【書籍化】イカサマが闇のカードゲーマーに通用した 作:レイトントン
あんまり4章としてのボリューム取れなかったのであと5話くらい3章が続きます。
あと書籍、コミカライズ決まりました! 皆様ありがとうございます!
「あ、ハクトさん」
「マナブ。ちゃんと話すのは久しぶりだな」
アヤメの控室から出て会場をぶらついていると、ハルの友人であるマナブに遭遇する。俺が試合に向かっているのを分かっている彼は、歩きながら俺に話しかけてくる。
VS学園では度々会ったが、俺が講師を降りてからはとんと話す機会がなかった。控室で顔は合わせてたが、一対一で話すのは大体二、三ヶ月ぶりだろうか。
こいつもチャンピオンシップに参加し、本戦トーナメントまで残った。前回を超える成績を残した訳だ。
VS学園での勉強の成果が出てるのもそうだが、トーナメントの組み合わせに救われた部分が大きい。ハルとミカドだけでなく、嵐山やキョウカとも当たることがなかった。
嵐山は去年、マナブを下した相手。プロ選手ということもあり、今年も当たっていたらまず勝ててはいなかっただろう。
しかし、わざわざそんなことを口にする必要もない。褒めておくとしよう。
「決勝トーナメント進出とは見事だったな」
「いや、くじ運が良かっただけだよ。ハクトさんより断然ね」
「ハルと当たるのはなぁ……」
「ハクトさんには悪いけど、俺はハルが勝つと思ってるよ。前の試合ではハルが上回ったし」
前の試合。スイーパーを片付けた後、ハルに報酬として無条件でVSを受ける、と約束した俺は、こいつらがVS学園に入学する前に試合を行った。
結果は俺の敗北。転生召喚という特異な召喚法には驚かされた。
想定外。もちろん、それも敗因の一つではあるが、俺が負けたのは単純にハルの実力が俺の地力を上回っていたからだ。はっきり言って、イカサマを使用しないで勝てる見込みがない。
カードの性能では負けていない。
俺は稼いだ金に物を言わせて、レアカードでデッキを固めているからだ。また、レアカードではないがギャンブルカードはそのランダム性の高さからかレアリティは低いものの、イカサマで強制的に当たりを引けばその性能はレアカード以上となる。
なら、ハルも同様に金銭でレアカードを集めているのか、といえばそうではない。
カードパック、というVSカードの販売形態がある。
完全にランダムな5枚のカードが封入されている袋で、子供の小遣いでも買える値段で販売している。
しかし、VSのカードの種類は膨大な上、その全てのリストなどは存在しない。VSのカードを生産しているとされる連盟は、カードの全容を公開していないのだ。
インターネット上では有志によるリスト化も試みられてはいるものの、芳しくない。自らの所有するカードの性能、つまりは手の内を進んで明かしたがる者が少ないのだろう。
もちろん、大会などで映像の残っているカードも多くある。例えばそれは汎用性の高い『テンペスト』であったり、あるいは『ヴォーパルソード・ドラゴン』や『疾走するワイバーン』など、大会で好成績を残したプレイヤーの使用するカード。
とはいえ、それも極一部の例外。カードパックは、未知のカード群の中から完全にランダムな5枚のカードを拾い上げる、つまりは完全に運任せなカード集めの方法なのだ。
俺も何度か試みてはみたものの、二枚目以降のイザキエル以外に性能の良いカードはほとんど手に入らなかった。
その点、ハルはぽんぽんと実践級のカードをパックから当てているとのこと。
大して金をかけているわけでもないのに、俺と同等のスペックのデッキを構築するだけのカードを集められるとはな。泣けてくる話だ。
カードの性能はほぼ同等。だが、向こうには転生召喚がある。イカサマがなければ、かなり俺に不利と言える。
「できたら決勝トーナメントには残りたかったが、厳しそうだな」
「……ああ言っておいてなんだけど、諦めるの早くない? ハクトさん一応先生なんだからさ、生徒に良いところ見せてよ」
「元講師な。それに、俺の担当は盤外戦術だ。VS自体は本業じゃあない」
「屁理屈じゃん」
ハルを応援しつつも、俺に対しても応援する素振りがある。一時期は恋敵と勘違いされ敵意を受けていたものだが、それも随分と薄まったものだ。
スイーパーの時の言葉が効いているのだろう。それに、あれから一年が経過している。俺がハルと会う機会も少なくなっているし、俺は警戒対象でなくなっているはず。
「……ま、諦めが早いってのはその通りだ。精々抗ってみせるとするか」
思ってもいないことを口にする。
アヤメの活躍により、ここで無理にハルに勝つ意味はなくなった。そんなことをしなくても、前夜祭に呼ばれるからだ。
もちろん、不自然にならない程度に善戦する必要はあるが、そう難しいことではない。
それに負けてもいい状況となった今、このVSには
「……あ」
ふと、マナブは進行方向に目を向けて、そんな声を漏らした。原因は明白だ。
マナブの視線の先には、二人の大人と話す彼の幼馴染の姿があった。
「ハル」
声をかけると、制服姿の彼女はこちらに振り返った。
バスクベレーを被り、男装時は纏めていた髪を下ろしている。こちらの姿にももう慣れたものだが、会場のファンは驚いたのではないだろうか。昨年まではボーイッシュな姿だった彼女を知っていると。
「ハクトさん! マナブ!」
花の咲いたような笑顔で、こちらの名を呼ぶ。片手をあげてそれに応じるとともに、彼女と話していた二人の顔を見る。
それだけで、初対面なものの二人とハルの関係性は察せられた。ハルの両親だろう。顔が似てる。特に、母親らしき女とだ。
「マナブ、今年もハルを誘ってくれてありがとうね」
女は、俺の隣のマナブに微笑んだ。今年も、か。去年のチャンピオンシップは、マナブから誘ったんだったか。しかし、今年もマナブから声をかけたとは。
ハルも元々参加する予定ではあっただろうが、マナブも意外と積極的だな。
「俺が誘わなくても、ハルは参加したと思うけどね」
「でも誘ってくれて嬉しかったよ。あと、決勝トーナメント進出おめでとう!」
「あ、ああ。ありがとう」
マナブへの祝福を述べた後、ハルは今度は俺の方へ向き直った。その瞳には、真っ直ぐな闘志がメラメラと燃えている。
「ハクトさん、勝ち上がってきてくれてありがとうございます。今度も負けませんよ!」
「おう。俺も手加減はなしでやらせてもらうわ」
イカサマはしねえけど。
負けてもいい上に衆人環視の勝負で、わざわざイカサマするなんて馬鹿らしいからな。
嬉しそうに目を輝かせるハルから、両親に目を向け、丁寧に礼をする。
「ハルさんのご両親ですよね。はじめまして、伊波ハクトと申します。VS学園で臨時講師をしていました」
カジノ従業員だと伝えたら少々面倒であるため、便利な方の肩書きを使う。
ソウジロウ氏の依頼を受けたことによる恩恵だが、思いの外使い勝手がいい。
「おお、あなたが。話はハルから聞いています。頼りになって、尊敬できる先生だと。お若いのに名門校の講師なんて、立派な方だ。娘にご指導賜り、ありがとうございます」
父親の方が、握手を求めてきたのでこれに応じる。
真面目、かつ穏やかな印象の男だ。柔らかい笑みを浮かべており、眼鏡の奥の瞳からはさっぱり敵意を感じない。まるで荒事とは無縁、といった様子。ごく普通の父親だ。
カードゲームの試合とはいえ、これから娘と対戦する相手に対してこの態度とはな。
「とんでもない。ハルさんはとても聡明で、講義もいつも真面目に受けていましたよ。VSの実力も飛び抜けていますし、私の助力など微々たるものです」
世辞を言って好印象を与えておく。ハルが真面目で聡いのは事実だが。
しかし……やはりというか、スイーパーのことは両親には話していないようだな。
理由は大体想像できる。心配をかけたくないとか、そんな話だろ。特に両親はパッと見まともそうだし、娘が闇のカードゲーマー相手に立ち向かおうとするなら止めるだろう。スイーパーの件で、深夜に抜け出したのを何と言い訳したのかは気になるところだな。
「ただ、ハルさんにも言いましたが、試合については手を抜いたりはできませんよ。VSには大人も子供もない。手加減などしては、あっさりやられてしまうでしょうから」
「はは、もちろんです。親バカと思われるかもしれませんが、うちの娘の実力も大したものですからね。あなたの考え通り、加減などしたら圧勝してしまいます」
「やめてよお父さん! 恥ずかしいから!」
「よくよく存じております。ハルさんはVS学園でも指折りの、とても優秀な生徒ですから」
娘を褒められて気をよくしたのか、父親は手で口元を隠して笑う。母親の方は、父親に同調し微笑みを浮かべつつ、俺の方をじっと見つめていた。
やがて彼女はハルに対して、何事かを耳打ちする。それを聞いたハルは、見る見るうちに顔を真っ赤にしてしまった。
「も、もう! お母さん!」
「あら、図星だったのね」
「ち……いや、だから……!」
母親は頬に手を当てながら、楽しそうにハルを揶揄っている。
「どうしたんだ、お母さん?」
「あなたは知らないで良いのよ」
「お母さん、絶対言っちゃダメだからね……!」
父を除け者にしつつ、微笑む母を叱る娘。しかし、仲が悪いわけではない。楽しそうに団欒する、結束家の三人。目の前で行われているやり取りを、俺はどこか遠い出来事のように見つめていた。
円満な関係の父親と母親。愛される娘。
なるほど、これが普通の家庭ってやつか。知識としては頭に入れていたが……。
「……では、私はこれで。ハル、試合を楽しみにしてる」
「私もです。ハクトさん、良いVSにしましょう!」
マナブは結束一家ともう少し話をするつもりなようだ。俺は一人、彼らから離れる。
「両親、ね」
自身のそれと比較してみると、苦笑が漏れる。
俺とハルの試合を残して2回戦が次々と決着していった。
そして、ついに俺とハルとの試合が始まる。
◆
分かってはいたが、ハルの実力は俺を凌駕している。
まだ奥の手、転生召喚も使っていないというのに、状況はほぼ互角。いや、僅かにあちらが押している。
『結束選手、切り札のヴォーパルソード・ドラゴンで相手クリーチャーを一掃! 伊波選手の作った有利をぶち壊した!』
『前のターンに使用した補助魔法で一気に手札を0枚から3枚まで増やした。さすがの伊波選手も、ここで切り札を引いてくるとは予想外だったことでしょう』
ばーか、ハルならそのくらい引いてくると思ってたっつーの。前のターンに布石を打っていたのなら尚更だ。
的外れな解説席は置いといて、俺はハルの切り札、ヴォーパルソード・ドラゴンの威容を改めて見遣る。
炎を纏った紅龍だが、その体力は6点にまで落ちている。俺のクリーチャーを攻撃した影響だな。
転生召喚には転生元となるクリーチャーが必要になる。つまり、ここでヴォーパルソードを破壊できさえすれば、転生召喚の脅威は大幅に下がる。
だが、俺の手札にはそれが叶うカードはない。山札から引き込むしかないわけだ。
リスクをメリットが上回るのであれば、イカサマで好きなカードを手札に持ってくるところだが……今回、無理に勝つ必要はない。
ただし。俺は一種の期待をしていた。
山札の上をじっと睨む。ある種の念を送りながら。
『伊波選手、自らのデッキに緊張の視線を送っています! 万事休すか!?』
別に神に祈ってるわけじゃない。
俺はクルルエルとのVS、そしてアヤメとミカドのVSを思い起こしていた。
追い込まれた時、山札の一番上のカードが輝く怪奇現象。
初めこそ正体が分からず警戒、回避したが、後からケネスの話を盗み聞きしたところ、強力なカードが手に入るきっかけであるということを改めて確認できた。
転生召喚。共鳴召喚。帝王召喚。まだ見ぬ特殊な召喚方法。
同じ召喚方法が手に入るかどうかは定かではないが、もし俺独自のものが手に入ったとしても、それはそれで構わない。
レアカードがタダで手に入るなら損になることはなにもない。俺のデッキと噛み合わず使えないのであれば、売ってしまえばいいのだから。
クルルエルの時は命懸けのVSだったため、俺もスルーせざるを得なかったが……このVSのように勝とうが負けようが大勢に影響のないVSであれば、レアカードが手に入るのはむしろ歓迎というもの。
さあ。光り輝け、俺のデッキよ。
……と念じてみたものの、反応はない。
ちっ。そう上手くいくとは思っていなかったが、ダメか。
「ドロー」
仕方なく、そのままカードを引く。
アヤメとミカドのVSを見るに、命の危機でないと発現しないわけではなさそうだったが……何か他に条件があるのか?
それとも、一度拒否した者にはもう機会はないのか?
まあいい。あくまでついで、落ちてる金なら拾おうかという程度のことだ。落ちてないならそれはそれで構わん。気を取り直して、引いたカードを見る。
「ちっ」
つくづくツイてない。俺が引いたカードは、現状を打開できるものではなかった。同じく手札にも手段はない。
命のかかっていない勝負だから構わないが、これが闇のVSだったらと思うとぞっとしない話だ。
仕方ない。防御を固めるとしよう。
「俺は魔力4で『守護天使レジエル』を場に出す。このカードはガーディアン能力を持っている……そして魔力3で魔法装具『魔剣バリスクレスタ』を使用。クリーチャーを効果破壊から守り、さらに体力を3点上昇させる」
バリスクレスタはクルルエルを倒した時にやつのデッキから奪い取ったカードだ。
しかし、あいつ闇の力でこのカードの効果を書き換えてたが……本来0/3のところを5/5の強化はやりすぎだろ……。
ただし、レジエルは体力と攻撃力が同じ数値になるという効果を持っている。体力は元は5点。体力を8点に強化したことで、攻撃力も8点に上昇している。
ヴォーパルソードの一撃はなんとか耐えるものの、第二撃の前には無力。だが、ヴォーパルソードの3点ダメージを軽減する効果を突破するためには十分な攻撃力でもある。
ただし、ヴォーパルソードの体力は6点。レジエルが与えられるダメージは5点。破壊には至らない。
「ターン終了。さ、お前のターンだ」
「え……は、はい。ボクのターン!」
物足りない、と言わんばかりの顔だな。期待値を上げすぎだ。ま、ハルにとって俺の実力でもっとも鮮烈に焼き付いているのは、イカサマしていた俺だろうから仕方ないか。
ハルは勢いよく山札からカードを引く。そして、その口角を僅かに上げた。
「アヤメさんと橘先輩のVS、すごかったです。共鳴召喚と帝王召喚のぶつかり合い……ボクも滾ってるんです。あの試合を見てから、相棒たちが戦いたいと叫んで仕方ないんだ!」
「見せてみろよ。お前のドラゴンを」
ハルの力を引き出しておく意義はある。
今はそんな予定はないが、今後ハルとぶつかる可能性も考えて、今のうちに情報は搾り取っておいて損はない。
勝つ必要のないVSなら、なおさら。
ハルは引いたカードを手札に加え、別のカードを場に出す。既に引き込んでいたらしい、とっておきの切り札を。
「ボクは魔力2で転生魔法『リィンカーネーション・フォース』を使用! ボクの場にいる『ヴォーパルソード・ドラゴン』を転生させる!」
ヴォーパルソードが自らの炎に包まれ、その体を焼き尽くす。不死鳥は、自らの身を火の中に放り込み、新たな体に生まれ変わるというが……。
球状に燃え盛る炎の中。VS学園の入学直後、カズヤとのVSで炎の中から現れたのは嵐の龍だった。
だが、今回の龍は違う。炎を飲み込むのは、どろりとした粘性の液体。その色は紫紺。
立体映像とはいえ、地に落ちそれを溶かす様子から見て取れる。炎の中から新たに生まれたのは、酸のような毒だ。
「転生召喚——『
ヴォーパルソードの高貴、高潔な印象とはまるで違う。口の端から涎を垂らし、俺とクリーチャーを見据える眼光は鋭く。低く上げる唸り声からも、その凶暴性は明白だった。
しかし——そのステータスは、低い。
ヴォーパルソードが強力な効果を備えた上で4/10とかなり体力に割り振ったステータスだったのに対して、ヴェノムセージは……。
『な、なんとチャンピオン、結束選手も特異な召喚方法を出した! 転生召喚だーッ! しかし、場に出されたヴェノムセージ・ドラゴンの攻撃力と体力は、たったの1点! 大丈夫なのかー!?』
『これは、恐らく……凶悪な効果を持っているんでしょうね』
今度は、解説に同意する。わざわざ切り札、ヴォーパルソードをコストにして出したカードが、弱いはずがない。
ヴェノムセージは鋭く尖った注射器のような尻尾で、俺の場の天使レジエルの足を刺した。見る見るうちに毒が回っていく。
その毒性に耐えかね、レジエルは装着していた魔剣の鋒を地に落とし、本人も膝を突く。
「ヴェノムセージの効果発動……トキシック・アブソーブ!」
今度は刺さった尻尾から、レジエルの体から何かを吸い取り、ついに尻尾は抜き去られた。
残ったレジエルは体力を残り1点にまで削られている。攻撃力も1点になっているが、レジエルは元より攻撃力が体力と同数値になるクリーチャー。ヴェノムセージの毒による影響なのかは、現段階では判別がつかない。
「ヴェノムセージは相手クリーチャーの攻撃力と体力を1点になるまで吸収する。そして、高い方の奪った数値分、ボクの手札の転生魔法の必要魔力を下げることができる」
「転生魔法のコストを、だと? 『リィンカーネーション・フォース』の必要魔力は2点。無駄とは言わんが、随分贅沢な使い方だな。他の龍を出したほうがよかったんじゃないのか?」
「いいえ。『リィンカーネーション・フォース』には、この効果は使わない」
ハルの意味深な言い草から、その手の中に更なる切り札があることを理解する。
それを提示するように、ハルはフィールドに新たな転生魔法を叩き付けた。
「転生魔法『
「ちぃ……!」
今度はヴェノムセージの体が自らの力に覆われ、さらに巨大な球状へと変化する。それらはやがて
「転生召喚——出でよ! 『
激しい蒸気を体の排出口から噴き出す青い龍。そして、荒れ狂う嵐を身に纏った、灰色の体躯の龍。
二体の龍が、ハルを守るように彼女のフィールドに降り立った。
うーん。
勝ち目ねえなこれ……。