イカサマが闇のカードゲーマーに通用した   作:レイトントン

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強いカードは3積みすべき

 『ナインナイブス』でビルム2体を破壊した俺は、勢いに乗ったまま切り札を場に出す。

 

 

「俺は『背徳の天使イザキエル』を場に出す!」

 

 イザキエルは、本来なら魔力を6点使用しないと出せない。だが、魔法でクリーチャーを破壊したターンのみ、そのクリーチャー1体につきコストが2ダウンする、非常に強力な効果を持つ。

 つまり現在は2コストで出せるクリーチャーとなる。攻撃力と体力は5/3と6コストにしては低めだが、速攻効果を持つ攻撃力5のクリーチャーは破格と言っていい。

 俺のデッキの切り札の一枚だ。

 

「イザキエルは『速攻』能力を持つクリーチャー。場に出したターンでも攻撃できる……行け、イザキエル!」

「ぐぅッ!」

 

 イザキエルの手から放たれた光線が黒フードを貫き、5点の生命力を削り取る。更に、元々場にいたクリーチャー『ドロップスライム』と『惰天使グテル』で攻撃を加える。

 

 生命力も、今は残り15点。順調に削れている。

 

「だが、イザキエルはターン終了時に破壊されるクリーチャー。次のターン、貴様の残った『ドロップスライム』と『グテル』を破壊し逆転させてもらう!」

「ククク……随分と想定が甘ぇんだな、闇のVSプレイヤーってのは」

「なんだと……?」

「この俺が自壊するクリーチャーをなんの対策もなく場に出すと思うのか? 魔力2を払い補助魔法『遅滞戦闘』を使用! 5コスト以上のクリーチャー1体を手札に戻し、そのクリーチャーを操るプレイヤーはデッキから2枚のカードを引く。俺は自分の場のイザキエルを手札に戻す」

「ちっ。手札に戻して自壊を回避したか……!」

 

 イザキエルは手札に戻り、さらに2枚のカードをドローする。当然、セカンドディールによって、俺にとって都合の良いカードを、だ。

 

 ククク。VSをするなら台の距離はもっと近付けるべきだったな。でなけりゃ、素人が俺のイカサマを目視で捉えられるはずがない。

 

 逆に言えば、俺の方からも向こうのイカサマは見破りづらいとも言える。が、カジノで鍛えられた眼力を嘗めてもらっては困る。

 不審な動きがあれば速攻で押さえさせて貰うぞ。

 

「図に乗るなよ、私のターン!」

 

 黒フードは素直に山札の上からカードを引く。いや、本来それが当たり前なのだが、闇のVSプレイヤーを名乗ったヤツがルールに忠実なのはちょっと面白いな。

 

「貴様は結束ハルとのVSを見て知っているだろう。私の切り札の恐ろしさを。……もう一度その恐怖を味わうが良い! 魔力8を支払い……出でよッ、『病鳥(やまどり)アルボルタ』!」

「ちぃ……ッ!」

 

 黒フードの場に病に侵され、肉が溶け骨すら見えている恐ろしい形相の黒鳥が現れる。

 

 ハルもあのクリーチャーに圧され、倒されてしまった。誰も見たことがないクリーチャー。恐らくは噂の闇のカードというヤツか。

 攻撃力、体力は7/10。それだけでも厄介だが、その効果はとんでもなく強力……というより、強すぎる。

 

「病鳥アルボルタは場に出た時と場を離れる時、病原菌を撒き散らして場のクリーチャー全てを病に感染させる。感染したクリーチャーはその瞬間、攻撃力と体力を7減らす! さァ、腐れ落ちろッ!!」

 

 アルボルタが甲高い鳴き声をあげ、俺の場のドロップスライムとグテルが感染。その凶悪な病に耐え切れず俺のクリーチャーたちは死滅する。

 後ろのガキどもは思わず顔を背けた。まあ、スライムはともかくグテルは人型のクリーチャーだしな。

 しかも、アルボルタの能力はそれだけでは終わらない。

 

「さらに、この効果で破壊したクリーチャー1体につき3点のダメージを貴様に与える!」

 

 全体破壊に加えてバーン効果とは、壊れも良いところだ。バーンの方は、俺の場のクリーチャーを増やしすぎないよう調整していたおかげで抑え込めた。

 

「ハクトさんっ!」

「大丈夫だ。ドロップスライムは破壊された時、プレイヤーの生命力を2点回復する」

「ふん、その程度の回復では1ターンも生き延びられまい。私はターンを終了する」

 

 まだ手札と魔力が残っているが、黒フードはターンの終了を宣言する。カードを温存しているのか、単純に今の状況にそぐわないカードなのか、それとも相手ターンに使える『高速魔法』を握っているのか。

 『高速魔法』と想定しておくとしよう。そうでないなら取り越し苦労で済む話だ。

 

「俺のターンだな。ドロー」

 

 さて……相手ターンに手札から使用できる『高速魔法』は強力だが、対処法はないわけじゃない。無論、それを都合良く手札に持っているかという問題はあるが……

 山札順を操作し、かつ順番を無視してドローできる俺にとっては容易いことだ。

 

「俺は魔力1で『突然の崩落』を使用! お互いの手札を全て山札に戻しシャッフル。その後、戻した数だけドローする!」

「くっ……!」

 

 黒フードは悔しそうな声をあげて、手札を山札に戻す。どうやら読みは当たっていたらしい。

 そして、俺は当然のようにフォールスシャッフルで都合の良い山札順を仕込み、ドロー。

 

「私の『高速魔法』を読んだ上に対処するカードまで引いているとは……貴様、本当に何者だ」

「ごちゃごちゃとうるせえな。俺はただの一般的なVSプレイヤーだ」

 

 ただし、イカサマに手を染めた……という冠辞が付くが。

 

 都合良く手札に好きなカードを引き込めるということは、使用状況が限られるがハマれば強いといった類のカードが活きる場にもなる。

 そして、俺のデッキにはハイリスクハイリターンなカードが山ほど入っている。今から使うのもそんなカードの一枚。

 

「俺は魔力0で『無謀な挑戦』を使用。相手の場に4/5で『ガーディアン』能力を持つ『無垢の魔人』を2体出す」

 

 『ガーディアン』能力を持つクリーチャーは他のクリーチャーやプレイヤーへの攻撃を任意でガードすることができる、防御能力の高いクリーチャー。

 それを2体相手にプレゼントする、という大きなリスクを持つカードだ。しかし、代わりにこちらにも大きなメリットがある。

 

「代わりに、俺は2枚カードを引く」

「ふっ、正気か? 私に2体も強力なガーディアンクリーチャーを渡すとは」

 

 ガーディアン能力を持つクリーチャーは強力だ。こいつらが立っている分だけ、俺は勝利から遠のく。それも、体力は5。黒フードが正気を疑うのも無理はない。相当重いデメリットだ。

 

 ただし、このカードの優れている点はコストが0なことだ。()()()()()()()()()()()元は取れる。

 そして、相手の場にクリーチャーを増やせることは、大きなメリットとなり得る。

 

 それを見せようと企んでいると、黒フードの口元がにやりと歪んだ。

 

「貴様の魂胆は分かっているぞ。魔人どもの体力は5。そしてアルボルタが破壊された時、攻撃力と体力を7点マイナスする……アルボルタさえ破壊できれば、デメリットを帳消しにできる。そう考えているわけだ」

「ほう? 悪くない読みだが……だとしたらどうする? お前に防ぐ術があるのか?」

「見せてやろう。私は魔力1で高速魔法『反転の呪い・(くちなわ)』を使用! このカードは使用したターン、私の場のクリーチャーに対して効果を及ぼす。効果による攻撃力・体力の上昇下降が逆転するのだ」

「なるほど。つまりアルボルタを破壊すれば、逆に魔人どもを強化することになるということか」

 

 恐らく、普段から使用するコンボなのだろう。この魔法の効果の下では、とても病鳥を破壊する気にはなれないだろう。どころか、先に周りのクリーチャーから破壊しなければそいつらが強化されてしまう。

 俺が動く前に高速魔法を撃ったのは舐めプが過ぎるがな。相手を二律背反に陥らせ、困ったところを見るのを楽しみたいのかもしれない。

 

 たしかに、これは凶悪なコンボだ。

 しかし、なんら問題はない。

 

「病鳥のデメリットを利用するつもりだったのだろうが、甘い! 貴様の『突然の崩落』のお陰で引いてこれた魔法だ。くくく、感謝するよ」

「何か勘違いしているようだな」

「……なに?」

「俺はちまちまアルボルタだけを破壊する気なんてハナからねぇんだよ。——全てまとめて吹っ飛ばす。俺は魔力7で攻撃魔法『公正なる神の裁き』を使用!」

「ッ! そのカードは……!」

「場にいるクリーチャーを、よりクリーチャーの数が少ない方のプレイヤーの場と同じになるまで破壊する。俺の場のクリーチャーは0。よってお前の場のクリーチャーは全滅する」

 

 天より破滅の光が降り注ぎ、2体の魔人と病鳥を焼き滅ぼした。

 

「くそっ……だが、貴様の魔力は尽きた。一方私の手札は潤沢。次のターンで……」

「次のターンがあると思うのか?」

「……なんだと。まだ何かあると? 馬鹿な。貴様の魔力は残り2点! 私の15点の生命力を削り切ることなどできるはずがない!」

「思い出してみろよ。——()()()()()()()()()()()()()()()は幾つだ?」

 

 魔人2体と病鳥1体。合計3体のクリーチャーが、魔法によって破壊された。

 

「まっ……まさか……!?」

 

 驚愕する黒フードを尻目に、俺は手札の3枚のカードを場に出す。

 

「出でよイザキエル()()!」

 

 純白の天使が3体、俺の場に降臨する。

 

「馬鹿な……馬鹿な!」

 

 手札に対処札はなくなったのだろう、敗北を確信したらしい黒フードが慌てふためく。

 

「貴様のイザキエルは『突然の崩落』で山札に戻したはず。それを、更に2枚追加して手札に引き戻すだと!! ありえん!!」

「あり得ているから、今の状況が生まれているんだ」

「ッ————!」

 

 いや「ッ————!」じゃないが。イカサマだが。素直すぎるだろ闇のVSプレイヤー。

 

 先ほどの高速魔法で手札も使い切っている。もはやこの攻撃に対応する手段などない。

 

「行け、イザキエルの総攻撃!」

 

 

「ぐ……ぐあああああああああ!!!」

 

 

 黒フードは為す術なく天使たちの攻撃をくらい、その生命力を0にした。

 

「す、凄い……圧勝だ……!」

「ハクトさん!」

 

 ガキ共二人が駆け寄ってくる。だが、それに応じる前にすることがある。

 

「さあ、ハルをカードから戻して貰おうか」

 

 ハルはこの黒フードに負け、魂をカードに囚われた。が、その術者であるコイツを倒せばカードから戻ることは、ハルたちの話から分かっている。

 黒フードは悔しそうに呻きながらも、俺の問いに答える。

 

「……すぐに私の魂もカードに囚われる。そうなれば、結束(ゆいつか)ハルも解放される」

 

 それも本当か怪しい話だと思っていたが、すぐに場を覆っていた紫黒の闇が縮小していき、黒フードの体に纏わり付く。そして、どんどん小さくなるそれはカードの形を取ると、ぽとりと地面に落ちた。

 そして、黒フードの手から弾かれたカードから解放され、眠ったハルがこの場に現れる。

 

「おっと」

 

 俺の方に倒れ込んできたので、抱き抱えてやる。

 顔を覗き込んでみると、どうやら眠っているようだ。

 このガキ……人が助けてやってんのにぐーすか寝やがって……

 

「おいこらハル。さっさと起きろ」

「う、ん……はれ? ハクトさんだ……ボクも一緒に働かせてよぉ……もうすぐこーこーせーなんだよぉ……」

 

 寝ぼけてんじゃねぇ。

 

「ガキは雇わねえっつってんだろ。勝ったぞ、黒フードに」

「……え? あ……は、ハクトさんッ!?」

 

 完全に目を覚ましたハルは、顔を真っ赤にして飛び起きた。おーおー、ウブだねぇ。

 

「えっと、今のはっ!」

「やっぱまだまだガキだな」

「は、ハクトさん……もう!」

「ハルっ……ハル!!」

 

 ハルは全然元気そうだ。まあ一応、あとで病院に行かせとく気ではいるが、入院はしなくて済みそうだな。

 マナブとスイレンはそんな彼女に駆け寄り、感涙しているが……俺も別の意味で驚いていた。

 

(マジかよ……素直に解放されんのかよ)

 

 まあ、そのつもりでVSを受けた訳ではあるが、そもそも闇のカードにより閉じ込められた空間での、強制的な条件でのVSだったからな。

 まさか負けたら素直に全部条件を飲むとはな……ちゃんと黒フードもカードに封印されるし。律義か。

 

「どれどれ……」

 

 落ちた黒フードのカードを拾う。おお、ハルと同じように封印されたプレイヤーの名前と顔が表示されるのか。

 

「黒崎アヤメ……なんだ女だったのか。ボイチェンしてたから分からなかったぜ」

 

 きりっとした切れ長の瞳、長い黒髪。かなり整った顔立ちをしているが、真一文字に結ばれた口元。それに眉間に寄せられた皺が、近づき難い印象を持たせている。全体像は見えないが、見えている肩から判断するに下は恐らくセーラー服だろう。

 カードの絵柄のスペースには、そんな彼女の姿が映っていたのだが——その口が滑らかな動きで開かれる。

 

「ボイチェンではない。闇の魔力に付帯した認識阻害魔法だ」

「うおッ!?」

 

 驚いて思わずカードを取り落とす。

 

「ハルは喋れなかったのに、おまえは喋れるんかい!!」

「私は術者自身だからな」

「へえ、便利なもんだな、認識阻害といい」

 

 正体を隠すための機能ということだろう。ボイチェンもそうだが、思えば一度取り押さえた時の感触で分かりそうなものだった。

 にもかかわらず俺が性別に気付けなかったのは、この機能が働いていたからか。

 

「まて、お前便利と言ったか?」

「ああ。認識阻害に、カードになっても意識があるんだろ。便利じゃねえか。ハルたちは気絶してたのによ」

「ふ……甘い男だな。カードの中の世界がどうなってるのかも知るまい」

 

 知るわけねェだろそんなこと。

 

「なんだよ、居心地悪いのか?」

「良いと思うのか?」

「まあ、高級ホテルのスイートルームって訳はないよな」

「辺り一面が真っ暗闇さ。この絵柄枠が窓のようになっている箇所以外はな。光も音もない、完全な無だ」

 

 へぇ。

 そいつは良いことを聞いた。

 つーか、そんな状況なのになんでこいつ余裕ぶっこいてんだ?

 脱出する方法があるということだろうか。いや、ならこんな悠長に話さずにとっととやってるか。

 

「食事は?」

「不要だ。なんだ、差し入れでもしてくれる気があったのか? お優しいことだ」

 

 ってことは、排泄も不要なのだろう。

 闇の魔力がどうとか言われては常識では測れないが、ひとまずそういうものだと理解しておく。

 

「ずっとそんな世界で生きていくなんて、俺ならゴメンだな。ま、自業自得ってヤツだ」

「……その通り。これは闇の魔力を使用した(リスク)だ。散々他人の魂を奪ってきた代償だ」

 

 どこか顔色を青くしながらも、黒フードもとい黒崎は吐き捨てる。

 おいおい、先ほどまでの余裕は強がりかよ。俺に現実を突きつけられ、今更自分の現状を思い出した、といった様子だ。

 

「そんなリスクを負ってまで、ヒトの魂なんて奪って何がしたかったんだ?」

「……お前には関係のないことだ」

「あっそう。まあ今のこれは世間話だから構わんが……これからお前には色々聞くことがある。そん時は素直に話した方が身のためだぞ」

 

 そう脅しをかけてやる。

 もし俺の脅迫に屈しないようなら、それなりの措置を取ることも検討しなければならない。

 

 魂を賭けたVSを仕掛けるような危険人物相手だ。ヌルい対応を取る必要もないからな。

 女子供相手でも容赦はしない。スイーパーの情報は少しでも欲しいし、尋問にかけさせてもらおう。

 

 その情報は、相当な金になるだろうからな。

 







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