イカサマが闇のカードゲーマーに通用した   作:レイトントン

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ハワイで親父に教わったわけではない

 先方にアポイントメントを取り付けた俺はガキ共を連れ、クレセント・ナイトのあるエリアを歩く。ガキ共からしちゃアンダーグラウンドな雰囲気は新鮮だろうな。だがあまりきょろきょろしないで欲しい。

 こういう、その場の空気に慣れてないヤツは絡まれやすいんだ。

 

「ハクトさんはこの辺に住んでるの?」

 

 迷いなく歩く様子から判断したのだろう。マナブはそんなことを聞いてくる。丁度良い。話に集中していれば絡まれる可能性も減る。

 スリのリスクは高まるが、俺が気を付けていればいい。

 

「ああ。職場の近くにな」

「ご、ご家族と一緒にですか?」

「いや、一人暮らしだな。職場近くのマンションに住んでる」

「マンション、一人暮らし……! 良いなぁ。ボクも一度、一人暮らししてみたいです!」

 

 ハルはキラキラと目を輝かせているが、家庭環境が悪くないなら、別に一人暮らしなんて職に就いてからでも全く遅くない。

 逆に家庭環境が悪いなら一刻も早く出た方がいいと思うが……まあ、顔色や服装等々見るにそれはないだろう。

 

「何にせよ金が要るぞ。高校生になったらバイトでもしてみるんだな」

「バイトかぁ……ハクトさん、クレセント・ナイトって……」

「ばーか、裏カジノだぞ。ガキは雇わねえよ」

「むぅ。ハクトさんガキガキって言いますけど、ボクたち来年には高校生なんですよ! ガキじゃありません! それにハクトさんだってそこまで歳変わらないじゃないですか!!」

「はいはい。ガキはガキ扱いされたらすぐ怒るんだよなぁ」

「むぅぅぅ!!!」

 

 ハルは頬を膨らませて怒っている。素直で揶揄いがいのあるヤツだ。

 ……まあ、あまり揶揄いすぎるとマナブからの視線が険しくなりそうだ。この辺にしとくか。

 

「お前ら中三なんだったな。闇のVSプレイヤーを成敗だのなんだのしてて良いのかよ? 受験勉強は?」

「俺とハルはVSで推薦を貰ってるよ。スイレンは……すごく勉強できるから。全員、VS学園に進学する予定なんだ」

「へぇ、VS学園ねぇ」

 

 VSのプロを養成するための学園だったな。なんでも、校内に無数のVSスペースがあり、揉め事は大体VSで解決するのだとか。

 あとは……たしか、VSの強さでランク付けがされるんだっけか。いや、上位10名には学内での特権が与えられるだったかな?

 どちらにせよ、とんだファンタジー学校だ。

 

「ま、受験の心配がないなら俺がとやかく言うことはもうないな。さ、ぼちぼち目的地だ」

「な、なんかクレセント・ナイトと似たような……どこにでもありそうなビルなんですね」

「裏の人間の拠点なんて大体こんなもんだ。じゃ、一応事前連絡はしてあるが、連中にはちゃんと紹介させてもらう。精々頑張ってスイーパーを潰してくれや」

「え、あ、あの……ハクトさんは……」

 

 珍しく、口数が少なく大人しい印象だったスイレンが口を開いた。

 怖がらせないよう注意を払いながら、言葉を選ぶ。

 

「俺は仕事がある。長いこと付き合ってやれん、ここまでだ」

「でも……スイーパーは悪い人たちなんですよっ。人間、の魂を……その、カードに閉じ込めちゃう……!」

「そりゃ分かってるが、俺も暇じゃないんでな。情報提供をしたのは、ハルとの契約があったからに過ぎない。それ以外は俺の関知するところじゃないな」

 

 ……と。スイレンが俯いてしまっている。

 少し強く言い過ぎたか。戦力にならないこいつのメンタルなんぞ気にする必要はないが、ハルにそれが波及すると、俺の目論見が外れる可能性が高まる。

 テキトーに優しい言葉をかけてやらないといけないか。面倒な……

 

「もっとちゃんとした大人を頼んな。警察とかVS連盟とかな。まだガキなんだ、自分たちだけで解決しようとしなくていい」

 

 当然、そういった表の組織も解決に動いている。

 ただ、この世界の警察は……なんかちょっと頼りない。VS連盟というカードゲーム至上主義の組織が台頭しているからだろうか?

 

 そのVS連盟も、所属する連盟員の実力はピンキリだ。上はハルよりずっと強いような化け物で、下はイカサマなしの俺に惨敗するようなレベル。

 

 ……もしかしてコイツら、警察や連盟が頼れないから自分たちで解決するしかない、とか思ってるんじゃないだろうな……?

 

 まあ、かといってわざわざ俺が助力してやる気はサラサラないんだが。

 

 

「いえ。俺たちは自分たちの力で解決してみせます。ここまでありがとうございました」

 

 

 俺の見せかけの善意からの言葉に対してスイレンではなくマナブが、先ほどまでとは打って変わってキッパリとした口振り、かつ敬語で言い切る。その様子で、俺は自らの失言を悟る。

 

 地雷踏んだか……?

 さっきまで散々ハルをガキ煽りしていたから問題ないと踏んでいたが、守られるだけの子供扱いはされたくないとか、そういった心境か?

 いや、考えすぎか? 単に俺がハルやスイレンと話しているのが気に食わなかっただけか?

 

 分からん。が、ハルとスイレンの不安そうな顔付きから見ても、下手に突かない方が良さそうだ。

 

「オーケー。中の連中に紹介したらすぐに帰るわ。お前らだけで行ったら門前払いされて終わりだからな」

「ハクトさん……」

「お節介を言ったが、別にお前らだけでもスイーパーはなんとかできるだろ。次会う時は、お前らがスイーパーを止めた後だ。期待してるぞ」

 

 お前らが俺にレアカードを貢いでくれるのを。

 

「……はい!」

 

 ハルは何かを覚悟したように、それでいて嬉しそうに返事をする。

 いや、お前俺にスイーパーが集めてたレアカード渡すの忘れてねえだろうな。なんでそんなモチベ高ぇんだよ。

 

 雑居ビルの階段を登っていく。そして、裏の実力派VSプレイヤーたちの集まるヤク……裏組織の事務所の前まで辿り着いた。

 

「コワモテばっかりだが気にしなくていい。VSはお前らの方が強いからよ」

 

 緊張を解すつもりでそんなお優しい言葉をかけながらノックする。

 

笛吹(うすい)の旦那、クレセント・ナイトの伊波っすけど」

 

 そう中に呼びかけるが、返事はない。

 それだけで俺は警戒レベルを最大まで引き上げた。

 

「……? 留守、でしょうか」

「馬鹿か、事前にアポ取ってんだぞ。裏の人間でも時間くらい守る」

「え? それってどういう——」

 

 呑気なガキ共は、それでも俺に合わせて小声で応えた。世間知らずのガキにしては上出来だ。騒がれたら中の()()()()にも勘付かれるところだった。

 

 どうする。退くか?

 ガキ共を囮にして置いて行けば余裕で逃げられるが、苗字と所属まで名乗っちまったからなぁ。辿られるとちょっと面倒か。

 俺がとっとと取り押さえた方が話が早い。

 

(おい。イザキエル)

(はい、我が主。私はここに)

 

 カードの精霊は、意識的に頭の中で話しかければテレパシーのような真似ができる。

 三人の前だし、精霊との会話を口にするわけにはいかないからな。ガキ共にいきなり独り言を始めた可哀想なヤツと思われるのは嫌だ。

 

(事務所内の様子を確認してこい)

(了解しました)

(俺は間を繋いでるから手早くな)

 

 イザキエルはすっ、と扉をすり抜ける。精霊の体は便利だな。

 

「旦那ー? いないんスかー?」

 

 何も話さないのも不自然なため、扉を叩きながらそう中に呼びかけ、場を持たせる。

 

 イザキエルはすぐに戻ってきた。

 

 笛吹組の組員と招集されたVSプレイヤーは誰もいない。組長の机には黒フードが腰掛けている。一人だけ、他に潜伏している者は、少なくとも事務所内にはいない。

 なるほど、スイーパーを狙おうとしたところを、逆に襲撃されたってわけだ。

 

「なんだ、居ねーのか?」

 

 わざとらしくデカい声で扉の向こうのスイーパーに聞かせつつ、

 

「お前ら、ちょい退がってろ」

 

 小声でガキ共を退がらせる。

 ガキ共が十分退がるや否や——

 

 バン! とドアを蹴破り、素早く部屋の中に体を滑り込ませる。

 

 帰るか、入るにしても普通にドアを開けて入ると考えていたのだろう。突入を想定してなかったらしく、慌てて腰掛けていたデスクから降りる黒フード。

 一息で距離を詰め、首元に手を伸ばす。ギリギリで身をかわされたがフードの端を引っ掴み、床に叩きつけ、右手を捕り動きを封じる。

 

「動いたら腕へし折るぞ。てめえはスイーパーの構成員だな? 中にいた連中をどうし——」

「貴様……離れろッ!」

「ッ!」

 

 完璧に抑えたと思ったが、黒フードの体……いや、左手の先に持ったカードから紫紺の光が発せられ、俺の体を念動力のような謎めいた力で弾いた。

 

「なんだそりゃ……ッ!?」

「私を床に押し倒すとは……やってくれたな」

 

 くそ、超能力かなんかか? ふざけやがって……なら文明の利器を使わせてもらおう。

 俺は定番の隠し場所である組長のデスクの下に手を伸ばし、()()を掴み取る。この世界の人間は、せっかくこういうモンがあるのに、用意するだけしてあまり使用しないんだよな。

 脅しの道具くらいに思っているのだろうか。違うな。こいつはこう使うもんだ。

 

「貴様は一体……」

 

 俺はそいつを黒フードの足、膝の辺りに向けて、引き金を絞る。

 

 パン!

 

 乾いた音が響き、俺の握る()()から弾丸が発射された。

 

「な、あッッ!?」

 

 黒フードは動揺して身を縮めるが、闇の力とやらは物理的な攻撃に対しては自動で防御を行ってくれるようで、銃弾は俺の体と似たような形で弾かれてしまう。

 ちっ。

 

「おおおおおおまおま、お前ッ! 何するんだ!?」

「ここは裏の組織の事務所だぞ。銃くらいあるわ」

「そういう問題じゃないだろ! 殺す気か!?」

 

 いや、情報を吐かせたかったから動きを止めるつもりだった。

 そうでなくとも、闇のVSなんてもんを仕掛ける人間が殺される覚悟もなくやってるだと?

 それはさすがにお笑い種だ。

 

「伊波と言ったな、貴様何者だ!? そんなに器用に扱えるなんて一般人じゃないな!?」

「こんなの、俺の地元じゃ箸みてぇなもんだ。赤ん坊じゃなきゃ皆使える」

「どこの世紀末からやって来たんだ……!」

「は、ハクトさん!」

「凄い音が聞こえたけど、大丈夫なんですか!?」

 

 ガキ共がぞろぞろと中に入ってくる。

 ちっ、さっさと帰らせとくべきだったな。今となっては、こいつらは邪魔だな。銃を見られたら面倒だし、ギャラリーが多いとイカサマがバレるリスクが上がる。

 

「お前ら逃げろ!」

 

 銃を隠しつつ、ガキ共に呼びかける。

 

「ッ、逃がすと思うか?」

 

 しかし、冷静さを取り戻したらしい黒フードから広がる紫紺の靄のようなものが空間を侵食していき、あっという間に部屋を覆い尽くした。

 ガキ共に聞いていた、スイーパーが獲物を逃さないための檻。

 俺もガキ共も、そして黒フード自身も。誰も外に出られない。この黒フードにVSで勝つまでは。






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