イカサマが闇のカードゲーマーに通用した   作:レイトントン

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天然にはちょっと弱いらしい

「つーわけで、例の黒フード、黒崎アヤメには話を聞いてるところだ」

 

 『つーわけ』の中に俺がアヤメに拷問を働いていることは省いているが、そのようにハルたちに伝える。

 面倒だが、捜査状況の共有はしておいた方が良かろう。今日もまた、前回と同じカフェに集まっていた。

 

「ペースは順調そのものだ。このまま行けば数日中に話を聞き出せるだろう」

「えっ、話を聞き出せそうなんですか? あんなに、その、気難しそうだったのに」

「まあな。ま、俺の人徳の為せる技ってワケよ」

 

 と、ここで一発。ウケまくり爆笑しまくり確定の面白ジョークをぶち込んでみる。が、三人は誰一人爆笑してくれない。

 どころか、ハルとスイレンは満更でもないような、「流石ですハクトさん」みたいな表情をしている。

 

 こいつら正気か?

 ツッコミを入れろよ。

 

「冗談だ。で、内容の擦り合わせの準備をしておきたくてな」

「擦り合わせ、って?」

「一人から聞き出した情報だと信頼性に欠けるだろ。アヤメがテキトーこいてないか確認しておく必要がある訳だな。本当なら大人数から聞き出したいところだが、スイーパーはそもそも捕らえられた人間もほぼいないからな。贅沢は言ってられん」

 

 せっかく所在地の分かっているスイーパーがもう一人いるんだ。そいつもカードになってるだろうし、アヤメと同じように拷問すればすぐに吐かせられるだろう。

 

 ハルがわざわざクレセント・ナイトまで情報を探りに来たってことは、その男から情報は聞き出せてないんだろうが……

 

「お前らが倒したスイーパーの構成員のことは聞いてなかったな。そいつのカードは今誰が持ってる? マナブか?」

「え、っと……」

 

 ん?

 なんだかガキ共の歯切れが悪いな。

 

「ボクがマナブを襲った男を倒した後、その人が入ったカードは別のスイーパーに持っていかれちゃったんです」

「ほう? そいつの顔は見たのか? 背格好は?」

「はい。目の前にいたらこの人だ! って言えるくらいにはハッキリと。背の高い、長髪を後ろで結いた男性でした」

 

 なるほど。認識阻害魔法も万能ではないのか。声や体格は誤魔化せても、ガッツリ顔を見られたら記憶の改竄までは行かないってところか?

 

「私は、その時一緒にいなくて……」

「俺もカードから解放された直後で、ちゃんと見てない」

「そうか。まあ、取られたんなら仕方ねえよな」

 

 しかし、スイーパーが回収されたのは残念だ。

 せっかくアヤメから色々と金になりそうな情報を聞き出せそうなのに。

 裏取りできてない情報じゃ、顧客は満足しないだろう。

 

 ……アヤメの時、その回収員は現れなかったな。

 単に居合わせなかったのか、あるいは前回そこにいなかった俺を警戒してのことか。

 少々厄介そうな匂いがするな。

 

「そいつも強そうだな。全くアヤメといい、闇のカードを使う連中ってのは厄介なのばかりだ」

「——大丈夫ですよ」

 

 珍しくスイレンが、自信ありげにそう宣う。何を根拠に、と思っていると、マナブもハルも同じような顔付きだ。

 

「ハクトさんはハルを助けてくれました。ハルが勝てなかったあの人に勝って。……ハクトさんがいれば怖いものはありません!」

 

 あー……そういうことね。

 前回の一件で、俺がハルも倒せなかったアヤメを倒したことでガキ共の信頼度が高まっているらしい。

 うわ面倒くせぇ……テキトーに調整しとくか……

 

「忘れたのか? 俺は仕事優先。スイーパーを潰すのはお前らの役目だ。前回はたまたま直接仕掛けられたから応じただけだっての」

 

 魂を賭けたVSとか、割に合わないからやりたくねーんだわ。

 

「そ、そんなあ」

「俺たち、ハクトさんより頼れる大人なんて知らないよ」

「まあ確かに、圧倒的な運命力と灰色の脳細胞、カジノで鍛えられた度胸を持つ俺より優れた人間なんざいないが……」

「それは言い過ぎじゃない?」

 

 うるせーマナブ。なんでそこは冷静なんだよ。

 

「頼れる大人なんて他に幾らでもいるっつーの、探せ探せ。俺は忙しいの。闇のVSプレイヤーなんかと戯れてる暇はねーの」

 

 俺はノーリスクで世間知らずな才能溢れるガキ共から利益だけを搾取してえんだよ!!

 

「じゃあ、今日は解散な。アヤメから聞き出せたら、情報は纏めてスマホに送ってやるから」

「あ……」

 

 何か言いたそうにスイレンが手を伸ばしてくるが、無視だ無視。面倒ごとには関わりたくない。

 

「ハクトさん、ちょっと待ってください! スイレンがちょっと話したいことがあるらしくて……!」

「悪り、この後用事あんだわ」

 

 嘘だ。当然用事などアヤメの様子を見るくらいしかない。金だけ置いてとっとと退散しよう。

 

「あ、あの! 後でお父さんから、相談料……出してもらいます……!」

 

 相談料て。

 このガキ共、俺を金の亡者か何かだと思っていやしないか?

 初めて出会った時の金を巻き上げた発言からの推測か。はあ、全く。

 

 大正解だよ。

 俺は報酬が美味ければ相談なんていくらでも受ける男だ。

 

 が、一つだけ依然勘違いしていることがある。

 俺は美味くない報酬じゃ動かない。

 

「相談料っつっても、ガキの小遣いに出す程度の端金なんて要らねーのよ。その金でオヤツでも買ってな、ガキ」

「……ハクトさん」

 

 ちょいちょい、とハルが手招きしてくる。顔を寄せると、ちょっと赤くなりながら耳を貸すように要求された。なんなんだよ全く……

 顔を背けて右耳を向けると、口元を近づけたハルの口から、その事実が囁かれる。

 

「実は、スイレンのお父さんって……すっごいお金持ちなんです。相談料も凄いかもですよっ」

 

 ……………………へぇ?

 スイレンのお父さん。いやお父様がねぇ。

 ……待てよ、八代?

 

「え、待て八代って、VSギア(片目に着けるVS用デバイス)作ってるあの?」

「はい。その八代です」

 

 それを聞いた瞬間、俺はスイレンの座る椅子まで駆け寄り、片膝を突いて跪く。そして彼女の手を取った。

 ウブな女子中学生は、それだけで顔を赤くする。それで良い。このガキ、いやお嬢様の好感度は上げておいて損はない。

 八代って苗字、こっちの世界では割りかし見かけるから気付かなかったぜ……こんなところに金ヅル2号がいたなんて。

 

「スイレンお嬢様、なんでもこのワタクシめにご相談ください」

「はっ、はい」

 

 マナブは特に気にしていないようだが、ハルは面白くなさそうな顔をしている。構ってちゃんがよぉ。

 しかし、スイレンからの相談ねぇ。ま、大体内容に予想は付くが。

 

「ハル、マナブ。おめーらは邪魔だからとっとと帰れ」

「ちょ、酷くないですか!?」

「うるせぇ! ガキ共はラウンドテンでデートでもしてろ!」

 

 俺はスイレンお嬢から相談料、間違えた相談を受けるので忙しいんだよ。

 無理やりハルとマナブを追い出して、スイレンと二人きりの状態を作る。

 

「で?」

「えっ、と……どこから話せば良いのか……」

 

 ごにょごにょとスイレンは言い淀んでいる。いや人のこと引き留めたんだからとっとと話せよ。

 まあ聞きづらい内容なのも分かる。仕方ないのでこちらから話を振ってやるとするか。

 

 

「聞きたいのは俺にも精霊が見えるのか、って話だろ。まずそれはイエスだ」

「ッ!? ど、どうしてそれを……ッ!」

「お前、こないだ笛吹組事務所の前でイザキエル……天使のこと見えてただろ。視線の動きでバレバレなんだよ」

 

 精霊は隠密行動をさせるにもってこいの存在だ。なんせ大抵の人間には見えねーんだからな。

 ならそいつらを使役する時、最も気を付けないといけない相手は誰か。

 その姿が見える者だ。

 

 俺はイザキエルを使う時、極力近くにいるヤツの眼球の動きを観察している。また色々仕掛けを作り、『見えないフリ』をしようとしている者は炙り出せるようにしてある。

 それらを総合的に判断した結果、八代スイレンにはカードの精霊が見えている、という結論に至ったわけだ。

 

「俺に何を相談したいんだ?」

「その……ハクトさんは、誰かに精霊が見えることを伝えたことはありますか?」

「ないな。お前が初めてだ」

 

 当たり前だ。「俺、カードの精霊が見えるんだ!」って宣うヤツに近づきたいか?

 俺が逆の立場だったらクスリやってるのかと疑うね。

 

「……そっか、私が、初めて……………」

「なんか言ったか?」

「いえ、なんでも! 私も、初めて会いました。私以外に、カードの精霊が見えるヒト。ハルも、マナブくんも見えなかったのに……えへへ、なんか不思議です」

「まあ、珍しいみたいだな。見えるヤツってのは」

「嬉しいな……私と同じヒトがいるなんて、夢みたい」

 

 スイレンはなんだかポヤポヤと夢見心地のようで、妄想に耽ってしまっている。私と同じ、ね。

 確かに精霊が見えるという点では一致しているが、それ以外は正反対も良いところだ。俺は全然、このガキに親近感なんて覚えないね。

 

「ハクトさんの精霊は天使さんなんですね」

「クソ真面目で面倒なんだよ。休みの日に朝から起こしやがるし。お母さんかテメーはって言ってやりたいわ」

「聞こえてますよ。というか聞かせてますよね?」

 

 不満そうな声と共に、俺の隣にイザキエルが姿を現す。わあ! とスイレンは感嘆の声をあげた。

 

「ハクトさんの精霊さん! 喋れるんだ、凄いなあ」

「なんだ、お前のカードに憑いてる精霊は喋れないのか」

「はい。人型ではないので……出ておいで」

 

 スイレンが呼び出した精霊は、予想とはかなり違ったナリをしていた。

 黒光りする体。頭から生えた三本のツノ。

 イカついカブトムシが、その掌には乗っていた。

 

「トラちゃんって言うんです。大きさは手のひらサイズから乗用車くらいまで変えられるんですよ」

「へ、へー」

 

 物理的な接触ができないのに、大きさが変わるのってあんま意味ねぇよな……

 

 その後も相談というのは名ばかりの、精霊トークというスピリチュアルな字面の話を続けた。

 

「昔からトラちゃんは私だけに見えていて……いくら周りに言っても信じてもらえなかったんです」

「いわゆるイマジナリーフレンドってやつじゃないか、ってお医者様には言われてしまって……」

「こんなにハッキリ見えてるのに、私の妄想だなんて絶対おかしいと思ったんです。それで調べていくうち、カードには精霊が宿ることがあるって聞いて、絶対コレだ! と思って! まあ、相変わらず周りには信じてもらえなかったんですけど」

「だから、ハクトさんが天使さんを呼び出しているのを見て、あの時実は凄くドキドキしてたんです」

「しかも、トラちゃんのことまで見えるなんて。もう夢みたいで……!」

 

 スイレンは、精霊の話となると饒舌だった。

 本来はハルのように活発な女の子だったんだろう。が、精霊の存在に翻弄されて殻に閉じこもってしまったようだ。

 

 彼女の話をテキトーに聞き流しながら、俺は今後の対応を考えていた。

 

「……あ、もうこんな時間! ごめんなさい、つい話し込んじゃって」

「思っていたよりお喋りなんだな。意外な一面が知れてよかったよ」

「え、えへへ。あっ、相談料なんですが……パパにお小遣いおねだりするので、電話失礼しますね」

「おう。会計も済ませちまうか」

 

 俺は会計を済ませ、その間にスイレンがお父様に電話をかける。

 

「……もしもし西島さん? パパに繋いでほしいんですけど……うん、ありがとう。……あ、パパ! うん、うん。ちょっと、……友達とカフェでね。それで、お願いがあって。ちょっとだけお小遣いが欲しくて。え、金額?」

 

 そのタイミングで、スイレンはこちらに視線を向けてきた。

 

 俺は10万の要求のつもりで指を一本立てる。1時間程度話しただけで10万とかどんなぼったくりだよって話だが、金銭感覚緩そうだしまあ行けるだろ。

 最悪1万でも、まあ喋ってただけだし許せる。それより下だったら許さねえけど。

 しかしスイレンは、色んな意味で俺の予想を超えてきた。

 

「えっと、100万くらい!」

「ちょッ!?」

 

 ビビって変な声が出た。

 こいつ金銭感覚ぶっ壊れすぎだろ! なんで1時間の相談で100万も支払うんだよ!

 さすがにこれはボりすぎだ。訂正させよう。

 

「スイレン。おいスイレン」

 

 呼びかけるも、彼女は親指を立てるばかり。

 そうじゃねえ。「任せてください!」じゃねえ。

 

「使い道? それはえっと、精霊のことについての相談料なんだけど……騙されてるんじゃないかって? えー、そんなことないよ。ハクトさん凄い人なんだよ!」

 

 ざけんな、その流れで俺の名前出すんじゃねえよ!!!

 

「VSも強いし、優しいし、大人だし、カッコいいし、精霊のこともちゃんと聞いてくれるし。それに聞いてよ、精霊だって見えるんだよ?」

 

 ………………。

 

 スイレンのお父様から見た現状を整理してみよう。

 

・娘がお小遣いに100万欲しいと電話してきた

・『ハクトさん』の指示で相談料として金銭を要求している

・娘は『ハクトさん』をカッコよくて強くて頭が良くてVSも最強なスーパーマンだと宣っている(事実ではある)

・『ハクトさん』は娘の妄言「精霊さんが見えるの!」に「僕も僕も!(適当)」と雑に話を合わせている

 

 完全に詐欺師だコレ……

 

 

 その直後、スイレンからスマホを(ひったく)り、お父様に釈明するハメになった。

 幸い金額指定に関しては指一本立てただけだったので、言い訳は容易だったが……

 スイレンの父親には不信感を持たれたことだろう。精霊が見えるヤツ、という不名誉な烙印も押されてしまったし、結局報酬は1万しか貰えないし……くそ、二度とこいつの相談なんか乗らねえぞ。

 

 

 

 

 

 スイレンに振り回された後、ようやく自宅に戻ってくる。はぁ、ダルすぎる。箱入りがよ……

 しかし。リビングの扉を開けると、また面倒ごとの種が俺の耳に入り込んでくる。

 

『ねえ、お願い。お願いします。本当に申し訳ございませんでした。私が悪かったです。許してください……あの、聞こえてますか?』

 

 すっかり大人しくなっちまった黒崎アヤメの声が、デスクの引き出しの中から響いていた。

 

 







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