 

「何だ? 神がサイコロを振らない? どこの言い伝えだ?」

「あー……マイナーな映画からの引用だから気にしなくていい」

 

 ハクトさんは、ポリポリと頭を掻きながらそう誤魔化す。ハクトさんにしては分かりやすい嘘だ。

 それは、付き合いの短いクルルエルも感じ取ったらしく、眉を寄せる。

 

「貴様らしくもないな。伊波ハクト、貴様一体何者……いや、まずはVSを進める。が、話は必ず聞かせてもらうぞ。バリスクレスタは無効となった。私は魔力3で『槍騎士ギーラ』を場に出す。このクリーチャーは場に出た時、相手クリーチャー1体に2点のダメージを与える。私は分裂するスライムのコピーを選択」

 

 クルルエルはゲームを続行する。

 ギーラの効果で、2倍法で生み出されたスライムコピーを破壊。スライムトークンが現れる。従騎士ハルクと2体でハクトさんに直接攻撃……ではなく、分裂するスライムの本体の方と、倒した後に出現するトークンを破壊した。

 

「へえ? 俺への攻撃でなく、スライムを破壊したか」

「雑魚を並べたのはクリーチャー全体を強化するためだろう。それを防ぐのは当然のことだ」

「そうかよ。お前の攻撃は終わりだろ、とっととターン終了を宣言しな」

「……ターン終了」

「俺のターン、ドロー。そして、スロットの効果を適用、ダイスを振る。出た目は、5だ」

 

 5の時のスロットの効果は、再びダイスを振り、出た目の数だけCOカウンターを乗せる。そして、スロットが破壊された時、破壊したプレイヤーにはその時に乗っていたカウンターの数だけ、ダメージを与えることになる。

 ハクトさんの再度のダイス。出た目は6……追加で6つのカウンターが乗せられる。

 

 これで、合計14点。4を出してしまえば、生命力の大半が吹き飛ばされることになる。

 

「ククク、面白いことになってきたな。さぁ、良いカードを引いた。早速使わせてもらうか」

 

 ハクトさんが出したカードは……エースカードのイザキエルとは違う、そして敵対するクルルエルとも違う。南の島で焼いたハクトさんに近い、小麦色に焼けた肌の天使だ。

 

「……! ディセル……!」

「へぇ。天使サマ同士お知り合いってか? ならコイツの効果も知ってるんだろ?」

「……まずはダイスの目の奇数偶数を当て、敵味方どちらに強化を行うかを決定する。そして、その後のダイスで強化値を決定する……まさか……!?」

「今日の俺の幸運なら、なかなか面白い目が出そうだなぁ? お前の場のクリーチャーはギーラとハルク、ガルバディウスの3体。よってお前の場のギーラとハルク、俺の場のクリーチャー2体、ディセルとスライムトークンを対象にして効果を発動する。さ、まずは丁半博打だ。俺は丁に賭けるぜ」

 

 ハクトさんはダイスを振る。出た目は……4。

 

「強化されるのは俺のクリーチャーだな」

「またも貴様の都合の良いように! 一体、何がどうなっている……!?」

「続けて強化値だ。行くぜ」

 

 出た目は……6!!

 

「そ、そんな、馬鹿な……!?」

「はーっはっは!!! 最大値だ! 俺の場のスライムトークンとディセルの攻撃力体力は、6点強化される!!」

 

 ハクトさんは髪をかき上げ、高笑いする。完全に悪人側だ。

 

 元は貧弱も貧弱だった、0/1のスライムトークン。そして、強力なギャンブル効果を持つ代わりに、魔力6にしては2/3と低いステータスだったディセル自身が、+6/6の補正を受けた。

 

 ハクトさんの場のクリーチャーは、あっという間に6/7と8/9という強力なステータスを持つクリーチャーに生まれ変わった。

 

 しかし……ハクトさんの出目。いくらなんでも、幸運で済ませるには彼に都合の良い目が出過ぎている。

 

 ……もしかしたら、ハクトさんは……

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()のか……!?」

 

 

 

 思わず、私はそう溢していた。慌てて口を塞ぐ。ハクトさんに、余計なことを口にするなと叱責されかねない。

 

 しかし、それを耳聡く捉えていたらしいクルルエルは、驚きに目を見開く。

 

「ダイスの目を、自由に操る……だと……!?」

 

 信じられない、というようにクルルエルは口にする。だが、改めて思い返してみれば……兆候はあったような気はする。

 

 私は、以前ハクトさんの自宅に招かれ、藤宮の作ったクッキーの処理をした時のことを思い出す。

 彼は学生向けの歴史の本を読みながら、片手でダイスを振っていた。

 

『どうした?』

『いえ、その……ハクトさん。さっきからダイスをずっと転がしていますが……』

『ああ、手癖でな。ペン回しみたいなもんだから気にするな』

『はあ……』

 

 何をしているのか聞いたら、手癖だから気にするなと言われた。けれど、ダイスを振る手癖? そんなものは聞いたことがないし、何よりハクトさんがそんな意味のないことをするとは思えない。

 

 あれは、まさか……訓練、だったのか?

 

 あの時、出た目やダイスの振り方は完全にランダムだった。

 それが満遍なく全ての目を、自らの思い通りに出すための訓練だとしたら?

 

 普通はダイスの目を思い通りに出す、なんてできるはずがない。けど、ハクトさんなら……出来るんじゃないか、なんて思えてしまう。

 それだけ、今までハクトさんはとんでもない行動を繰り返してきた。

 

 ハルや私、キリヒコさんを圧倒する。

 闇の力を自由自在に使いこなす。

 VS学園では、あっという間に生徒や先生たちの信頼を勝ち取る。

 

 ハクトさんなら、もしかして……

 

「おいおい、アヤメ。何の根拠があって俺がダイスの目を操れるってんだ?」

 

 ハクトさんは、にやりと笑みを浮かべながら。それでも、クルルエルから一切目を離さず、私に問い掛けてくる。

 徹底している。彼は、私に意識を向けながらも、クルルエルから……敵対する相手からは一切の気を離さない。

 ハクトさんが「話を続けろ」と言いたいと解釈した私は、そのまま言葉を続ける。

 

「それは……ハクトさんは以前、私に部屋でクッキーを食べさせている間、ダイスを振り続けていましたよね? あれはダイスの目をコントロールする練習だったんじゃないですか?」

「なんだと……!?」

「ああ、ンなことしてたな。だが、あれは手癖だって言ったろ? カジノの元ディーラーとしちゃ、たまーにダイスに触ってたい気になる時があんだよ。仕事柄な」

 

 あくまで、ハクトさんは自らが賽の目を操っているとは認めようとしない。

 

「馬鹿な! この男は予選で何度もダイスの目を外していた。自由にコントロールできるのであれば、そんなことにはならない!」

「いやいや、ダイスの出目を完全にコントロールなんて出来ねえって」

 

 確かに、私との試合でもハクトさんはダイスのツキが良くない、と愚痴を溢していた。

 

 だが……ダイスの目をコントロールできるなら、予選で外すことは起き得ない。

 本当にそうだろうか?

 ダイスの目を自由に操れるのであれば、()()()()()()()も容易なことなんじゃないのか?

 

 予選はあくまで予選。本番じゃない。

 手の内を隠すのは、ごく自然なことだ。

 

 まして、狡猾が服を着ているようなハクトさんのこと。こんな極大のメリットを公衆の前に晒すような真似は……ちょっと考えられない。

 もしかすれば、まだハクトさんには考えがあるのかもしれないが……

 

「さあ、まだ俺の攻撃が残ってるぜ。ディセルは突撃効果を持つ。場に出たターンでもクリーチャーに攻撃可能だ。まずは目障りなガルバディウスから潰させて貰うとするか」

 

 浅黒い肌の天使が、金髪の爽やかな騎士、ガルバディウスに掌を向けて、光線を放ち、お腹を貫いた。続けて、強化されたスライムトークンがクルルエルに襲いかかる。クルルエルの生命力が、一気に6点削られた。

 

「ターン終了。さあ、カードを引きな」

「私のターン!」

 

 クルルエルがカードを引く。そして、スロットの効果でダイスを振る。

 

「6だ。6の効果はメリット効果だったな。3点の生命力回復だ」

「良かったじゃねえか。ま、3点程度ならすぐに削り取ってやるがな」

「……意識して振ってみたが、信じがたいな。だが、本当に貴様がダイスの目を自由に操れるとしたら、劣勢なのは私の方か。ならば、私も覚悟を決めよう」

「覚悟だあ?」

「出し惜しみはしない、ということだ」

 

 再び、クルルエルの手に闇が宿る。

 また闇の力でカード効果の書き換えを行おうとしているようだ。しかし、これまでとは少し様子が違う。

 

 クルルエルの、他者の姿に変身する肉体。それが、ミシミシと音を立てて変容している。

 

「くっ……!」

「な……なんだ……!?」

 

 彼女の右目が、黒く染まって行く。

 まるで、闇の力に彼女自身が汚染されていくように。

 

「私は、魔力7で私自身を場に出す!」

 

 叩き付けるように、場にカードを出す。

 MR映像として現れた彼女の姿は、目の前のクルルエルと同じ姿で……しかし、明確に違う点が幾つもあった。

 

 クリーチャーとして場に出たクルルエルの姿は、純白の翼を持ち、変異した右目も元のまま。これが、本来の彼女の姿なのだろう。

 

「なるほどなぁ。闇の力はテメー自身にも大きく負担をかけるって訳だ。使いたがらねえ理由が分かったぜ。随分醜い姿になったもんだなあ、天使サマ?」

「同意見だな。闇の力に手を染めた私に相応しい姿だ。だが、代償を払った分の力は大きいぞ」

 

 クルルエルがにやりと笑った直後、ハクトさんの場のディセル、スライムトークンが苦しみ出す。やがて2体の姿が消えて……クルルエルの場に移動する。

 

「俺のクリーチャーがヤツの場に……!?」

「闇のカードと化した私の効果だ。効果でステータスが変動しているクリーチャーのコントロールを得る!」

 

 ハクトさんも驚愕の顔を見せる。ディセルの効果を上手く逆利用された形だ。

 スライムトークン、ディセルは、ディセルの効果でステータスが上昇している。つまり、コントロールがクルルエル側に移ることになる。

 

「私は私を除くすべてのクリーチャーで、貴様に直接攻撃!」

 

 場に出たターンに攻撃が出来る、『速攻』を持っていないクルルエルを除いた4体のクリーチャーによる直接攻撃。8点、6点、2点、1点……合計17点ものダメージがハクトさんを襲う。

 一気に大量のダメージを受けたハクトさんは、不愉快そうに顔を歪める。

 

「やってくれやがる……! テメー、本来はステータスが変わったクリーチャーの破壊と、その元々のステータスの吸収だろ。それがコントロールの奪取とは、闇のカードらしく随分強力になってるじゃねえか」

「さあ、貴様の場はガラ空きとなったぞ。ここから逆転できるのか?」

 

 クルルエルにクリーチャーのコントロールを奪われたことで、ハクトさんの場はガラ空きとなった。

 確かに、この盤面からの逆転は普通は難しい。だが……ハクトさんは、(恐らく)ダイスの目を自由に操れる。

 

 だとすれば——ハクトさんの優勢は揺らがない。

 

「ククク……このまま続けりゃ、テメーが4を出すのも時間の問題ってヤツだ。その時が楽しみだな」

 

 そう。クルルエルは、自分だけいつ爆発するとも知れない爆弾を抱えているのと同じこと。

 

「自分は引かない前提か? やはり、ダイスを操っているのは自らの技術だというのか……凄まじいな……」

「しつけーな、自由に操るのは無理だっつーの」

 

 相変わらずハクトさんは否定するが、もはやクルルエルはハクトさんがダイスの目をコントロールしているのを疑っていないようだった。

 

「……なるほどな。さっきの言葉は、ダイスの目をコントロールできるのであれば、振る必要すらないという例え話か? 面白い表現だ」

「天使サマが面白いとか言っていいのかよ。つーか俺が考えた訳じゃねーし、あれは神がどうこうと言うより……いや、なんでもない」

 

 歯切れの悪そうなハクトさんに、クルルエルも首を傾げる。

 

 ハクトさんは……さっきの『神はサイコロを振らない』というのもそうだが、時たま私たちが見たことも聞いたこともないような言葉や名称を使うことがある。

 それについて問うと、決まって誤魔化されるのだ。

 

 今回もその類だろう、と私は見逃そうとしていた。しかし。彼の対戦相手は、そうではなかった。

 

「マイナーな映画の引用、か。しかし、それにしても全く聞いたことが……」

 

 クルルエルはハッと、何かに気付いたように目を見開く。

 そして、その表情は熟考の冷静さから打って変わり、どんどん憤怒に染まっていった。

 

「今までの言動、我々の知らない言葉の引用、そして……伊波、ハクト。貴様、まさか……()()の存在か……!」

 

 質問というより、それは確信染みたものを湛えた言葉だった。

 しかし、外側? どこから見た外側のことだ?

 言われたハクトさんは……確信したような問い詰められ方だというのに、特に焦るようなリアクションはない。というより、困惑している様子だった。

 

「外側? 一体何のことだ」

 

 問い掛けるハクトさんに対して……クルルエルは、想像だにしないことを口にした。

 

「とぼけるな。貴様、()()()()()()()()()()()()()()

 

 クルルエルの言葉は、理解不能だった。

 

 ハクトさんが……この世界の人間じゃない……!?

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