【書籍化】イカサマが闇のカードゲーマーに通用した 作:レイトントン
グラスを傾けながら、ケネスらの会話の盗聴に勤しむ。こっそりパーティー会場を抜け出したためスイレンには不審に思われているだろうが、まあ許容範囲だ。
中々面白い話を聞けた。正義のヒーローチームの結成……その中に
だが、どちらにせよアヤメには例のチームには参加してもらうことにする。俺も今や秘密結社デプスシェイドの構成員。敵対する可能性のあるチームの動きを掴んでおいて悪いことはない。
懸念すべきはアヤメの裏切りだが、アヤメにはDSのことは話していない。掴まれたとしても切って問題ない尻尾だ。
盗聴先も解散の流れとなっているようなので、俺の方もしれっと会場に戻る。真っ先にそれに気付いたのは、キョウカだった。
「センセ。どこ行ってたの?」
「仕事の関係でちょっとな。会場ですることじゃねえし」
「ふうん。お仕事っていうのは、カジノの?」
おい、テメーにカジノについて話した覚えはねえぞ。いつの間に調べやがった。
だが、下手にしらばっくれる方が後ろめたいように見える。ここは堂々と行くか。
「あり。そのこと言ったっけか?」
「ええ、聞きましたよ」
流れるように嘘を吐きやがる。全く、誰の影響だ?
「っかしーなあ……ま、いいか。ああ、そうだよ。腕っ節は十分なヤツらを揃えているが、VSに関しちゃ俺以外はてんで雑魚ばかりだからな。外部から一時的にVS専門のバウンサーを雇ってんだ」
「へえ……VSの実力のある人材が足りてないのね」
「まあな。一人だけ腕の良いのがいるっちゃいるが、ディーラーだからな。VSにばかりかかずらってもらっちゃ困るんだよな」
ディーラー一人育てるのにも手間がかかったもんだ。お陰でカード捌きは俺から見ても中々のもんになったが、二人目三人目を育てんのは面倒すぎる。
VSの実力者を引っ張ってきて俺がディーラーに戻るのが一番楽なんだが、こちらに都合の良い条件で、かつ一定の実力が担保されている人材は中々見つからない。
VSの実力があればガンガン大会に出るなり、裏なら出番の多い仕事なりに着きたがるヤツが多い。バウンサーはトラブルがねえと仕事中はVSしないからな。新人に対しては金もそんなに出ないし、華々しい人気職ではあるものの、下っ端時代に辞めちまうヤツは多い。
VSに興味ない俺は楽できるし、一応責任者かつディーラー兼任ってことで、通常じゃ考えられない給金をたんまり貰ってるから都合が良いんだが……。
「そう。そうなんだ」
「ま、その内見つけるさ」
そんな話をしている内に、アヤメたちがバラバラに戻ってくるのを見つける。
最後に、ケネスが会場に戻ってきた。ヤツも目的を果たしたし、時間的にもそろそろお開きになりそうだ。
改めて、これから実行する策のリスクとリターンを天秤にかける。
……極めて微妙だが、あまり悠長に悩んでもいられない。ぼちぼち仕掛けるとするか。
くそっ。スイレンがいなければ、こんな俺にとっても不本意な方法を取ることもなかったというのに。あの疫病神が……。
このパーティーに参加するまでの時間に、俺はカードにして捕らえたクルルエルに対して尋問を行った。交換条件もあり、比較的素直に色々と話してくれたのは助かった。
闇の力について。クルルエルの事情について。アヤメを狙った理由について。
そして、クルルエルは何故この大会に出たのか。その理由。
奇しくも、クルルエルの狙いもまた、VS連盟のケネスを狙ってのことだった。より明快に言えば、
それを聞いた俺は、苦肉の策ではあるものの、前夜祭よりもさらに俺に都合の良い状況でヤツに接触できると確信した。
クルルエルがテキトーこいてる可能性もあるが、その時は単に俺が頓珍漢なことを言ったというだけで済む。そしてパチこいた馬鹿天使のカードを海に沈めて終わりだ。
俺はゆっくりとケネスのところへ歩いていく。
「ケニー。姿が見えなかったが、ヤニか?」
「はは、ボクは吸わないよ。ハクトは?」
「俺も普段は吸わないな」
臭いと運動能力への影響を鑑みると、常習はしたくない。吸うにしても、喫煙所に入り浸る相手に接触を持ちたい時くらいか。
「今日は招待してくれてありがとな。お陰で随分楽しめた」
「それは良かった、誘った甲斐があったというものだよ。しかし、空調のトラブルで迷惑をかけたね、すまなかった」
「ちょっと汗をかいた程度だ、構わねえさ。それに、アンタのせいじゃないだろ」
「いや、パーティーの主催者だからね。責任は僕にあるとも」
「ふぅん。しかし、ケニーはあの暑さでも全然平気そうだったな。もしかして南国生まれなのか?」
「悪いね、僕の素性はトップシークレットなのさ! そういう君はどうなんだい、ハクト。君はどこ生まれなの?」
「外側の世界だな」
「…………なに?」
小さく。ケネスにだけ聞こえるように囁いた言葉を受け、一瞬、動きが止まった。あれだけ余裕を崩さなかったこいつも、世間話の途中でぶち込まれた内容は、さすがに想像だにしないものだったらしい。
尋問したクルルエル曰く、ケネスは外側の世界に大いに興味を持っているとのことだったが、その情報は間違っていなかったようだ。
「どうした?」
「……ふっ、はははははは!」
突然大笑いを始めたケネスに、周囲の視線が集まる。すまない、気にしないでと周囲に一声だけかけて、ケネスは俺の肩に手を置いた。
「いやあ、驚いた。こんな不意打ちを受けるとは思いもしなかった」
「思いもしないからこそ、不意打ちは意味がある。だろ?」
「その通りだ。こんなにびっくりしたのはいつ以来だろうね。なるほどなるほど、実に興味深い話だ。ハクト、この後時間あるかな? 君の地元について、ぜひ詳しい話が聞きたい」
俺の肩を握る力は強い。その握力は、俺を逃さないという意思を示していた。
こちらとて、わざわざ晒したくもない情報を開示したんだ。むしろ誘ってくれなきゃ困る。
「構わんが、他の誰かに聞かれたくはねえな。移動も疲れるし、俺のホテルで一対一なら受けてもいい」
「ふふ、良いだろう。もてなしを期待するよ」
こう言ってしまえば、ケネスの方も一人にならざるを得ない。断れば、俺の方にも断る大義名分を与えることになる。
一対一なら、所有物などに隙を見つけて発信機を取り付けるのは容易いことだ。しかも、俺のテリトリーでの密談。余裕すぎて欠伸が出る。
つまりは。俺は自らが過去いた世界のことを餌とすることで、ケネスとの一対一の状況を作り上げることに成功したわけだ。
前夜祭が終了した後、俺のホテルへはケネスが車を出した。これにより、本人の身に付けているものだけでなく、車にも発信機を取り付けることに成功した。
ホテルに着き、エレベーターで部屋に向かう。向かう間、ケネスは随分と機嫌が良さげだった。ハルたちのことが上手くいったから、というだけではないだろう。外側のことを知れるのがよほど嬉しいらしい。
スイートルームのある階の廊下を静かに二人で歩き、吉岡が取った俺の部屋に辿り着く。
「ケニー。ニホン人の部屋に入る時は靴は脱ぐのがマナーだぜ」
「ホテルの部屋でもかい?」
「ああ。ニホン人的には土足は好まれないんだよ。特に、他人のテリトリーに入る時はそちらのルールに従うもんだ。郷に入っては郷に従えってな」
「ふぅん……そういうものか」
ケネスが靴を脱いだ。極端に脱ぎ散らかした、というわけではないが、脱いだままの靴は不揃いになっている。
普通に気になるな……。
「テメー、いくら副会長様だからって怒るぞ。ったく、散らかしやがって」
ケネスの靴を取り、揃えてやる。
「ジャケットを預かろう」
「それには及ばないよ」
「今度はこっちが招待してる側なんだ、招待した相手にはリラックスしてもらわないとな。胸襟を開く、なんて言い回しもあるし、腹を割って話そうって相手には相応の格好をするもんだ」
俺の方は、腹を割るつもりなんてさらさらないがな。
テキトーな理由をつけながら、ケネスからジャケットを奪い取り、ハンガーにかける。
茶を入れてやり、ケネスが座るソファの対面に着くと、ケネスは待ち侘びたとばかりに口を開いた。
「さて、ハクト。君が外側の世界の出身……というのは本当なのかい?」
「まあな。移動してきたのは十よ……七の時だ。気付いたらこっちの世界にいてな。どこから話したもんか——」
本当のことをベラベラと話すつもりもなかったが、向こうがどの程度情報を掴んでいるかは不明だった。重要、かつ向こうが知りたいだろう部分——即ち、
俺がどんな生まれで、どんな家庭に育ち、親に変態金持ちのところに売っ払われてからどう生きてきたか。嘘を吐いた部分に矛盾が出ないように気を付けながら、ケネスに話してやった。
ケネスがカップの中身を二度飲み干した頃には、俺の話も終了した。ちなみに、睡眠薬や毒の類は入れていない。汗もかかない相手だ。効かない可能性があったからな。
「VSが流行していない、ただの一カードゲームでしかない世界……不思議な世界だね。話には聞いていたけど、信じ難いな。VSが普及していない世界なんて、想像できない」
想像するだけなら、別に簡単なことだと思うがな。
……いや、やはり根本的に俺は別世界の住人、ということなんだろう。それにたまたま俺が関心が薄いだけで、別の人間が転移していたのなら、カードゲームの影響力が強い世界の常識にどうしようもない違和感を覚えていたのかもしれない。
俺としても妙な世界だとは思うが、はっきり言ってどうでもいいことだった。
そう。VSが普及しているとかいないとか、そういう部分はさしたる問題じゃあない。肝心なのは別の部分だ。
「それで、君は知っているのかい? この世界で、この先起こる出来事について」
じろ、と試すような目を向けてくる。
クルルエルからも話は聞き出している。なぜ、別の世界でなく外側の世界と、彼女らがそう呼ぶのか。
俺は残念ながら、と両手をあげた。
「いいや。生憎、話した通り向こうの世界での俺に自由はなかったからな」
「……本当に?」
「信用できないのも仕方ないがな。もし俺が『原作知識』とやらを持っているのなら、もっと上手く使うさ。わざわざおまえに俺の昔話を話すこともなかっただろうよ」
原作知識……この世界を創作物として閲覧したことにより得た知識。普通では知り得ない、神の視点の知識だ。
未だ信じ難いことではあるが……。
元の世界から見て、俺の今いるこの世界は娯楽用の創作物……小説や漫画、アニメーション、テレビゲームの世界だということらしい。
実際に創作物そのものなのか、それらに近似した世界なのかは定かではない。しかし、向こうの世界の人間はこの世界で起こった、あるいはこれから起こる出来事を、創作物として観測している。
だからこそクルルエルやケネスたち、この世界の住人から見て、俺の元いた世界は外側の……観測者たちの世界と呼称されているらしい。
クルルエルが化けていた清水という男のような、外側の世界から来た人間はその創作物を見て得た『原作知識』とやらを持っていることが多いという。俺はそれら創作物に触れる環境にいなかったため、それらの知識を持っていないがな。
原作知識。即ち、これから誰がどんな行動を起こし、どんな事件が発生するのか。あるいは、どこにどんなものがあるのか。誰がどんなカードを使用するのか、その効果は。
そういった本来余人が知り得ぬ情報を、アニメーションなど創作物として閲覧したことにより得た知識のことを指すらしい。原作、と呼ぶのが何故なのかは、いまいち分からないが。
そりゃ、そんなものを持っている人間は死ぬほど有利に立ち回れることだろう。未来の情報や、本来なら誰も知らないはずの情報を活用できるんだからな。
「なるほど。なかなか苦労していたようだね、キミも」
「別に、大したことじゃない。それで、今の話を聞かせた上で提案なんだが」
「……なんだい?」
「お前らが外側に行く方法を探してんのは(クルルエルから聞き出して)知ってる。だが、仮に外側に行けたとして、だ。常識も価値観も何もかもがズレてる。そんな世界で、すんなり上手くやっていけるのか? 俺はそうは思わねえなあ」
「つまり、何が言いたいのかな」
既に察しているだろうに、ケネスは俺からの言葉を待っている。
「俺も一枚噛ませろよ。もし俺を連れてくなら、ガイド役や向こうの人間との仲裁役くらいはやってもいい」
「首輪を繋がれた場所からやっと逃げれたのに、わざわざそちらに戻ると?」
「あの頃はガキだったからよ、逃げるしかなかったわけだ。今は違う」
「……君を虐げた連中に復讐をしたいのかい?」
「まあ、平たく言えばな」
嘘だけど。あんな連中なんざどうだっていい。ただ、そうしたカバーストーリーがあった方が話が円滑に進むからな。
ケネスは少し考え込む。俺を値踏みしているらしい。アピールを追加すべきか。
いや、いらねえかそんなもの。所詮は
「うん、確かにガイド役くらいはいた方が、向こうに行けた場合スムーズにことが運びそうだ。良いだろう、もし渡航の方法が分かれば、キミもぜひ一緒に来てくれ」
「わざわざ身の上を話した甲斐があったぜ」
俺は立ち上がり、ケネスに手を差し出す。ケネスもそれを手に取って、俺たちは固い握手を結んだ。
「これで正式にビジネスパートナーだ。よろしく頼むぜ、ケニー」
俺は気安く彼の肩に手を回した。
ビジネスパートナー。
我ながら笑ってしまいそうだ。
ケネスにはテキトーこいたが、俺は俺がこの世界に転移したきっかけというものを、明確に覚えている。
しかしこの件について、俺は最初から誰かに情報を渡すつもりなんて、髪の毛一本ほどもない。前夜祭での失敗さえなければ、そもそも俺が外側の世界の出身であることすら、開示したくはなかった。
ケネスらVS連盟はもちろん、アヤメとキリヒコといった下僕どもにも、ハルやスイレンたちにも、VS学園の連中にも、支配人始めカジノの連中にも、そしてDSにも。
誰にもだ。本来なら俺一人が知っていればいい。
こいつらの言う、外側の世界。俺の元いた世界に俺だけが行けたなら。そして戻ってくる方法すら確立できたとしたら。
原作知識という、未来や誰も知り得ない情報を俺だけが独占できる。
いいや、それすら生温い。
もし俺の思い描いた通りに事が運べば、計り知れないほどの莫大な利益が俺の手元に転がり込んでくることになる。
この世界で俺に敵う者などいなくなるだろう。
あのクルルエルとかいうアホ天使に感謝しなきゃな。
クルルエルは、この世界にとって最悪の選択をしたと言っていい。
自分の精神の安定のために、よりにもよってこの俺に情報をペラペラと話したんだからな。
仮に俺よりも先にケネスが外側の世界に渡る方法を見つけたとしても、口約束ではあるがガイド役として俺を雇う契約を取り付けた。
便乗して向こうの世界に渡れたなら、その後ヤツを事故に見せかけて始末してしまえば、こちらの世界に留まる者への言い訳なんてどうとでもなる。なにせ、異世界で起こった事故の内容なんて調べようがない。
DSの仕事を無理にこなしたのも、組織で大きな力を持ったほうが、探し物をしやすいからだ。
特に、DSは秘密結社の中でも最大手の一つ。昇進し、部下を作り探し物を探させれば、それだけ外側の世界への移動に近付く。アヤメとキリヒコだけでは限界があるからな。
理想を言えば、誰かに先を越される前に、俺が最も早く渡航手段を手に入れたいところだ。
外側の世界から来た、という情報こそ漏らしてしまったが、それを除けば全てが俺の思い通りに事が進んでいる。
俺らしくもなく、元の世界へ早く戻りたいという感情に駆られる。こういうのはホームシックとは言わないだろうが。
ケネスが去った後の部屋で、俺は口元を押さえる。しかし、上がった口角は戻らない。
やがて、あまりの愉快さに、俺は笑い声をあげていた。
「ククク……あーッはっはっは!!!」
今度こそ3章完!