イカサマが闇のカードゲーマーに通用した   作:レイトントン

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闇のカードはぶっ壊れ性能らしい

 物理的に制圧するのは失敗した。これで済ませられれば手っ取り早かったのだが。

 

「この闇、それに黒いフード……! スイーパーか!」

 

 ようやく状況を飲み込めたらしいマナブが、敵の正体を声高に叫ぶ。黒フードはそちらを向き、声を発したマナブ……ではなく、その隣の二人の少女に目を向けた。

 

「ふむ……我が同胞を返り討ちにした結束ハルだな。そして……隣の女。そこの野蛮な男と同様に、上質な魂を持っている。フッ……3匹も大物が掛かるとはな。思わぬ収穫だ」

「スイーパー! ボクと勝負だ。お前たちにはボクらの魂も、カードも渡さない!」

 

 スイレンとマナブの前に躍り出たハルは、2人を庇うようにデッキを構える。

 まあ、もしこの黒フードが同胞とやらと同格ならば、順当にハルが勝つだろう。しかし、同胞を倒したと認識しているハルを前にしても、黒フードはまるで慌てていない。

 

 そこから推察されること。こいつの実力は、ハルを上回っているという可能性だ。

 ハルが負けた時のことを考えて、幾つか対策は考えておかないとな……

 

「ほう? 結束ハル。貴様、私に勝てる気でいるのか?」

「は、ハルはVSチャンピオンシップで優勝しているんですよっ!」

「それにお前たちの仲間を一人倒している。お前こそ、ハルを舐めるなよ!」

「フッ……どうやら、貴様らの中で最も強いのが結束ハルのようだな? ならば貴様から仕留めてやろう。そしてとくと味わうがいい……絶望をな」

 

 事務所内に紫に光る謎の台が形成されていく。それも二つ、黒フードとハルの目の前に。あれは一体……

 

「さあ、VSを始めよう」

「望むところだッ!」

 

 お互いが構えたデッキを切り、黒フードの作った台の上に置いた。

 上に、置いた!?

 

 

 得体の知れない物体の上に当然のように山札を置くんじゃねえ!!

 

 

 い、いや落ち着け。ハルは一度スイーパーと交戦している。その時も同じことが起こったんだろう。で、あの台が安全なことは確認したということだ。

 そういうことだな? 無警戒で置いたわけじゃないよな?

 

「ハクトさん?」

「……なんでもない。頑張れよハル。お前なら勝てる」

「は……はい! 見ててください! 勝ってみせます!」

 

 ハルはやたら嬉しそうにしながら、俺の思ってもいない褒め言葉を受け取る。

 ハルの言う通り、勝ってくれたらそれが一番良い。が、念の為ヤツのデッキ内容を可能な限り把握しておくか。

 

「行くよ。VSスタート!」

 

 

 

 

 VSは一進一退の様相を呈する。

 が、僅かに押されているのはハルだ。実力の差……というよりは情報アドバンテージ、デッキ相性の差。そして何より。

 単純なカードパワーの差が大きい。

 

「くそ……ッ! なんだあの気味の悪いカードは!?」

「ハルのクリーチャーが全滅しちゃった……!」

「ははははは! どうした結束ハル、先ほどまでの勢いはどこに消えた!?」

「まだだッ! ヴォーパルソード・ドラゴンの攻撃!」

 

 ヴォーパルソードが、黒フードの切り札らしき死を司る黒鳥に掴みかかる。

 紅龍の連続攻撃を受けて黒鳥は絶命する。だが、その体が弾けた瞬間、気味の悪いガスが周囲に広がった。

 

「フフフ……甘いな! 『病鳥(やまどり)アルボルタ』の能力は死する時にも発動するんだよ!」

「そんなっ!?」

「病はフィールド全体に広がる。さァ、腐れ落ちろッ!」

 

 ヴォーパルソードだけではない。ハルの場に再度展開されたクリーチャー、そして病鳥を倒したヴォーパルソード。果ては黒フードの他クリーチャーまでもが病に感染し、肉を腐らせ破壊されてしまう。

 しかし、その中でも生き残っているクリーチャーもまた存在した。

 

「くそっ、緑鳥ビルムか……!」

「その通り。貴様も散々苦しめられてきたように、このクリーチャーはクリーチャーによる効果を受けない。当然、味方のアルボルタの能力もな。そして、アルボルタの効果には続きがあるのを忘れてはいまい?」

 

 あの鳥の能力に感染し破壊されたクリーチャーの数1体につき、プレイヤーに3点のダメージを与える。

 

 場のクリーチャーへの全体攻撃に、破壊数に応じたハイレートの直接ダメージ……おいおい、『イザキエル』や『公正』もとやかく言えたもんじゃないが、とんだぶっ壊れカードじゃねぇか。1体につき3点はさすがにやりすぎだろ。

 

 ハルのクリーチャー、ヴォーパルソードとフレア・ウィスプ、そして黒フードのクリーチャー1体が破壊され、計9点のダメージがハルを襲う。

 これで、ハルの残り体力が場に残ったビルムの攻撃力を下回った。

 

「皆、ハクトさん、ごめんなさい……!」

「トドメだ、消え失せろ!」

「わあああああっ!」

 

 ビルムの直接攻撃が決まり、ハルの生命力を削り切った。

 なんだこいつのデッキのカードは……今まで見たこともない上、強力すぎる効果を持つカードが多い。

 特にあの『病鳥アルボルタ』だ。ヤツ相手には、盤面の取り合いは無謀だ。

 

 おっと。敗北したハルに、友人二人が駆け寄っている。俺もそれに倣い、ハルの顔を覗き込んだ。

 

「惜しかったな」

「ッ、そんな慰めを言ってる場合かよ!? ハルはこれから、カードに閉じ込められるんだぞ!?」

 

 同じ恐怖を知っているマナブが、無神経な俺にがなり立てる。が、淡白な反応にもなるだろう。

 

「大丈夫だよ、マナブ。スイレンも」

 

 当の本人、ハルがこれだけ穏やかな表情をしていては。

 

「ハクトさん、ごめんなさい。ボク、負けちゃいました」

「ま……敗因は色々あった。単に向こうのカードパワーが高過ぎたとかな」

 

 あと、無警戒に敵の用意した台にデッキ置くとか……

 いや、あれは今回勝敗にかかわってなさそうだったが。

 

「けど、俺はお前が実力で負けたとは思ってない」

「……!」

「元に戻ったら他の敗因を考えりゃいい。そしたら次は負けねえさ」

 

 そんでスイーパーどもを討伐して俺にレアカードを貢いでくれ。

 

 

 お前は俺の金ヅルなんだから……

 

 

「まあゆっくり眠ってな。すぐに起こして馬車馬のように働かせてやるからよ」

「……ぷっ。台無しですよハクトさんっ」

 

 

 

 ハルの体に、周囲の闇が纏わりついていく。

 

「は、ハル!」

「二人とも、大丈夫。ハクトさんが付いてるから。ハクトさん、どうか二人を守ってあげてください」

 

 それは面倒だから断るけど……

 その言葉を最後に、ハルの体は闇に取り込まれ、やがてカードの形を成してスイレンの手の中に落ちた。

 

「そんな……ハル、ハルゥ……!」

「ふっ……ははははは!」

 

 ハルがカードになり、スイレンとマナブが目に涙を浮かべたタイミングで、黒フードは高笑いを始めた。

 なんだ、話終わるまで待っててくれたのか? 意外と優しいヤツだな。

 

「さあ、貴様らの中で最も強かった結束ハルは我が術中に堕ちた! 貴様らはもう私の餌でしかないんだよッ!!!」

 

 随分と調子付いているようだ。それだけでも、ハルがどれだけコイツを追い詰めていたのかが窺い知れる。

 どちらが負けてもおかしくない、ギリギリの戦いだった。

 

 とはいえ、コイツの言っていることも一理ある。マナブの実力は大会を見た限りじゃハルに大きく劣る。スイレンは未知数だが、マナブの話じゃそうでもなさそうだし、何よりすっかり怯えてしまっている。

 俺は地力じゃあハルには及ばない。

 

「さて、誰から相手をしてもらうか……」

 

 黒フードはじろじろと俺たち三人を睨め付ける。俺以外とやり合ってくれた方が、デッキ内容をより深掘りできるからありがたいんだが……

 つーか勝てる見込みあるの俺だけなんだから、情報を引き出すために立候補して体張るくらいしてくれよガキ共。どーせこいつ倒したらカードから解放されんだからよ。

 

「貴様。フルネームは伊波ハクトというようだな。私をコケにしてくれた、貴様から狩るとしよう!」

 

 ……ま、そうなるよな。

 俺の体とヤツの体に光の線が結ばれ、逃げられない契約を無理やり交わされる。

 即ち、敗北した者の魂を奪う契約を。

 

 命を賭けたVS。勝っても手に入るのはこいつとハルの魂、あとはこいつのデッキくらいか。

 全く、賭け金に報酬が釣り合ってねえよ。

 

「俺にこんな旨味のないVSをさせるツケは払ってもらうぜ。てめえのレアカードは全部俺のもんだ。病鳥アルボルタ、だったか? わざわざ俺のためにレアカードを用意してくれてご苦労さん」

「吠えていろ、野蛮人。貴様など結束ハルの後ではデザートにもなりはしないだろうが……精々味見してやろう。かかって来い」

「楽しみだな。てめえの泣きっ面の描かれたカードを踏み躙るのがよぉ」

 

 黒フードは自らの生成した台の上に山札を乗せる。ご丁寧に俺の分も作ってくれてはいるが……

 

「要らねえよ。敵の用意した場所に陣を敷くほど無警戒じゃない」

「ふん。捻くれ者が」

 

 

 むしろなんでテメーは捻くれてねぇつもりなんだよ!

 闇のVSプレイヤーだろうが!

 

 

 闇の台を拒否して、組長の机の上に山札を置くことにする。まあ、ハルとのVSを見た限りじゃあの台に仕掛けがあるってわけじゃなさそうだが。警戒するに越したことはない。

 

 

 さぁ、いきなり最難関。

 ここでイカサマがバレれば、俺はジ・エンドだ。違反によるペナルティは通常のVSとは比較にならない。

 魂を奪われる、文字通り命懸けのVS。

 

 落ち着け。いつも通り自然体に。

 焦りはない。

 あるのは、イカサマの腕前への自負。

 

 俺は自らの手先から、僅かな震えすら感じ取ることはない。

 行ける。

 

 イカサマスリーブのデッキを取り出す。

 指摘は……ない。

 

 クリア。

 

 そのまま山札を切る——フリをして、軽量カードを序盤に来るよう意図的に山札順を並べる。

 フォールスシャッフルだ。

 

 これも、指摘はない。

 

 クリア。

 

 さて、向こうのカットの提案は——

 

「……何を見ている。さっさと始めるぞ」

 

 ……おやおやおやぁ?

 もしや、この黒フード……

 

 イカサマを警戒していないのか?

 いや、待て。まだ結論を出すのは早い。

 

「そうだな。始めるか……VSスタートだ!」

 

 だが、もしそうなら——

 

 とんだ甘ちゃんだなぁ!!

 と言わざるを得ない。

 

 

 

 

 

 こうして俺は闇のVSプレイヤーなんてもんと、やりたくもねぇ魂を賭けたVSをするハメになったわけだ。

 しかしまあ、まさかだな。

 

 イカサマが闇のVSプレイヤーに通用した……






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1話冒頭に戻ってから次回です
タイトル回収してるけど別に最終回とかではないです
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